スマート保安が担うインフラの未来!
経産省の取り組みや導入事例を解説

スマート保安が担うインフラの未来!経産省の取り組みや導入事例を解説
産業保安の維持や向上に、IoTやAI(人工知能)などのテクノロジーを活用する官民連携の取り組み「スマート保安」。技術革新やデジタル化、少子高齢化などの環境変化をはじめとした、産業・エネルギー関連インフラのさまざまな課題に対応するための取り組みとして、大きな期待が寄せられています。
ドコモビジネスでは、XR技術を用いた遠隔作業支援ソリューション「NTT XR Real Support」や、映像分散管理プラットフォームサービス「モビスキャ®」を活用した「AI道路工事検知ソリューション」などを通じて、インフラ保全領域の課題解決をサポートしています。
近年、電力・ガスなどの産業・エネルギー関連インフラでは設備の老朽化や人材不足、再生エネルギーへの導入対応といった課題が顕著になってきています。経済産業省はこのような課題の解決を見据え、デジタル技術を活用する「スマート保安」の推進を主導しています。本記事ではスマート保安の定義や導入のメリット、必要な手順について紹介します。

経済産業省が推進する
スマート保安とは?

経済産業省が推進するスマート保安とは?

スマート保安とは、IoTやAI技術などを用いて、産業・エネルギー関連インフラ(電気、高圧ガス、ガス)の産業保安力および生産性を向上させる取り組みのことです。その背景には、テクノロジーの発達や人材の枯渇、新技術によるデジタル社会の進展といった、構造的な課題や環境の変化への対応が求められていることがあり、経済産業省は官民一体で、取り組みを推進しています。

スマート保安の基本方針

スマート保安は、経済産業省が主宰する「スマート保安官民協議会」によって基本方針が定められています。

  • ①十分な情報やデータによる科学的根拠とそれにもとづく中立・公正な判断を行う
  • ②IoTやAIなど安全性と効率性を高める新技術の導入、現場における創意工夫と作業の円滑化などにより産業保安における安全性と効率性を常に追求する
  • ③事業・現場における自主保安力の強化と生産性の向上を持続的に推進する
  • ④規制・制度を不断に見直すことによって、将来にわたって国民の安全・安心を創り出す

スマート保安官民協議会は上記の基本方針に則り、高圧ガス保安部会、ガス安全部会、電力安全部会の3つの部会に分かれ、各事業セグメントのアクションプランや規制・制度の見直しを実施しています。

スマート化のメリット

保安業務のスマート化は巡回点検、記録管理、事前予兆など幅広い範囲の業務効率化を実現するもので、「スマート保安先行事例集」には下記のようなメリットが記載されています。

〈保安面のメリット〉
・作業履歴の管理を効率化
・熟練ノウハウの蓄積・可視化
・目視点検では把握しにくい箇所の監視
・故障の予測
〈収益面のメリット〉
・エネルギーコストの削減
・生産性向上による売上拡大
・維持修繕におけるコスト削減
・新ビジネス創出を通じた売上拡大

導入事例の中には、地震防災システムによって40時間程度かかると想定されていたガス供給の停止作業が10分に短縮されたという報告もあり、業務工数の削減において特に大きな成果が期待できます。

スマート保安の導入手順

スマート保安の導入手順

スマート保安は、設備の高経年化や人材不足などの課題を抱える産業・エネルギー関連の事業者が、安全性と効率性を同時に高めるための手段として注目を集めています。スマート保安を導入する際に確認しておくべきことや注意点を紹介します。

スマート化の目的と範囲を明確に

スマート保安を実現するソリューションは幅広く、まずはスマート化する対象を決める必要があります。その際に参考になるのは、スマート技術の3種類の活用法から目的別に選ぶ方法です。

スマート保安は、複数のソリューションを組み合わせるのが一般的です。「ドローンを導入したものの、電子データを利活用するためのシステムがない」といったケースも考えられるため、自社システムが対応可能な範囲と新たに欲しい機能を確認しておくとよりスムーズな導入が可能になります。

導入のコストとリターンの分析

スマート化には、機器の購入やシステム開発などの初期投資が必要になります。基本機能だけで十分な場合と、自社の要件に合わせたカスタマイズが必要な場合で導入コストも異なるため、現場の作業負荷を何%まで削減すれば損益が釣り合うかを事前に試算しておきましょう。

ただし、コストとリターンの分析においてもスマート技術は有用なため、まずはデータの利活用を目的とし、得られた分析データから課題解決に特化したソリューションをあらためて検討するなど、段階的な導入も一つの手です。

実際の運用環境を確認

スマート保安は主にデジタル技術に関わっていますが、導入に際してはアナログ面の環境を確認しておくことも必要です。現場には電波が通じているか(回線から用意する必要があるか)、ベンダーとの交渉が可能なIT人材はいるか、導入後の利用拡大と人材の育成計画は検討されているかなど、事前の入念な準備がスマート化を成功させる秘訣です。

産業・エネルギー関連インフラが抱える課題とは?

