5G NTT docomo ビジネス×ドコモ5G 「5Gによる遠隔診療」が地方・過疎地域の医療を救う 短遅延映像配信クラウドサービス「Zao Cloud View」による遠隔支援システム活用レポート

短遅延映像配信クラウドサービス「Zao Cloud View」は、高精細映像が伝送可能で、手元の細かい作業に対しても的確な確認や指示を出すことができるため、遠隔医療で注目を集めています。

1.【課題】医師の負担軽減と過疎地域の医療確保

徳島県立海部病院(以下、海部病院)は、徳島県南地域における急性期医療、救急医療、へき地医療などに取組んでいる病院で、ツインヘリポートや自家発電装置を備えているため、有事の際の先端災害医療拠点としての機能も有しています。
海部郡の高齢化率は全国平均より約20% 高い49.6%(2020年)に達していることから、地域の基幹病院としての役割も一層高まっています。

しかし、2004年に新医師臨床研修制度が確立して以降、研修医が首都圏の病院に集中し、全国的に都市部と過疎地域の医療格差が広がっています。海部病院も例外ではなく、2003年には18名いた常勤医が3分の1にまで減少した時期もありました。

副院長の影治照喜医師は次のように話します。
「私たちの時代は医師免許を取得したあと地元で研修を受けるのが通例でしたが、新制度では自分で研修先を選べるようになりました。そのため多くの症例を学べる首都圏の病院に研修医が流れ、地方の基幹病院は医師不足に陥っています。まして当院のように過疎化が進んだ地域はなおさらで、疲弊して辞めてしまう医師が続出したのです。」

徳島県海部郡牟岐町にある海部病院
副院長 脳神経外科 影治照喜医師

医師不足、特に専門医不足が深刻化するなか、近年は約65km離れた徳島県立中央病院(以下、中央病院)と徳島大学病院に専門医の支援依頼をしています。しかし往復4時間の距離を自らの運転で来院してもらうなど、専門医に大きな負担をかけていました。

白神敦久医師は中央病院に勤務する糖尿病の専門医で、毎月1回、海部病院に出向いています。その日は朝7時に自宅を出て9時から診療を開始。休憩を挟む間もなく多い時には30人近くの患者さまを診療し、診療後は中央病院に戻って自院での業務にあたるという状況でした。

こうした専門医の負担を軽減すること、なおかつ過疎地域の医療を確保することが大きな課題でした。

【左】中央病院(徳島県徳島市)【右】糖尿病・代謝内科部長 白神敦久医師

2.【技術的背景】高精細映像をリアルタイムで伝送

「Zao Cloud View」は送信機としてSmart-telecaster Zao-S、およびZao App(Android/iOS)を5Gで使用することで、安定した高品質の映像をリアルタイムに配信し、会話もできる短遅延映像配信クラウドサービスです。
現場からの高精細映像が伝送可能になることで、手元の細かい作業に対しても的確な指示を出すことができます。映像は最大12画面を同時に表示することが可能で、配信映像はクラウドに蓄積されます。また2020年に国土交通省が発出した「遠隔臨場」に関する仕様要求を満たしており、今まで現地で行っていた立ち会い作業がリモートで可能となります。
さらにドコモの5Gを使用することで、より安定した通信と高速での高精細映像の伝送が可能になり、ストレスのない相互コミュニケーションが実現できます。

内視鏡診断やエコー検査など医療機器の画像が高精細化されていく医療現場においても、大容量のデータ輸送を高速でやり取りできる「Zao Cloud View」は、院内の情報共有にとどまらず遠隔診療の場面でも活用が期待されるシステムです。

海部病院は2020年1~2月に実証実験を行い、医療現場での5Gを活用した高精細映像伝送による遠隔医療支援システムの有用性を確認。同年6月、徳島県とドコモは「とくしまSociety5.0実装に向けた連携協定」を締結し、5Gを活用した遠隔医療支援システムの実現に向けて協力してきました。実証の結果を踏まえたシステム改善等を行い、徳島県と調整を重ねていくなかで、2021年3月、「Zao Cloud View」を活用した「5G遠隔医療支援システム」を徳島県立3病院(中央病院、三好病院、海部病院)に導入。2021年7月に第1段階として、海部病院に「5G遠隔診療室」を設置し、中央病院の専門医が遠隔で診療する「5G遠隔医療」の運用を開始しました。

4K内視鏡を用いた遠隔医療の実証実験を行う中央病院(右)と海部病院(左)(写真提供:徳島県病院局)
  • ※三好病院:徳島県西部にある県立病院

3.【評価】課題解決に向けた大きな一歩、教育的効果も

海部病院は中央病院や徳島大学病院と連携し、「5Gを活用した遠隔医療」による糖尿病診療と形成外科の診療支援を月2回、内視鏡診療支援を不定期で実施。その結果、診療支援にあたる専門医の負担を大幅に減らすことができました。

