地域は価値ある廃棄で溢れている。地消地産コンポストシステムでつくる新しい循環モデル──金澤バイオ
金澤晋二郎・金澤聡子(金澤バイオ研究所)
循環型社会の実現を目指す中、廃棄物の適切な処理とリサイクルは重要な役割をになっている。処理コストの高さや廃棄物輸送に伴う環境負荷、分別の複雑さ、そして廃棄物の地域性や個別性への対処の難しさなど、挙げればきりがない。これらの課題に対し、微生物を活用した土壌発酵による肥料づくりを通じて取り組んでいるのが、株式会社金澤バイオ研究所だ。
藤川まゆみ(NPO法人 上田市民エネルギー 代表)
日本が2030年までの温室効果ガス削減目標を46%(2013年度比)としている中、長野県はそれを大きく上回る60%(2010年度比)を目標に掲げた。元々、48%削減を目標に掲げようとしていた同県。目標数値を大きく変えるきっかけとなったのは、県内外から集まったパブリックコメントだった。
パブリックコメントを出そうと呼びかけた一人が、NPO法人「上田市民エネルギー」の代表である藤川まゆみさん。市民が出資して共同で太陽光パネルを増やす「相乗りくん」を始め、断熱の普及活動や公共交通の利用促進など脱炭素にも取り組んでいる。同団体は2018年に環境省の「第6回グッドライフアワード 地域コミュニティ部門」で環境大臣賞を受賞した。市民運動を熱量の押し付けにせず、行政や他の団体を巻き込みながら、地域を変える方法とは。
藤川まゆみ
上田市在住。広島県福山市生まれ。2011年、上田市民エネルギーを立ち上げ、市民出資型太陽光発電相乗りくん事業をスタート。2018年環境大臣賞地域コミュニティ部門を受賞。2024年5月末までに住宅、事業所、公共施設、大学など78ヵ所に、約1MW、市民出資1億9000万円分の太陽光パネルを設置。上田市脱炭素先行地域共同提案者。くらしふと信州運営委員。長野県教室断熱WSアドバイザー。全国ご当地エネルギー協会理事。
上田市民エネルギー
2011年に立ち上がった持続可能な地域づくりを目指すNPO法人。誰でも参加できる太陽光発電「相乗りくん」、生徒が企画実行する「教室断熱ワークショップ」、持続可能なまちづくりを立場を超えて学び対話する「上田リバース会議」などを運営。
相乗りくんは、市民出資型の太陽光発電事業だ。信州エリアで太陽光パネルを設置したい「屋根オーナー」と、太陽光パネルに出資したい「パネルオーナー」をつなぎ、売電収入をシェアする。屋根オーナーは初期費用なしで太陽光パネルを設置でき、発電した電気を使用できる。余った電気は中部電力に売電し、その資金で毎月相乗りくんに一定の支払いを行い、パネルオーナーに還元する。
パネルオーナーは全国どこからでも参加可能で、10万円から出資ができる。出資者の比率は県内と県外が半々ほど。太陽光パネルの規模にもよるが10〜13年の契約期間のあいだに、出資額以上のリターンを得られる。
相乗りくんを運営するNPO法人上田市民エネルギー代表である藤川さんは、上田市の出身ではない。彼女を自然エネルギーの普及活動に突き動かしたのは、一本の映画だった。
藤川核燃料再処理施設のある青森県の六ヶ所村が舞台となった映画『六ヶ所村ラプソディー』の中で、エネルギー問題をめぐり市民が対立している様が描かれていたんです。上田市でこのような意見が対立する事態が起きる前に、意見が違ってもコミュニケーションできる地域づくりをしたいと思い、『六ヶ所村ラプソディー』の上映会を始めました。しかし、東日本大震災を受け、ただ映画などで呼びかけるだけでは、結局人の行動は大きく変わらないと実感しました。そこで、自然エネルギーをつくったり、使ったりして、良いと思ってもらう方法を考え始めたんです。
相乗りくんのアイデアは、自然エネルギーの普及のための方法を模索している中で参加した県が主催の自然エネルギーの会議の帰り道での雑談から生まれた。
藤川会議の中で、「地域主導のビジネスを立ち上げること」が必要という話を聞きながら、正直、自分には難しいだろうと思いました。ただ、何かをやってみたいという気持ちは消えず、帰りの車の中で会議に参加した仲間たちに相談したんです。すると、仲間の一人が今のビジネスモデルのアイデアを出してくれました。アイデアを周りの人に話してみると、何人か出資を決めてくれた人がいたんです。もうわたしがやるしかないと思って、相乗りくんを立ち上げました。
相乗りくんは、2011年11月に事業開始後、78カ所に太陽光パネルを設置し、約1000kWという、一般家庭およそ350世帯分の年間使用量をまかなえるほどの電力を生み出した。現在出資額は1億9,000万円を超えている。屋根オーナーやパネルオーナーを増やすにあたり、藤川さんは二つの戦略に力を入れた。
一つは広報活動だ。実績をみせることが重要と考え、2012年5月に相乗りくんの発電所が4つになったタイミングで記者会見を開き、メディアからの認知度を獲得した。その後も、講演を通して自然エネルギーの地産地消や省エネルギーによる地域課題の解決や経済的効果を伝え、市民の自然エネルギーへの興味・関心を醸成した。
