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「地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮めていくことでデジタル実装を通じた地方活性化を推進する」ことを目的に、旗を掲げられたデジタル田園都市国家構想。そこでは、デジタルは新しい価値を生み出す源泉として、官民双方で地方におけるDXを積極的に推進することが求められています。
今回は、2015年から約3年間総務大臣補佐官や総務省政策アドバイザーとして地方創生とテクノロジーの政策立案に関わられた太田直樹氏と、「信用コストの低いデジタル社会を実現する」をミッションとして掲げるxID株式会社代表取締役CEOであり、「デジタルファースト宣言」を行った浜松市フェローとしても活動される日下光氏をお招きして、未来を創る地方DXとビジネスモデルについてお話しいただきました。本記事でウェビナーの模様をレポートします。

  1. 01官民両面から地方創生に携わる中で見えてきた課題とチャンス
  2. 02なぜ今、地方なのか?地方創生の歴史と現在
  3. 03広がるマイナンバーの可能性
  4. 04地方におけるDX、イノベーションが他地域に横展開され始めている
  5. 05失敗する地方DXの共通項と持続可能なビジネスモデルとは?
  6. 06方DXで海外に輸出できる“ジャパンモデル”をつくる

官民両面から地方創生に携わる中で見えてきた課題とチャンス

司会(以下、林):本日のゲストはNew Stories代表、Code for Japan理事を務める太田直樹さん。xID株式会社代表取締役CEO日下光さんのお2人です。本題に入る前におふたりから自己紹介と合わせて、それぞれの地方や行政との関わりや取り組みについてお話しいただきます。

太田直樹氏(以下、太田):地方に関わったのは2015年からで、それ以前は、海外で仕事をしておりました。今は大きく3つの領域で活動しています。
1つ目はNew Storiesという自分の会社です。いくつかの地域や企業と組んでスマートシティの取り組みを進めています。
2つ目は一般社団法人Code for Japanの理事として、東京都を中心とした新型コロナの対策サイトをオープンソースで作るなどの「シビックテック(Civic Tech)」活動を推進しています。
3つ目が国の仕事です。「デジタル田園都市国家構想」の有識者として、民間あるいはソーシャルセクターの活動をもとに、様々な提案を行っています。
今回は、この3つをぐるぐる回しながらセクターを超えて仕事をしている中で見えてきた課題やチャンスの話をさせていただきたいと思います。

日下光氏(以下、日下):ビマイナンバーカードに特化したデジタルIDソリューション「xID(クロスアイディ)」を提供する企業を経営しています。過去、エストニアに4年間在住し、現地政府機関のアドバイザーをしながら、日本のマイナンバーと同じ仕組みを使った、いわゆるGovTechサービスを作りました。
ここ2年ほどは、総務省の地域情報化アドバイザーという立場で、全国の自治体にエストニアの事例を伝え、マイナンバーカードが普及した先の社会について発信しながら、官民連携のプロジェクトやサービスの展開を推進しています。

なぜ今、地方なのか?地方創生の歴史と現在

林:日本でもデジタル田園都市国家構想によって、「地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮めて地方活性化を推進する」ことが求められています。まずは、「なぜ今、地方に注力をすべきなのか?」という点からお伺いします。

太田:日本で地方創生が始まったのは30年以上前にさかのぼります。1987年、竹下登総理のときに「ふるさと創生事業」という政策で、各自治体に地域振興目的で1億円を配布しましたが、30年経ってもあまり成果が出ていないのが実情です。ただ、実は海外も都市と地方の格差はどんどん広がっていて、地方創生的な政策をとっているもののあまりうまくいっていないところが多いです。
「なぜ今なのか」というところで言うと、直接的には今の岸田政権で「地方創生×デジタル」が政策の柱になったことが契機です。国のIT予算は約1兆円で、特に2025年以降、モビリティや医療、教育、防災、農業などの分野で様々なサービスが創出されるだろうという意味で、非常に面白いのが地方の取り組みです。
ただ、自動運転車やドローンなど、テクノロジーをポンと持っていけば課題解決になるわけではない。技術のイノベーションだけではなく制度のイノベーションを起こしていくというのがデジタル田園都市国家構想で問われているところだと思います。

日下:僕は1988年生まれなので、生まれる前から地方創生の取り組みがされていたということに衝撃を受けました。
僕が地方に注目している理由は、地方という主語の小さい規模で取り組めるからです。エストニアの場合、130万人という日本の沖縄県民くらいの人口規模なので中央政府だけで推進できました。ただ、日本のように規模が大きくなると、当事者意識を持ってみんなで何かに取り組むことが難しくなります。だから、地方単位で行うことが必要なのです。
また、これまで東京一極集中で、武器(リソース)は東京にしかないという状態だったのが、デジタル化によってどこでも武器が伝えるようになったということも1つです。

太田:今は、地方の方はもちろん、IターンやUターンで移住した方たちが面白い取り組みをしようとしています。昔であれば海外に飛び出していたような「新しいことを始めたい人」が地方に入り込んで、地方創生という文脈の中でテクノロジーを使って変化を生み出していく展開になっているのが現在のところです。