「海部病院には月1回行っていますが、対面で診療する患者さまの人数を以前よりも減らし、対面しなかった方は月2回の遠隔医療で診察しています。そのためこれまでは海部病院で夕方までかかっていた診療が昼過ぎには終えられるようになりました。」(白神医師)

また「Zao Cloud View」の映像の精細さと低遅延性は予想以上だったとも話します。

「診療において細かい部分がわかることは重要です。特に糖尿病の場合、皮膚病変なども注視しなければいけないので映像が精細でなければ見落としてしまうケースも出てしまいます。この精細さがあれば、遠隔でも皮膚病変を早期に発見できると思います。」(白神医師)

「5Gを活用した遠隔医療」で糖尿病患者の診療にあたる白神医師

患者さまからも「対面と同じように先生とコミュニケーションができ、安心して診察を受けられた」と好意的な意見が寄せられています。

海部病院の影治医師は、患者さまが専門医を受診するため遠方まで行かなくて済むという利便性と同時に、若手の医師・看護師への教育的効果も得られていると話します。

「『遠隔医療』では若い医師や看護師が患者さまに付き添い、カルテ記入をしたりモニターに映らない部位を可動式カメラで撮影して配信したりするなどのサポートをしています。その過程で多くの症例に関する知見を得ることができるのです。」(影治医師)

形成外科における遠隔医療は、徳島大学病院形成外科の美馬俊介医師が隣接する中央病院の5G診察設備を利用することで実現したもの。ここで教育的効果を発揮した顕著な事例があります。

「入院患者さまの床ずれが悪化した際、若い内科医が遠隔で専門医の指示を受けながらメスを使って外科的処置を行いました。内科医が対応に苦慮する処置を速やかに行えたことに私も驚きましたが、確実に医師のスキルアップにつながっています。」(影治医師)

ただし遠隔医療では、対面以上に丁寧に診療を行う必要があるため、対面であれば1時間で5〜10人の診療が可能であるのに対し、遠隔では1時間に2、3人が限度。こうした課題を抱えつつも、支援にあたる専門医の負担軽減や過疎地域における医療の確保、さらに若手医師の学びにもつながるなど「Zao Cloud View」は確かな効果を生んでいます。

「5Gを活用した遠隔医療」による形成外科診療で支援を受ける海部病院(左)と徳島大学病院形成外科の美馬俊介医師(右)

4.【将来展望】過疎地域の医療格差を解消していく取組み

「遠隔で行える診療を増やしていくことが当面の課題」と語る中央病院の白神医師。同時に「Zao Cloud View」の今後の展開には大きな期待を寄せています。

「検査機器を回線につないで遠隔で情報を共有したり、患者さまが自宅で測定した血圧や血糖値のデータと連携したりすることができれば、より豊富な情報をもとに『遠隔医療』が行えます。将来的には病院と患者さまの自宅を結んでのオンライン診療に活用することで、より広範囲の方に専門的な医療を届けられるようになります。」(白神医師)

海部病院の影治医師も「遠隔で専門医の支援が得られる体制を構築できれば若手の医師も安心でき、多くの症例も学べるので、『Zao Cloud View』が過疎地域の医師不足解消のブレイクスルーになる可能性がある」と期待を込めます。
また糖尿病遠隔医療などの実績をもとに、救急現場にも5G活用を広げていきたい考えです。

「通常なら救急搬送はドクターヘリで行いますが、悪天候時や夜間は救急車で搬送することになります。ただ片道1時間以上を要するため、応急処置や急変時に備えて医師が同乗するケースがあり大きな負担になっています。今後、救急車と搬送先の病院を5Gでつなぐことができれば、救急車内の患者さまの容態を専門医が確認し指導できるので救急救命士により適切な対応を行うことが可能です。また血圧などのデータをリアルタイムで伝送しておけば、搬送先での治療もスムーズに行うことができます。」(影治医師)

医師や看護師を派遣するドクターカーと病院を5Gでつなぎリアルタイムに映像伝送を行う実証実験はすでに行われており、救急現場での実用化も視野に入っているとのこと。

「Zao Cloud View」による「5G遠隔医療支援システム」は、医師の負担を軽減するとともに、過疎地域における医療確保や深刻化する医療格差を解決していく上でも重要なツールとして期待が寄せられています。

中央病院のドクターカー(左)に5G通信機器(右)を搭載した実証実験(写真提供:徳島県病院局)
救急・訪問医療支援の実証実験(写真:ドコモ報道発表資料より)

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