Interview
03

交通インフラを
当たり前から
応援される存在へ
——WILLER・ティアフォー

西村結城・坂口かすみ(WILLER株式会社)
五島賢太郎(株式会社ティアフォー)

白い自動運転バスが、佐渡の山道を時速35kmでなめらかに進んでいく。蛇行を繰り返す海岸線沿いの道のりでは、予想以上にスピードを感じる。運転席には運転手が座っているものの、その手はハンドルに添えられているだけだ。「技術ありきではなく、生活ありきで実証実験に取り組んでいるんです」。自動運転バスの試乗に同席したWILLER株式会社の西村さんはいう。技術的な課題に向き合いながら、地域の暮らしに寄り添う移動手段を模索する取り組みがこの離島で続いている。

自動運転技術は、運転手不足に直面する公共交通機関の存続のために無視できない存在となっている。特に地方では少子高齢化の進行により路線バスの減便や廃線が相次ぐ。技術の完成度を高めながら、それぞれの地域性に応じた細やかな対応が必要となる。

次世代のインフラとして自動運転を実装していく上で、どうすれば実証を継続し、実用化へとつなげられるのだろうか。そのヒントを探るため、2023年度より新潟県佐渡市で国内最長となる往復72kmルートの実証実験に取り組む、移動を核にさまざまなビジネスを展開するWILLER株式会社の西村さん、坂口さん。自動運転技術を提供している株式会社ティアフォーの五島さんに話を伺った。

執筆佐々木まゆ
撮影増田安寿
西村結城

西村結城

WILLER株式会社 社長室長。社長特命チームを統率。自動運転実証事業もその一つ。チームを統率するだけでなく実際に実証事業にも参画したいという想いが社長に聞き入れられ、現在佐渡市を担当。

坂口かすみ

坂口かすみ

WILLER株式会社 社長室。自動運転事業における現場窓口担当。自治体、ティアフォー社をはじめ、運行事業者や事業を推進するための協業先との調整を行っている。

五島賢太郎

五島賢太郎

複数のSaaSベンダーにてコンサルタントやPresalesを経験し株式会社ティアフォーに入社。事業推進マネージャーに就任。自治体向けの事業全体の管理および各パートナー、案件のPMを担当している。2024年からWILLER社とともに佐渡市のプロジェクトに参画。

自動運転バスは未来の必然

WILLERが、自動運転システム開発のパイオニアであるティアフォーと協力し、新潟県の離島・佐渡島で自動運転バスの実証実験を行っている。2024年には2年目となる実証実験がスタートした。このバスには一般の方々も試乗することが可能だ。試乗時には、WILLERとティアフォーのスタッフが同乗し、乗客からの質問に丁寧に答えながら、自動運転技術への理解を深める機会を提供している。

株式会社ティアフォー 五島賢太郎さん

ティアフォーとの協業は2023年から始まったが、WILLERが自動運転の取り組みをはじめたのは2019年にまで遡る。当時は日本の法制度に制約があったため、規制が緩やかなシンガポールで実証実験に着手した。WILLERは高速バスや鉄道をはじめ、新たなモビリティサービスであるAIオンデマンド交通など移動サービスを手がける会社。そこで得られた知見を活かすマーケティング会社。社会・地域・顧客の課題を解決するソリューションを提案する会社などを傘下に持つ。そんなWILLERがなぜ、自動運転に挑戦することを決めたのか。

WILLER株式会社 西村結城さん

西村私たちのグループはもともとツアーバス事業からスタートしました。近年はエリア定額乗り放題のAIオンデマンド交通『mobi』や池袋で2つのルートを周遊する電気バス『IKEBUS』、ローカル鉄道『京都丹後鉄道』の運行などの地域交通事業にも注力しています。これは『FOR ACCESS ALL』というビジョンのもと、誰もが自由にストレスなく移動できる社会の実現を目指すためです。

