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株式会社マネーフォワード・瀧 俊雄 氏が斬る!金融DXの新潮流 #2

  • 瀧 俊雄氏株式会社マネーフォワード
    取締役 兼 Fintech研究所長

B2B領域におけるFintechサービスは、その定義からして広いサービス群を指す。すべての企業に何らかの資金調達に関するニーズがあり、支払いも必要であることから、資金調達と決済においては実に広い対象がある。本稿では、米国の大型プレーヤーを例に、その特性と日本への示唆を見ることとしたい。

  1. 01海外のB2B向けFintechサービスの趨勢
  2. 02バックオフィス負担の軽減
  3. 03日本へのインプリケーション

海外のB2B向けFintechサービスの趨勢

元々、Fintechという言葉が海外で知名度を得たのは、リーマンショック後に海外の銀行業の貸出が厳格化した際に、銀行以外の与信情報を保有・活用するプレーヤーが、銀行以外のバランスシート(個人や機関投資家など)を用いて与信を行ったことが発端にある。P2Pファイナンスと呼ばれるような、従来はなかった直接金融の形を実現したプレーヤーとしては2014年にIPOを実現したLending Clubの存在があり、同社が銀行に依存しない企業の借り入れ手段を実現し、その後、類似の業態は広がっていった。
だが、その後の与信環境の改善と共に、融資における銀行以外のプレーヤーの競争優位は剥落していったような実態がある。

一方で、決済領域においては、元々はクレジットカード産業及びその基幹産業としての国際的ネットワークの存在があった。そこでは、例えば〇〇カード、といったプレーヤーであったり、ビザ、マスターカードといった巨大なプレーヤーの名前があったが、この領域の上場企業で時価総額等のランキングで目覚ましい規模を見せているのはペイパルとスクエアであり、それぞれ30兆円超、10兆円超の規模を本稿執筆時点で誇っている。

ペイパルは電子マネーサービスの先駆者的な存在であるが、オンライン決済の世界において高い成長率を誇り続けている。直近2020年第4四半期中だけをみても、2,770億ドルの決済取引が実施され、その金額に対し手数料率にして約2%超となる、56億ドルの決済関連収益を計上している。従来であればクレジットカード産業に担われていた支払いのシェアを、より利便性の高いオンライン中心の決済ツールとして奪っている構図となる。

一方でスクエアは、オフライン決済における革命児的な存在である。同社は実店舗において、スマートフォンに接続する機器を用いて決済機能を提供するサービスから始まったが、専用機器の提供から小売り店の経営管理、給与支払いや融資といった、オフライン決済の周辺にある総合的な金融ニーズを巻き取る形で規模を拡大している。同社の場合も、それまでクレジットカード産業の加盟店ネットワークが有してきたシェアを、小売り業向けの総合的な利便性により奪っている構図となるが、様々な乗り換えコストの高い施策を同時並行で提供しているが故に、高い企業価値を株式市場から評価されている。

図表 スクエア社の提供する主な店舗向けサービス

また、決済領域の未上場のプレーヤーとして注目されるのはStripeである。同社はECサイトを中心にオンライン上での決済ツールを、主にクレジットカードの決済代行業の形で提供するものである。ネット上でのクレジット決済という、インターネット黎明期からある決済手段でありながらも、誰もがオンライン決済というと入力の煩雑さを想起してしまう難しさを前に、そこで顧客が脱落しない設計と体験を売りに拡大し続けている。支払いにおいて顧客が脱落しないことは、売上の増加と同じ効果を持つことを考えれば、そのような決済のユーザー体験も付加価値領域であることが理解できる一例となる。

バックオフィス負担の軽減

Fintech領域においては、筆者の所属するマネーフォワードもその一群と捉えられるが、企業のバックオフィスにおける業務効率化が取り上げられることもある。これは、決済や融資といった金融サービスそのものではないものの、ビジネス上の金融データを利用する業務が、企業にとって必須となる会計・税務や債務支払いといった領域に直結しているからでもある。

会計・税務の領域における、米国における2大プレーヤーとして取り上げられるのはインテュイットとゼロである。インテュイットは米国の中小企業会計の世界では圧倒的なシェアを誇るプレーヤーであるが、1980年代にDOSマシン用のソフトウェアとしてサービスを開始してから、ウィンドウズの時代、Web中心の時代、モバイル/クラウドの時代を経る中で業容の適応を続け、今後はAIの時代における会計ソフトを提供する意向を示している。