産業・エネルギー関連インフラが抱える課題とは?

スマート保安が推進されている背景には、近年になってエネルギー関連インフラの課題が顕著になってきたことが挙げられます。たとえば、電力業界とガス業界に共通の課題としては、下記のようなものがあります。

  • ・設備の高経年化
  • ・人材の高齢化と長期的な不足
  • ・技術・技能伝承力の低下
  • ・大規模災害・テロへの備え

また、少子高齢化や地球温暖化といった社会・環境変化に起因する形で、電力・ガスのセグメントに特有の課題も発生しています。

電力業界の課題

電力業界の課題は、発電と送配電に分けられるといえるでしょう。電力供給はスマート技術そのものにも関わり、社会活動の基盤となる重要インフラであるため、スマート保安でも特に重要視されているセグメントです。

発電
発電事業は2018年に策定された「エネルギー基本計画」のもと、風力や太陽光を用いた再生可能エネルギー(再エネ)の将来的な主力電源化が目指されていますが、再エネ設備の自然災害に起因する事故件数の多さが課題となっています。自然災害が頻発化していることも相まって、より安全な保安体制の構築が急務といえるでしょう。

また、電力システム改革による発電部門の完全自由化によって競争市場が形成され、従来の総括原価方式では意識されてこなかった「コスト効率化」の波も訪れています。
送配電
送配電事業もまた、再エネの拡大に際し、空き容量不足という新たな課題に直面しています。需給バランスを保つために50%の空き容量を残す「N -1基準」では、東北などの一部地域における再エネの新規接続が難しく、夏季・冬季の需給ひっ迫も考慮した運用の最適化が必要です。

ガス業界の課題

ガス業界は、保安・安定供給の担い手不足が最大の課題に挙がっています。経済産業省の「ガス安全高度化計画」のもと、事故件数や人的被害は減少傾向にあるものの、人材不足の環境下で高度な保安体制を保つために、業務の省人化が求められています。

また、高圧ガス分野は他の事業領域に比べて設備の高経年化が著しく、エチレンの生産では2025年までにほとんどの設備の稼働年数が40年を超えると予想されています。そのような中で環境規制への対応や省エネの推進、国際競争力の強化などを理由に、運転・保全業務は複雑化の一途を辿っており、スマート化した設備の更新が急がれます。

課題解決に向けた
スマート保安ソリューション

ドコモビジネスでは、通信事業のノウハウを活かしたIoT・DX支援に取り組んでおり、産業・エネルギー関連事業をより効率化するための、課題解決型ソリューションを提供しています。

XR技術を使った技術継承

XR(Extended Reality/Cross Reality)とは、「現実の物理空間と仮想空間を組み合わせた技術」の総称を指します。さまざまな業界で導入が進められており、なかでもAR/MR技術*は工場などの現場作業者に、従来の電話対応よりも的確な遠隔支援を可能にする点で注目を集めています。インフラ保全領域においては、遠隔支援を通じた業務の標準化や若手への技術継承に有用です。

*XR技術の1つ。AR(Augmented Reality /拡張現実)はタブレットやスマホ、スマートグラスなどの端末を通じて、現実の風景に情報(CG・ポインター・数値など)を付け加える技術を指します。作業者が見ている現場の風景に矢印を追加したり、必要なマニュアルをウインドウ表示したりできます。MR(Mixed Reality/複合現実)は頭部に装着する端末を通じて、仮想物体を表示する技術です。CGとは異なり、自分の手でサイズ感や遠近感を測ることができるため、より具体的な遠隔支援が可能になります。

〈活用事例〉 株式会社ドコモCS九州 ネットワーク運営事業部
現地作業者がMR技術を用いた遠隔作業支援ソリューション「NTT XR Real Support」を利用し、1人で現場作業を実施。その様子を遠隔支援者に共有し、音声指示やMRによる立体的な指示を行います。画像撮影や遠隔現地でのマニュアル読み合わせ機能、録画・作業履歴保存など、作業支援に必要な機能を活用することで、現地作業員の省人化および一人あたりの生産性向上につながっています。
〈活用事例〉 株式会社ドコモCS九州 ネットワーク運営事業部

AIカメラによる人件費削減

AIカメラは、AIによって映像・画像を自動で処理するカメラのことです。監視業務やデータ収集、保全業務の効率化に優れ、撮影された映像データはエッジ側で解析・処理し、必要なデータのみクラウドへ伝送されるため、通信量を大幅に減らして、通信にかかるコストを削減できます。

