講演レポート

DX推進×ISO/IEC20000

新たな顧客価値の創造に適した
サービスマネジメント
~ISO/IEC20000-1:2018適用の薦め~

昨今、DXをはじめとしたビジネスイノベーションが進展しています。ここで求められているのは、競争上の優位性を確立するための業務や組織、プロセス、企業風土の変革ですが、変革自体は1つの手段であり、最終目的は「新たな顧客価値の創造」です。これを実現するためには、変化に関わる一人ひとりがやりがいや幸福度の向上を感じられることが大切であるといいます。「第18回 itSMF Japanコンファレンス」に登壇したSOMPOシステムズ株式会社 シニアアドバイザー 岸 正之氏の講演(2022年11月25日開催)より紹介します。

SOMPOシステムズ株式会社
シニアアドバイザー
岸 正之氏

SOMPOグループの戦略的IT企業であるSOMPOシステムズ社のITサービス本部に在職し、主に損害保険ジャパン社のITガバナンス、ITサービスマネジメントの企画・統制を担当。ISO/IEC20000のサービス 管理責任者でもある。現職のITサービスマネジメント部門のほか、経営企画・人事部門を歴任するなど、幅広い経歴を持つ。

変化に正しく向き合えるサービスマネジメント国際規格

これまで、ITとビジネスの間には一定の距離感がありましたが、DXの世界においては、ITとビジネスは常に共にあります。「このITとビジネスは共にあるという世界観の変化に正しく向き合わなければならない」と岸氏は語ります。VUCAの時代、取り巻く環境は常に変化しており、社会や顧客の期待、ニーズ、要請も変化し続けています。そうした中でDXが進展しつつありますが、DXで何より重要なのは「新たな顧客価値の創造」です。価値観が多様化する中、顧客との間でより一層高めることを求められているのがエンゲージメントです。エンゲージメントを高め、顧客との距離を縮める効果があるサービスマネジメント国際規格 ISO/IEC 20000-1:2018です。

ISO/IEC 20000-1:2018の位置づけは、ITIL®の視点の変化を見ていくとイメージしやすいといいます。ITIL®v3では、サービスから生まれてからその役目を終えるまでのサービスライフサイクルにフォーカスしていたのに対して、ITIL®4になって、ビジネスを成功させるためのサービスバリューチェーンに重きが置かれるようになりました。

サービスバリューチェーンは事業に対する価値を体系化したもので、「計画」「改善」「エンゲージ」「設計と移行」「調達と構築」「提供とサポート」という6つの活動があり、顧客ビジネスへの価値共創をうたうISO/IEC 20000-1:2018と深い補完関係を構成しています。

ISO/IEC 20000-1:2018で要求されている事項とは

ISO/IEC 20000-1:2018の箇条構成のうち、具体的には箇条の4から10までが実際の定義、活動の内容になります。

箇条4は「組織の状況」です。これが「エンゲージ」のパートに当たります。顧客や利用者などのステークホルダーの特定、そのニーズや要請事項の可視化を行うとともに、ステークホルダーの内容とその変化を正しく捉え、サービスマネジメントを確立します。

箇条5の「リーダーシップ」は、経営のコミットメントを表すパートです。ここでは、サービスマネジメント方針の確立と周知とともに、サービスマネジメントシステムに関係するメンバーの役割と責任を定義します。

箇条6の「計画」では、リスクマネジメントによるリスクのコントロールを目的としています。リスクのみに注目するのではなく機会にもフォーカスを当てている点に特長があり、サービスマネジメントを肯定的に進めるための機会もしっかりと特定し、対策に生かしていきます。

箇条7の「支援」は、この活動に必要となる資源の確保を意味しています。サービスマネジメントに必要な4つのP、Product、Process、People、Partner、つまり、組織的な体制や資機材、仕事のルール、またDXでいろいろな変化が起きる中で、力量(スキル)の変化をしっかり捉え、充実した活動につなげます。

箇条8の「運用」は、サービスマネジメント活動そのものを指しています。要求事項的には何をするべきかに焦点を当てています。

箇条9の「パフォーマンス評価」には、2つの観点があります。1つはISO規格に適合しているかどうかを見る適合性の観点、もう1つはサービスマネジメント活動自体が、意図した成果を得られているのかという有効性の観点です。この2つの指標に照らして評価を行い、もし不適合が生じたり、有効性に問題が発生したりした場合は、箇条10の「改善」で是正とパフォーマンス向上のための改善活動を展開します。

「これらをトータルに進めていくことで、サービスマネジメントの成果が確実に享受できるようになり、この活動自体の成長を促すことができる」と岸氏は強調します。

すでに行っている企業活動をサービスマネジメントにマッピング可能

一見難しく感じられるサービスマネジメントですが、実は会社・組織・人の活動の中にすでに存在するものも多いといいます。たとえば、「組織の状況」は、中期経営計画や事業計画、業務課題の抽出などが相当し、「リーダーシップ」には、役割・権限体系や、すでに存在する組織権限規定を援用できます。「計画」についても、企業活動を行う中で普遍的に行われているリスクアセスメントがまさにそれに当たります。これらの活動を明確に目標化し、SLAやKGI、KPIといった指標で測るとともに、定期的に評価を行って改善点が見つかれば是正していくことが、まさにサービスマネジメントというわけです。

岸氏は「個々の活動は、皆さまの会社でも実施されていると思います。しかし、バラバラに動かすのではなく、ISO/IEC 20000-1:2018というフレームワークの中にマッピングして、それぞれを有機的に機能させる。これが大事です」と強調します。

岸氏は「今を明確にしながらこの先を見据えてサービスをコントロールできるようになるのが ISO/IEC 20000-1:2018である」と語り、この国際規格と正面から向き合うことを推奨しました。

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