株式会社遠藤製作所
IoTプラットフォーム「Things Cloud®」の導入で
ものづくりのDXに挑戦する遠藤製作所
Smart Data Platform
Things Cloud®
株式会社遠藤製作所
取締役 経営戦略室担当
遠藤 新太郎氏
株式会社遠藤製作所
メタルスリーブ事業部 事業企画部 部長代理
丸山 勝敏氏
株式会社遠藤製作所
メタルスリーブ事業部 事業企画部 技術課
池田 裕太氏
課題
製造業をめぐる環境変化にDXで挑む
遠藤製作所は、新潟県・燕市に本社を置く金属部品加工メーカー。1947年の創業当初はミシンの部品やキッチンツールの製造を手掛け、高度成長期には顧客ニーズに応えながら金属の塑性加工と鍛造の技術を高めてきた。現在は同社の強みである「深絞り」技術から発展したメタルスリーブの製造、ゴルフクラブヘッドの製造・販売、自動車や医療機器などに用いられる鍛造品加工の3つを軸とした事業を展開している。
近年、日本の製造業は国際競争の激化や新型コロナウイルス感染症の蔓延によるサプライチェーンの混乱など多くの課題に直面している。遠藤製作所においても事業を取り巻く急激な環境変化に対し、柔軟かつスピーディに適応するための取り組みとしてDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することになった。その陣頭指揮を執るのが、同社の取締役で経営戦略室の遠藤新太郎氏だ。
「需要の変化など不確実性の高い時代に柔軟に対応していくため、リソースを投資すべきはデジタル化だと考えています。また、中小企業は大企業ほどの資本はありませんが、時間という資源は共通です。そのため、スピード感を持って取り組むことも重要です」(遠藤氏)
そこで遠藤製作所は、メタルスリーブの製造工程におけるIoT導入とデータ管理・解析プラットフォームの導入を決定。メタルスリーブは、レーザープリンターの定着ローラーなどに用いられる筒状の金属部品だが、非常に高い加工精度が求められる。
「メタルスリーブの製造拠点はタイ国にあります。金属塑性加工といっても当社のメタルスリーブは最も薄いもので10μmと特殊で、システムも自社で独自に開発するしかありませんでした。しかし、システム担当の要員は2人しかおらず、運用や保守に追われて更新が追いついていないのが実状でした」(遠藤氏)
こうした背景もあり、タイ工場の現場では製造機械の設定や生産状況の把握に時間がかかり、スピーディな判断ができないという問題が生じていた。また、日報も、作業者が機器から読み取ったデータを一度紙に書いてからPCに入力し直し、集約するという手順を踏んでいたため、集計まで1日以上のロスが生じていたという。メタルスリーブ事業部 事業企画部 部長代理の丸山勝敏氏は次のように話す。
「日報は手間がかかる割にデータの形式も統一されておらず、稼働率などがリアルタイムには追えない状況でした。作業者の経験と勘に頼った機器設定の微調整など、把握できていないデータもあるため製造ラインの歩留まり改善も進まず、対応が後手に回ることも。また、設備の不具合も事前に予知できないため、ときに生産が停滞してしまうこともありました」(丸山氏)
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対策
「自前主義」からの脱却とIoT基盤の構築
製造現場から寄せられるさまざまな課題への対策として、IoTによるデータ収集と分析の基盤づくりが必要と考えた遠藤製作所では、NTTコミュニケーションズのサポートによる情報収集とDX戦略の構想をまとめ上げていった。パートナー選定の背景には、Microsoft 365や社用iPhone、SSO(シングルサインオン)の導入実績などからくる信頼感の大きさがあったと遠藤氏は話す。
「当社のビジネスや現状を理解してサポートいただいていたNTTコミュニケーションズさんだから、早く深い相談をしやすかった。また、製造業のDX成功事例など自社だけでは調べきれない知見を幅広く持っているので、我々が目指す姿の実現に必要な技術やノウハウに加え、考え方についても一緒に話し合えた点もありました」(遠藤氏)
タイ工場のIoT導入にあたり採用したのは、NTTコミュニケーションズのIoTプラットフォームである「Things Cloud®」だ。Things Cloud®は、データ利活用に必要な機能を提供する「Smart Data Platform(以下、SDPF)」のサービスの1つで、IoTのセンサー/デバイス接続、データ収集、可視化、分析、管理などの機能をワンストップで提供できるソリューションだ。