広がるマイナンバーの可能性

林:日下さんはエストニアでもアドバイザーを務められています。エストニアの事例をご紹介いただけますか。

日下::エストニアには、日本のマイナンバーカードにあたる仕組みとして「e-ID」というIDがあります。これは国民の99%が持っていてあらゆる行政サービスの手続きをスマホで完結できるようになっています。それとは別に、「スマートID」という民間アプリは、行政だけではなく民間サービスとも連携でき、より良いUIUXを備えており隣国のラトビアやリトアニアでも使えるIDになっています。これも今、国民の半数以上がダウンロードして使っている状況があります。

林:マイナンバーと地方はうまくつなげることはできるのでしょうか。

太田:地方創生×デジタルの取り組みは、大きく3つに分けられると思います。
1つ目は、行政DX。例えば窓口に行かないとできない煩雑な手続きをもっと簡単にするデジタル活用です。
2つ目に、民間のデジタルサービスです。どんな山奥でもアマゾンで注文したら届きますから、都市や地方といったことは関係ないサービスがたくさんできています。
3つ目が官と民の間にあるサービスです。実はこの領域は結構あると思っています。税金や補助金が入っているけれども、サービス提供は民間が行っているもの。例えばバスや鉄道、タクシーなどの交通機関がそうです。医療、介護や教育、防災などもそのような部分があります。こういった領域を「準公共」と言ったりします。この領域でデジタルを活用する基盤として、マイナンバーカードの可能性は大いにあります。

地方におけるDX、イノベーションが他地域に横展開され始めている

林:お2人はそれぞれ東京都や群馬県、鎌倉市をはじめ浜松市、加賀市、日立市など、複数の自治体のデジタル化に関わられています。行政サービスとして成功している事例をご紹介いただけますか。

日下:まとまった成功事例はまだどこの自治体にもないというのが現状だと思います。ただ、「マイナンバーカードこそがデジタル化のキーではないか」と考えて取り組まれている自治体は増えてきています。
例えば石川県加賀市は人口約6万3000人。僕が初めてお話ししたときには、マイナンバーカードの交付率が14%ほどでした。ただ、そこから市長が「やるぞ」と旗を掲げた結果、7か月で68%まで押し上げ、全国ナンバーワンになりました。
さらに加賀市は、マイナンバーの普及だけではなく、その先の浸透が大事だということを理解していました。そこで高齢者向けのスマホ支援としてオンライン上での行政手続きの仕方をレクチャーするなど、一石二鳥、三鳥の流れをどんどん作っています。
また今、窓口の手続きのペーパーレス化も200手続きほど済んでいるのですが、この取り組みにはコンサルも入っていませんし、別会社に委託したわけでもありません。職員さんたちの力で、手続きの棚卸しをしてフレームワークを作り、ペーパーレス化を実現しているのです。
もちろんまだ紙の手続きも残るのですが、デジタル化も進めていく。このダブルスタンダードを許容していく自治体内の調整、他課の職員さんたちとの合意形成などを地道に行っています。

太田:群馬県前橋市で生まれた「まえばしID」という事例があります。「まえばしID」は行政と民間が共同で運営するIDで、「要介護」や「要支援」といったパーソナルな「ディープデータ」と呼ばれる行政保有データを使うことができます。GAFAMのIDはそこまで深いところでの連携はできません。
例えばバスや電車に乗るとき、デイサービスの車両に乗るとき、共通のIDと紐づけることで高齢者割引が使えたりします。近い将来には、目の不自由な方が街を歩いているときに3D都市データと連携し、音声で「この先に信号があります」といったことを知らせてくれるような仕組みも考えられます。行政のデータを使うことで遠隔で市民をサポートできるので、全体として行政の費用も効率よく使えるようになるIDなのです。
ちなみに「まえばしID」は昨年、他地域でも使いたいという需要が増えてきたため「めぶくID」と名称変更しました。デジタル社会基盤となるイノベーションが、東京ではなく地方都市で生まれ、かつ他地域にも展開されていっているというのは面白いですね。

林:パーソナルデータを吸い上げることにプライバシー観点で不安を持たれる方もいらっしゃると思うのですが、その辺りはどのように捉えたらいいのでしょうか。

堀:日本はプライバシーについての懸念がすごく強いですし、国に対しての信用が低いので、マイナンバーカードは炎上する宿命にあると言えます。ただそれに対して地方自治体に対しての信頼は高いんです。
前橋のような30万人規模のエリアで住民がデータ活用の便利さを体感できるところまでいけると納得感もあるし、感情的な不安も払拭されていきます。合理的な説明は大事ですが、納得して浸透させるためには感情的な部分も非常に重要です。

失敗する地方DXの共通項と持続可能なビジネスモデルとは?

