I.業績の概況

(1)市場環境および事業基盤の変化

わが国の経済情勢は、東日本大震災やタイの洪水による影響からの持ち直しなどにより緩やかに回復しつつあるとの見方がある一方で、海外経済の成長鈍化、欧州の金融不安、円高の継続、消費マインドの低迷や電力不足による経済活動の制約などから、先行きは依然として不透明であります。このような状況下で、情報通信市場においては、企業のグローバル展開の加速、クラウド市場の本格化、スマートフォン・タブレット型端末の急速な普及などによるユビキタス化、ソーシャルメディア化など、ニーズの高度化・多様化が更に進み、ICT市場の構造が目まぐるしく変化する中、多様かつ熾烈な競争がグローバルレベルで激化している状況にあります。

(2)経営概況

当社は、このような経営環境の激しい変化を踏まえ、新たな事業ビジョン「ビジョン2015」を掲げ、“Global ICT Partner-Innovative. Reliable. Seamless.-”の事業スローガンのもと、アジアでの現在の強みをさらに強化するとともに、世界中のお客さまにとって最適なパートナーとして選ばれる、真のリーディンググローバルプレーヤー(Global ICT Partner)となることを目指し、2015年度にグループ連結で営業収益1.5兆円以上、グローバル売上高2倍以上(2010年度比)の目標達成に向け、取り組んでいくこととしました。

その初年度である2011年度については、自らの強みを活かし再び成長路線への転換を図るため、現状の仕事のやり方を抜本的に見直し、現場力を更に向上させつつ、リスクを恐れず、お客さま第一の視点でスピードと勇気をもって変革を推し進めることとし、顧客自身の価値に直結するサービスの強化を図りつつ、サービス、ユーザカバレッジ、オペレーション、人材の全ての面で国内外シームレスな事業運営を展開することを基本に、グループ一体運営を追求しました。8月に、「ビジョン2015」の実現に向け、「サービス重視」と「シームレス」をキーワードに、社内に分散しているリソースやノウハウを最大限に活用できるよう、「セールス」「サービス」「オペレーション」の3つの機能に構造化・集約し、全体最適を図りながら競争優位を実現していく体制への組織再編を行いました。

セールス機能組織においては、営業手法を第一優先分類軸とした組織体制へ見直し、顧客付加価値向上に向けた能動型サービス提案による新しい市場開拓に取り組みました。また、お客さまのグローバルな活動がますます進む中、国内外シームレスに連携して、より一層の価値をグローバル一体となって提供できるようグローバルアカウントマネジメント体制の構築やSFAの有効活用など、体制・プロセスの変革を推進し、効果的・効率的な営業活動に努めました。

サービス機能組織においては、技術特性およびサービス強化の観点から再編し、各組織においてサービス企画から技術検討・開発、販売支援までを一元的に実施する体制を整え、全体最適の観点からの開発リソースの最大活用による新たなサービスの提供などに取り組みました。さらに、「グローバルクラウドビジョン」に基づき、お客さまのクラウド化ニーズに対して、当社の強みであるネットワークやデータセンターからサーバーやアプリケーション、セキュリティサービスまでをエンド・エンドかつワンストップに提供する、通信事業者ならではのトータルICTアウトソーシングをグローバルシームレスに展開していくこととし、各サービス機能組織で連携したサービス開発・提供を進めました。

<各事業分野別の取り組み>

  • SI:

ICT市場のトレンド、ビジネスモデルの変化に対応し、全世界に広がるお客さま拠点をつなぐグローバルネットワークを刷新し、お客さまシステムをクラウドサービスに移行のうえ、グローバルシームレスなワンストップオペレーションを実現するなど、お客さまの生産性および効率性を向上するトータルICTアウトソーシングサービスを提供しました。

  • クラウド基盤:

