新規ビジネスの“水先案内人”
「PoC」と「PoV」「PoB」の違い

新たな技術やアイデアを業務に導入する際、多くの企業で実施されるのがPoCです。一方PoVは、それを導入することでどういった価値が生まれるのかを見極めるプロセスです。さらに昨今では、PoBという検証フェーズも注目されています。これらの違い、ちゃんと知っていますか。

昨今では、PoCやPoVといったプロセスに加えてPoBという検証フェーズも注目されています。これらの違い、ちゃんと知っていますか。

プロジェクト失敗のリスクを低減するPoC

戦略構想や経営戦略にもとづいて新たなアイデアやテクノロジーを用いてビジネスを創出する、あるいは業務を変革するといった際、昨今多くの企業で行われるようになったのがPoC(Proof of Concept:概念実証)です。これは新しいアイデアや理論、技術、手法などが実現可能かどうかを確かめるためのプロセスです。

PoCを実施する目的の1つは、リスクを低減することです。たとえばAIを業務に導入する際、本当に業務でAIが役立つのかを判断するのが難しいケースは多いでしょう。それにもかかわらず、多額の投資を行って大規模なシステムを構築した結果、思うような成果が生み出せない場合、大きな経済的損失が生じてしまいます。

PoCを実施すれば、このようなリスクを抑え、財務的資本の流出を抑えることが可能です。前述の例ならば、AIの導入効果の検証を目的とした小規模なシステムを構築し、業務に利用した際の効果を検証します。そこで十分な効果が得られると判断できれば、計画・開発フェーズを進める。逆に想定した効果が得られないと判断すれば、本格的なシステム開発に着手する前にプロジェクトを見直すことで、プロジェクトの失敗や財務的資本の流出、あるいは経営資源の浪費を防げるわけです。自社のR&Dで得られた成果を検証する際にもPoCは有効でしょう。

また、検証を行うことで検討段階では見えていなかった課題を把握できることや、システム開発に要する時間やコストなどの見積りを精緻化できることも、PoCで得られるメリットとして挙げられます。

なおIDC Japanが公表した「国内企業のデジタルトランスフォーメーション動向調査結果」によれば、2021~2022年のDX支出/投資金額の変化について、「増加する」と回答した企業の数は67%であり、半数を大きく超えています。また増加すると回答した企業における投資金額は前年比で平均24.6%増としています。

図表:あなたはマンガが好きですか

出典:IDC Japan株式会社「国内企業のデジタルトランスフォーメーション動向調査結果を発表」

この調査結果から見ると、今後多くの企業が経営戦略として積極的にDXを進めることは間違いないでしょう。ただし既存の業務プロセスを大きく変更する、あるいは新たな事業の創出を目指すDXやデジタル革新の取り組みでは、プロジェクトが必ずしも成功するとは限りません。

またAIやIoTといった新たなテクノロジーを活用する場合は、プロジェクトの成否を事前に判断することがさらに困難です。そこで重要なのがPoCです。

成功する前提でプロジェクトを走らせるのではなく、まず小規模なシステムを構築するなどして、実現可能性や本稼働後の業務プロセス、あるいは構築コストや運用コストなどを見極めていきます。その結果、十分なメリットが得られる、あるいは投資する価値があるプロジェクトになるといった手応えをつかむことができれば、本格的にプロジェクトを進めるといった形です。これにより経営資源の浪費も防げます。

さらにポストDXまで見据えたとき、PoCを適切に実施できるかどうかはビジネスを大きく左右する要素になる可能性もあるでしょう。

実現可能性ではなく生み出される価値を見極めるPoV

導入によって得られる効果を事前に判断しづらい技術の導入においてPoCは有効ですが、昨今では「PoC疲れ」なる言葉を聞くこともあります。PoCを実施しても、そこから先になかなか進めず、何度もPoCを繰り返して疲弊してしまうという状況です。