もう一つは、相乗りくんに対する信用度を高めることだ。上田市立保育園や信州大学繊維学部キャンパス、創業350年の酒屋である岡崎商店、諏訪市のリビルディングセンタージャパン、リコージャパン上田事業所など、住宅以外の地域の中で存在感のある建物にも相乗りくんを設置していった。
基本的に、相乗りくんはパネルオーナーの依頼ベースで始まる。藤川さんが市民に直接募集活動をすることはないが、納得した上で設置してもらうよう丁寧な説明を心がけているという。
藤川参加の動機は人によってさまざまです。自然エネルギーで暮らしたい、気候変動を止めたい、という動機で参加される方が多いですが、費用対効果が気になるのは当然です。相乗りくんでは経済的メリットについても丁寧にお伝えするようにしています
相乗りくんを広げる一方、上田市民エネルギーは「建物の断熱改修」や「公共交通の利用促進」に取り組み始めている。一見すると、これまでの活動と一貫性がないように思えるが、その根底にあるのは、市民の立場から上田市を住み続けられる持続可能なまちにしたいという思いだ。
その活動の象徴が2020年に始めた「上田リバース会議」だ。「まちづくり」を掲げて、まちなかや交通などをテーマに有識者や実践者を呼んだ勉強会やイベントを開催している。
上田リバース会議の特徴は行政とフラットに話せる場づくりだ。まちづくりにおいて、行政を巻き込むことは欠かせない。しかし、行政で働く人はその立場上言えないことや矢面に立たされることがある。
藤川以前、上田市が上田リバース会議の共催してくれることになり、担当課に打合せに行った時、当時の課長から「市の職員にも参加するよう呼びかけるが、職員が説明を求められつるし上げになるような会だとつらい」と話してくれ、わたしは自分は決してそういう会にしたいのではないとはっきりと意識できました。このことがその後の上田リバース会議の進め方の柱の1つになり、行政の方が仕事として市民に対峙する場ではなく、一市民の立場で参加したり発言できる場になるよう工夫しています。
市民と行政の目線をフラットにするため、藤川さんは二つの取り組みを行った。一つ目がWEBのフォームなどを使うことで立場を気にせず匿名で質問やコメントができるようにしたこと。二つ目が、会の冒頭でその日のテーマに関する上田のデータを共有したあとで、外部講師のレクチャーを聞くこと。こうやって議論の前提の認識を合わせた上で参加者同士がフラットに話せる対話の時間を設けた。この対話は近くの席の人と3,4人で行うようにしている。
藤川試行錯誤した結果、話が弾みやすく全員が気持ちよく発言できるのは3、4人くらいだとわかりました。この対話の時間があるとないとでは、会のテーマが自分ごとになる深さが違うようです。
会を重ねるごとに、市民のまちづくり対する意識も変わっていった
藤川「第1回上田リバース会議では「地域課題を解決するなら移住政策でしょ」という意見が多く出ました。でも移住政策では地域の根本的な課題は解決しません。リバース会議を繰り返し開催してきた今では、地域を構造で支える公共交通や都市計画などの政策が、経済や税収を安定させ、健康や教育や福祉を支え、人口減少や高齢化にも耐えうる地域づくりにつながると認識する人が増えました」
上田リバース会議の成果の1つに上田市の温暖化政策の後押しがある。2022年にゼロカーボンをテーマとして上田リバース会議を連続開催し、市民の生の声を集めた結果、上田市の2030年のCO2削減目標は長野県と同じく高いレベルの57%削減(2013年度比)となった。
市民の意識を高め、活動に巻き込むため藤川さんは三つのステップを踏んだ。
まず、気候変動が止まるゴールからバックキャスティングでCO2の削減目標を算出した場合、上田市が掲げるべき目標を参加者に提示した。この回のアンケートでは約75%の参加者が実際に気候変動を止めるために高い目標への賛同を示したそうだ。
次の回では、「気候変動を止めるためには、当然やるべきことだとわかってはいる。とはいえなかなかできない」という例を出してもらい、その「できない理由」を洗い出し、どうしたら乗り越えられるかを話し合った。
藤川例えば、「太陽光発電を設置すべきだとわかっているけれど、そのメリットがよくわからないから設置に踏み出せない」という「できない理由」が出てくると、メリットがよくわからない理由や背景はなんですか?と問いかけてみる。すると「どこに相談すればよいかわからないから、わからないままになっている」など、「できない理由の理由(背景)」が出てきます。そこで「では、どうすればよいですか?」と聞きます。すると「行政がメリットデメリットを発信する」「相談窓口をつくる」「専門家を呼んで太陽光発電について何でも質問できて疑問を解決する会を開く」など、いくつも解決策が出てきました。こうやって、できない理由を深掘りすると、おのずと解決策が生まれてくることを体験しました。この体験は行政職員を含め、参加者が自分たちにも地域を変えられるかもしれない、という自信につながったと思います。
