ICT運用の最前線!熱きプロフェッショナルたちの物語 vol.13「6,000回線のマイグレーション! 難解なパズルを解くように挑む」 ICT運用の最前線!熱きプロフェッショナルたちの物語 vol.13「6,000回線のマイグレーション! 難解なパズルを解くように挑む」 ICT運用の最前線!熱きプロフェッショナルたちの物語 vol.13「6,000回線のマイグレーション! 難解なパズルを解くように挑む」

加入電話の契約数が減少し、さらには電話交換設備の維持も限界を迎えようとする中、NTTでは2020年ごろより2025年にかけて順次、固定電話で使用されるPSTN(Public Switched Telephone Network:公衆交換電話網)からIP網への完全移行を計画しています。これにより、メタル回線で提供される専用線などのサービスは収束へ向かっており、光アクセス回線へのマイグレーションが各所で進んでいます。とりわけ多拠点、多店舗でメタル回線を導入しているケースでは、そう簡単には光アクセス回線に乗り換えられない悩ましい課題があるようです。

通常、このようなマイグレーションは回線専門のチームが担当します。しかし、回線数が数千レベルの大規模案件になると、円滑にミッションを進めるためにプロジェクトマネージャーの手腕が必要となるため、別部門にエスカレーションされることも珍しくありません。ときには、その任をサービスマネージャーが担当することもあります。今回はメタル回線の大規模マイグレーションを担った、2人のサービスマネージャーの苦悩と挑戦の日々をレポートします。

本職ではない2人に白羽の矢が立ったワケ

NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部
ソリューションサービス部
第一マネージドソリューション部門
第三グループ
主査 本間敬一

1980年入社。アナログ電話交換機の故障対応、デジタル交換機のデータ設計、ISDNの拡販など、つねに最先端技術に関わってきた豊富なキャリアを持つ。そこで得た知見を活かし、20年以上にわたりサービスマネージャーとして活躍。趣味は実家を改装したオーディオルームで音楽を鑑賞すること。

 本間敬一サービスマネージャーは、「過去の異動で多くの部署を経験したこと、それが財産となっています」と、自身の職歴を語ります。

「もともとは技術職として入社したのですが、サービスを拡販するイベントの運営に携わったこともあれば、営業的な現場にいたこともあります。さまざまな現場の最前線を見てきた経験を活かし、現在は製造、公共、金融などの案件にサービスマネージャーとして関わっています」(本間・敬)

 一方で「回線系サービスの終了に伴う移行を多く手がけてきた」というキャリアを持っているのは本間仁英サービスマネージャーです。

「前職では、CAPTAINサービス、DDX-TPなどのサービスから、新しいサービスへと移行するお客さまのお手伝いをする業務に携わっていました。2011年に組織変更に伴って運用保守の担当になり、現在は公共系案件などのサービスマネージャーを務めています」(本間・仁)

 2人に思わぬプロジェクトが舞い込んできたのは、2017年のこと。それは6,000を超えるメタル専用線を光アクセス回線にマイグレーションするという大規模なものでした。

「最初に聞いたとき、これ本当に私たちがやるのと耳を疑ってしまいました(笑)。運用保守を担当する私たちの業務とはかけ離れていると思ったのですが、プロジェクトマネージャーとして参加することになりました」(本間・敬)

 想定外の白羽の矢が立った理由は、2人がITの最前線でITの変遷を目の当たりにしてきた得た知見と、多くの回線系サービスのマイグレーションに携わってきた経験を買われたためです。

「これまで確かに複数の移行案件に関わってきましたが、ラストワンマイルの物理的な回線の経験はありませんでした。未知の領域に対して少なからず不安を感じていたのも事実です」(本間・仁)

難解なビジネス構造のパズルを解いていく

 2人が担当することになったのは、日本全国に販売網を持つ公共系システムです。対象となったのは、運用センターと全国の販売店をつなぐ約6,000件の専用線のマイグレーションでした。最初の壁として立ちふさがったのは、サービスの販売を複数の事業者に委託するB2B2Cモデルの事業形態という複雑なビジネス構造です。

「最終クライアントのA社からサービス販売システムを一括受注するB社があり、そこから依頼を受けてマイグレーションを担当することになりました。ところが、A社が販売を委託するC社はB社と直接的なつながりがなく、さらにC社は全国販売する上でフランチャイズ制を導入しており、直営店舗以外に1,000件を超える販売事業者様が存在したのです」(本間・敬)

A、B、C社、販売事業者、NTT Comの関係図

 そこで2人が最初に取り組んだことは、多くのプレイヤーからなる複雑なビジネス構造を読み解くことでした。結果的にA社がB社とは別に事業を委託するC社が販売事業者に対してコネクションを持っていることが判明。C社の力添えのもとで、各販売事業者へのマイグレーションの調整を行うことになります。