その理由の1つにPoCの目的やゴール、実施内容などが明確になっていないことが挙げられます。PoCによって何を検証するのか、その結果どのような状況になればプロジェクトを先に進めるのかが明確でなければ、PoCを実施した結果を判断できず、プロジェクトを進めることもできません。

そのため、PoCを行うのであれば、PoCを行う目的や検証する内容、どのような結果が出ればPoCを成功とするのか、判断基準などを事前に明確化しておくことがプロジェクトマネジメントでは重要でしょう。

このPoCと似た言葉にPoV(Proof of Value:価値実証)があります。こちらは実現できることはわかっているが、それによって得られる価値が判断できないといった際、その価値を事前に判断するための検証プロセスと言えます。

このPoVを実施するケースとして、セキュリティソリューションを導入する場面などが考えられます。導入することで安全性が向上することはわかっているが、そのメリットにどれだけの価値があるのか判断できず、投資の決断が難しいといったケースです。

そこでテスト的にそのセキュリティソリューションを導入し、セキュリティオペレーションがどのように変わるのか、仮にインシデントが発生した際、そのセキュリティソリューションがあることで対応がどのように変わるのかをチェックします。そのうえで、セキュリティ担当者の負担を軽減できる、あるいはインシデント発生時の対応を迅速化できるといった価値を見極めます。

DXなどによるビジネス上の効果を見極めるPoB(Proof of Business:プルーフオブビジネス)

昨今では、PoB(Proof of Business:プルーフオブビジネス)と呼ぶ検証フェーズをプロジェクトに組み込むことも増えつつあります。

PoBは、製品やテクノロジーではなく、戦略構想や経営戦略にもとづいて企画した内容、あるいは新たな事業やサービスの立ち上げについて、そのビジネス仮説や費用対効果、損益分岐点などを確かめるための事業的な有効性検証、言い換えれば事業実証のための検証プロセスであると捉えればよいでしょう。

たとえばマーケティング部門がデザイン思考で検討したアイデアや戦略仮説にもとづいて、AIやIoTなどのテクノロジーを駆使し、カスタマージャーニーを設計するための新たなシステムをIT部門が構築し、それによって新規事業を創出して事業の選択と集中を行う、あるいは収益向上や競争優位性の確保、既存サービスのビジネスモデルを大きく変えることを考えたとします。PoBでは、その新規事業や新サービスの立ち上げをビジネスとして見た場合の実現可能性や、それによって得られる収益の見極め、システム化の是非や必要となるシステムの内容などについて仮説検証を実施し、事業的な有効性検証を行っていくことになります。

たとえば、すでに提供しているサービスに対して新たな機能を提供することでビジネスモデルを変えるといった戦略仮説の場合、その機能の提供するために必要なシステムを最小限の構成で構築します。場合によっては、すべてをシステム化せず、プロセスの一部を人的資源での対応にすることで、システムの構築を簡略化するといったケースもあるでしょう。検証した結果、システムに求められる機能が大きく変わることも考えられるため、ここでのシステム開発のリソース消費は最小限に抑えることを意識すべきです。

そして機能を一部のユーザーに対して限定的に公開する。そのうえで、新たに提供した機能に対するユーザーの反応や評価を見極め、どの程度のユーザーに受け入れられるのか、それによって得られる収益はどの程度か、競争優位性を確保できるかなどについて仮説検証していくわけです。また、システムに求められる機能や必要となる人的資源およびリソースの見極め、自社の技術的資源との整合性、最終的なシステム構築コストを見積る際にも、検証結果は役立つでしょう。

もちろん、PoBのプロセスはプロジェクトによって大きく変わります。開発したサービスを一部のユーザーに提供することもあれば、社内や取引先など、ごく限定した範囲でサービスを公開し、フィードバックしてもらうことが最適解、最善解になる可能性もあります。

また一度の検証で満足するのではなく、何度も検証を繰り返して新規事業やサービスの精度を高めることも重要です。検証によって課題を洗い出し、それをサービスなどにフィードバックしてさらに検証を実施するといったPDCAサイクルを繰り返すことにより、成功の確度を高めていくというやり方です。PoBでは、このようなことも意識してプロジェクトマネジメントを進めるべきです。

