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B.LEAGUE躍進の立役者 葦原一正氏と、新しい広報&観戦ツール「Player!」にインタビューDXでファンとのエンゲージメントを獲得する“新時代のスポーツマーケティング”

  • 葦原 一正氏株式会社ZERO-ONE
    代表取締役

「スポーツとデジタルトランスフォーメーション(DX)は無関係じゃ…?」と考えている方も多いかもしれないが、競技者向けのゲームデータ収集をはじめ、ライトファン層を試合会場に引き込むためのマーケティング施策やSNS連携での情報拡散など、ありとあらゆる場面でデジタルが活用されている。さらに新型コロナウイルスの影響で、リアルでの観戦が困難になったいま、スポーツエンターテインメントの新たな“かたち”を模索する必要もあるだろう。本稿では、SaaS利用者とSaaS提供者の双方の観点から、スポーツ業界の未来を担うDXとは何かについて探っていく。

  1. 01B.LEAGUE躍進の立役者の・葦原一正氏が語る
    デジタルマーケティングとスポーツのDX
  2. 02部活動から海外のプロスポーツまで。
    ジャンルを問わず、チームや団体とファンをつなぐサービス

B.LEAGUE躍進の立役者の・葦原一正氏が語る
デジタルマーケティングとスポーツのDX

―葦原さんはBリーグの立ち上げに参画し、観客や売上を増やすためにデジタルマーケティングの施策を取り入れました。どのような経緯からデジタルマーケティングに注目したのでしょうか。

葦原氏:バスケットボールは、もともとビジネスポテンシャルが大きなスポーツです。国内の競技者人口はサッカーに次いで2番目に多く、試合の観戦意向のある人がおよそ700万人いるという調査結果も出ています。しかしながら実際にアリーナに来場する観客は、その約10分の1に過ぎません。つまり潜在的なポテンシャルは大きいものの、顕在化するに至っていないのがバスケットボールの実情でした。

ポテンシャルを顕在化するには、より多くの観客に来場してもらうことが重要です。まずは観戦意向のある700万人のコンバージョンレートを上げることにターゲットを定め、データ分析にもとづいた施策を推進するデジタルマーケティングに注目したわけです。

―具体的には、どのような取り組みをしたのでしょうか。

葦原氏:観戦意向のある人のデータを分析してみると「若い世代が多い」「一人で見るよりも大勢で見るほうが好きな人が多い」「スマートフォンや雑誌で情報を入手する人が多い」「SNSで情報を発信・拡散するインフルエンサーが多い」といったユニークな特徴が見えてきました。

こうした人たちに観戦してもらうには、チケットを購入するために窓口に並ばせるといった伝統的な手法を大きく変える必要があります。そこで取り組んだのが「スマホファースト」の施策です。情報提供からチケット購入・入場、試合放送、観戦体験のシェアまでのサイクルをスマートフォンだけで完結できるようにしました。また、各クラブチームが個別に用意していたチケットサイトなどをひとつに統合するなどの施策を進め、データの分析結果をリーグ、クラブチームが共有・活用できる仕組みも構築しました。

―そうした取り組みを進めたことにより、どのような成果が得られましたか。

葦原氏:Bリーグの発足から現在までに、入場者数は1.5倍、売上は3倍以上に拡大するという成果が得られています。ただし、これらの成果には各クラブチームの地道な努力も含まれているので、必ずしもすべてがデジタルマーケティングの施策によるものというわけではありません。

そうしたなか手応えを感じたのは、スマートフォンでチケットの購入・配布を行いやすくしたことです。観戦意欲の高いコアユーザーが仲間を誘ってアリーナに連れてきてくれたほうが、意欲の低いライトユーザーを広く呼び込むよりも効果的です。その点でスマホファーストのプラットフォームを構築したことが、一定の成果につながったのは間違いないでしょう。

汎用的なプラットフォームを提供するSaaS型クラウドサービスに期待

―葦原さんは現在、Bリーグをはじめ長年にわたるスポーツビジネスの経験を活かした支援活動を行っているわけですが、スポーツ界がこれからDXを推進していくには、どんな課題があるとお考えですか。

葦原氏:スポーツ界のDXは、スポーツ界ならではの難しさがあると考えています。例えば、チケットの購買データを分析するにしても購買者と観戦者が異なる場合も多く、その見極めを間違えると正確な分析結果が得られません。また、どこまでのデータを取得すべきなのかという点も慎重に検討する必要があります。

スポーツビジネスのマーケティングには“黄金の斧”というべきものは存在しません。それを心得たうえで、デジタルマーケティングの施策に取り組まなければならないところに課題があると考えています。

―そうした課題を解決するためには、どのようなサービスに可能性を感じますか。

葦原氏:プロ野球、サッカーJリーグ、Bリーグのようなスポーツ競技団体ならば、高度なデータ分析を行うプラットフォームを自前で用意することも可能です。しかし、人的・金銭的リソースが不足するマイナーなスポーツ競技団体にとっては、高いハードルが立ちはだかっています。こうしたマイナーなスポーツ競技団体も含め、あらゆるスポーツビジネスに適用できる汎用的なプラットフォームを提供するSaaS型クラウドサービスに可能性を感じています。

デジタルマーケティング以外では、プロ・アマを問わず競技者自身が成績や記録を蓄積してフィジカル・メンタル両面の成長を実感できるサービス、観客がバーチャルな空間でリアルタイムにコミュニケーションを図れるサービスなど、さまざまなSaaSが登場してくることも期待しています。

