講演レポート
デザイン思考×手の内化×
ワンチームでCX-Firstを実現
先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態が続いています。このような状況下で、企業はCX(カスタマーエクスペリエンス)を向上させるために何をすればよいのでしょうか。そのヒントをNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の辻鉄也氏の講演から紹介します。同社は、従来お客さまからの評価が上がらず苦戦していた契約者向けポータルサイトを、2022年に「デザイン思考」「技術の手の内化」「組織横断のワンチーム」をキーワードにリニューアルし、成功を収めました。
NTTコミュニケーションズ株式会社
プラットフォームサービス本部
マネージド&セキュリティサービス部
担当課長
辻 鉄也 氏
プロダクトデザイン手法でポータルサイトのリニューアルに着手
NTT Comの辻鉄也氏が所属するチームは同社が提供する法人向けのネットワークやクラウド、音声アプリケーションなどのサービスを一元的に確認・変更できるポータルサイトを開発し提供していましたが、お客さまの評価は決して高くはありませんでした。
「商品やサービスに対するお客さまの信頼や愛着を測る指標を『NPS(Net Promoter Score)』といいますが、我々のビジネスポータルのNPSは、弊社サービスの中で下位に沈んでいました。さまざまな施策を打ってきましたが、NPSの上昇は微々たるもので、従来とは抜本的にやり方を変える必要があると考えました。
NPSの特性を考慮しつつ、我々は問題点をポータルチームで議論しました。その結果、そもそもお客さまの業務シーンに合った機能やUX(ユーザーエクスペリエンス)が提供できていないのではないかという仮説を導きました」(辻氏)
最初にチームづくりに着手し、企画側チーム、開発側チーム、さらに顧客接点改革ワーキンググループのメンバーを中心に「ポータルデザインチーム」を結成しました。目標は1年後のNPS測定とし、ポータルサイトのリニューアルにチャレンジしました。
お客さま像と提供価値を明確化してNPS上昇を実現
まず行うのは現状分析です。メンバー全員がユーザーのリアルなイメージを共有できるように、ユーザーの業種や企業規模、契約状況などを詳細に分析しました。さらにポータルへのアクセスログを解析するツールを開発し、ログインや操作についても分析しました。
そうした分析にもとづいて、ユーザーのペルソナを作成しました。「IT管理者」や「運用担当」など7つのペルソナ像を作成し、さらにそのペルソナをベースにVPC(Value Proposition Canvas)という分析方法を使い、お客さまは「何に困っているのか(pain)」「どんなことがうれしいのか(gain)」を明確化しました。
その後、ペルソナごとにユーザビリティテストを実施し、ポータルの操作に不慣れなメンバーに実際に操作してもらったところ、改善点が驚くほど明確になりました。
次に課題の分析や強化すべき機能の選定を行いました。特定のお客さまのみの問題か、全体的なお客さまの問題か、1つずつ分析して強化すべき機能を決めていきました。
そうして、チームの持ち味である手の内化・内製化、機動力を生かして設計・開発・テストを行い、約6カ月で35個の機能改善をリリースしました。さらに作りっぱなしでは効果がわからないので、リリース後にどれくらい使われているのかを測定し、達成していない場合はさらに補強しました。
こうして「とにかくあらゆる手を打とう」ということで、メンバー全員で取り組んだ結果、NPSが一挙に23ポイントも上昇しました。お客さまからのお褒めの言葉も寄せられ、開発チームの大きな励みになったと辻氏は語ります。
CX価値向上は“一本道”ではうまくいかない
これまで今回のような改善ができなかったのは、関係者の構造上の問題に起因します。一般的に、サービスの企画側、開発側は1日中そのシステムやサービスについて考えているため、組織整理やシステムの連携に起因する機能や複雑さについて、疑問を持ちません。さらに開発者は、すでに頭の中でアプリケーションが整理されているので気づかない問題が多数あります。
そこで重要になるのが、ユーザーテストです。CXを向上させるには、効率重視の“一本道”の進め方ではうまくいきません。お客さまになりきって、実際にユーザーテストを行って、試行錯誤することが大切です。
辻氏は今回の取り組みを通して、CX価値向上に有効な施策をスピーディに実現するために必要なものは、「顧客提供価値を起点にUI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)をデザインすること」「開発チームの手の内化」「組織横断のワンチーム」の3点だと総括します。
「一般的な開発では仕様検討や開発依頼、委託会社による開発、受入試験、リリースを半年から1年ぐらいかけて行いますが、『仕様と異なる』『仕様が間違っていた』といった問題点が出ることがあります。その点、弊社では手の内化が進んでおり、社員自ら開発内容を理解し、リスク(不確定要素)も理解しています。開発・修正も共同で行うので、問題発生時はデータ構造やロジックなどの具体的な解決策を一緒に検討できます。最後のユーザーテストの段階でも、修正が必要なリスクを社員が円滑に判断し、リリース後の改善も自社で行えるため、迅速な開発が可能になります。
組織横断のワンチーム体制であったことも成功要因です。私たちのポータル開発チームは、全員がデザイン思考を徹底していたので、スピーディに進みました」(辻氏)
CXを何よりも優先してポータルサイトの改善に成功した今回のNTT Comの事例は、企業や組織にとって重要なヒントが得られるのではないでしょうか。
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