エッジコンピューティングとは、ネットワークの周辺(エッジ)部分でデータを分散処理する技術です。クラウドにすべてのデータ処理を集中させる従来のクラウドコンピューティングと比べて、ネットワークにかかる負荷が軽減され、低遅延の通信を行える特徴があります。
エッジコンピューティングの活用によって、さまざまなモノをインターネットに接続して管理・運用するIoTの課題解決に期待が寄せられています。
IoTの課題
●複数のIoTデバイスと接続するため、データ処理量が膨大
●位置情報の取得や映像処理などリアルタイム性が求められ、数ミリ秒の遅延が致命的
●通信の動作性とセキュリティの両立
➡エッジコンピューティングによって、快適かつ安全な動作が可能に!
また、2020年から商用サービス化された5G(第5世代移動通信システム)には、「高速大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」というIoT環境に適した特長がありますが、その真価はエッジコンピューティングによって発揮されると言えます。5Gを利用して、モバイル機器からのアクセスに特化させた技術を、「MEC(Multi-access Edge Computing)」と言います。
エッジコンピューティングは、クラウド−デバイス間にエッジサーバー(エッジゲートウェイ)を設けることで、データ処理の負荷を分散させる仕組みです。IoTデバイスと物理的に近い場所にエッジデバイスを設置することで、通信のレスポンスが高まります。クラウドとの通信頻度とボリュームを最小限に抑えるため、データ漏えいのリスクが少なく、クラウドサーバーがダウンした際にも事業が完全にストップすることを避けられる点も特長です。
エッジコンピューティングのメリット
●膨大なデータ処理の円滑化
●レスポンスの向上
●通信コスト、回線負荷の削減
●IoTデバイスの一括制御
●BCP(事業継続計画)の実現
エッジサーバーと同じ意味で用いられることも多い「IoTゲートウェイ」に関しては、下記の記事で詳しく解説しています。
エッジコンピューティングによって、IoTデバイスの遠隔操作をより精密かつリアルタイムに行えるようになります。医療現場におけるオンライン手術、メタバース空間でのコミュニケーション、XR(Cross Reality)*による体験価値の向上といった先端領域の発展にはエッジコンピューティングが不可欠と言えます。
エッジコンピューティングはメリットが多い一方、課題もあります。ここからは導入する上での障壁となり得る課題と、その解決策について紹介します。
エッジコンピューティングは、従来のクラウドコンピューティングにエッジサーバーを追加する仕組みですが、ネットワーク環境の構成要素が多くなるため、そこに起因する課題が発生します。
最大の問題点として挙げられるのは、コストが高くなりがちなことです。IoTデバイスの近くにエッジサーバーを置くため、拠点の数に応じて用意するハードウェアも増えていきます。サーバーの導入・維持費はもちろん、管理担当者にも相応の負担がかかります。
ハードウェアが増える分、システム全体の構成も複雑化します。IoTデバイスによって通信方式が異なることも多いため、当初の想定より上手く機能せず、「通信コストの軽減」というメリットを打ち消してしまう可能性もあります。
システムの構成要件が増えることで、想定されるセキュリティリスクが多様化してしまうことは、エッジコンピューティングの課題と言えます。エッジサーバーには容量の都合などからセキュリティ対策が十分に施されていない製品もあり、サーバー攻撃の対象にされる危険性があります。また、人の手で情報を抜き取られる恐れもあり、物理的なセキュリティにも注意が必要です。
継続的なメンテナンスを実施する専門人材の不足も深刻な課題です。「人件費削減のために導入したエッジコンピューティングによって、専門人材のコストが増大する」という本末転倒を防ぐためにも、対策は必須と言えます。
エッジコンピューティングを適切に運用する上では、事前の仕組みづくりが肝要です。課題の解決策としては、下記のような対応が考えられます。
クラウド、ネットワーク回線、エッジサーバー、IoTデバイスなどの構成要素がひとまとめになったパッケージサービスであれば、外部の窓口の統合・管理が可能。導入・運用コストの軽減につながるほか、構成要素のいずれかで問題が起こった際も、迅速なサポートを受けられるでしょう。
IoTデバイスはメーカーによって接続の仕様、サポートなどが異なります。多種多様なIoTデバイスの活用を見込んでいる場合は、幅広い通信方式に対応ができ、管理のしやすいエッジサーバーを導入することでシステムの複雑化を回避できます。
インターネットを介さない閉域通信を採用することで、安定した通信を保ちつつ、エッジサーバーのセキュリティ性を高められます。有線の敷設工事が発生する場合もあるため、導入コストが増える点には注意しましょう。
エッジコンピューティングでは、エッジデバイス上に搭載されているアプリケーションの更新によって、導入後のシステム変更が発生するケースも少なくありません。専門人材の確保のためにも、機能拡張を前提に、長期的な人員計画を策定しておきましょう。
エッジコンピューティングの活用事例として代表的なものを紹介します。
米国でいち早く実現された完全無人店舗「Amazon Go」には、エッジコンピューティングが活用されています。顧客は入店時と退店時にAmazonアカウントと紐づいたQRコードをスキャンするだけで買い物が可能。店舗側はシステムでサプライチェーンや在庫管理ができ、より省力化・合理化できます。