林:今お2人から成功例をご紹介いただきましたが、逆にうまくいっていない地域や取り組みの共通項はあるのでしょうか。

日下:交付金頼みの政策を考えるとまずうまくいかないですよね。地方はそこが重要な気がします。

太田:そうですね。デジタル田園都市国家構想は、各自治体が「デジタル事業をするのでお金をください」と手を挙げて、事業の2分の1や3分の2を補助されるというスキームです。ただ、交付金があるからやる、なかったらやらないというスタンスのところはほぼ失敗します。前橋市は、国からの補助金がなかったら他の補助金や金融機関からの借り入れ、民間の投資などで調達できる算段がついている状態で手を挙げていました。
もう1つの難しさは、複雑なビジネスモデルになってしまう点です。純粋な民間サービスと比べると官民一体の取り組みはステークホルダーが多く関係性が複雑です。モビリティにせよ防災にせよ、各ステークホルダーと合意形成が必要で、結果的に使い勝手が悪かったり要らないサービスになってしまう。その問題を突破するためには、市場や事業を創造できる人を育成することがまだまだ必要だと思います。

林:交付金に頼らない持続可能な事業モデルを作っていくためにはどんなことが求められるのでしょうか。

日下:民間企業は公共調達に乗っかるのではなく、主体者として入っていくことが重要です。ただ、1社単独で考えるのは非現実的なので、投資してくれる地銀やVCとともにエコシステムを作っていくことが重要になります。
また僕は、GovTechはIT業界最後のユートピアだと思っています。GovTechは行政のICT化と思われていますが、本当は官と民の境目を壊して再定義するもの。GAFAMが入ってこられない領域であり、オープンイノベーションで開発したサービスを地方創生に生かし、それをグローバルに展開していくことができる、魅力的な領域です。

太田:前橋で国の補助金を取りに行った目的の1つは規制緩和です。もう1つは、実はいろいろなデータを取って、それに応じて受益者である事業者と行政の共助モデルを作り、事業として回る仕組みにすること。これがようやく机上の空論ではなく、実装レベルでできるようになってきたこのタイミングがチャンスだと判断しました。
ただまだほとんどの人に経験値がない。各地方でも人材とノウハウがたまっていけばブレークするでしょう。事業価値で数百億のサービスがいくつかできる領域もあると思うので、ぜひそれを仕掛けていく企業や人材が増えてほしいですね。

地方DXで海外に輸出できる“ジャパンモデル”をつくる

林:これまでのお話しの中で、地方がもつ可能性、既に動き始めている自治体の事例からたくさんの示唆を得ることができました。お2人は地方の未来像をどのように描いていますか。

日下:公共のデジタル化という意味で言うと、先ほど太田さんからもあったように「合意形成」がキーワードになります。マルチステークホルダーで議論し、何が正解かはわからないけれど長い目で見て合意形成を図っていくことが大事です。
僕たちベンチャー企業にとって大切なのは、東京を飛びだし、自分の足で実際に歩いてみて、匂いを感じてみて、自治体の職員さんや地域の成功者と話して、チャンスを見つけていくことです。実は地方には東京よりもいろいろなヒントが隠れているので、そこを政策や制度を逆輸入的に都市や霞が関に持ち帰ることも可能です。
また、グローバルを目指していくという意味で言うと、課題先進国である日本で成功モデルを作れば、昔ハードウェア輸出で日本製品がグローバルブランド化したように、他国にジャパンモデルのスマートシティを推し出せる可能性があります。そこは海外を真似するというよりもむしろ、ベンチャー、大企業問わずオープンイノベーションでジャパンモデルを作っていけるといいなと思います。

太田:開発途上国が技術革新によって一気に先進国を追い越すソリューションを享受する「リープフロッグ」と言われる現象が、地方でも起こるような気がしています。ただ人の生活習慣はすぐには変わらないので、世代交代を伴う必要があります。今地方で力を持っているのはまだまだ団塊の世代が多いですが、彼らはもう後期高齢者となり、今まさに世代交代が始まります。そうなるといくつかの地域でものすごく面白いサービスや市場の変化が生まれ、そのピークが2025~30年になるのではないかと見ています。

林:最近はDAO(自律分散型組織)やNFTとったWeb3観点も注目されています。地方の合意形成にもこれらを活用していこう、バーチャル村民を集めていこうといった動きが出てきていますが、そこについてはどのように見ていますか。

日下:合意形成プラットフォームと言われるデジタルサービスが出てきて、バルセロナでも使われ始めています。ただ、対面コミュニケーションとデジタル上のコミュニケーションのお作法の違いみたいなところの差がまだ埋まっていないので、まだ地域住民の合意形成ツールとして成功例はないと捉えています。
ただ確実に、これまで対面で行っていた会議などがオンライン化されて便利になった側面はあります。デジタル化の成果はこれからどんどん出てくるので、ここから1年ほどで面白いユースケースが出てくるのではないかと思っています。

ぜひアーカイブ動画をご覧いただき、エキスパートの取り組み事例や深い思考に触れてみてはいかがでしょうか。

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