公共交通、特にバス業界は今、複数の課題に直面しています。最も深刻なのはドライバー不足です。少子高齢化に伴って全国的にドライバー不足や利用者の減少、路線バスの減便や廃線も起こっている。この傾向は人口減少とともにさらに加速することが予想されます。その結果として多くのバス路線が赤字となり、その維持のためには公的補助金に依存せざるを得なくなってしまいます。マイカーを持たない人々の移動手段は確実に少なくなっている状況です。

自動運転走行はもはや「実現するかどうか」ではなく「いつ実現するか」という段階にきています。技術的なハードルはまだありますが、確実に克服されていく。私たちは自動運転バス事業を市場があるから参入するのではなく、持続可能な地域交通の実現に向けた重要な取り組みとして進めています。

自動運転バスの公道走行には、「レベル4」の認定が必要だ。これは国土交通省が定めた基準で、アメリカの自動車技術会による6段階の自動運転レベルがベースになっている。「レベル4」の自動運転条件は、決められたエリア内に限り、運転に関わるすべてをシステムが実施する完全自動運転が可能であることだ。

WILLERとティアフォーは現在、秋田県大館市、新潟県佐渡市、鳥取県鳥取市の3地域を含む約10地域で自動運転の取り組みを展開している。なかでも佐渡市では2023年から往復約72kmという国内最長ルートに挑戦している。テクノロジーを活用し公共交通課題を解決する事業を継続するには、技術面での課題はもちろん、地域の理解を得ることや、自治体や他社との連携体制の構築が不可欠だ。両社はこれらの課題をどのように乗り越えていったのか。

熱意は施策方針に宿る

そもそもなぜWILLERは佐渡島で自動運転バスの実証実験を始めることにしたのだろうか。

西村地域公共交通の存続や安定化に対する自治体の本気度が決め手でした。実証実験はあくまでも持続可能な公共交通の実現に向けた第一歩です。その先の実装、そして地域に根付くサービスへと育てていくためには、自治体の「なんとしてでも課題を解決したい」という強い気持ちがなければ続きません。佐渡市の場合、具体的な公共交通マスタープランを策定しており、自治体と共に同じ方向を向いて取り組めそうだと確信しました。

また佐渡市は自動運転の走行難易度が高く、全国のモデルケースとして注目される地域です。私たちにとっては大きなチャレンジですが、この難しい環境での走行が実現できれば、他の地域への展開が取り組みやすくなるのでは、と考えました。

公共交通マスタープランでは、路線バスの運行体制の見直しに加え、地域特性に応じた新たな交通体系の構築が明記されていた。具体的には、利用者の多い主要路線のバスを維持しつつ、その他の地域では予約に応じて運行するデマンドバスや乗合タクシー、小型電気自動車を導入する方針を掲げている。さらに、ICTを活用した新しいモビリティサービスの実証調査と、自動運転やEVバスの導入に向けた企業との連携にも言及していた。

自治体の強い意志に並んで重要になるのが、実証実験を支える「補助金」の存在だ。実験の初期段階では、運営費用は国の補助金制度を活用することになる。「補助金申請過程においても、各自治体の姿勢があらわれます」。そう話すのは、自治体との関係づくりを担ってきたWILLERの坂口さんだ。

WILLER株式会社 坂口かすみさん

西村自治体によって国から出る予算規模は異なります。申請した費用が満額で承認される自治体もありますが、多くの場合は減額されてしまうのが実情です。それでも「住民のために必要なサービスだから」と自治体独自の財源で補填したり、限られた予算の中でも工夫し実施を目指す自治体があります。

また予算確保ができなかった場合、どうしても取り組みたいという熱意から「別の補助金が使えないか」と模索するところも。

そういった前向きな姿勢に私たちも応えたいと考え、各自治体とは知恵を出し合いながら実現への道を探っています。ところが佐渡市では少しやり方が違っているんです。

自動運転ありきで考えない

WILLERのアプローチの特徴は、自動運転導入を前提とせず、まず地域課題に向き合うことだ。自治体の総合計画を丁寧に読み解き、地域が直面する交通課題を把握する。その上で、考えられる様々な解決策を自治体と共に検討し、自動運転バスがベストな選択肢かどうかを見極める。佐渡市ではその一環として市とともに自動運転推進協議会を立ち上げた。

