NTTコミュニケーションズ
ビジネスソリューション本部 事業推進部
穐利 理沙
2021年10月、豊かで幸せになる未来を実現するための新たなコンセプトを創り、社会実装を目指す事業共創の場として「OPEN HUB for Smart World(以下、OPEN HUB)」が始動。今まで他企業の新規事業やイノベーション担当の会員とビジネス創出に向けて活動を行ってきたC4BASEも、「OPEN HUB Base」として新たな歩みを始めました。
11月4日は、OPEN HUB Baseとしての記念すべき第1回ウェビナーを開催。経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長の須賀千鶴氏、早稲田大学 文化構想学部 準教授のドミニク・チェン氏をゲストにお迎えし、OPEN HUB代表を務める戸松正剛 部門長(ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティング部門)を交えて「あらためて考える共創のあり方」をテーマにトークセッションを行いました。
目次
はじめに、OPEN HUB事務局 Chief Catalystの柴田知昭さんが登場し、OPEN HUBを紹介しました。
柴田さんはOPEN HUBについて「事業共創に賛同し参画いただける企業の皆さまを“PLAYER”と定義しています。PLAYERの皆さまが文字通りOPENなHUBに集まって議論しながら、新しいサステナブルな未来につながるようなコンセプトを創出して、社会実装まで目指すのがOPEN HUBの機能です」と説明。PLAYERを囲む3つの要素“カタリスト” “アセット” “スペース”を紹介した上で、カタリストがお客さま(PLAYER)とNTTグループやあるいは会員の方同士をつなぐ触媒の役割を果たし、そこでつながった方々とNTT Comの技術やアセットを共同利用し、事業を生み出す“場”となるのがOPEN HUBだと語りました。
また、ウェビナーをはじめ、来年(2022年)2月に大手町にできるワークスペースや、活動を発信するメディア「OPEN HUB Journal」も紹介。会員の方の積極的な参加を呼び掛けました。
メインのクロストークでは、各氏の自己紹介の後、1.それぞれの視点で見るDXの現在地、2.DX推進のためのデータガバナンス、3.IX (Industrial Transformation)時代の共創のあり方、の3つのテーマについて産官学それぞれの立場からの熱い意見交換・議論が繰り広げられました。日本におけるわれわれの現状・実情や今後の展望について、普段は聞くことのできない忌憚(きたん)のない本音や提言などが惜しみなく披露された、刺激的なディスカッションの一部をご紹介します。
柴田さん:DXという言葉が使われ始めたのが2006年。そこから15年ほど経った今、日本のDXの現状は何点くらいでしょうか。
チェン氏:いきなりものすごい失礼なことを言いそうな予感がするんですが(苦笑)、産官学、全部ひっくるめて日本の社会的なDXの状況に関して10点くらいですかね。でも悲観する10点ではなくて、残りの90点分、改善していく余地が眠っているということです。
DXは30代、40代の人たちですごく盛り上がっていますが、もっと若い世代や逆に高齢者の方たちは蚊帳の外に感じている、というのをあちこちで耳にします。そういう方たちと共にDXを進めていくにはどうしたら良いか、直近で考えている課題ですね。
柴田さん:30代、40代から見ると、デジタルでは若者のほうが進んでいるよう思えますが…。
チェン氏:私の年代である今の30代、40代は、インターネットが出てきた時に「書き換え可能なプラットフォームが出てきた!」とすごく興奮した世代だったんですよね。Webサイトにユニバーサルにアクセスして情報発信ができるので、プログラミングを通して自分でソフトウェアを作ったり、パブリッシュしたり…。それはインターネットという新しい技術を機軸にしたDXの本質だったと思うんです。
でも、今教育の現場で感じるのは、大学生の人たちはアプリを使いこなすだけで利用者に止まっている人が多いということなんですね。新しいシステムを自分たちで作っていける、自分たちでそれができるんだという自負みたいなものは、驚くほど少ない。ですからDXに対して、能動的に、主体的に参加できるんだという文化を併せてつくっていかなければと思っています。
柴田さん:須賀さん、政策に関わる官僚のお立場からはいかがでしょうか。
須賀氏:官が、社会全体のDXの足を引っ張っているという自覚がありますし、だからこそ焦ってデジタル庁を必死で立ち上げようとしているわけですけれども…。日本全体を見て点数を付けるとなると、私は50点と言いたい。それはドミニクさんがおっしゃったように、まだまだ“のびしろ”はあると思っています。
日本のブロードバンドの普及率は世界でもトップクラス。人気アニメ映画で視聴者が一斉にあるキーワードをツイートしてサーバーを落とす、そんな遊び方ができている国民って日本人くらいです。