〈活用事例〉 化学プラント業界
装置により混じりあう内用液の状態を映像AIがモニタリングを行い、異常発生時には管理者向けに通知を行います。従来、人の目によって監視を行っていたがEDGEMATRIX®サービスに置き換えることによって管理にかかる人件費を削減。また、24時間体制でモニタリングを実施することで異常状態の見逃し抑制にも貢献します。
〈活用事例〉 化学プラント業界

IoTプラットフォームを使ったヒトやモノのデータの一元管理

IoTプラットフォームは、IoTデバイスやソフトウェアなどと接続し、主にデータの可視化や分析を行うサービスです。センサーから得られた情報をもとに、設備の不具合の早期発見や設備の稼働情報の遠隔監視により、保安業務の効率化を図ることが可能になります。
また、収集したIoTデータを分析することで、設備の稼働率向上に向けた改善ポイントや改善案の示唆を得ることが可能となります。
IoTプラットフォームの詳細は、下記の記事に紹介しています。

従業員の暑熱対策ソリューション 「防爆対応Worker Care」
可燃性ガスなどを扱うガスプラントや化学工場など、爆発危険エリアなどで作業する作業員向けの体調不良を検知するソリューションです。作業員の方がリストバンド型のバイタルセンサーを着用することで、脈拍データとGPS位置情報を計測し、クラウド上で体調不良を検知します。また、体調不良が判明した場合、現場管理者にアラームを配信します。 暑熱リスクにもとづいた作業員への体調確認や休憩指示、また、連絡が取れない場合の駆けつけ対応などにより事故リスクを低減します。
従業員の暑熱対策ソリューション 「防爆対応Worker Care」
映像分散管理プラットフォームサービス「モビスキャ®
「モビスキャ®」は、街中を走行する車両に搭載されたドライブレコーダーから収集した映像データを効率的に収集・蓄積し、そのビッグデータを利活用するためのプラットフォームサービスです。膨大な映像データから得られた情報を、お客様の目的に合わせて活用できます。また、「モビスキャ®」を活用した「AI道路工事検知ソリューション」で街中の映像を解析することで、実際の街中を走行して目視確認していた作業を代替することが可能です。
〈活用事例〉 岡山ガス株式会社
街中の映像データから、道路およびその近辺での自社以外のインフラ工事をAIが判定し、必要な情報のみを抽出することで、着手前の情報共有がスムーズに。また、既存システムの「保安管理システム」と連携し、工事ごとの危険度レベルを可視化することで、より効率的な現場管理が実現しました。
〈活用事例〉 岡山ガス株式会社

ドローンを使った保守点検作業の効率化・省人化

ドコモグループは米国ドローンメーカーSkydio, Incと資本提携をしており、さまざまな産業におけるドローン活用を推進しています。点検業務においては、ロープアクセスによる目視点検など危険が伴う高所作業や大型設備など時間がかかる点検作業の効率化・省人化に活用されています。

〈活用事例〉 東京ガス株式会社
世界最大級のLNGタンクの巡回点検作業に自律飛行ドローン「Skydio 2+™」を活用。従来は点検者がタンク屋根に登り、対象設備の外観などを目視で確認する必要があった点検作業をドローンで代替することで、高所移動のリスク削減に加えて、点検所要時間を従来の90分から30分に大幅に短縮することに成功しています。
〈活用事例〉 東京ガス株式会社

まとめ

  • スマート保安とは?

    IoTやAI技術を用いて、産業・エネルギー関連インフラの保安力を高める取り組み。幅広い範囲の業務を効率化することで、収益面の改善にもつながります。経済産業省が主宰する「スマート保安官民協議会」が中心となり、先行事例集の作成などが進められています。

  • スマート保安の基本方針

    スマート保安は、「科学的根拠にもとづいた中立性」「安全性と効率性の追求」「自主保安力の強化と生産力の向上」「国民の安全・安心を創り出す」という4つの基本方針のもと、課題に対するアクションプランが定められています。

  • 導入する際に気をつけたいポイント

    スマート保安を導入する際には、導入する対象とアナログ面の環境に注意しましょう。自社にどのようなソリューションが必要かを判断する上では、「データの取得」「データの蓄積・分析」「結果の周知」という3種類の活用法から検討するのがおすすめです。

  • 保安業務の課題は業務効率化

    産業・エネルギー関連インフラは、設備の高経年化による保守・点検業務の増大と、少子高齢化による人材不足が深刻化しています。また、再エネ事業への対応要請もあり、スマート保安を用いた、安全性を損なわない業務効率化が急務といえるでしょう。

NTTコミュニケーションズは、これからも社会やみなさまの普段の暮らしが、より一層豊かで充実したものとなるよう、インフラ保全領域に対してさまざまなソリューションを全国的に展開させていただいております。

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