ゼロカーボンをテーマとした上田リバース会議が終了して数ヶ月後、上田市温暖化実行計画のパブリックコメントの募集が始まり、藤川さんたちはパブリックコメントを書く会をオンラインで開催。結果142件のコメントが寄せられ、意欲的な計画への賛同が圧倒的だったことが市政を動かすことにつながった。
上田リバース会議でゼロカーボンや公共交通を取り上げ、行政と市民の共感が高まっていた。これが原動力となり、上田市が環境省の脱炭素先行地域に選定された。その後、上田市、上田交通、上田市民エネルギーなどが新会社を立ち上げて官民連携で地域の脱炭素化と公共交通の活性化を同時に目指すことになった。
藤川行政は何か新しい事を始める際、ハード面・ソフト面の両面を慎重に検討しながら準備をする。一方で市民は、様々な制約や難しさを認識しつつも「これは大切だからやるべきだ」と率直に提案できる立場にあります。その率直さで行政を後押しすることが市民の役目だと思います。
上田市は現在、多くの地方都市が直面するであろう課題を抱えている。街中は駐車場だらけでスポンジ化が進行し、人口減少とともに公共施設やインフラの老朽化が進んでいる。この状況を改善し、持続可能な都市づくりを進めるための鍵として藤川さんが考えているのが、コンパクトなまちづくりだ。
藤川スプロール化を食いとめ、人口が中心部に集中することにより、いくつもの利点が生まれます。たとえば、道路や上下水道、電気などのインフラの維持コストを削減できたり、医療や教育、福祉など公共サービスも充実させたりすることができる。なにより公共交通で移動しやすいまちになります。このように人口が減っても必要なサービスにアクセスできる環境を整えることが大事です。
環境面では自家用車依存の軽減につながり、経済面では人々が集うことで産業や商業が成り立ちやすくなり、地価も上がり、市の財政にも寄与します。先例としてドイツのフライブルク市では、市民主導でコンパクトなまちづくりが進んでいて、ウォーカブルなまちなかににぎわいを生み出しているそうです。いいお手本ですね。
ところが実はコンパクトなまちづくりはたいへんハードルが高く、市民だけでは実現しない。それでも藤川さんは、市民が主人公であるという自覚をもって役割を果たすことが重要であり、市民の声が長野県や上田市の温室効果ガスの削減目標を上げたように、自分たちの活動が社会を変える可能性があると実感するには、小さな挑戦からやってみて成功体験を重ねていくことが大切という。
藤川市民の共感や行動が広がっていくとこれまで無理だと思われていたことが動き始めたり、こんなまちにしたいと言葉にしたり絵に描いたりする人が増えると実現に近づきます。何者でもなかった私が映画をきっかけにエネルギーに関わる活動を始めたように、一歩目を踏み出す人は確実に増えていますね。これからも市民から地域を変える機会を増やしていきたいです。
「相乗りくん」では、全国どこからでも、パネルのオーナー(出資者)として参加することができる。県外からも資金を集めることで、持続しやすい仕組みをつくっている。
市民が主体となって有識者を呼んだ勉強会の実施や、市内の現状を数値ベースで可視化することで、地域の問題点を共有する活動をしている。
行政の方を一市民の立場として巻き込み、行政の立場ではいいづらいことも発言してもらい、解決すべき課題を共有するようにしている。
気候変動と連動しているエネルギー問題は、21世紀の問題だ。行政だけで解決することは難しく、それぞれの地域において民間とともに取り組む必要がある。一方、ビジネスとして成り立たせるためには、持続可能な仕組みをつくらなければならない。まさに、公共性と経済性の両立が求められる、セミパブリック領域の課題と言える。
上田市民エネルギーの活動は一見すると藤川さん個人の高い熱量や巻き込み力の高さによって支えられている印象を受ける。しかし、実態としては藤川さんに対する共感だけに頼らない仕組みづくりが伺える。
「相乗りくん」においては、太陽光発電導入が経済的メリットがあることを周知する役目も担っている。市民出資を活用して初期費用なしで設置できる仕組みをつくるなど、ゼロカーボンへの貢献だけに頼らない、導入までのハードルを下げる設計をしている。地域外からも資金を集めている点も印象的だ。
また、上田リバース会議などを通じ、市民がさまざまな粒度で地域の課題解決や脱炭素に関われる機会をつくることで、問題に対する自分ごと化を進め、市民が自らの熱量で動く空気を生み出している。
ビジネスを継続させる仕組み化と一人ひとりの自分ごと化。この二つがセミパブリック領域の課題を解決する上で欠かせない点と言えるだろう。