特にDXの場合、単に技術視点での検証だけでなく、それをビジネスに適用した場合の付加価値の判断、価値創出などといったビジネス仮説についても、事前に高い精度で予測することができれば、プロジェクトの成功確率を大幅に高められ、最終成果物の精度も高められます。実際にサービスを提供してみなければわからない部分も多いですが、可能な限りビジネス面からも検証を行い、ポストDXを見据えつつどれだけの価値創出が可能か、あるいは想定どおりに選択と集中を行えるのか、そのKPIは何かについて事前に見極めることは重要でしょう。

PoC/PoVの実施でIT導入プロジェクトを着実に実行

昨今では、クラウドシステムの導入などでPoCやPoVを実施するケースは多くなっています。たとえばクラウドを使って顧客データ分析など新たなシステムを開発する際、当初の目論見どおりに開発することができるかを判断するために、検証フェーズとしてPoCを組み込んだりするわけです。

DXに関する取り組みであれば、ビジネス観点からも検証を行うPoBによる事業実証の実施を検討したいものです。前述したとおり新たなテクノロジーを用いた事業の創出や新サービスの提供において有効であるうえ、AIを用いて社内の業務プロセスを刷新するなどといった場合にも、それによって得られるベネフィットを判断するうえでPoBの実施は有効です。

とはいえテクノロジーは進化し続け、新たなソリューションも矢継ぎ早に登場しています。このため、自社のノウハウだけでは十分に検証できない可能性が高くなっています。最近では、新たなシステムを構築する際にインフラとしてクラウドの利用を前提とするケースが多く、クラウド上で提供されているソリューションは進化し続けており、それにノウハウや知見、技術的資源の観点で追従することは容易ではないでしょう。

そこで検討したいのが、クラウドに十分な知識を持つパートナーの活用です。たとえばNTT Comでは、AWSやMicrosoft Azureに対し、導入コンサルティングから設計、構築、そして運用保守や維持管理に至るまでをサポートするメニューを用意しています。条件によりPoCにも対応しているため、NTT Comが持つ知見やノウハウを利用しつつ、クラウドを用いたシステム開発や既存システムのクラウド移行を事前に検証できます。

コールセンター向けクラウドサービスである「Amazon Connect」において、応答数や放棄湖などのデータを自動で収集して専用のダッシュボードで可視化できるうえ、AIによるオペレーターや顧客の感情分析機能も備えた「コンタクトセンターKPI管理ソリューション-Dashboard-」もPoCに対応しています。Amazon Connect標準のレポートでは不十分と考えるならば、まずはPoCでコンタクトセンターKPI管理ソリューション-Dashboard-をチェックしてはいかがでしょう。

セキュリティソリューションの導入においては、前述のようにメリットが明確であることから、得られる付加価値を判断するためのPoVの実施が有効です。

たとえば新たなセキュリティソリューションとして、機械学習を使用した振る舞い検知を行い、内部攻撃やゼロデイ攻撃を検出するAIアノマリー検知が注目を集めています。この技術がセキュリティ対策にメリットをもたらすことは間違いないですが、実際にどの程度の価値があるのかを判断することは難しい。そこでPoVを実施し、導入によって得られる価値を判断します。なおNTT Comでは、運用代行まで含めたAIアノマリー検知のマネージドソリューションを提供しているうえ、PoVの実施も行っています。

今後はあらゆる領域でDXが進み、積極的に新たなテクノロジーやソリューションが活用されるようになるでしょう。ただし、その際にリスクを最小化する、あるいは無駄な投資を省くためには、PoCやPoVによる事前検証が不可欠です。パートナー選定には、こうした検証にも対応できるノウハウを持っているかどうかも見極めたいです。

バナー:IT運用の負担を軽減。X Managed®でビジネスに集中 サービス資料をダウンロード

コラム一覧へ

このページのトップへ