具体的なシステム構成としては、まず製造機械においてFA機器の制御に用いる既存のPLC(Programmable Logic Controller)からの情報を集約する「統合PLC」を新規に導入し、全体監視を可能とした。さらに、IoTのゲートウェイとしてThings Cloud®のデバイスエージェントを配置することで、タイと日本の拠点をクラウドで結ぶだけでなく、集約したデータを保管する外部クラウドサーバやBIツールによる情報の可視化をも実現している。
これらのシステムの中心にはThings Cloud®が据えられており、追加されたAWS RDS(Amazon Relational Database Service)でのデータ保管や、情報の可視化を担うBIツールの「Tableau」とのシームレスな接続にも一役買っている。
「システムを自前で構築してきたこれまでのやり方では、柔軟性とスピード感を実現することはできませんでした。Things Cloud®の導入によって『自前主義』からの決別を図り、世の中にある優れた先進的サービスをすぐに活用できる環境を構築できました」(遠藤氏)
図 遠藤製作所の新システム構成
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効果
データ基盤の整備で日報の手書き作業から解放
メタルスリーブ事業へのThings Cloud®導入が完了したのは2022年の夏であり、現時点ではその成果を生産性向上と結び付けて定量的に判断することは難しい。しかし、工場作業者の日報をタブレット入力に変更したことで、統合PLCへとデータを自動送信する仕組みを実現できた意義は大きい。これにより、PLCからの定量的なデータとタブレットからの定性的なデータは統合され、製造現場のモニターでもリアルタイムで状況を把握できるようになるなど作業効率の改善効果は明らかだろう。また、IoT導入の効果は短期的に利益に結びつくわけでもないのが一般的だ。だが、それらを踏まえたうえでもDXが今後の事業に与える好影響は大いに期待できると丸山氏は話す。
「新たなシステム構築でリアルタイムにデータが取得できるようになり、生産における判断が行いやすくなったのは間違いありません。また、作業者にとっては面倒な日報の入力が大幅に簡略化されるメリットがある上に、現場責任者とも情報を共有しやすくなりました。さらに、データの可視化と分析によって、課題であった稼働率や歩留まりの向上が期待できることや、データの蓄積によって設備故障の予兆を把握しやすくなった点も評価できます」(丸山氏)
データ収集・分析の基盤整備による効果測定は今後の課題としつつも、例えば日報の作成と入力作業で1人あたり1日15分を削減できれば、1年あたりの時短効果は大きなものとなることは明白だ。120名が働くメタルスリーブのタイ工場でこの効果が得られれば生産性の向上につながることも容易に想像できる。
さらに、Things Cloud®にデータを蓄積していくことで、近い将来には独自のビッグデータ分析ができるようになるはずと遠藤氏は期待を寄せる。例えば、作業者のIDとデータを紐づけることで、これまで熟練工の暗黙知となっていたスキルやノウハウの部分を形式知として扱えるようになる。こうした「匠の技」の継承は、人手不足に悩む多くの製造業にとっても大いに参考になるだろう。
遠藤製作所では今回のメタルスリーブ事業へのIoTプラットフォーム導入をきっかけとして、今後はゴルフ事業、鍛造品事業についてもデータ活用を展開し、事業の意思決定のさらなる迅速化や柔軟性の確保に努めていく考えだ。
「当社では『限りない未来の創造』を創業からの経営理念としてものづくりの指針としてきました。時代の変化に対応するため、DXに前向きに取り組む姿勢もこの理念に基づいています。こうした我々の製造業としての想いを受け止め、より良い結果をもたらすために伴走してくれたNTTコミュニケーションズさんへの信頼感が増しました」(遠藤氏)
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株式会社遠藤製作所
事業概要
金属加工の街として長い歴史をもつ新潟県燕市に本社を置く金属部品加工メーカー。「深絞り」技術から発展したメタルスリーブの製造、ゴルフクラブヘッドの製造・販売、自動車や医療機器などに用いられる鍛造品加工を軸に、「ゴルフ事業」「鍛造事業」「メタルスリーブ事業」を3本の柱とし展開している。現在タイ国に現地法人として3法人3工場を展開し、日々技術を高めている。
(PDF形式/743KB)
(掲載内容は2023年5月現在のものです)
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