適合検査とは
第1章 日本の認定制度について
NTTコミュニケーションズのネットワークに接続される端末機器の形態を概観すると図表1.1のようになる。昭和28年までは電電公社が利用者に提供する電話機しか認められなかったので全ての端末機器がいわゆる電電公社からのレンタル機器であった。 従って、それら機器は当然ながら一定の技術基準を満足したものであり、端末の認定とか検査の必要は生じなかった。
しかしながら、昭和28年以降民営化までは利用者自身が設置する端末機器(自営端末機器)も 「1.2 端末機器開放の歴史」に詳述するように徐々に認められ、 電電公社はそれらの自営端末機器が定められた技術基準に適合するか否かをチェックする必然性が生じるようになった。 いわゆる認定業務の開始である。
民営化以降は端末機器が完全自由化されたこともありNTTのレンタル機器の割合は減少し、大部分の端末が財団法人電気通信端末機器審査協会(JATE)の認定品となっている。 なお、特注品、試作品等を対象としたNTTの検査品(検査と認定の違いは 「1.3 認定業務の変遷」参照)も若干数存在している。
図1.1 端末機器の形態の推移
明治23年電信電話サービスが開始されて以来、電気通信に利用される端末機器は逓信省または 電電公社よりのレンタル機器(直営機器)しか許されない時代が長く続いた。
しかしながら、昭和28年8月1日施行の公衆電気通信法第105条により利用者設置の端末機器でも使用に当たって電電公社の技術基準適合検査を受け、それに適合すれば電電公社はその端末の接続を妨げないと規定された。「端末開放」である。ただし、本法の適用は構内交換設備、 船舶に設置する加入電話の設備、専用回線の端末機器のみに限定されていた。
昭和32年5月には、利用者が転換器等で切り替えることにより電話1回線に複数端末機器 (付属電話機)を接続することが制度化され、この付属電話機についても利用者自身が設置する自営端末機器が認められた。しかし、電話回線毎に1台は必ず電電公社の直営機器(本電話機)を設置することは依然義務付けられたままだった。
昭和33年及び昭和44年に公衆電気通信法第105条が改正され、それぞれ地域団体加入電話、集団電話が法制度化され、それぞれの自営端末設備の設置が可能となった。
昭和47年には電話網をデータ通信に利用することが可能となった(網開放)。この際、データ通信用の端末機器は利用者自身による自営が原則となったため、データ通信に限っては本電話機(正確には本データ端末機器)が開放されたこととなった。だが、通話で利用する場合は上述した付属電話機を除き電話機は依然として直営が原則であった。
昭和60年の電電公社民営化に伴い、制定された電気通信事業法第49条において、 接続しようとする端末設備が技術基準等に適合していれば、第一種電気通信事業者は、その接続請求を一般的に拒むことが出来ないことを規定したことにより、本電話機を含めた全ての端末機器の開放が実現した。
表1.2 端末機器開放の歴史
明治23年~昭和28年 |
利用者による端末設備の設置は許可されていなかった。 |
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昭和28年8月(1953年) |
構内交換設備、船舶に設置する電話機、専用回線端末などを対象に、 利用者による端末設備の設置を公衆電気通信法第105条で規定した。 |
昭和32年5月(1957年) |
利用者による付属電話機の設置を制度化した。 |
昭和33年7月(1958年) |
地域団体加入電話制度の導入にともない、自営端末設備の設置を規定した。 |
昭和44年10月(1969年) |
集団電話の法制化にともなう自営端末の設置を規定した。 |
昭和47年11月(1972年) |
電話網のデータ通信への開放にともない、非電話系端末は自営が原則となった。 ただし、通話で利用する場合は本電話機は直営を原則とした。 |
