DXへの挑戦は頻繁なデータの送受信が前提となるため、取り組みを進める企業の中にはネットワーク基盤が帯域不足に陥いり、通常業務に支障をきたすケースもあります。このような障壁を取り除くために、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が開発したのがAIを活用したネットワーク分析ソリューションです。現在、本格的な商用化に向けた大詰めの段階を迎えており、複数の顧客企業の協力のもとでPoCを進めています。
今回は本プロジェクトのキーメンバーである森清マネージャーと、システムエンジニアの山口信二郎SEの取り組みを追いました。
本ソリューションは、ネットワーク内を流れる詳細なデータ内容をAIの活用でリアルタイムに可視化し、分析を行います。本プロジェクトで、森はSMをサポートする役割として各案件PJとの調整を行い、山口はSEとしてバックヤードで基盤とAIの開発を担当しています。
NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部
ソリューションサービス部
第二マネージドソリューション部門
第六グループ
担当課長 森清
1984年入社、設備系の保全現場で10年のキャリアを重ねた後にSMへ転身。公共系の顧客に対してソリューション提案を経て、現在の運用系サービスのチームに配属される。本プロジェクトでは、SMをサポートするポジションから、顧客との良好な関係構築を支援する。趣味はコーヒーのおいしそうな喫茶店探しを兼ねた毎日のウォーキング。
本ソリューション開発の発端について、森マネージャーは次のように語ります。
「“ネットワークを流れる詳細なデータの中身をリアルタイムで把握したい”、というお客さまの声が非常に多かったのです。例えば、人事異動やECサイトの特別セールなどで突発的にネットワークが混み合うケースがあります。もし対応が遅れてしまうと業務に支障をきたしたり、経営に悪影響を与えたりする可能性もあるでしょう。ところが、これまではネットワークの利用状況について、月単位の定期レポートなど大づかみにしか状況を把握する術がなかったのです」(森マネージャー)
ネットワークを流れるデータ量は、従来の監視装置を導入すれば把握できるようになります。しかし、そこにも大きな課題があったと、明かすのは山口SEです。
「従来の方式を利用すれば、ネットワークを流れるデータ量は比較的簡単に把握できます。ただ、データの内訳が見えないのです。内訳にもとづいた分析ができなければ、的確な一手は打てません。また、内訳がわかっても、膨大な情報の中から的確な知見を見出すのは難しく、そこでAIのサポートが重要になります。入社以来、データ分析を担当していた私のキャリアを活かせば、この問題を解決できるのではないかと考え、2019年より本プロジェクトを始動させたのです」(山口SE)
本ソリューションは山口SEの手により開発され、現在は複数の顧客のもとでPoC、いわゆる実証試験を重ねているフェイズにあります。
「本ソリューションは、IPアドレスや通信のパケット量だけではなく、アプリケーションの種類などデータの内訳がリアルタイムに可視化できます。これは、医療の現場でいうとレントゲンからCTスキャンに切り替わったような大きな進歩だと考えています。拠点別やアプリ別などのより詳細なデータを収集、分析することにより、キャパシティ管理やトラブル対応を迅速に行えますし、発生前に予防策を講じることも可能です」(森マネージャー)
本ソリューションは、 PoCでの細かい改善やチューニングを重ねたことで完成度が高まり、顧客からの評判も上々だといいます。すでに、森マネージャーは商用化に向けた確かな手ごたえをつかんでいます。
「現在、本ソリューションのPoCは小規模なネットワークのみを対象に実施しています。いずれは、グローバルなネットワークの品質向上にも貢献できるポテンシャルがあると感じています。また、最近急増しているリモートワークでは、ネットワーク経由でウイルス感染するリスクが懸念されています。本ソリューションはボットネットなどの不正データ通信をリアルタイムで検出できますので、そのようなセキュリティ対策においてもお役に立てるはずです」
NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部
ソリューションサービス部
第二マネージドソリューション部門
第六グループ
山口信二郎