坂口この協議会では、10年後も安心して暮らせる地域社会の実現に向けて、課題の洗い出しや自動運転車両の活用方法について検討を重ねています。佐渡市の交通事業者や社会福祉協議会のほかに、物流・小売の民間企業の方々にも協力いただいています。

(令和5年度 佐渡市 自動運転実証事業 取組概要 より引用)

市が主導する協議会があることで、個別企業同士ではなかなか難しい、複数の企業による横断的な課題解決が可能になっている。取り組みの一例が、佐渡で店舗展開を行っている大手ドラッグストアとの協業だ。同社は2023年10月から軽トラックを改造した移動販売車を2台運行している。離島での移動販売は全国初の試みだ。食料品や日用品など約500~600品目の商品を乗せ、週5日間、スーパーやコンビニから遠い南部地域を中心に2台で95か所を回る。しかし、需要が予想以上に高く、販売スポットを回り切る前に商品が売り切れてしまうことがあったそうだ。

坂口この課題を解決するため、協議会での議論から生まれた取り組みが、自動運転バスによる貨客混載です。これは自動運転バスの運行ルート上にある販売スポットまで、乗客を乗せながら商品も運び、ルート上の移動販売車に商品補充も行うというもの。地域の交通課題と追加配送という二つのニーズを、自動運転バス一台で効率的に解決できると手応えを感じています。このように地域課題に取り組む事業者を支えることで、自動運転バスの新たな可能性を模索しています。

住民は利用者ではなくパートナー

自治体や事業者との関係構築をする一方で、地域住民との対話にも力を入れている。自動運転バスを地域に根付かせるには、サービスを利用する地域住民の理解と協力がなくてはならない。継続的に対話の場を設けてきた2年間にわたる取り組みを西村さんは次のように振り返る。

西村私たちは住民の方々とのコミュニケーションを段階的に深めていきました。1年目は、佐渡市の交通課題を理解することからはじめました。様々な住民の方々に集まっていただいて「理想の公共交通」について意見交換をしながら議論する場を何度か設け、地域が抱える課題と向き合いながら解決の方向性を探っていきました。

最初から自動運転ありきとせず、ひとつの解決策として示唆する程度にとどめ、だんだんと自動運転を意識した座談会へと発展しました。アンケートだけではなく対話を重ねたことで、お互いのことを理解し、信頼関係を築けたように思います。

2年目は、市の方針や私たちの目指す方向性を説明し、自動運転に対する正しい理解の醸成を地道におこなっていきました。特にバスの主な利用者である高齢者の方々への丁寧な働きかけに力を入れていきました。例えば、15の集落でそれぞれ月に一度開かれる地域の寄合にお邪魔して、自動運転とはどういうものなのか、どう使えるのかを説明していきました。他にも、地元の小学校で自動運転バスの見学や試乗会、親子教室も実施し、世代別に理解の醸成をおこなっています。

バスのナンバーは佐渡を数字に置き換えた「310」。ボディには佐渡市の小学生たちによる絵がペイントされている

数々の対話の場を設けてきたWILLERだが、住民の課題をすべて解決できるわけではない。そのため、意識したのは「現実的な視点」だという。佐渡市は鉄道がなく地域の交通はバスが担っているものの、運転手不足や利用者数減少により、2024年3月に大幅な減便が発表されている。理想形を追い求めるのであれば、「15分に1本運行してほしい」といった要望も出てくるが、地域の実情に即さなければ持続可能なサービスにはならない。

