生成AIの活用を加速する
Azure OpenAI Serviceの実力とは

業務効率化、顧客満足度の向上などに向けて、ChatGPTなどの生成AIをビジネスで活用するケースが急増しています。そういった中でMicrosoftが満を持して世に送り出した「Azure OpenAI Service」は、企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。

生成AIの活用を加速するAzure OpenAI Serviceの実力とは

Azure OpenAI ServiceはAIモデルをAPI経由で使用できる

AI(人工知能)や機械学習の進化が、生活やビジネスに大きな変革をもたらそうとしています。とりわけOpenAIが開発したChatGPTに代表される生成AIは、最も注目されているAIの領域であり、ビジネスでの活用において、業務効率化や顧客満足度向上といった多くのメリットが期待されています。

そのような中、MicrosoftはAzure AI Services(旧・Azure Cognitive Services)が提供するサービスの1つとして、2023年にAzure OpenAI Serviceをリリースしました。Azure OpenAI Serviceは、Microsoft Azure上でChatGPTをはじめ、さまざまなAIモデルをAPI経由で使用できるサービスです。

ちなみにChatGPTは、OpenAI社が開発した自然言語処理ができるGPTシリーズを用いた対話型AIサービスです。インターネット上の過去の情報を網羅的に学習することで、質問に答えるだけでなく、質問の前提に含まれる誤りを指摘する、適切ではない質問を拒否するといった自然な会話による回答が可能という特長があります。リソース構築は不要で、登録すればすぐに無料で利用できる(モデルにより料金・価格が発生)手軽さも魅力です。すでにビジネスのさまざまな領域で文章の要約や添削・翻訳、議事録の作成やメール文面の作成、コードの生成、アイデア出しなどへの活用が見込まれています。ChatGPTには自然言語処理モデルがあり、2020年にリリースのGPT-3、後継のGPT-3.5、GTP-4などが知られています。

なお生成AIへの質問、いわゆる命令や指令のことをプロンプトと呼びます。命令・指令の内容によって回答の精度が変わるため、求めている回答を得るためにはプロンプトの書き方を工夫する必要があります。たとえば、できるだけ明確かつ具体的に書く、回答の参考になる情報や回答例を記載する、完璧な回答が得られない場合は何度も修正を依頼するなどです。

しばしば、生成AIと比較されるのがキーワード検索です。両者の大きな違いは、生成AIがデータから学習したパターンや関係性を活用して新しいコンテンツを生成するのに対し、キーワード検索はユーザーが入力したキーワードを基準としてファイル名やファイル内容に含まれるキーワードを検索結果として表示する点です。一見、生成AIの方が優れているように感じられますが、生成AIは人間のように情報を意味として理解していません。生成される情報の根拠が乏しいなど、不要な情報が混在することも起こり得ます。それに対して、キーワード検索はユーザーの入力がダイレクトに結果に反映されます。適切なキーワードと信頼できる検索システムにより、情報へのアクセス性が非常に高いという特長があります。現時点では生成AIとキーワード検索は一長一短となっており、ユーザーの用途、目的に応じて使い分けていく必要があります。

Azure OpenAI Serviceならセキュリティリスクが軽減される

手軽さや利便性の高さから、企業内のユーザーによるAIの活用は広がっており、ある調査によると「AIを導入し、本格的に活用している」を回答した企業はまだ11.5%にしか過ぎなかったものの、「試験的に活用している」「導入を準備・検討している」を加えると約5割にまで達しています。このようにAIを活用する動きは加速しつつあるため、おそらく半年後、1年後には多くの企業内のユーザーによる活用が進むと考えられます。

出典:Reskilling Camp「ChatGPT活用状況」Reskilling Campリスキリング調査レポート特別編_2023年5月版P5」

総務省が行った生成AIを含むデジタルテクノロジーの利用状況等のアンケート調査において、業務における生成AI活用による効果・影響について聞いたところ、75%が「斬新なアイデア/新たなイノベーションがうまれる」(「そう思う」と「どちらかというとそう思う」の合計、以下同様)、74.7%が「業務効率化や人員不足の解消につながる」と回答していました。その一方で、「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクが拡大する」「著作権等の権利を侵害する可能がある」という回答がともに69.9%あり、生成AIの効果を期待しつつも、リスクを懸念する慎重な姿勢も伺えます。

出典:総務省(2024)「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究

Azure OpenAI Serviceは、生成AI活用による効果を期待する一方、セキュリティ面などで懸念しているユーザーの不安を軽減するサービスとなり得ます。以下に、その背景を述べていきます。

生成AIでの回答の精度を上げるためには、大量のデータを処理する必要があります。学習によって新たな知見を導き出すプロセスで扱われるデータの中には、個人情報や機密情報など、セキュリティ上保護すべき情報も含まれることがあるためビジネスでの利用においては注意が必要です。万一、生成AIが不正にアクセスされた場合、データ漏えいの危険性が考えられます。さらにAIが生成する情報の信頼性を損なう、もしくはAIそのものが悪意を持って操作される可能性もゼロではありません。

