I. 業績の概況

(1)市場環境および事業基盤の変化

新興国の景気減速などを背景に世界経済の先行きには不透明感があるものの、多くの企業は、新市場への参入や新たな成長分野への投資を行うなど、競争力の更なる強化に向けた積極的な経営を進めています。ICT市場においては、あらゆるレイヤーにおけるSoftware-Defined化・仮想化・自動化の進展のほか、M2M/IoTなどによる企業のビジネスや業務プロセスの抜本的な改革、IT部門だけではない事業部門によるITサービスの積極導入などの変化が起きています。市場構造は目まぐるしく変わり、多様かつ熾烈な競争がグローバルレベルで激化している状況にあります。

(2) 経営概況

NTTコミュニケーションズは、クラウド、コロケーション、ネットワーク、アプリケーション、セキュリティ、マネージドICTなどのグローバルシームレスサービスを中心としたソリューションの提供を続けています。2015年度は、より多くのお客さまの事業拡大や経営改革を本ソリューションによって支えてきました。また、グローバル全域で市場シェア拡大を進める年と位置づけ、サービスの機能拡充とエリアの拡大を行ってきました。また更なる競争力強化に向け、サービスに加え、セールス、オペレーション、マネジメントの4つの面においてグローバルシームレス化をさらに進展させました。

当事業年度も、クラウド関連を始めとした新規事業などが成長を続け、NTTコミュニケーションズグループの収益は拡大しました。またこれらの営みの結果として、アナリストの比較レポートによる評価では、グローバルネットワーク事業者としてのトップカテゴリーである「リーダー」のポジションを3年連続で獲得しました。加えて、アジア/パシフィック地域におけるクラウド事業者評価で初めて「リーダー」のポジションを獲得しました。

各事業分野別の主な取り組みは以下の通りです。

<各事業分野別の取り組み>

○クラウド基盤:

世界11カ国14拠点に基盤を展開する企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」においては、2015年4月に日本のクラウド事業者として初めて、共用型クラウド基盤上における「Oracle Database Enterprise Edition RAC(Real Application Clusters)」の提供を開始しました。また、2016年3月に大幅な機能強化を行い、(1)専有型Hosted Private Cloud、(2)エンタープライズ向け共有型 Cloud、(3)シームレスなハイブリッドクラウド環境、(4)クラウド拠点間の無料接続、(5)効率的な運用管理とガバナンスを実現するクラウドマネジメントプラットフォームの一括提供を実現しました(日本および英国から提供開始)。これによって、ベアメタルを含むハイブリッドクラウドの提供や、他事業者のクラウドサービスも含めた一元的な管理が可能となり、お客さまのシステムの更なるクラウド化とクラウドネイティブ化を促進し、オペレーションの効率化やコスト削減、「デジタルトランスフォーメーション」によるビジネスイノベーションへの貢献を可能としました。

データセンターサービス「Nexcenter」では、2015年4月に「カリフォルニア サクラメント 3 (CA3) データセンター」、2015年10月に「インド ムンバイ 5 データセンター」、2015年12月に「タイ バンコク 2 データセンター」、「香港 ファイナンシャル データセンター2期棟(FDC2)」、2016年1月に「大阪第5データセンター」の提供を開始しました。また2015年9月に「テキサス ダラス 1 (TX1) データセンター」の建設を開始しました。加えて、2015年6月にドイツのデータセンター事業者であるLux e-shelter 1 S.a.r.l.、2015年10月にインドネシアのジャカルタ最大のデータセンター事業者であるPT.Cyber CSFの株式取得を行うなど、データセンター拠点を大幅に拡充しました。

○データネットワーク:

2015年8月から、「Microsoft Azure」や「アマゾン ウェブ サービス」などのクラウドサービスを企業向けVPN「Arcstar Universal One」上でセキュアに利用することができる「Multi-Cloud Connect」の提供を開始しました。2016年2月には「Microsoft Office 365」の利用にも対応し、順次対応する接続サービスや提供エリアの拡大を図っています。

2015年9月には、完全帯域保証型のイーサネット専用線サービス「Arcstar Universal One イーサネット専用線」において、お客さま自身で手軽かつ迅速な帯域や経路の変更を可能なサービス「Arcstar Universal One イーサネット専用線 フレキシブルイーサ」の提供を開始しました。SDN技術を活用した柔軟なネットワークサービスを開発することで、お客さまのスピーディーなビジネス展開に貢献できるようになりました。

また、企業のセキュリティ対策強化へのニーズを踏まえ、2015年10月に「OCN DDoS対策サービス」の機能を大幅に拡充しました。金融庁が定めるガイドラインに対応したことで、金融機関やEC事業者等より多くの企業にインターネットを安全にご利用いただけるようになりました。