技術面においても同様の姿勢で進めている。自動運転バスの試乗会では、住民から安全面に関する懸念や疑問などの声が寄せられた。その際に現状の機能に基づいた具体的な説明を心がけているとティアフォーの五島さんはいう。

五島住民の方々からは「この道は車が急に出てくることが多いが、どう対応するのか?」と地域の生活実態に即した安全性への懸念をよくいただきます。これに対して、「飛び出しを検知して車が止まるようになっています」「渡ってくる人の向きと速度を検知して、安全にスピードを落とすこともできます」という現状の機能に基づいた説明を具体的かつ住民の方にも理解しやすい言葉でお伝えするようにしています。

WILLERもティアフォーも、技術に生活を合わせるのではなく、生活に技術が合わせられることを丁寧に伝えている。このように自動運転バスのサービスや技術に関して、真摯なコミュニケーションを意識しているのには理由がある。

西村この実証実験が佐渡の交通課題の解決につながる可能性を持っていると考え、その意義に共感し応援してくださる方を増やしていきたい。なぜなら、直接の利用者だけでなく、地域全体で支える体制づくりが重要だからです。だからこそ、できることやできないことも包み隠さず説明します。私たちにとって、住民のみなさんは単なるサービスの利用者ではなく、地域の交通課題を一緒に解決していくパートナーです。この想いのもと、一人ひとりの暮らしと佐渡市の未来の交通について、地域の皆さんと対話を重ねています。

技術課題は地域の運転手と乗り越える

自動運転の実用化に向けて技術的な課題の解決も求められる。ここで重要な役割を果たしているのが、ティアフォーだ。同社は2023年10月に関東にある物流拠点で、運転者を必要としない自動運転「レベル4」の認可を取得。この実績と技術力を活かし、佐渡市では早期の自動運転レベル4実装を目指し、実証実験を進めている。

佐渡島を走るティアフォーの自動運転バスは、現在「レベル2」での運行だ。このレベルではドライバーによる監視が必要で、運転席に座って危険がないかを確認し、必要に応じて手動でアクセルやブレーキ、ハンドル操作を行う。レベル4に向けた次のステップとして、2024年度は既存ルートの走行精度向上だけでなく、トンネル内走行における自動運転の精度向上に力を入れた。この技術的な挑戦を主導しているのが五島さんだ。

五島さんによると、自動運転で重要になるのが、車両が自分の位置を把握する「自己位置推定」だという。これには主に二つの方法があり、一つはGNSSと呼ばれる、高精度のGPSによる測位。もう一つは、3Dマップに記録した建物やポールなどの目印と、車両に付けたセンサーの検知した情報を照らし合わせる方法だ。

ところが、佐渡島のトンネルではこの二つの方式が使えず、大きな課題となっていた。

五島佐渡島での実証実験は、全長約72㎞という自動運転の国内最長ルートにくわえ、山道が続く道のりに、7つのトンネルがありました。このトンネル内では、GPSが使えず、壁以外に目印になるものも少ないため、車の認識する位置がずれてしまい、たびたび運転手による手動介入が起きていたんです。そこで、パートナー企業様と共に研究を重ね、トンネルの壁に特殊な反射パネルを取り付けることで対応策を見つけ出しました。他地域でのテストを経て、佐渡にこの技術を導入し、自己位置がずれることなく走れるようになりました。

特に難所とされていた、全長1.9kmの南片辺トンネルもクリアし、2024年度の技術開発において大きな進展となった。他にも狭い道を走行するために、3Dマップの数10cm単位での微調整やカーブにおける対向車への対応などきめ細やかな改良も進めた。

正面のディスプレイにて現在の運転環境を表示。走行ルートにはカーブのある海岸線も含まれる

技術面での課題を解決するため、欠かせないのが地域の協力だ。今回、特に重要な役割を担ったのが新潟交通佐渡の運転手たちだったという。

五島より安全に走行するために、長年バスを走らせ、道を熟知しているバス運転手の皆さんにも意見を頂戴したりと協力していただきました。また実際に自動運転バスのドライバーも務めていただいています。運転していただくにあたり、教習も受けていただきました。

