スマート保安とは、IoTやAI技術などを用いて、産業・エネルギー関連インフラ(電気、高圧ガス、ガス)の産業保安力および生産性を向上させる取り組みのことです。その背景には、テクノロジーの発達や人材の枯渇、新技術によるデジタル社会の進展といった、構造的な課題や環境の変化への対応が求められていることがあり、経済産業省は官民一体で、取り組みを推進しています。
スマート保安は、経済産業省が主宰する「スマート保安官民協議会」によって基本方針が定められています。
スマート保安官民協議会は上記の基本方針に則り、高圧ガス保安部会、ガス安全部会、電力安全部会の3つの部会に分かれ、各事業セグメントのアクションプランや規制・制度の見直しを実施しています。
保安業務のスマート化は巡回点検、記録管理、事前予兆など幅広い範囲の業務効率化を実現するもので、「スマート保安先行事例集」には下記のようなメリットが記載されています。
導入事例の中には、地震防災システムによって40時間程度かかると想定されていたガス供給の停止作業が10分に短縮されたという報告もあり、業務工数の削減において特に大きな成果が期待できます。
スマート保安は、設備の高経年化や人材不足などの課題を抱える産業・エネルギー関連の事業者が、安全性と効率性を同時に高めるための手段として注目を集めています。スマート保安を導入する際に確認しておくべきことや注意点を紹介します。
スマート保安を実現するソリューションは幅広く、まずはスマート化する対象を決める必要があります。その際に参考になるのは、スマート技術の3種類の活用法から目的別に選ぶ方法です。
スマート保安は、複数のソリューションを組み合わせるのが一般的です。「ドローンを導入したものの、電子データを利活用するためのシステムがない」といったケースも考えられるため、自社システムが対応可能な範囲と新たに欲しい機能を確認しておくとよりスムーズな導入が可能になります。
スマート化には、機器の購入やシステム開発などの初期投資が必要になります。基本機能だけで十分な場合と、自社の要件に合わせたカスタマイズが必要な場合で導入コストも異なるため、現場の作業負荷を何%まで削減すれば損益が釣り合うかを事前に試算しておきましょう。
ただし、コストとリターンの分析においてもスマート技術は有用なため、まずはデータの利活用を目的とし、得られた分析データから課題解決に特化したソリューションをあらためて検討するなど、段階的な導入も一つの手です。
スマート保安は主にデジタル技術に関わっていますが、導入に際してはアナログ面の環境を確認しておくことも必要です。現場には電波が通じているか(回線から用意する必要があるか)、ベンダーとの交渉が可能なIT人材はいるか、導入後の利用拡大と人材の育成計画は検討されているかなど、事前の入念な準備がスマート化を成功させる秘訣です。
スマート保安が推進されている背景には、近年になってエネルギー関連インフラの課題が顕著になってきたことが挙げられます。たとえば、電力業界とガス業界に共通の課題としては、下記のようなものがあります。
また、少子高齢化や地球温暖化といった社会・環境変化に起因する形で、電力・ガスのセグメントに特有の課題も発生しています。
電力業界の課題は、発電と送配電に分けられるといえるでしょう。電力供給はスマート技術そのものにも関わり、社会活動の基盤となる重要インフラであるため、スマート保安でも特に重要視されているセグメントです。
ガス業界は、保安・安定供給の担い手不足が最大の課題に挙がっています。経済産業省の「ガス安全高度化計画」のもと、事故件数や人的被害は減少傾向にあるものの、人材不足の環境下で高度な保安体制を保つために、業務の省人化が求められています。
また、高圧ガス分野は他の事業領域に比べて設備の高経年化が著しく、エチレンの生産では2025年までにほとんどの設備の稼働年数が40年を超えると予想されています。そのような中で環境規制への対応や省エネの推進、国際競争力の強化などを理由に、運転・保全業務は複雑化の一途を辿っており、スマート化した設備の更新が急がれます。
ドコモビジネスでは、通信事業のノウハウを活かしたIoT・DX支援に取り組んでおり、産業・エネルギー関連事業をより効率化するための、課題解決型ソリューションを提供しています。
XR(Extended Reality/Cross Reality)とは、「現実の物理空間と仮想空間を組み合わせた技術」の総称を指します。さまざまな業界で導入が進められており、なかでもAR/MR技術*は工場などの現場作業者に、従来の電話対応よりも的確な遠隔支援を可能にする点で注目を集めています。インフラ保全領域においては、遠隔支援を通じた業務の標準化や若手への技術継承に有用です。
*XR技術の1つ。AR(Augmented Reality /拡張現実)はタブレットやスマホ、スマートグラスなどの端末を通じて、現実の風景に情報(CG・ポインター・数値など)を付け加える技術を指します。作業者が見ている現場の風景に矢印を追加したり、必要なマニュアルをウインドウ表示したりできます。MR(Mixed Reality/複合現実)は頭部に装着する端末を通じて、仮想物体を表示する技術です。CGとは異なり、自分の手でサイズ感や遠近感を測ることができるため、より具体的な遠隔支援が可能になります。
AIカメラは、AIによって映像・画像を自動で処理するカメラのことです。監視業務やデータ収集、保全業務の効率化に優れ、撮影された映像データはエッジ側で解析・処理し、必要なデータのみクラウドへ伝送されるため、通信量を大幅に減らして、通信にかかるコストを削減できます。
IoTプラットフォームは、IoTデバイスやソフトウェアなどと接続し、主にデータの可視化や分析を行うサービスです。センサーから得られた情報をもとに、設備の不具合の早期発見や設備の稼働情報の遠隔監視により、保安業務の効率化を図ることが可能になります。
また、収集したIoTデータを分析することで、設備の稼働率向上に向けた改善ポイントや改善案の示唆を得ることが可能となります。
IoTプラットフォームの詳細は、下記の記事に紹介しています。
ドコモグループは米国ドローンメーカーSkydio, Incと資本提携をしており、さまざまな産業におけるドローン活用を推進しています。点検業務においては、ロープアクセスによる目視点検など危険が伴う高所作業や大型設備など時間がかかる点検作業の効率化・省人化に活用されています。
IoTやAI技術を用いて、産業・エネルギー関連インフラの保安力を高める取り組み。幅広い範囲の業務を効率化することで、収益面の改善にもつながります。経済産業省が主宰する「スマート保安官民協議会」が中心となり、先行事例集の作成などが進められています。
スマート保安は、「科学的根拠にもとづいた中立性」「安全性と効率性の追求」「自主保安力の強化と生産力の向上」「国民の安全・安心を創り出す」という4つの基本方針のもと、課題に対するアクションプランが定められています。
スマート保安を導入する際には、導入する対象とアナログ面の環境に注意しましょう。自社にどのようなソリューションが必要かを判断する上では、「データの取得」「データの蓄積・分析」「結果の周知」という3種類の活用法から検討するのがおすすめです。
産業・エネルギー関連インフラは、設備の高経年化による保守・点検業務の増大と、少子高齢化による人材不足が深刻化しています。また、再エネ事業への対応要請もあり、スマート保安を用いた、安全性を損なわない業務効率化が急務といえるでしょう。
NTTコミュニケーションズは、これからも社会やみなさまの普段の暮らしが、より一層豊かで充実したものとなるよう、インフラ保全領域に対してさまざまなソリューションを全国的に展開させていただいております。