(1)市場環境および事業基盤の変化
日本経済は、新政権発足以降、緊急経済対策をはじめ、デフレ脱却に向けた金融・財政などにおける対策の早期打ち出しにより、円高是正・株価上昇など明るい兆しが見えているものの、未だ実体経済は本格的な回復軌道に入っておらず、海外経済についても減速状態から脱していないことから、景気の先行きは不透明な状態が続いています。
情報通信市場においては、スマートフォンやタブレット型端末の急速な普及、LTEをはじめとするモバイルアクセスの高速化、クラウド化の進展に加え、ビッグデータ解析やBYOD(Bring Your Own Device)といったICT活用の新たな展開にも注目が集まっています。
(2)経営概況
当社は、このような経営環境の激しい変化を踏まえ、2011年に新たな事業ビジョン「ビジョン2015」を策定し、“Global ICT Partner”というスローガンのもと、2015年度に連結収益1.5兆円以上、グローバル売上高2倍以上(2010年度比)を目標指標としてグループトータルでの成長を目指すこととしました。
2012年度は、「ビジョン2015」の実現に向け、グローバルクラウドビジョンに基づく新たなサービスの提供、グローバルシームレスなセールスの展開、競争力の高いオペレーションの実現など、新たな成長事業の立ち上げと既存事業の抜本的な効率化を同時に進めました。
まず、サービスにおいては、グローバルシームレスなサービスの展開、サービスラインアップの拡充を図りました。各事業分野別の主な取り組みは、以下のとおりです。
<各事業分野別の取り組み>
- クラウド基盤:
ネットワーク仮想化技術をデータセンター内・データセンター間のネットワークに世界で初めて採用したプライベートクラウドサービス「Bizホスティング Enterprise Cloud」を日本・香港で提供開始し、2013年3月までに世界7カ国9拠点へ拡充しました。また、「シンガポール セラングーンデータセンター」、「マレーシア サイバージャヤ3データセンター」の提供を開始し、都内最大規模の「東京第6データセンター」の建設を完了するなど、国内外のデータセンターを拡充しました。
- データネットワーク:
「Arcstar Universal One」において、2012年8月に運用開始した海底ケーブル「Asia Submarine-cable Express」をバックボーンに追加し、信頼性の高いグローバルネットワークサービスを拡充しました。また、モバイルデータ通信サービスの多様なニーズに対応するため、「Arcstar Universal Oneモバイル」および「OCNモバイル」に高速モバイルデータ通信が可能なLTE対応プランを追加しました。さらに、通信量の増大に対応してアジア初となる「スーパーOCN 100ギガビットイーサネットサービス」を提供開始しました。
- ボイスコミュニケーション:
音声通信とデータ通信の回線統合やBYODに対応可能なサービスの推進を企業向けサービスの柱と位置づけ、「Arcstar IP Voice」や「050 plus for Biz」の「W-modeオプション」を提供開始するとともに、「Arcstar UCaaS」の機能を拡充しました。さらに、スマートフォンやタブレット端末に対応した高品質映像コミュニケーションサービス「Arcstar Video Conferencing(ビデオ会議)」を提供開始し、会議サービスのラインアップを充実しました。
- アプリケーション&コンテンツ:
企業のお客さま向けには、メール、ストレージ、仮想デスクトップといった、業種業態を問わず汎用的に利用されるサービスの拡充を推進しました。また、企業のマーケティング活動を支援するオンラインマーケティングソリューション事業をさらに強化するために、「NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社」を設立しました。NTTぷらら社においては、「ひかりTV」の新たなサービスとして、電子書籍サービス「ひかりTVブック」、音楽配信サービス「ひかりTVミュージック」を提供開始しました。
- ソリューション:
お客さまのオンプレミスからクラウドへの移行に際して、サーバからネットワークインフラやアプリケーションまでを含めたトータルなクラウド移行をサポートする「クラウドマイグレーションサービス」を提供開始しました。また、グローバルでトータルなセキュリティ対策のアウトソーシングサービス「Bizマネージドセキュリティサービス」を提供開始するとともに、Integralis社、Secode社およびNTTセキュアプラットフォーム研究所と共同で、標的型攻撃などセキュリティリスクの検知・分析機能を強化した新セキュリティ運用基盤を開発しました。
セールスにおいては、グローバルシームレスなセールスを追求し、グローバルアカウントマネジメントシステムによる深掘り営業を展開しました。また、中小法人層への販売力強化を目的として、販売会社「NTTコム マーケティング株式会社」を設立したほか、中小企業やSOHOのお客さま向けのオンラインショッピングサイト「NTTコムストア」を開設しました。さらに、BYODソリューションの事業展開を強化するため、BYODソリューション推進室を新設しました。
オペレーションにおいては、サービス横断で重複したプロセスを見直し、グループ全体でバリューチェーンを再構築し、効率性を徹底追求しました。具体的には、リソース・ノウハウをNTTコミュニケーションズグループのバリューチェーンを担う会社へ集中させ、専門性を高め、多様な人材の活用と更なる効率化を推進する取り組みや、オフショア化を積極的に展開するなど、グローバルレベルでの機能分担・最適配置の取り組みを実施しました。また、オペレーションプロセスの標準化、自動化、集約化の推進によるコスト構造の抜本的な変革に取り組みました。
その他、外資系通信事業者として初めて、新市場として存在感を増しているミャンマーのヤンゴンに営業拠点を設立しました。また、インドにおいてデータセンター関連サービスを提供しているNetmagic Solutions Private Limited社の買収やイギリスにおいてデータセンター関連サービスを提供しているGyron Internet Limited社の買収、フィリピンを中心にIPテレフォニーや業務システムに関するSIサービスなどを提供しているDTSIグループの持株会社であるFreedom Resources Holdings Corporation社の買収など、多国籍企業のお客さまのニーズに応え、付加価値の高いトータルなICTサービスの充実に努めました。
(3)経営成績
営業収益については、減少傾向が続いており、音声伝送収入は対前年比▲303億円減(▲9.4%)の2,939億円、IP系収入は対前年比▲25億円減(▲0.7%)の3,718億円、データ通信収入は対前年比▲106億円減(▲13.6%)の676億円となりました。一方、前期まで減収が続いていたソリューション収入が、当期は対前年比+42億円増(+2.4%)の1,839億円となりました。
以上の結果、営業収益全体としては、対前年比▲362億円減(▲3.7%)の9,448億円となりました。
次に、営業費用については、コストコントロールの徹底などにより、経費が対前年比▲289億円減(▲6.7%)の4,006億円となりました。また、音声伝送収入の減などの影響により通信設備使用料が対前年比▲229億円減(▲9.7%)の2,135億円となりました。
以上の結果、営業費用全体としては、対前年比▲485億円減(▲5.6%)の8,266億円となりました。
これにより、営業利益については、対前年比+123億円増(+11.7%)の1,181億円となりました。当期純利益については、相互接続料金の精算および不動産売却などによる特別利益240億円、関係会社株式評価による特別損失318億円を計上した結果、対前年比70億円増(+12.0%)の653億円となりました。