講演レポート

DX×ビジョン

歴史に残る変革の時代に
どのような未来の「時」を描くべきか

いま「DX」というワードに象徴される変革の時代にあって、企業はどのような姿勢で将来のビジョンを描くべきなのか。感染症の拡大、気候変動、国家間紛争など、先が見通せない環境下において、そのヒントを「第17回 itSMF Japanコンファレンス」(2022年2月9日)のオープニングに登壇したitSMF Japan 理事長の西野弘氏の講演を通して紹介します。

特定非営利活動法人 itSMF Japan
理事長
西野 弘氏

IT産業の黎明期からプロジェクトマネジメント、コールセンター、政府調達、政府CIO制度創生に関わるなど、多くの海外・民間・政府関連のプロジェクトに携わる。特定非営利活動法人CeFIL 理事 / DBIC共同創設者、特定非営利活動法人ITサービスマネジメントフォーラムジャパン 理事長

我々はいま、大きな変革の時代の渦中にある

人類の歴史を振り返ったとき、革新的な発見や技術が人々の暮らしや社会を大きく変えた転換点が4回あるのではないかと、西野氏は考察します。1つめは火の発見、2つめに印刷機の発明、3つめに産業革命。そして、4つめとして今日のデジタル技術による社会変革を挙げます。

「活版印刷技術を例にとると、かつて人々は書物などを書き写すことで情報の伝達を行っていましたが、活版印刷機の発明により、短時間に大量の情報を複製することが可能になりました。これによって、書物の恩恵が一気に拡大し、知識が広く共有されるようになりました。これは1つの例ですが、我々はいまデジタル技術による社会変革という時代をまさに生きています。そのことを意識し、ICTの進化によってこれから何が起こってくるのか、想像をたくましくすることが大事だと考えています」(西野氏)

企業としての感度を上げ、限界を打破していく

次に西野氏は、IMD(The Institute for Management Development)の「世界競争力ランキング」に目を向けます。これは世界の国々を経済パフォーマンス、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラストラクチャーという4つの軸で評価したもので、2021年のランキングにおいて日本は31位という結果に終わっています。ここで上位にランクされたスイス、スウェーデン、デンマーク、シンガポールという決して大国とはいえない国々に共通した強みや特徴はあるのでしょうか。

「我々の分析から導き出されたことは、国としての大小ではなく、世の中の動向をいかに敏感に捉え、いかに俊敏に対応していくかが重要であるという点です。『小さい国だからこそ小回りが利くのではないか』という人もいますが、この4つの国には超大企業があります。たとえば、スイスのロボットメーカーであるABB、スウェーデンのIKEA、ボルボなど、グローバル市場において大きな成果を上げています。なぜそれができているのか、日本の企業は大いに学ぶべきところがあると思います」

具体的な人材ポートフォリオを持ち、古いマネジメント体質から脱却する

ICTビジネスに携わる企業が未来を見据えるには、どこからスタートすればいいのでしょうか。IMDの「世界競争力ランキング」の1つの指標である「ビジネスの効率性」における日本企業のランクに着目し、西野氏は企業への要望を述べます。

「2014年と2020年を比較すると、多くの項目で日本は順位を落としていて、中でも『企業の俊敏性』と『企業の感度』で劣っていることが問題です。感度が鈍ければ、気づきも起きませんし、俊敏な行動もできません。その結果、効率性や労働力の生産性を上げることもできないでしょう。企業としての感度を上げることが最初に取り組むべき課題ではないでしょうか」

加えて、いま立ち止まって考えることや、将来を見据えた人材計画の重要性についても言及します。

「『5年後のICTビジネスがどうなるのか、その中で自社はどのように行動すればよいのか』、立ち止まって考える時間をぜひ設けてほしいです。5年後のことは想像しにくいかもしれませんが、感度を上げると同時に、視座を高めて社会を俯瞰的に見ていくことも必要です。その際、グランドデザインに合わせた人材計画が非常に重要で、『どのような職種やレベルの人材が、どこに何人必要か』という明確なポートフォリオを持っておくことが不可欠だと思います。同時に自社としてのテクノロジー・ロードマップを策定しておくことも必要です」

さらに、企業には古い体質やマインドセットをリセットすることが求められているといいます。

「3年後の2025年には昭和が始まって100年目を迎えますが、マネジメント・システムが昭和のままという企業も少なくありません。いま変革の時代にいるのですから、マインドセットもそれに合わせてアップデートしていかなければならないと思います。それが未来を開く鍵になるはずです」

「デジタル技術による社会変革」という転換期にいる今こそ、自社が抱える限界に気づき、1つずつ明確な計画に落とし込み、俊敏に決断を下していくことが、不確実な状況下で企業がとるべき行動と言えるでしょう。

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