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株式会社マネーフォワード・瀧 俊雄 氏が斬る!金融DXの新潮流 #1

  • 瀧 俊雄氏株式会社マネーフォワード
    取締役 兼 Fintech研究所長

BaaSとは、Banking as a Serviceの略語であり、2018年中盤以降、よく取り上げられるようになった概念である。それは銀行の提供するサービスについて、銀行本体ではなく外部のサービスにおいて利用可能とする基盤の提供を意味しており、代表的な例としては銀行の融資や口座の機能が、ECサイトにおける購入や、独自の電子マネーの利用に使われるような状態を意味している。本稿ではこの概念の現状と、日本への示唆について見ることとしたい。

  1. 01海外におけるBaaSの動向
  2. 02米国におけるBaaSの進展
  3. 03欧州におけるBaaSの進展
  4. 04日本への示唆

海外におけるBaaSの動向

BaaSは、免許を持つ銀行によって提供されるが、その定義通り単体でサービスは成り立たず、外部で顧客基盤を有するサービスとの協業や組み合わせにより、初めて意味が生まれる。その接続については、従来は専用のネットワークを介した接続や、金融機関ごとに専用の開発が必要とされ、ハードルが高かった。銀行システムは元来、外部のシステムの接続リスクを取ることが難しい存在である。特にインターネットのような開放されたネットワーク上のサービスが対象となることは、想定外の状況であった。だが、いまや便利なサービスは、インターネット上のプラットフォームとして生まれるのが当たり前の世の中になった。そのため、例えばECサイトでの支払いにおいて、わざわざユーザーが銀行のサイトやATMを利用して支払い指示をしたくないように、振込はECサイトの中で直接行えるようにしたい、というニーズが高まっている。

そこで状況を変えつつあるのが、本人を認証するための技術の進展と、銀行APIの登場である。前者については、OAuthに代表されるような、インターネット上で認証や認可を行う技術の標準が普及したため、銀行のシステムとインターネット上のサービスを連携することも、独自の組み込み開発ではなくとも、安全に行えるようになってきた。後者の銀行APIについては、2015年あたりを境にして、日本を含む世界中で、オープンバンキングと呼ばれる潮流の拡大が注目される。オープンバンキングでは、銀行顧客の利便性のために、銀行サービスは銀行以外のチャネルでも利用可能にしていこう、とする流れであり、そのためにはAPI(Application Programming Interface、コンピューター間での情報処理の窓口を意味する)が銀行においても整備されつつある土壌がある。認証技術と銀行APIがともに進展することで、従来であればインターネットバンキングかATMでしか可能でなかった取引を、外部のサービスからでも行うことが現実的となってきた。そしてその機能を活かして、積極的に協業を見込む形がBaaSであるといえる。

米国におけるBaaSの進展

米国においてBaaSの活用は、ネオバンクと呼ばれるユーザーインターフェースを提供するプレーヤー群の活躍により目立ってきた側面がある。その中でも特筆されるプレーヤーはThe BancorpとGreen Dot Bankの二行である。

The Bancorpは米国で最大の電子マネーカードの発行体でもある。同銀行は2014年にBBVAにより買収されたSimpleというネオバンクサービスの基盤を提供していたことで注目された。同銀行はデラウェア州ウィルミントンに本拠を置く、総資産は1兆円に満たない銀行であるが、様々なサービスの金融機能を提供している。

The Bancorpのパートナー企業(同社IR資料より)

(出所)The Bancorp投資家向け資料より引用

同社が主として提供するのは決済領域のソリューションである。その内容としては、The Bancorpの預金口座や電子マネー口座であり、例えば米国最大級のネオバンクであるChimeなどにおいては、ユーザーは体験的にはChimeの口座を開設した理解でいるものの、利用規約上はThe Bancorpの口座を開設しており、同行にお金を預けている形となる。Chimeは手数料が無料の口座提供を売りに急拡大しているが、銀行サービスに伴う規制遵守やシステム構築は既存の銀行に委ね、自らはサービスの拡大や利便性追求に集中できる点が魅力といえる。このような、制度的に銀行免許が必要な機能、ユーザー体験の洗練を分離できるのが、BaaSの存在意義ともいえる。

もう一つの例として、Green Dot Bankがある。同行はカリフォルニア州パサデナに本拠を置く銀行であるが、巨大プラットフォームにおける電子マネーの発行や加盟店ネットワークの拡大においてプレゼンスを発揮している。当初は小売り最大手ウォルマートにおける電子マネーの提供で規模を拡大したが、のちにライドシェアリング最大手のUberにおける運転手の給与口座や、アップル社の電子マネーの基盤も提供するに至っている。これらの提携はどれも、巨大なプラットフォーム価値を持つ事業者の金融口座機能という意味で大がかりのシステムのように見えるが、同行自体の総資産額は4,000億円程度と小規模の地域金融機関の規模となっている。