豊富なAPIを備えた業界最安価格帯の新たなパブリッククラウドサービス「Cloudn」を提供開始しました。また、クラウドサービスの主要基盤であるデータセンターとして、最先端のグリーン性能とあらゆる災害リスクに備えた「東京第5データセンター」の提供開始、また都内最大規模の「東京第6データセンター」やマレーシアにおいて「サイバージャヤ3データセンター」の建設を開始しました。

  • アプリケーション&コンテンツ:

クラウド時代の企業のICTアウトソースニーズ、テレワーク推進のニーズに応えるため、「Bizメール」、「Bizデスクトップ」などのサービスの拡充を実施しました。NTTぷららにおいては、2012年3月末に「ひかりTV」が200万契約を達成したことに加え、TVだけではなくスマートフォン・タブレット端末での視聴ニーズに対応し、「ひかりTVどこでも」「ひかりTVもばいる」サービスの提供を開始しました。

  • データネットワーク:

クラウド、グローバルへのニーズの高まりに合わせ、クラウド時代に対応した企業向け新ネットワークサービス「Arcstar Universal One」を提供開始し、同サービスの提供エリアを世界159カ国に拡大しました。また、急速に拡大するモバイルニーズに対応するため、モバイルデータ通信サービス「OCN モバイル エントリー d」や閉域モバイルサービス「Arcstar Universal Oneモバイル」の提供を開始しました。

  • ボイスコミュニケーション:

スマートフォンやタブレット端末の普及に対応した新たな050IP電話サービスとして「050 plus」や「050 plus for Biz」の提供を開始しました。また、グローバルに事業展開する多国籍企業のお客さまのコミュニケーションニーズに応えるため、国内外シームレスなボイスコミュニケーションサービス「Arcstarユニファイド・コミュニケーション・サービス」を拡充し、クラウド型コミュニケーションを提供する「UCaaSプラン」の提供開始や、海外拠点などからの外線発着信を実現する「SIP Trunkingプラン」の提供エリア拡大を実施しました。

    オペレーション機能組織においては、従来のサービス毎のオペレーションプロセスを集約し、サービスオーダのデリバリプロセスの標準化などによる効率化の推進、グローバルオペレーション業務の言語毎の拠点集約による最適化、新方式の導入による基盤設備のシンプル化、社内ITシステムの統廃合による集約化など、全体最適の観点からの生産性の向上を進めました。

    また、オーストラリアを中心にITインフラ構築・販売やITコンサルティング、データセンター、マネージドサービスなどのICTサービスを提供しているFrontline Systems社を買収、インドにおいてデータセンター関連サービスを提供しているNetmagic Solutions社の株式取得について、株主と基本合意の上、株式譲渡契約を締結するなど、多国籍企業のお客さまニーズに応え、付加価値の高いトータルなICTサービスの充実に努めました。

    (3)経営成績

    営業収益については、減少傾向が続いており、音声伝送収入は対前年比▲290億円減(▲8.2%)の3,242億円、IP系収入は対前年比▲73億円減(▲1.9%)の3,744億円、データ通信収入は対前年比▲124億円減(▲13.7%)の783億円、ソリューション収入は対前年比▲17億円減(▲1.0%)の1,797億円となりました。

    以上の結果、営業収益全体としては、対前年比▲523億円減(▲5.1%)の9,810億円となりました。

    次に、営業費用については、コストコントロールの徹底等により、経費が対前年比▲251億円減(▲5.5%)の4,295億円となりました。また、音声伝送収入の減等の影響により通信設備使用料が対前年比▲274億円減(▲10.4%)の2,365億円となりました。

    以上の結果、営業費用全体としては、対前年比▲648億円減(▲6.9%)の8,752億円となりました。

    これにより、営業利益については、対前年比+124億円増(+13.4%)の1,057億円となりました。当期純利益については、不動産売却による特別利益37億円、関係会社株式評価による特別損失95億円を計上した結果、対前年比▲106億円減(▲15.5%)の583億円となりました。