個人のお客さま向けサービスにおいては、LTE対応モバイルデータ通信サービス「OCN モバイル ONE」の利便性向上を図ったサービス強化などを行いました。2015年5月から「音声対応SIMカード」の即日受渡カウンターを全国展開しているほか、2015年7月からは、当社が提供する「050plus」、「マイポケット」などのアプリケーション利用で発生するデータ通信パケットを通信容量としてカウントしない「カウントフリー機能」を開始しました。

またインターネット接続プロバイダー「OCN」をご利用のお客さま向けには、2016年2月より、マルウェアによる情報漏えいから利用者を守る「マルウェア不正通信ブロックサービス」を無償で提供しています。

○ボイスコミュニケーション:

ユニファイドコミュニケーションサービス「Arcstar UCaaS」について、従来から提供している「Arcstar UCaaS Ciscoタイプ」に加え 「Arcstar UCaaS Microsoftタイプ」を2015年4月に提供開始しました。ラインナップを拡充することで、「Office 365」などのアプリケーションとの連携よる利便性向上などのお客さまの広範なニーズに対応しました。

会議系サービス「Arcstar Conferencing」については、2016年1月より、専用端末を用いるテレビ会議サービスにおけるインターネット回線の利用と、ビデオ会議におけるセキュアなVPNの利用が可能となるよう機能の拡充を行いました。

IP電話サービスにおいては、2015年8月に、「格安スマホ」を提供するMVNOやケーブルテレビ事業者が安価なIP電話サービスを自社サービスの利用者に提供できるよう、当社のIP電話基盤を利用した「050IP電話アプリ」の卸提供を開始しました。

ボイスアプリケーションサービスとしては、WebRTC技術を簡単に実装できるNTT Comのプラットフォーム「SkyWay」を活用し、様々なグループ活動をスマートに楽しむための新しいグループコミュニケーションアプリ「BestieBox」を、2015年7月から提供開始しています。

○アプリケーション&コンテンツ:

2015年4月より、企業向けシングルサインオンサービス「ID Federation」の本格提供を開始し、Microsoft Office365、Salesforce、Box、GoogleAppsなど1,600を超える業務アプリケーションに対応しました。さらに、2015年10月よりシンガポール、タイにおける販売を開始しており、今後も順次販売エリアの拡大を予定しています。

企業向けクラウドメールサービス「Enterprise Mail」においても提供エリアを拡大し、これまでの展開国であるシンガポール、マレーシア、ベトナムに加え、2015年6月よりタイ、インドネシアでの販売を開始。

企業向けストレージサービスにおいては、コンテンツ・プラットフォーム「Box」を当社の企業向けVPN上で利用できるサービス「Box over VPN」をBox Inc.と共同で開発し、2016年3月より提供を開始しました。

○ソリューション:

マネージドICTサービス「Global Management One」においては、「Enterprise Cloud」と連携し、Oracle Databaseの設計・監視からバックアップまでをサポートする「Managed Oracle」をオプションメニューとして2015年10月より提供開始するなど、日系企業をはじめとしたグローバルユーザーのご要望に応じた最適なマネージドサービスを拡充しました。また、アプリケーション領域への拡大やグローバル展開の加速に向け、欧州を中心に各種アプリケーションやクラウドのマネージド(運用・管理)サービスを提供してきたAtlas Information Technology, S.A.を直接子会社化することで、「Global Management One」を高付加価値化し、北米やアジアへも積極的に展開していくことを2016年2月に発表しました。

セキュリティサービス「WideAngle」においては、日米の大手セキュリティ企業と連携することによって、標的型攻撃に対する通信遮断機能を強化すると共に、お客さま企業のプライベートクラウド基盤やクラウド事業者のサービス基盤などに実装できるソフトウェア型セキュリティアプライアンスにおいて、Webアプリケーション向けファイアウォール機能を拡充しました。さらに、人工知能(機械学習)を活用して企業ICT環境へのサイバー攻撃に対する検知・分析力を強化しました。

また、サイバー空間において日々進化を続ける脅威とそれに対応する高度なセキュリティサービスへのニーズが高まる中、NTTグループとしてセキュリティに関する専門技術を集約し、効率的・効果的に投資できる体制を強化するため、2015年11月にNTT Com Security AGの帰属先を日本電信電話株式会社へ変更しました。

○その他(新しいサービス領域など):