その際にWILLERの皆さんのサポートも得て、ドライバーの方が重点的にトレーニングするべきポイントやダイヤをひく上で休憩時間の設定など、交通事業者として安全運行のために丁寧なアドバイスをいただきました。

「儲からない」からこその可能性

何回もの実証実験と地域との対話を重ね、技術的な課題を一つずつ克服していく中で、自動運転バスの実装はどんどん現実味を帯びていく。だが、まだ重要な課題が残されている。それは、継続的な運行を支える安定的な収益の確保だ。補助金に頼らない事業モデルの構築は、関係者が直面する大きなテーマだ。

ただ「自動運転バスだけでの収益化は難しい」とWILLERの西村さんは率直に語る。しかし、それは事業としての可能性を否定するものではない。むしろ、日本社会の未来において要となるインフラであり、持続的に続けられる形を模索することの重要性を示唆する。では、一体どのように持続可能性を確保していくのだろうか。WILLERは「複合的なアプローチ」に着目している。

西村まず、既存事業とのシナジー効果で自動運転の収益化を目指したいと考えています。まだ構想段階ですが、例えば我々のサービスであるオンデマンド交通サービス、自家用有償旅客運送サービス(公共ライドシェア)の提供や、我々のシステムを使って島内の公共交通サービスをシームレスに利用できる環境を提供できればと考えています。

また、自動運転バスで解決できる課題の領域を広げ、異業種との連携によって採算の向上をはかれないかとも考えています。公共交通のバスとしてだけではなく、佐渡市でいえば、幼稚園などの送迎バスの代替や病院通院用の循環路線バスとしての運行、バスを貸し切って地域の集まりの開催など、多様な用途での活用を計画しています。こうした取り組みを通じて、予算をうまく調整しながら持続可能な運営の実現を図っていきたいです。

このようにWILLERは自動運転の持続可能性を高めるため、複数の施策を組み合わせながら収益化に取り組もうとしている。一方、実証実験を進める中で新たな課題も見えてきた。

西村佐渡市は道幅が狭い箇所がいくつもある上に、山道なので両側からどんどん木の枝が伸びてしまって走行の妨げになるんです。すると、カメラが障害物と認識してしまい、走れなくなってしまう。剪定し続けるのも現実的ではありません。道幅を広げようにも、数億円もの費用がかかってしまいます。でも、こうした課題に直面したことによって、道路の環境や維持管理の状況など地域交通の課題をより広い視野で捉えることが重要だと学びになりました。

自動運転バスという一つの解決策に固執するのではなく、他分野と連携できないかを模索する。自動運転バスで解決できる課題の領域を広げて考えてみる。効率化で予算配分を検討し直す。地域の状況によって最適な方法を探求する姿勢が、今後の展開において重要となってくる。

自動運転バスは道路に関わるすべての人たちが、知恵や資金を出しあって粘り強く実証実験を続けていく必要がある。

そうした連携の中で、WILLERは営利企業としての収益性と社会課題の解決を両立させながら、新しい地域交通のあり方を切り拓こうとしている。人の輸送だけでなく、移動を通した様々な課題解決を支える存在となることで、公共交通機関は次のインフラとしての可能性を開花させるだろう。

WILLER・ティアフォー
ステークホルダーマップ

インタビューから見えてきた
セミパブリックのポイント

  1. 民間事業者が自治体主語で考える

    自治体の目的は公共交通の課題解決であり、あくまで自動運転は手段の一つである。だからこそ、国に対する申請書を事業者が自治体と一緒につくる、全国展開する運行事業社としてのノウハウを自治体と共有するなど、自治体目線で課題に向き合い、関わり方をテーラーメイドでつくることが大切である。