昭和60年4月(1985年) |
NTTの民営化とともに本電話機の開放を電気通信事業法第49条で規定した。 |
「1.2 端末機器開放の歴史」で述べたように端末機器はいくつかの段階を経て自由化されてきたわけだが、自由化されたからと言ってどんな端末でも自由に接続して良いわけではない。
その端末機器が交換機等の電気通信回線設備に悪影響を与えない、漏話等で他の利用者に迷惑をかけないなど、必要最低限のルールを遵守していることが必要不可欠である。そのルールが技術基準等(技術基準と技術的条件)である。
電電公社が民営化された昭和60年以前は電気通信事業者は電電公社以外存在していなかったので、利用者が自分で設置する自営端末が技術基準等に適合しているか否かの認定業務は電電公社が一元的に行っていた。この電電公社が行っていた認定は図1.3に示すように、大量生産品を対象とした「型式認定」および試作品、特注品等少量端末機器を対象とした「個別認定」の2種類に大別できる。
新生NTTが誕生した昭和60年以降は、競争電気通信事業者としてNCCが登場してきたのでNTTのみで端末機器の認定を行うことは公平、中立の観点より望ましくなくなった。そこで総務省は財団法人電気通信端末機器審査協会(JATE)を国内の共通認定機関として設立した。ただし、JATEで行う認定業務は原則として大量生産品を対象とした型式認定業務であり、特注品、試作品など数量があまり出ない端末機器の認定業務は各第一種電気通信事業者に委ねることとなった。
なお、この際、同じ「認定」という言葉でJATEの業務も第一種電気通信事業者の業務をも示すと混乱するので第一種電気通信事業者が行う技術基準等適合確認業務を「検査」と呼び両者を区別することとした
図1.3 端末の設定/検査の現状
以上述べたように各種端末機器が一定の技術基準に適合しているかどうかにつき、それぞれ JATEおよび各第一種電気通信事業者が認定・検査業務を行っている。その法的根拠が図1.4に示すように電気通信事業法(以下「事業法」と略す)に定められている。
事業法第49条では一般に基本3原則と呼ばれている技術基準などの制定理由が、事業法第50条では郵政大臣が認定業務を行うことが(実際は事業法第68条~第70条の規定により指定認定機関であるJATEが実施)、 事業法第51条では第一種電気通信事業者が認定品以外の端末機器の検査を行うことが、そして事業法第52条では第一種電気通信事業者は自営電気通信設備の検査を行うことがそれぞれ規定されている。
図1.4 認定・検査制度の法的根拠
JATE及び各第一種電気通信事業者がそれぞれ認定、検査を行っているが、その状況を図1.5に示す。
JATEの場合の認定数は年間2,000件前後だが、毎年市場に出回る端末機器の数が1,000万台前後なので単純平均すると認定一件当たり5,000台平均の端末機器に相当することになる。
NTTコミュニケーションズをはじめ各第一種電気通信事業者の検査は全て一品ずつの個別検査である。再編前のNTTの場合、検査一件当たりの申請端末機器数は平均すると4台程度なので、再編前のNTTの適合検査を行った端末機器は年間2,000~2,500台市場に出回っていることになる。
図1.5 認定・検査の現状
第2章 端末設備について
電気通信設備は、図2.1に示すように第一種電気通信事業者側の設備 (電気通信回線設備)とお客さま側の設備(端末設備または自営電気通信設備)に大別され、これら二つの設備の境界を分界点という。
図2.1 電気通信設備の構成要素
電気通信回線設備とは、以下の3つの設備をいう。
1.伝送路設備(ケーブルなど)
2.交換設備(交換機など)
3.附属設備(通信電力装置など)
(2) お客さま側の設備(端末設備など)には、以下の2つの設備形態がある。
1.端末設備
分界点からのお客さま側が、同一敷地内で閉じているもの
2.自営電気通信設備
分界点からお客さま側が、広がりのあるもの
(3) 分界点とは?