「販売事業者さまは1,000件を超え、個人で1店舗を運営しているケースもあれば会社として複数店舗を運営するケースもあります。それら1社、1社と個別交渉を行い、合意を得ることが次のミッションでした。しかし、サービスを販売する販売事業者さまにとって、通信回線はお客さまのビジネスを支える重要なインフラではありますが、けっして表に出すぎてはいけない裏方のような存在です。こちらの都合で回線の切り替えを説得することは、当然なのかもしれませんが容易ではありませんでした」(本間・仁)

 一般的なB2Bのシステムであれば、お客さまがトップダウンで各拠点に指示を出し、マイグレーションを一括して行います。しかし、本件はB2B2Cのため、各販売事業者に働きかけるボトムアップの対応が必要でした。

「普通はお客さまの要望を受けて新しい回線を導入するわけですが、今回はそうではありません。そのため、現地の販売事業者さまとの温度差、意識の乖離を解消することが最初の課題でした」(本間・敬)

全国行脚で4,000回線の移行をやり遂げる

 工事日程を調整するため、2人は熱心に販売事業者のもとへ通い、交渉を行いました。最初は取り付く島もない状況でしたが、徐々に地道な取り組みが実を結びはじめたといいます。

NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部
ソリューションサービス部
第一マネージドソリューション部門
第三グループ
本間仁英

1999年よりNTTのグループ会社でCAPTAINサービス、第二種パケット通信といった回線系サービスの移行を支援する販売推進を担当。2011年より現職でサービスマネージャーとして業務を行う。趣味は一人で気ままに楽しむドライブ。イタリア車独特の微妙なエンジン音をこよなく愛している。

「販売事業者さまに信頼していただくため、まずはコールセンターのメンバーから個別の電話案内を行いました。そこで質問が多かった項目については資料をまとめて配布し、理解の促進を図りました。さらに、工事の工程をいくつかのステップに分け、丁寧に説明をしながら工事を進めるといった工夫もしました」(本間・仁)

 イベント運営の経験を活かした全国キャラバン、個別の販売事業者への説明会も展開しました。

「プロジェクト始動時に全国キャラバンの提案をしたものの、場所がない、権限もないという理由で保留となっていました。しかし、マイグレーションを進めていくと案の定、お問い合わせが殺到します。この状況を打破するために1社、1社にアポを取って全国で説明会を開催。地道に足で稼いで信頼関係を築きながら、関係者を巻き込んでいくことでプロジェクトは加速していきました」(本間・敬)

 過去のマイグレーションの経験で得た顧客の事業を理解し、顧客目線に立って物事を進めていったことも追い風になったといいます。

「お客さまの商売を理解し、忙しい時期の立ち入り工事は控える、あるいは高齢なお客さまに代わり夜間工事に立ち会うなど、少しでも負担を軽減できるような心配りで取り組みました。3,000回線を超えたあたりから、チームの心が1つになりだしたことを今でも覚えています。その後は、全員の気持ちが同じゴールに向いたことで、4,000回線の移行が完了することができました」(本間・仁)

「プロジェクトの進行については、過去の経験を活かすことができました。私は、以前ISDNの工事調整をした経験、新ビル建築時に回線・配線の設備を導入した経験などがあったことから、プロジェクトのトラブル対応が行えました。そうしたノウハウがプロジェクトを進める上で役に立ちました」(本間・敬)

 こうして、2017年にスタートした第1期のマイグレーションは約2年で終了。2020年には、第2期マイグレーションのプロジェクトが始動しています。

たくさんの人の営みを支えるITの役割を再認識する

 第2期のマイグレーションプロジェクトは、第1期で移行できなかった約2,000回線が対象となっています。2022年度内までに移行を完了させるという、プロジェクトの大詰めとなる取り組みです。

「現在進行中の第2期は、有線の光回線に加え、無線のモバイル回線も選択肢として検討をしています。無線であれば物理的な工事が少なく、お客さまの設置環境によってはメリットがあります。販売事業者さまの環境に合わせて、うまくハイブリッドで提供することできれば、順調に進められるのではないかと思っています」(本間・仁)

 現在、2022年度内のゴールに向けて第2期のマイグレーションは進んでいますが、すでに完了後の次の一手も構想中だといいます。

「第2期が無事に完了できたら、日本全国を網羅する大規模なネットワークが完成します。そこでNTT Comのサービス、テクノロジーを展開することでお客さまビジネスに新たな付加価値もたらす取り組みにもチャレンジしていきたいですね。また、今回の大規模なマイグレーションで得たノウハウを社内で共有し、同じような案件の取り組みを効率化していく計画もあります」(本間・敬)

「今回のプロジェクトは調整などに苦労したため、全国キャラバンに出向いて説明した際に『うちは協力するよ』、マイグレーションを終えた際に『大変だったね』といった、ねぎらいの言葉をいただいた時はうれしかったですね。どれほど高度なシステムであっても、一人ひとりの感情、個性を持った利用者がいて、ネットワークでつながることで事業や暮らしの営みが動いている。そうしたことを再認識できたことが最大の収穫かもしれません」(本間・敬)

※肩書き、プロフィールは取材当時のものです

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