講演レポート
広がるゲームエンジンの世界
ゲームから産業へ
本来、ゲーム開発をサポートするために生み出されたゲームエンジンは、いまや企業から個人まで幅広くゲーム開発者に使われています。さらに近年では、自動車や建築、医療、アート、映像などの分野にも活用されています。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社のシニア・アドボケイトであり、東京大学先端科学技術研究センター連携研究員、大阪芸術大客員教授の簗瀬洋平氏の講演から、ゲームエンジン「Unity」が、産業界にもたらすインパクトを紹介します。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社
クリエイター・アドボケイト
東京大学先端科学技術研究センター連携研究員
大阪芸術大客員教授
簗瀬 洋平 氏
ゲームには人を成長させる可能性が眠っている
長年ゲーム開発の最前線で活躍してきた簗瀬氏は、現場で培ってきた知見やノウハウを生かし、「Unity」を提供するユニティ・テクノロジーズ・ジャパンで、さまざまな研究活動を行っています。
「ゲーム開発に従事した後、企業の研究開発部門に移り、ゲーム開発に関する技術開発と大学との共同研究、Unityを活用したデモンストレーションの発表などをしています。Unityを世の中に広めることが私の仕事です」(簗瀬氏)
これまでUnityを活用して手掛けてきた、研究成果を簗瀬氏が紹介します。
「まずは、ひたすら敵の撃ってくる弾幕を避けていく『誰でも神プレイできるシューティングゲーム』です。一見難しいのですが、2回目、3回目と繰り返しプレイすると少しずつ簡単になるのです。プレーヤーは回数を重ねるたびに上達したと感じます。
続いて、『誰でも神プレイできる横スクロールジャンプアクションゲーム』です。これは、キーを押す時間でジャンプの高さを変えてアイテムをキャッチするゲームです。このゲームは、理想のジャンプに寄せるサポートシステムを搭載しています。
ここで重要なのは、プレーヤー自身が操作していると感じられるかです。実はこのゲーは、ところどころでサポートをやめるようにしています。その結果、飽きることなくゲームを続けられて上達していきます」(簗瀬氏)
簗瀬氏はゲーム開発に従事していた当時、ほとんどプログラムコードを書いていませんでした。同社入社後に初めてUnityに触れ、独学でデモンストレーションをつくり、学会で発表できるようになったといいます。
「『誰でも神プレイできるシューティングゲーム』は、初めて学会発表したデモンストレーションです。この発表で受賞できて、その後の研究活動のモチベーションになりました」(簗瀬氏)
iPhoneの登場でゲームエンジンが脚光を浴びる
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの本社、Unity Technologiesは2004年にコペンハーゲン大学の学生によって創業されました。もともとは売れるゲームをつくることが目的でした。
「最初にゲーム開発用のシステムとしてつくったのがUnity1.0だと言われています。Unityで開発したゲームはヒットしませんでしたが、“ゲームの民主化”を掲げ、Unityを販売するためのUnity Technologiesを立ち上げました。しかし当時のゲーム会社は独自の開発システムを持っており、Unityをセールスするのは難しかったようです」(簗瀬氏)
この流れを変えたのが、2007年に登場したiPhoneです。スマートフォン用のゲームアプリが続々とリリースされ、モバイルゲーム市場が巨大化していきます。モバイルゲームは個人でも手軽に参入できる市場だったのです。
「個人や少人数でゲーム開発するニーズが増大したものの、彼らは大手ゲーム会社のような開発システムを持っていませんでした。そこで登場したのが最初は無料で使え、一定以上の売上が出たら料金を支払うゲームエンジンです」(簗瀬氏)
とはいえ、ゲームエンジンがあってもゲーム開発には煩雑な手間がかかるものです。グラフィックやアニメーション、サウンドといったゲーム画面からユーザーに出力する要素、インターフェイス、ネットワークといったユーザーからの入力を受け付ける要素、さらにはスマホ、PC、ゲーム機といったハードウェア別の実行ファイル生成、マネタイズのためのサービスなどが必須となります。
「このようなゲーム開発に必要な要素をトータルにカバーできるゲームエンジンがUnityです。モバイルで注目されがちですが、家庭用ゲーム機用のゲームやPCゲームはもちろん、VR(バーチャル・リアリティ)、AR(オーグメンテッド・リアリティ)でも大きなシェアを占めています」(簗瀬氏)
さまざまな産業でUnityの活用が拡大する
VR、ARなどへの応用により、いまやUnityに代表されるゲームエンジンはゲームの枠を超え、さまざまな産業で利用されるようになってきました。特に3Dインタラクティブの技術を利用した業務効率化や教育、販売拡大などの取り組みが増えているようです。
「Honda(本田技研工業株式会社)では新しい車を売り出す際に、3Dでさまざまなエクスペリエンスをビジュアル化してユーザーに伝えます。Unityの利用により美しいインタラクティブプレゼンテーションが1日で制作できるようになっています」(簗瀬氏)
工場など大規模な建築物の設計段階から、MR(ミクスド・リアリティ)で仮想的に施工をシミュレーションしている事例もあります。バーチャルでつくった設計図を実際の現場に持ち込み、ARでリアルと重ねます。完成図を現場でイメージできるので、間違いなどにも気づきやすいARの実用的な使い方と言えます。
「大林組では建設現場をサイバー空間上に再現して、施工計画や施工の打ち合わせ、現場の進捗管理などで活用しています。いまや国内外でUnityはリアルタイム3Dを手軽に実現できるツールとして幅広い産業で役に立っています。Unityには日本語のリファレンスやチュートリアルなどが豊富にありますので、誰もがすぐに始められます。日本にはクリエイティブなUnityユーザーが多く、独創的で自由な取り組みに驚かされています。Unityを活用して新しいことに挑戦してほしいですね」(簗瀬氏)
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