その仕組みは、店内に設置された複数のセンサーが感知した情報を、エッジサーバーがリアルタイムに分析・処理することで成り立っています。また、あらかじめ店舗ごとに最適なルールをエッジサーバーに配信することで、データセンターとの接続が切れても店舗運営を継続できるという強みも。
輸送におけるドライバーの人手不足などを解消する手段として注目を集めている自動運転技術では、わずかな通信遅延が人命に関わるため、エッジコンピューティング技術の情報共有が盛んに行われています。
最も代表的な例は、トヨタ自動車やデンソーなどの自動車メーカーが主体となって創設した非営利コンソーシアム「AECC(Automotive Edge Computing Consortium)」で、より安全な自動運転の実現に向けて、グローバル企業が相互に連携する取り組みとして知られています。
ドコモビジネスでは、通信事業のノウハウを活かしたIoT・DX化支援に取り組んでおり、お客さまのIoT導入にあたって、エッジコンピューティングを活用した新たなビジネスモデルの創出をサポートしています。
EDGEMATRIX®は、エッジデバイス上で動作するAI(人工知能)が映像データを現場で安全かつ効率的に分析するサービスです。製造工場、建設現場、商業施設などさまざまな用途向けにAI(人工知能)が利用可能。また、個別用途向けの再学習も承っています。
エッジデバイスの「Edge AI Box」シリーズは防塵・防水性能を備えているため、屋外環境でも安定して運用できます。外部のネットワークを介さず、エッジデバイス上で映像を分析するため、クラウドに映像が残らず、セキュリティ面も安心です。
〈活用事例①〉 不動産業界
管理ビルに混雑表示システムを導入。喫煙室内の利用者数を自動で検知し、混雑状況をモニターに表示します。新型コロナウイルス感染症の対策として利用者の安全を確保。警備担当者の業務効率化にもつながりました。
〈活用事例②〉 自治体
道の駅にて来場車両管理の実証実験を行いました。出入り口に設置されたカメラとエッジデバイスが自動で車両の情報を収集。映像からナンバープレートの地域名データを抽出し、時間帯ごとにどのエリアの車両が来場しているかを容易に分析できました。
〈活用事例③〉 プラント業界
プラントの建設やO&Mの現場の安全管理に活用しています。監視カメラの映像をリアルタイムで分析し、現場におけるヘルメット未着用や禁止エリアへの侵入を検知。警告を直ちに鳴らし、従業員の安全を確保します。
docomo MEC®は全国10拠点(2025年2月現在)のIaaS基盤を活用することで、どこからでも最適なリアルタイム通信を行えるサービスです。高速大容量、高信頼・低遅延通信、多数同時接続が5Gの特長ですが、MECは主に高信頼・低遅延通信の実現に欠かせない、エッジコンピューティングを提供します。
docomo MEC®は、SIMを挿すだけでIoT端末の通信を簡単に閉域化できる手軽さを実現しています。さらにdocomo MEC® Compute Eなら、ドコモビジネスが提供するデータ利活用プラットフォームサービス「Smart Data Platform(SDPF)」や、統合ネットワークサービス「docomo business RINK®」のインターコネクト機能「Flexible InterConnect(FIC)」を利用することで、大容量データの利活用や、お客さまのシステム・パブリッククラウドとのセキュアかつ安定した連携が可能です。
〈活用事例①〉 国立大学法人 長岡技術科学大学
長岡・豊橋の技術科学大学および国立高専の教員・学生のべ60,000人がリアルタイムにつながることのできる世界最大のテック系コミュニティ「テック・メタバース」を構築。通信にはdocomo MEC®、MECダイレクト®、FICを用いることで、モバイル環境でも遅延が少ない遠隔授業が実現しました。閉域通信でセキュリティリスクも最小限に抑えられています。
〈活用事例②〉 総務省地域デジタル基盤活用推進事業(自動運転レベル4検証タイプ)
NTTコミュニケーションズを代表機関としたコンソーシアム9社で自動運転バスの走行に関する実証実験を行いました。自動運転レベル4は「特定条件下における完全自動運転」を示す指標。本検証は、5Gワイド、docomo MEC®、FICなどを利用することで、混雑エリアにおける安定した遠隔監視システムの実現と、路車協調システムを活用した安全な自動運転サービスの実現が目的です。
エッジコンピューティングは、デバイス−クラウド間にデータ処理用のエッジサーバーを設置することで、ネットワークにかかる負荷を軽減する技術です。デバイスとの物理的な距離が縮まることで遅延が発生しにくく、外部の回線を介さないのでセキュアな通信が行えるなどのメリットがあります。
IoTは複数のデバイスを並行して活用するため、膨大なデータ処理が発生します。従来の方式ではクラウドサーバーに処理が集中し、ネット回線の負荷増大や遅延などの問題を招いていましたが、エッジコンピューティングによって負担を分散することで、大規模データも遅延なしで高速処理・分析できるようになりました。
デバイス−クラウド間にエッジサーバーを設置する構造上、エッジコンピューティングの導入によってネットワーク要件は増加します。サービスによっては拠点ごとに設置する必要があるため、複数拠点の場合は管理・運用コストも膨れ上がることに。導入時には、パッケージサービスを活用して窓口を一本化するなどの対策が有効です。
NTTコミュニケーションズは、これからも社会やみなさまの普段の暮らしが、より一層豊かで充実したものとなるよう、ネットワークのさまざまなソリューションを全国的に展開させていただいております。