  • 「NTTコミュニケーションズ ビジネスポータル」は、対象サービスや制御機能の拡大、提供情報の拡充を継続的に行い、約13,000社のお客さまにご利用いただきました。
  • 「NTTコミュニケーションズ APIゲートウェイ」は、当社が提供する各APIの仕様や稼働状況、サンプルコードなどをまとめて参照できる「NTTコミュニケーションズ デベロッパーポータル」を、2015年4月より提供開始しました。
  • グローバルに展開するネットワーク・クラウド・データセンターなどを活用したセキュアなIoTソリューションを提供し、企業のお客さまの効果的なIoT活用を通して生産性向上や新たなビジネス展開に貢献するため、2015年8月に「IoT推進室」を新設しました。本推進室では、IoTソリューションに向けたサービスの開発と共に、アプリケーションプラットフォーム事業者やデバイス事業者などのパートナー企業との連携も進めました。

<その他の取り組み>

セールスにおいては、アカウントマネージャー/営業担当が、CXOなどのお客さまキーマンと直接面会してお客さまの経営革新に貢献する、提案型営業を強化しました。また、営業機能最大化に向けたプロセスの変革と、それに伴う体制の見直しを実施することにより、 アカウントマネージャー/営業担当がデリバリやトラブル対応といった活動に稼働を割かざるを得なかった課題を解決し、エンゲージメント活動に集中できる環境を整備しました。

オペレーションにおいては、営業機能最大化に向けた変革の取り組みにより、構築・デリバリや保守・運用業務の標準化を進めました。加えて、構築・デリバリ業務や保守・運用業務、トラブル対応業務を行うメンバーが、お客さま満足度の向上に集中できる環境を整備しました。また、信頼性ガイドライン、情報発信ルールに基づく運用と総点検を実施し、サービスの安定提供に向けた活動を強化しました。

また、グローバルシームレスなマネジメントを推進するため、ITシステムでは、NTTコミュニケーションズグループ各社へのグローバル共通のERPシステムの導入を継続して実施しました。さらに、調達においては、海外ではグローバル調達統一ガイドラインの浸透等により、国内では主要グループ会社の物品調達の集約推進等により、NTTコミュニケーションズグループの調達力強化を図りました。

CSR活動については、環境負荷低減を目指し、データセンターや通信ビルにおいては、空調設備の効率化、自動空調制御システム(SmartDASH)導入を更に拡大するなど継続的に電力削減に取り組みました。

セキュリティにおいては、情報セキュリティ管理の更なる強化の観点から、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)機能を含むトータルな情報セキュリティ/サイバーセキュリティ対応をミッションとした新組織「情報セキュリティ部」を、2015年10月より設置しました。

ダイバーシティの観点から、性別・年齢・出身地・国籍・宗教・障がいの有無等を問わず多様な人材が、仕事と生活の調和を図りながら、柔軟で効率的な働き方の実現により活躍できるよう、ICTを活用した生産性の高いワークスタイル改革と、いきいき働くための企業風土づくりを推進しました。またNTTグループにおける「女性管理者倍増計画」宣言に合わせた、女性管理者比率目標値(2020年度8.9%)に向け、女性のマネジメント層創出につながるキャリア形成を継続して支援するとともに、女性社員の採用にも積極的に取り組みました。これらの取り組みや前述のグローバル人材育成の取組みが評価され、経済産業省が実施する2015年度「新ダイバーシティ経営企業100選」を受賞しました。

(3)経営成績

NTTコミュニケーションズグループ全体では、営業収益については、海外子会社の好調などにより、対前年比558億円増(+4.4%)の13,191億円と、3期連続で増収となりました。また営業利益は対前年比16億円減 (▲1.4%)の1,182億円となりました。

NTTコミュニケーションズ株式会社単体の営業収益について事業分野別にみると、クラウド基盤収入が対前年比50億円増(+7.8%)の700億円、アプリケーション&コンテンツ収入が対前年比2億円増(+0.7%)の387億円、ソリューション収入は対前年比125億円増(+8.4%)の1,623億円と3つの分野で増収となりました。データネットワーク収入は対前年比9億円減(▲0.3%)の3,698億円とほぼ横ばいとなり、ボイスコミュニケーション収入は対前年比95億円減(▲3.6%)の2,603億円、となりました。以上の結果、営業収益全体としては8期ぶりの増収に転じ、対前年比83億円増(+0.9%)の9,183億円となりました。

営業費用については、光コラボのサービス提供開始に伴って通信設備使用料が対前年比で増加したこともあり、対前年比103億円増(+1.3%)の8,271億円となりました。

これにより、営業利益は対前年比19億円減(▲2.1%)の911億円に、当期純利益は対前年比49億円減(▲6.5%)の723億円となりました。