  2. 住民に愛着を持ってもらう

    寄合への訪問や地元の小学生によるバスの側面をラッピングする。自動運転バスのナンバーを佐渡を模した「310」にする。試乗中にできないことも含め丁寧に説明をする。適宜手動運転に切り替え、普段の交通の邪魔にならないようにするなど、受け入れられる土壌づくりと同時に、愛着や応援感情を持ってもらえるかどうかが、鍵になる。

  3. 同じ課題に向き合う事業者と共創する

    自動運転サービスを地域主導で進める「自動運転推進協議会」の運営は、地域内で複数の事業者や自治体が連携するうえで重要な仕組みである。地元の物流・小売事業者や、佐渡観光交流機構、佐渡社会福祉協議会など、同様の地域課題を解決しようとしている様々なプレイヤーと自動運転技術を用いた共創事例を生み出している。このように自社事業の収益によらない持続可能性をつくることが、限られたリソースでの課題解決を促進する。

編集後記

協力しあう土壌と関わる実感を育てる

佐渡は日本の縮図だと言われている。1700種近い植物が自生し、農業や漁業も行われており、島内には様々な文化も存在している。一方、年間約千人のペースで人口が減り続け、課題先進地域という側面でも日本の縮図と言える。

そうした状況を逆手にとり、佐渡市では2020年以降「起業成功率ナンバーワンの島」を掲げ、スタートアップの立ち上げ支援が行われている。

起業家や事業者だけではなく、アカデミア領域の人も集まっている。例えば、新潟大学の豊田光世さんは天王川や加茂湖水系なども自然再生プロジェクトに関わりながら、様々なバックグラウンドを持つ人同士の対話機会を設けている。

新しいものを応援する、立場の異なる人で協力しあう。これまで培われてきたこうした土壌が自動運転の実装にも影響を与えているのではないだろうか。

例えば、自動運転協議会がその一つだ。自治体と複数の事業者が協議会をつくることは珍しい話ではないが、話を聞く限りでは、スムーズに立ち上がった印象を受けた。内外にかかわらず、地域の課題をみんなで解決していく。そのためにそれぞれの思惑を持った内外のプレイヤーを調整しながら受け容れる土壌が佐渡にはあるのかもしれない。

もちろん、土壌があるだけでは不十分。そこで出た芽をそだてるためには別の仕掛けが必要だ。

寄合への訪問や地元の小学生によるバスの側面のラッピング。地域で他の課題解決に取り組む企業との連携による事業の兆しづくり。自動運転を通じた地域課題の解決可能性を示すことによる、自治体の様々な部署を巻き込んでの予算づくり。

こうした複層的な連携を通し、課題の解決に徐々に近づいているという実績・実感を持ってもらうことが欠かせない。

そして、連携・接続の上で大切なのが、地域住民も事業者も、そして自治体職員も、それぞれが自ら地域課題の解決や自動運転の実装に関わっているという感覚だ。人口が増加していた時代では、インフラは主に公共セクターによって勝手に整備されていくものであり、地域住民がそれぞれのインフラに関わっているという感覚はほとんどなかったであろう。一方、人口減少していく社会では、WILLERの西村さんが「応援者になってもらうことを目指している」と話していたように、愛着を持てるインフラを目指すことが、セミパブリック領域における一つの指標になるのかもしれない。

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NTTコミュニケーションズのデザインスタジオ「KOEL Design Studio」は、公共性とビジネスの両立が求められる「セミパブリック」領域での新しい社会インフラ実現のため、人間中心のデザインや社内のデザイナー育成、他社・行政との共創支援により、ヘルスケアや教育分野など、さまざまな領域における社会課題解決を推進している。

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パーパスドリブンなブランディング、新規事業創出、社会を動かすナラティブ策定などを通じて企業を創造的に変革する、日本のデザインコンサルティングファーム。「やさしさがめぐる経済をデザインする」をパーパスに掲げ、中央官庁から大企業、中小企業、スタートアップ、地方創生まで、デザインアプローチを用いて、複雑な課題の解決や価値の創造を共創する。

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