ただ、DX後の世界がどうなるのかということがリアルに想像できていない。こういう問題が起きるから今のうちに手を打っておこうとか、皆でこういう備えをしておこうという議論はなかなか具体的にしていけない。そういう意味で新しい時代の“識字率”を上げるというか、基礎的なツールとしてデジタルを使いこなせる人のボリュームを増やしていきたいと思っています。
柴田さん:戸松さん、われわれDXを推進する立場としてはどうでしょうか。
戸松部門長:8割! と言いたいところですが厳しいですね…。ポジティブな面を挙げると、最近DXがバズワードになっていますが、バズること自体がすごいというか、10年前に比べたらデータ活用に意識が高まったということだと思います。危惧としては、デジタルについて語る人が増えた故に、形にして見せてと言われることが多くて、成果指標がだいたいお金の話になっているのが気になっています。もっと違う測り方があるのではと思います。
須賀氏:データというのは、これまで経済の基礎を成していた財と根本的に違う性質を持っています。コピー、共有することが極めて容易でコストはほとんどかかりませんし、多くの方が共有すればするほど、色々な目的で使えば使うほど、ベネフィットの総量は多くなる、そういう特徴を持った財なんですね。この新しい性質を持った財をどれだけ社会がうまく使いこなせるかということが、データガバナンスの本質だと思っています。日本政府も、データをなるべく自由に利用してもらい、共有できるような社会をつくることが、皆にとってベストなはずだという信念を基本原則として持っています。
でも他方で、うまく使える側が勝てばよいとしてしまうと、結局搾取する側とされる側というようにどんどん社会が分断されていってしまうので、社会全体で最低限ここを守ろう、という“トラスト”、共有・共存していくための“ルール”みたいなものを国内でもグローバルでも急いでつくるべきと考え、進めているところです。
チェン氏:IT産業全体でこれまで見過ごされてきた一つの指標として、「ユーザーのWell-being」という観点があります。社会を支えているITプラットフォームがどういうロジックで動いているか、人口の99%であるユーザー側は知りません。そしてAIリテラシーを握っている残りの1%での人たちですら、人々の心理面に強く働きかけるテクノロジーが作動し続けたらどうなるかを予想できてない状態で動いています。それは非常に危険なことです。ですからデータを扱う側はもっと透明性を高くしていく必要があります。
柴田さん:戸松さん、データガバナンスの面においてわれわれNTTが考えるべきことはどういったものでしょうか。
戸松部門長:キーワードは2つ。社会課題もいろいろあるので、リアルタイムでたくさんの人が同じデータを見て試して、それぞれが良いものを取っていける使えるデータの環境をつくらないといけないのが一つ。もう一つはどうインサイトフルにデータを可視化するかということ。見た人間がいろんな角度から議論できるデータの見せ方ですね。貨幣経済にしろ、封建制度にしろ、基本的にある共同幻想に従って生きているわけですが、データを見たときにそれが間違っているかもしれない、と気付けるような、良い悪いでなく、既存の考え方が揺らぐような見え方をすると、若い人たちも面白いと思えるようになるのではないでしょうか。
柴田さん:そこはまさにOPEN HUBが機能するところかと思います。来年(2022年)オープン予定のラボではNTTグループが取り扱っているデータを可視化して、そこから得られるインサイトは何か、みんなでディスカッションできる場にしたいと思っています。
柴田さん:「IX (Industrial Transformation)時代の共創のあり方」について、それぞれの立場からお話いただけますか。
須賀氏:共創というのはコラボレーションですよね。その時に、ここで皆集まってみない? と“この指とまれ”してみる人や人と人を引き合わせる人など、真ん中でファシリテーションする役割がすごく重要になってきます。やはり官や半分公のことをしている企業は、もっと色んな人に“この指とまれ”をするべきだし、もっと踏み込んでお節介で入ることを、スタンスとして求められるなと思っています。
チェン氏:研究者同士って、まさに共創がデフォルトなんですよね。例えば学会に行って、何かを自分で発表することは、一方的に考えを押し付けているんじゃなく、フィードバックを求めています。質問したり突っ込んだりする人たちも、所属する組織の垣根を越えて、一緒にその人の研究を良くしようと話しているわけなんです。その意味では非常にWell-beingな世界だな、と私は思っています。
多様な人たちが集まる組織や組織間でも、互いの多様性を生かしながら活動できるようにコミュニケーションや組織、ルールをどう作るかを考えて、その目的のためにテクノロジーを使っていく、というのが真のDXだと思うんです。共創がむしろデフォルトの生き方なんだと考えると、さまざまな発見があるのではないでしょうか。
戸松部門長:良いアジェンダはずっと立てておきたくても、さまざまな事情でずっとやれるわけではない。ただ、複数の人間が関わっていたら誰かが進められるんじゃないか、そういう仕組みがあっても良いのかなと思いますし、OPEN HUBがそういう場所になれたら良いと思っています。