1.分界点の目的
端末設備等の故障などの場合保守などの区分をはっきりさせること
事業者とお客さまとの接続点で容易に切り離すことができること
2.架空からの引き込みの場合
分界点は保安器になる
3.地下からの引き込みの場合
分界点は配線盤等(MDF)になる
端末設備とは上述したようにお客さま側の設備が、同一敷地内で閉じてるものであり、 有線を用いる設備と無線を用いる設備とに大別できる。ここでは有線を用いた端末設備の例を述べる。
図2.2 端末設備の例
架空からの引き込み例を示す。
(1) 端末設備とは、同一の構内又は同一の建物(ビル)内に終始するもの
- 端末設備とは?
- 配線設備と端末機器の総称をいう
- 自営端末設備ともいう
- 分界点とは?
- 保安器のお客さま側のねじ止め端子
したがって、引込線(引き込みケーブル)と保安器は、電気通信回線設備になる - 地下引き込みの場合は、配線盤等のお客さま側のねじ止め端子
- 保安器のお客さま側のねじ止め端子
- 配線設備(配線設備に該当するもの)などとは?
- 電源などを使用せず、受動的なもの(以下4例)
ハウスケーブル、屋内配線、モジュラージャック、機械的な回線切り替え器
電源を使用する電話機切り替え装置などは、端末機器になる
- 電源などを使用せず、受動的なもの(以下4例)
(2) 端末機器とは、「端末設備の機器」をいう(事業法第50条)
- 電話機のコードも含む
無線(電波)を用いた端末設備の例を示す。これらは、「端末設備内において電波を使用する端末設備」と「端末設備等の接続において電波を使用する端末設備」に大別できる。
表2.3 電波を使用する端末機器の種類
端末設備において電波を使用する端末設備 |
端末設備および自営電気通信設備の接続において電波を使用する端末設備 |
---|---|
☆ 微弱電波使用端末 ☆ 小電力コードレス電話 ☆ テレメータ用等特定小電力無線端末 ☆ 小電力セキュリティ端末 ☆ 中速無線LAN端末 ☆ デジタルコードレス電話 ☆ 簡易型携帯電話(PHSをコードレス子機で使用) ☆ 高速無線LAN端末 |
★ 簡易型携帯電話(PHS) ★ 無線呼出端末(Pager) ★ 800[MHz]帯の携帯・自動車電話 ★ 1,500[MHz]帯の携帯・自動車電話 ★ マリネット電話 ★ 簡易陸上移動無線電話(CRP) ★ テレターミナル通信端末 ★ 衛星移動電話端末 |
(1) 端末設備内において電波を使用する端末設備
- コードレス電話機等
- 親機(接続装置)と子機(コードレスホン等)が一つのセットとなっている
- 通話エリアは、概ね見通し距離で半径約100[m](同一構内の範囲と位置づけられる)
- 端末設備等規則の第9条に規定される
(2) 端末設備及び自営電気通信設備の接続において電波を使用する端末設備
- 分界点がアンテナとアンテナの間(空間分界点)になるもの
- 例として携帯電話、PHS等がこれにあたる
- 端末設備等規則の「移動電話」の条項に規定される
図2.3 電波を使用した端末機器の例
(1) 端末設備内において電波を使用する端末設備
1.コードレス電話機の例
(2) 端末設備及び自営電気通信設備の接続において電波を使用する端末設備
1.携帯電話の例
自営電気通信設備とは前述したように、お客さま自身で設置する設備で、ある一定以上の広がりを有するものと定義されている。しかし、どの程度の広がりを有していれば自営電気通信設備となり、また逆にどの程度狭ければ端末設備になるのかを判断するのは実際には難しい場合もある。ここでは、代表的な自営電気通信設備の例から端末設備と自営電気通信設備を峻別する「広さ」の概念を説明する。
図2.4.1 自営電気通信設備の例その一
同一構内または同一建物内に終始する電気通信設備を端末設備という。例えば、 同一企業の敷地が道路を挟んで存在し、電気通信設備がその道路を横断している場合、 一般的にその道路が私道の場合は端末設備、公道の場合は自営電気通信設備と解釈されている。
図2.4.2 自営電気通信設備の例その二
無線を使用した自営電気通信設備のMCA無線システムについて説明する。
(1) 本接続は、電気通信分野の市場解放をめぐる日米政府間交渉において合意されたものである。 (通達 経企本 第667号 平成3年2月15日)
- MCA無線システムに接続する電話回線の契約者名義は、 本システムの免許人(各ユーザ)である必要がある
(2) MCA無線システムとは?