2016年に入社。当初はアメリカ、インドなどの技術者と連携し、着実にエンジニアとしてのキャリアを重ねる。その中で、運用系サービスのAPI連携、検索機能、データ可視化といった付加価値を持たせる開発に従事。現在は主に、本記事で紹介した最新ネットワーク分析ソリューションの開発を行っている。趣味はルービック・キューブの早解き。自己最高タイムは10秒だが、世界記録の3.8秒を目指している。
本プロジェクトでは、立場の異なるサービスマネージャーとSEの緊密な連携が大きな力になりました。例えば、山口SEは、森マネージャーと各PJの現場への訪問・打合せに率先して同行しています。
「私たちSEはデスクワークが中心になりがちなのですが、積極的にお客さまのヒアリングに参加し、要件定義にも取り組んでいます。現在は、PoCでのフィードバックを受け、水平展開がしやすいように裏側のプログラムを組み、表側のユーザーインターフェースも使いやすいよう改善を重ねつつ、コアとなるAIの磨き上げをしています」(山口SE)
森マネージャーは、SEが現場に同行することを非常に心強く感じているといいます。
「私は、お客さまからのリクエストを安請け合いしません。双方のイメ―ジにギャップがある場合を想定し、技術的な確証がなければ“イエス”と返事しないのです。難しいのは、お客さまの要望が漠然としている場合です。残念ながら、私にはソフトウェアの知識がなく、改善のイメージを具現化するスキルがありません。ところが、山口に話をするとシステムとして実装レベルにまで仕上げてくれる。現場対応の幅が広げられたことには、感謝しています」(森マネージャー)
山口SEは、現場に同行することで言葉選びの重要さを学んだといいます。
「森マネージャーは、お客さまに説明するときの表現がいつも的確なのです。直近でいえば新型コロナによるリモートワークの急増など、具体的な事象をうまく本ソリューションのダッシュボードグラフに関連付けて提案していました。そうした姿を間近で見ながら、ユーザー目線でどういう価値が発揮できるのかを表現する技術を学びました。以前は技術的な話をしがちだったのですが、現在はお客さまのメリットや利用シーンを伝えるトークを心がけるようにしています」(山口SE)
エンジニアとして、特に山口SEが大事にしていることは「2つの時間」に対する意識だといいます。1つは開発に入る前の構想の時間、そして、もう1つは開発をスタートした後の時間配分です。
「このDX時代ではスピード感が非常に重要だと考えていて、そのために時間の使い方を強く意識しています。構想段階ではお客さまの要望をすぐに開発するのではなく、真のニーズは何なのか、そしてそれは水平展開できる物なのかをよく見定め、開発の可否を判断するようにしています。開発工程では、ソースコードを高い品質で書くことに一定の時間を割きます。きれいなコードを書いた方が後工程を効率化でき、コストも低く、品質の高いものができます。 つまり2つの時間とは、進むべき道を正しく選定する時間と、いざ道を進むときの時間の効率性、というイメージです」
一方、顧客への提案を重ねてきた森マネージャーが仕事で大事にしていることは、“信頼関係”の一言(ひとこと)に集約されると語ります。
「サービスマネージャーは、ITの医者であるべきだと思っています。目の前で困っているお客さまを楽にできる、元気にする対処ができることが一番うれしいし、大きなやりがいを感じています。」(森マネージャー)
作り手である山口SEは、自らが開発した本ソリューションが顧客のDX推進に役立ち、それが豊かな社会を築く一因となってほしいという想いを持っています。
「ビッグデータの解析はDXに欠かせない要素ですが、最適なネットワーク基盤がないと頓挫する可能性があります。そんな障壁を本ソリューションで取り除き、DXをどんどん加速していただきたいと考えています。お客さまのさまざまなDXが社会に浸透し、世の中の人々を幸せにできれば、これ以上の喜びはありません」(山口SE)
本プロジェクトは始動して1年足らずで確かな成果を得ましたが、まだまだ本番はこれから。大きな可能性に満ちていると森マネージャーは自負しています。
「ネットワーク上のデータのみならず、天気や気温といった多様なデータと組み合わせて相関分析すれば、さらに新しい付加価値が生まれるかもしれません。これは私たちのチームだけではなく、NTT Comグループ全体を巻き込んで進めるべき施策です。そして、本ソリューションで大きな成果を出すという“サービス+αの価値”を実現することで、多くのお客さまから名指しでパートナーに選んでいただけるブランド、キャリアを目指したいと思っています」
※肩書き、プロフィールは取材当時のものです