柴田さん:データやテクノロジーが増えてきている中、ある程度ルール化すること、そのルールの下で参加する人たちがWell-beingな状態でコミュニケーションを図ることが両輪となり、オープンに議論していくことがサステナブルな社会、ビジネス共創・DXにつながるのではないかと感じました。
柴田さん:「Windows95の時代と今のDX時代の違いは何でしょうか」という質問が来ています。
須賀氏:デジタル化して人がやるべき仕事を機械が行う、効率化の範囲を越えなかった時代から、これから先、人間が今まで独占的にやっていくと思っていた意思決定もどんどんAIに置き換えられていきます。人間は一体どこをやりたいのか、人間の領域としてどこを残すべきなのか意思決定を迫られ、社会において付加価値を出せる活動は何なのか、ということも変わってくると思います。
だから私たちが立ち向かうDXなる課題は、自分一人では手に負えないくらい大きいことを共有することがすごく大事。当然、見方も長期になります。誰も正解を知らない。変わっていくスピードや深さ、大きさについて皆で共創して備えましょう。
チェン氏:僕は現在進行しているDXについて冷静に見極めて、望ましくない部分が肥大化するのを防ごうよ、と提言をしている立場です。今、人工知能とか機械学習のシステムを作っている本人たちでも、2年3年続いたらどういう副作用を及ぼすか分かっておらず、さまざまな社会的課題を長期的な視座で見据えるタイミングであるという意味では、1995年とはだいぶ違う時代だと感じますね。
戸松部門長:Windows95のころは個がインディペンデントになっていった時代。今はソーシャルプットなことをやっていこうとすると、個ではなく広い視野を持っているほうが有利。求められているマインドセットが違うのではないかと思います。
柴田さん:「新規事業をする気運や会社としての方向性が全くない中で、事業創出のきっかけとなるアプローチを取りたくて悩んでいる」という声も届いています。
戸松部門長:そのための、OPEN HUBです。結局、個からしかスタートしませんし、自分の視野を自由にコントロールするなんて普通の人はできない。今日みたいに知識や知恵のある方と話して開く空間軸はありますし、この時間軸を耐えてみようかな、と思えたりもするので、一回社外の人とお話されたらどうでしょうか。こうやって官の方やアカデミックの方とも話せる機会もありますのでぜひご参加ください。
今回、OPEN HUB Baseという新名称で開催された第1回イベントは、こうした熱い思いが溢れたトークセッションとなりました。本記事でご紹介したのはほんの一部ですので、ぜひ「見逃し配信」をご視聴ください。現役バリバリの官僚である須賀さんの分かりやすい語り口、国内外で活躍する研究者として学生の人気も高いドミニク氏の本音、そして同コミュニティーの“父”でもある戸松部門長のスペシャル鼎談(ていだん)、お見逃しなく。
※OPEN HUB Base会員の社員の方は、こちらからオンデマンドで本セミナーをご覧いただけます。会員でない方は、会員登録が必要となりますので、会員登録を行い、完了メールが届いてからお申し込み画面へお進みください。
<参加者の声>
ウェビナー後に寄せられたアンケート結果より、一部抜粋してご紹介します。今までのC4BASEウェビナー同様、今回も満足度の高い内容をお届けできたようです。
ゲストお二人の人選が良かった。それぞれのお立場からの貴重な話や意見が聞けて有意義でした。
「データ」は他社と共有することで新たな価値が増大する性質の「財」であるという見方ができて、DXや共創の重要性がスッと理解できました。
アカデミックの方々のコラボレーティブな姿勢について、私たち企業人もそのようでありたいし、そのようにするためのコンセプトメイクはもちろん、気軽な参加と発言を促すルール作りがあると障壁が下がるのかなと思いました。会社の縦割りを嘆いても変わらないので、まずは率先して自分たちが会社の組織の壁を越えていきたいと思いました。
国レベル、国際レベルで考えることがとても大事なのが理解できました。しかし、現場レベルになるとどうしても考える範囲が狭まり、上司の顔をうかがいながら、いかにお金をかけずに小手先のデジタル化で済ませられるかという流れになっている現状があります。今後とも多くの経営者にこのような貴重な情報を広めていただき、共創しやすい社会の流れをつくっていただきたいと思います。
リアルな場は少し緊張するけど、Web上なら参加してみても良いかな、というハードルの低さもこのOPEN HUBの魅力かなと思いました。今後も注目していきたいと思います。
NTTコミュニケーションズビジネスソリューション本部 事業推進部
穐利 理沙
2021年10月に立ち上げたOPEN HUB運営を担当しています。お客さまと新しい意味あるものを生み出すため、オウンドメディアによる情報発信、Webinarや会員コミュニティーによる共創プロジェクトの推進を行っています。ご興味ある方は、ぜひコンタクトをしてください!
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