図表 Intuit社の変遷

出所)インテュイット社Investor Day 2020資料より引用

同社は銀行やクレジットカードの利用履歴を、確定申告や会計帳簿作成の自動化に向けて連携活用する機能を2000年代から提供してきた。これらのデータを活用し、近年はさらに個人向けの融資サービスやクレジットスコア提供なども本格化させている。同社の時価総額は11兆円を上回る規模となっており、金融データの参照という初歩的な活用や、情報が生成される場での与信という機能も含めて、B2BのFintechサービスを代表する存在といえる。

また、B2B取引におけるFintechの活用では、2019年に上場し時価総額も1.5兆円に伸長したBill.comの存在が注目される。同社は平たく言えば「事業者が受け取った請求書を期限までに振り込む」オペレーションを自動化する会社である。企業への導入時には、当初はFAXの専用番号を提供したり、紙の請求書をスキャンするといったフローを提供しつつ、最終的にはオンライン上で請求情報をやりとりするプラットフォームを提供している。米国ではとりわけ、小切手による振り込みといった物理的に複雑だった業務フローを、自動化された振込手続きへと移行する形となる。企業間の振り込みという、ごく当たり前のオペレーションに見えるようであっても、営業担当者や社内の承認フローを含めて分かりやすく提供することで確かなユーザー価値を提供できている点は、高機能であることが注目されがちな中で注目すべきポイントでもある。

日本へのインプリケーション

上記の決済やバックオフィスの効率化における、大型Fintechプレーヤーから考えられる、日本への示唆については3点ある。

1つめは、オンラインにせよ店舗にせよ、企業の売上におけるスムーズな決済体験が、すべからく価値を持っているということである。従来からクレジットカードやレジといった、インフラ的なサービスは存在してきたが、特にオンラインの世界では摩擦なく物を買えるということは、逸失していたかもしれない売上を手に入れる行為とも同じことを意味している。社会のデジタル化が進み、粗利率の高いデジタルサービスへの需要が増える中、摩擦がない状況を作れることは、コストの削減というよりも収益の拡大に寄与することでもある。そのような摩擦のない世界に対して、日本ではいまだキャッシュレス化が遅行し、それ以前の議論が中心となっているが、10年後、20年後から見たときに不自然な購買体験となっていないかを点検すべきポイントがいくつもある。

2つめは、バックオフィスツールにあらわされるように金融データの業務におけるスムーズな活用の価値である。金融データはあらゆる事業において、その報告や運営の基礎になる情報であるが、その運用はコピーペーストであったり、手入力であったり、紙から電子といった変換が必要だったりと、スムーズな転用が叶わないことがままあるものである。だが昨今、特に金融機関口座のAPI化の流れが進展する中で、M2M(Machine to Machine)での情報連携が可能となった。このことは、入力という業務のボトルネックを解消することに繋がるのである。個別の業務の棚卸しをしていく中で、どのような情報が外部のソフトウェアによって自動読み込みされれば経営が効率化できるか、という目線は今後より重要性を帯びるものとなる。

そして3つめは、情報を即時に活用できる環境の価値である。情報は、複雑な処理を行わなくとも、ただリアルタイムで同期を行い、活用されるだけで、経営の大幅な効率向上につながるものである。この価値があるからこそ、それを可能としている米国企業には高い市場の評価がなされているともいえる。海外のFintech企業の提供する大規模なサービスは、それぞれの断面で高度な機械学習機能等を用いている点はあれど、やっていることは意外や地道な、大量の情報を丁寧に処理し、分かりやすく連携する、というポイントになる。そしてそのこと自体が、サービスの利便性につながり、利便性の高さが売上の成長や解約率の低さにつながるという、ごく当たり前の流れを作り出している。B2Bの世界では特に、何らかの魅力を発揮するというよりは、確実に欲しい情報や処理が、誰にも分かりやすい形で届けられることが重要である。海外の大型Fintech企業においてもそれは例外ではないことを、今一度強調したい。

今後の日本では、キャッシュレス化だけでなく、金融機関のデジタル化の一層の進展や、2023年のインボイス制度の施行など、金融情報を決済やバックオフィス処理にすぐに生かす局面が多く出てくるものとなる。人手不足の課題を丁寧に解くべく、自社の業務の見直しと、得意なことに集中できる体制の構築は急務であると考える。

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