- MCA: Multi-Channel Accessの略
- 多数の利用者(事業者)が複数の電波(無線チャンネル)を共同利用する無線システムで、 これは有限な電波を有効に利用することができる
- 800[MHz]帯と1.5[GHz]帯の電波を使用した2システムがある
- 通話は?
- 移動局から制御局もしくは、指令局に接続されている電話網を経由し直接電話ができる電話網から制御局を経由して移動局に直接電話(登録メンバーのみ)ができる指令局と移動局間(無線のみ)移動局と移動局間(無線のみ)の通話ができる
- 最大通話時間: 800[MHz]帯3分、1.5[GHz]帯5分と通話時間に制限がある
- 移動局のサービスエリア(通話範囲)は、制御局から半径約15[km]~25[km]である
(3) 電話網もしくは専用線との接続点は、指令局および制御局になる。
- 制御局と制御局を専用線で接続する(システム間接続という)
- 目的は、電波の届く地域を広くするため
- 専用線の品目は、高速デジタル回線である。したがって、DSUで技術的な担保は全てできる
- 制御局と電話網との接続
- 制御局は2団体(無線局の免許人)によって運営されている
財団法人 日本移動通信システム協会(JAMTA)
システムの名称は、(JSMR:Japan Shared Mobile Radio)日本モトローラ社
財団法人 移動無線センター(MRC)
システムの名称は、MCA(Multi Channel Access)松下通信工業、日本電気、東芝、三菱電機、日立電子など17社
- 制御局は2団体(無線局の免許人)によって運営されている
- 指令局と電話網との接続
- 自社に掛かってきた電話を移動局に転送
(4) 利用者は、宅配便業者などの運送業者、販売、修理業などである。
2.4.3 自営電気通信設備の例その三
無線を使用した自営電気通信設備のマリンVHFについて説明する。
(1) マリン無線局と加入電話の接続例である。
(2) プレジャーボートから緊急通話を行うことを目的とし、プレジャーボート(マリン無線局)からの発信を原則とする。
- 緊急通話先としては、海上保安庁、病院などである。
- プレジャーボートからの依頼によりプレジャー用海岸局(マリーナ経営者)のオペレータの方がダイヤル(手動接続)し病院などの公共機関と接続し通話をする
- 通話料金はプレジャー用海岸局の利用者に課金される
- ここでいうマリン無線のチャンネルは、プレジャー用海岸局との通話用のチャンネルである(Ch86,Ch87,Ch88の3チャンネルを使用)
- マリン無線には公衆通信用(NTTのオペレータが接続するもの)のチャンネルもある(Ch23~Ch28の6チャンネルを使用)
- この通話は、電話サービスの契約約款第80条(特殊船舶通話取扱所との間の通話)の規定のもの
- プレジャーボートのマリン無線局は、別途NTTとの契約が必要
- 通話料金は、着信側の加入者に課金される
- (この通話におけるマリン無線局の無線端末機器の技術基準等は、未整理である)
(3) 漁業無線局と加入電話の接続もマリン無線局と形態は同じ。
- 船舶からの緊急時の連絡
- 40mヘルツ帯の漁業無線システムの海岸局設備との接続(有線連絡装置経由)
- 船舶局と公共機関等の加入電話との接続は、手動接続である