葦原氏も言及していたように、スポーツのDXはプロスポーツだけでなく、マイナースポーツや部活動などでも求められ、波及しつつある。今回はあらゆるスポーツとファンをつなぐサービス「Player!」を提供するookamiの広報担当・犬飼氏にもお話を伺った。

部活動からプロスポーツまで。
ジャンルを問わず、チームや団体とファンをつなぐサービス

―Player!にはどんな特徴がありますか。

犬飼氏:Player!は、リアルタイムで試合情報をどこにいてもキャッチできるスマホアプリです。試合時はライブチャットで仲間とシェアすることもできます。スタジアムでもTVでもない、スポーツ観戦の新しい選択肢として2015年にリリースしたサービスです。 現在は全47競技を扱っており、年間約2万試合を配信しています。配信では試合の途中経過や結果だけでなく、リアルタイムのゲームデータだけではなく、選手の情報やスタッツデータなども配信しています。

また、Player!は、チームや団体のファンコミュニケーションツールとしても活用することができます。Player!の管理画面から、試合情報を簡単に発信することができますし、試合結果の速報記事を外部ニュースメディアに拡散することもできます。また、SNSと連携して試合情報をシェアすることで、OB・OGをはじめとした既存ファンからライトファンまで、幅広い層へのリーチを可能するだけでなく、新規ファン獲得施策の一環としても役立てられます。

―ファンはもちろん、スポーツ競技団体にとっても有用なPlayer!ですが、どのように利用者を増やしていったのでしょうか。

犬飼氏:SNSを通じて口コミで広がっていったことが大きな要因になっています。

広報ツールとしてPlayer!を使っていただける競技団体が徐々に増え、次第にファンと競技をエンゲージするサービスとして認識されるようになっていきました。

Player!のサービスを提供するにあたり、競技団体との密なコミュニケーションは欠かせません。Player!を機能強化する際にも、ファンだけでなく競技団体とも向き合い、その声を大事にしています。

AIを活用した新しい取り組みも

―NTTSportictとの協業でAIカメラを用いた試合配信という新しいサービスが登場しましたが、この取り組みはどのようなきっかけから始まったのでしょうか。

犬飼氏:コロナ禍の影響により、多くのスポーツ大会が延期・中止になりました。現在は再開に向けた動きがあるものの、とくに学生スポーツを中心に無観客開催が予想されます。最終学年の選手にとっては最後のシーズンであり、その勇姿をできる限り多くの人たちに見てほしいという願いから、AIカメラ技術を持つNTTSportictとの協業による配信サービスを提供することにしました。

今回のサービスは、NTTSportictの無人AIカメラをスポーツ施設に設置し、試合のもようを自動撮影してPlayer!上で配信するというものです。6月に参加希望の競技団体を募集し、大学体育会のチームなどから数多くお問い合わせをいただきました。

―Player!というSaaSを提供する立場から、今後のスポーツ界におけるDXをどのように見ていますか。

犬飼氏:スポーツ界はまだまだ体制が古く、デジタルに対して抵抗感を示す競技団体も少なくありません。スポーツ界がDXを行う上では、デジタル技術を「適切な場面」で「適切なサービス」に使っていくことが重要です。情報を発信するのにも、自分たちの競技特性や、発信したいことに合っているメディアかどうかを正しく判断できる能力も求められます。

Player!はそれぞれの競技の特性に合わせた情報発信ができるようになっており、競技団体が取り組むDXを推進するメディアとしてお使いいただけると思います。

―Player!は今後、どのように発展していくのでしょうか。

犬飼氏:Player!ではすでに、試合を観戦しながらファン同士がリアルタイムにコミュニケーションを図れる機能が実装されています。また、Player!はサービス提供開始からゲームデータをデータベースに蓄積しており、将来的にはある競技のプロ選手が学生時代に残した成績も追えるようになっていくと思います。

新しい取り組みとして弊社がいま力を入れているのは「Player!サポート」の拡充です。これはファンの熱量を可視化して競技団体やクラブチーム、選手の支援を目的とした寄付機能です。また、大手スポーツ用品メーカーをはじめとするスポンサーとタッグを組みなが新たな観戦体験の創造にも取り組んでいます。今後も“新たなスポーツエンターテインメントを提供できるサービス”として今後も成長していきたいと考えています。

pookamiでHR&PRを担当。
ラグビーをこよなく愛する「ラガール」

葦原氏とookamiのインタビューから、プロ・アマ問わずさまざまな場所でデジタル活用が進んでいるとわかったが、その取り組みはまだまだ序章にすぎないと感じた。いまやDXとスポーツは蜜月な関係と言っても過言ではない。デジタルによる今後の進化にも期待したいところだ。

PROFILE

  • 葦原 一正氏
    葦原 一正氏

    株式会社ZERO-ONE
    代表取締役
    葦原 一正氏

    外資系戦略コンサルティングファームを経て、2007年に「オリックス・バファローズ」の企画グループ長、2012年に「横浜DeNAベイスターズ」の社長室長として事業戦略立案やプロモーションを担当。2015年には「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」に移り、Bリーグの立ち上げに参画。常務理事・事務局長を歴任し、Bリーグのデジタルマーケティング戦略立案実行などを推進。2020年に株式会社ZERO-ONEを起業。長年にわたるスポーツ界の経験を活かし、マーケティング改革支援や新規事業立ち上げ支援を行っている。

    ※プロフィールは2020年9月時点のものです。

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