Green Dot Bankの例においても、アップルやウーバーといった巨大な経営資源を持つプレーヤーであっても、銀行免許が必要なインフラの提供は回避したいと考える傾向が見られている。それだけ、ユーザー体験(UX)を作りこみ提供することは難易度が高いことの表れとみることもできるし、金融業とそれ以外のサービスにおいては根源的な開発力のスピード差があると、改めて理解することができる。

なお、米国におけるネオバンク側がBaaSを利用するモチベーションは、大別して二つあるといえる。一つは、独自のウォレット構想を有することで、例えば滞留する資金に対する金利収入(直接的にはBaaS側に帰属)を得ることであったり、自社のエコシステム内での消費の循環を生むことが目的となる。もう一つは、米国における決済手数料であり、提供する決済インフラ上で行われる支払い額に連動して得られる手数料が、数十万口座を越えてくれば黒字化できる水準として存在している。米国という金利水準がある程度確保され、消費者の借り入れ意欲も強い経済において、地域の銀行が、自らの地理的制約にとらわれず拡大していったイメージが、米国のBaaSの中では多く見られている。

これらの例以外にも、米国にはCross River BankやCBW Bankのように、零細な地域金融機関でありながら、全米に向けて自らの銀行機能を提供するBaaS基盤が見られている。また、Treasury Prime社やBond社に代表されるような既存の銀行群の機能についてAPI開放を簡易に可能とする企業も登場しており、サービス提供のレイヤと、銀行免許を提供するレイヤの区分は加速している。

欧州におけるBaaSの進展

欧州におけるBaaSの進展は、BaaS専業といえるプレーヤーが生まれている点が特徴といえる。

その代表的存在といえるのはベルリンに本拠を置くSolarisbankである。同銀行はドイツにおける一連のサービス提供が可能な銀行免許を有しており、欧州圏内であればどこでも銀行機能を提供することが可能となっている。ただし、自らチャネル展開をすることはなく、そのライセンスはもっぱら外部のFintechプレーヤーが利用する形となっている。利用する外部企業は暗号資産取引からビジネスバンキング等まで幅広く70社超を数えている。

Solarisbankの提供するAPIサービス群

(出所)Solarisbankウェブサイトより画像引用

同銀行の提供するAPI群を俯瞰すると、口座開設からリボ払い、中小企業融資、キャッシュマネジメントサービス、本人確認ツールといった対象に至るまで、幅広い内容となっている。自ら顧客獲得を行うのではなく機能を提供することでも採算が合う理由の一つは、クラウドインフラ上で銀行システムを構築できるようになった環境変化があり、このことにより、自社顧客基盤でのマネタイズを気にせず、APIレイヤでの付加価値提供に集中できるようになっていることも大きいと考えられる。このような外部へのAPI提供が主となっているプレーヤーとしては、他にもFidor銀行(ドイツ)などが知られている。

また、BaaSと近接する領域として、クラウドインフラ上ですぐに銀行を設立できるソリューションも誕生している。MambuはAWS環境上で、銀行そのものを構築しやすくするツールを提供しており、英国のTandemやOaknorth、ドイツのN26といったチャレンジャーバンク(銀行のベンチャー)の根幹を提供している。このようなサービスが拡大することで、BaaSのようなライセンスを貸与する形ではなく、ライセンスを取りやすくする形で、サービス提供の障壁が下がってきていることも欧州の特徴といえる。

日本への示唆

日本において、自らの銀行免許を外部で用いる形態をとる場合には、銀行代理業として認可を得ることが一般的には必要となる。この形でのビジネス展開を行っている銀行としては、住信SBIネット銀行とGMOあおぞらネット銀行の二行が特筆される。

住信SBIネット銀行は日本航空との間で、JAL NEOBANKというサービスを立ち上げており、普通預金や外貨預金のサービスをJALマイレージ会員向けに提供している。同行が日本でも先駆的に開始した銀行API基盤を活用しながら、JALの顧客に向けたサービスを展開する形は、海外と同様の、銀行免許と、顧客体験の棲み分けといえる構造となる。

GMOあおぞらネット銀行は、エイチ・アイ・エスの子会社H.I.S. Impact Financeとの銀行代理業としての連携を行っている。GMOあおぞらネット銀行は、自らのAPI基盤を積極的に外部開発者に向けて提供する取り組みを実施しており、エイチ・アイ・エスグループの様々なサービスにおける金融業務の効率化にこの銀行機能を役立てていく見込みとなっている。

これらの取り組みはまだ緒に就いたタイミングではあるが、日本でも銀行機能のAPI化が2018年の銀行法改正と共に進みつつある中で、その踏み込んだ活用方法として銀行代理業での協業が始まったことは大いに注目される。今後、様々な銀行で、機能の外出しを可能とする様々なAPIが開発されていくと思われる中、より顧客断面に近いサービスに向けて、様々な銀行が機能提供で競っていく未来像が期待される。

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