講演レポート
5Gのリアルと未来
第5世代移動通信システム(5G)の商用サービスの開始が、いよいよ目前に迫ってきました。5Gは、ビジネスにどのようなインパクトをもたらすのでしょうか。「第16回 itSMF Japanコンファレンス/EXPO」(2019年11月29日開催)では、株式会社NTTドコモの中村武宏氏が「5Gのリアルと未来」と題した講演に登壇。NTTドコモの5G導入計画、これまでの取り組みの経緯、注目のユースケース、洗い出された課題などついて語りました。
株式会社NTTドコモ
執行役員 5Gイノベーション推進室長
中村武宏氏
1990年、横浜国立大学修士卒。1990年、NTT入社。1992年よりNTT DOCOMOにてW-CDMA、HSPA、 LTE/LTE-Advanced、5GおよびConnected Carの研究開発および標準化に従事。現在、NTT DOCOMO 執行役員 5Gイノベーション推進室長。
ラグビーW杯でつかんだ確かな手応え
中村氏は、移動通信システムの進化でキーポイントとなってきたのが「高速・大容量化」だと語ります。
「現在、データ通信の大半をYouTubeなどの動画トラフィックが占めています。SNSの普及に伴い自撮りの動画をアップロードする機会が増え、下りのダウンロードのみならず、上りにも高速・大容量化が求められています。5Gには、こうしたニーズに対応できる先進の機能、仕様が搭載されています」(中村氏)
現在、NTTドコモは2020年春の本格始動に向け、さまざまなパートナーとの協創を進めています。
「現在はオープンイノベーションの時代、私たちの力だけでは市場ニーズに応えられません。多くのパートナーと協力して、新たな価値創出、社会的課題を解決するサービスづくりに挑戦しています」(中村氏)
実証実験で見えた5Gの可能性
幅広いパートナーとの協創に向け、NTTドコモが2018年2月に立ち上げたのが「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」です。
「いまやプログラムには、3,000社を超える企業・団体にご参加いただいています。すでに200件以上のソリューション協創事例もあり、地方創生、医療介護、防災・防犯、労働力不足、一次産業などの広い領域で多くの成果を上げています」(中村氏)
中村氏が事例として紹介したのが、東京女子医科大学との協創による「遠隔高度医療」です。同大学では、手術室内の医療機器をネットワークでつなぎ、可視化する医療システムを運用しています。
従来は手術室の執刀医に対し、手術室外で待機しているベテラン医師が助言を行うというシステムでした。そこに高速・大容量、低遅延の5Gを組み合わせることでロケーションにとらわれない遠隔高度医療を実現しています。
5Gの誤解と真実
中村氏は、世の中で想像されている5Gと現実の初期の5Gには少なからず乖離があると語ります。
「最初から日本全国で5Gが利用できるイメージをお持ちかもしれません。実際は、都心部などの一部エリアで限定的にスタートします。全国を網羅するには数年はかかるでしょう。しばらくは既存の4Gの高度化を進め、5Gと併用していくことになります」(中村氏)
2つめは、パフォーマンスに関する誤解です。5Gの提供エリア内でも、すぐに10Gbpsの高速・大容量、1msの低遅延なサービスが利用できるわけではありません。3つめは、ユースケースについての誤解です。5Gは、どのようなユースケースにも対応できるわけではなく、やはり計画性もあったビジネスモデルの構築が必要になります。
今後、多種多様なユースケースの対応が求められると考えられますが、そのニーズに適切に対応するカギは、「プライベート5G」にあると中村氏は考えています。プライベート5Gとは、特定の場所や時間、特定の用途で個別に利用できる5Gネットワークです。
「地方にある工場のスマートファクトリー化はもとより、期間限定で利用されるイベント会場、建設現場などに簡易な基地局を設置するといった用途では、低コスト、迅速にサービスが提供できるプライベート5Gが有効です。これからは私たちが全国で提供するパブリックな5G、そして特定の場所で特定の用途で用いるプライベートな5Gをうまく使い分けることが重要になるでしょう」
本記事の内容をもっと詳しく知りたいという方のために、豊富な5Gのサービス化事例など、講演内容をさらに詳しくまとめた「ホワイトペーパー」を用意しております。ぜひダウンロードの上ご覧くださいませ。