これらの「データ保護」への具体的な対策としてユーザーが取り組むべきことは、データの暗号化、厳格なアクセス制御やID管理、ネットワークのセキュリティ強化などが挙げられ、適切なセキュリティプロトコルの遵守も必須になります。現在、新たにOpenAI社よりデータの安全性を高めた大企業向けサービスの提供が開始されているため、今後はChatGPTの導入がさらに加速することが見込まれています。なお、現行のChatGPTでもオプトアウト設定を行うことで、入力した情報がAIに学習・記録されなくなる対処が可能です。入力情報が他者の回答に出力されないため、データ保護の観点から個人情報や機密情報の外部流出のリスクが大きく低減できることは間違いないでしょう。しかし、新旧問わずすべてのChatGPTはオープンなインターネット接続で利用され、社外にあるクラウド環境で運用されるため、情報漏えいのリスクが残ってしまうことには留意すべきです。

現在、顧客や社会に対してAIの公平性・透明性を担保する方法論「責任あるAI(レスポンシブルAI)」が注目されています。これはAIの潜在的なリスクに企業や組織が責任を持って取り組み、開発したAIが安全で信頼できること、バイアスがないことを保証し、そのための指針として掲げる内部ポリシーや基本原則、プラクティスを含めた方法論です。この方法論にもとづいてAIを設計・構築・展開することで、人間中心のAI活用が実現できるようになるというものです。

こうした「データ保護」と「責任あるAI」の課題をクリアできるのがAzure OpenAI Serviceです。

Azure OpenAI ServiceとChatGPTの違い

Microsoftでは「責任あるAI」の6原則を定めています。それは、すべての人を平等に扱い、個人の特徴にもとづく差別を防ぐ「公平性(Fairness)」、さまざまな条件下で確実かつ安全、一貫して動作する「信頼性(Reliability)と安全性(Safety)」、個人情報と機密情報を保護してプライバシーを尊重、セキュリティを維持する「プライバシー(Privacy)とセキュリティ(Security)」、すべての人に利益をもたらすエクスペリエンスの設計に役立つ「包括性(Inclusiveness)」、どのような決定を下すかを誰もが把握できる「透明性(Transparency)」、AIシステムと開発者が説明責任を負う「アカウンタビリティ(Accountability)」です。この6原則にもとづいてAOAIは提供されます。

Azure OpenAI Service(以下、AOAI)は、大規模言語モデルを利用したテキスト生成でさまざまなタスクを実行できるという特長があります。加えて、独自のデータを学習に使用できる機能「On Your Data」を活用することで、ユーザーは自社の保有する技術情報などの独自データを参照して高精度な回答を生成することも可能です。さらに大規模言語モデルでのテキスト生成のほかにも、自然言語から画像を生成する画像生成モデル「DALL-E」、単語や文章などをベクトルに変更する埋め込みモデル「Embedding」、音声から文字起こしや翻訳を行う音声認識・翻訳モデル「Whisper」、テキストを自然な音声に変換する音声合成モデル「Text to Speech(TTS)」などのAIモデルを目的に応じて利用することも可能です。

ChatGPTとAOAIとの違いは、利用方法は前者がクラウドベース、後者がブラウザーベースとなっています。認証方法は、ChatGPTはAPI KEYでの認証のみですが、AOAIはAPI KEYに加えてAzure ADでも認証可能です。さらに接続方法は、ChatGPTはインターネットでの接続のみで、AOAIはインターネットに加えて閉域接続(ExpressRoute)でも利用できます。また機能としては、テキスト生成のみのChatGPTと比較すると、AOAIはテキスト生成、画像生成、音声認識AIを搭載しているため、多様な用途で活用できます。さらに柔軟なSLAの提供や、入力データがモデルの学習に利用されないなど、ChatGPTにはないメリットが得られます。

AOAIはクラウドベースで提供されるため、状況に応じてリソースのスケールアップおよびスケールダウンが柔軟に行えます。さらにMicrosoft Azure上の仮想サーバーやマネージドサービスといったリソースと組み合わせて利用できるため、柔軟かつ高度なアプリケーション開発がワンプラットフォーム上で可能になります。そして、Microsoftが満を持して定めた「責任あるAI」の原則「プライバシー(Privacy)とセキュリティ(Security)」にもとづき、インターネット接続だけでなく閉域接続でも利用でき、入力データがモデルの学習に利用されないため、安全なセキュリティも担保できます。

これらの違いから、AOAIはセキュリティや品質の担保が必要な企業や組織での利用、本番環境としての利用、ChatGPTはAIサービスの試験的な利用や最新モデルの技術検証などに適しているといえるでしょう。まず企業内のユーザーはChatGPTで試験的にPoCを回してみて、ビジネス活用の効果が見込めたらAOAIに切り替え、ChatGPTをはじめ多様なAIモデルを本番環境に実装するイメージでしょうか。

Azure OpenAI Service活用のメリット・デメリット

それでは、AOAI活用のメリットについて具体的に説明していきます。まず「クラウドベースで容易に導入できる」ことです。AIモデルの実行環境を用意されているため、運用するコストが大幅に抑えられ、デプロイまでにかかる時間も短縮できます。さらにAIモデル以外の必要なコンポーネントやITインフラも簡単に調達できるため、生成AIアプリケーションの開発から運用管理までを低コストで実現できます。

続いて「多彩なAIモデルが利用できる」ことです。前述したテキスト生成や画像生成といったAIモデルに加え、Microsoft Azure上で提供されるワークフローを自動化するサービス「Azure Logic Apps」や、チャットボットを構築できるサービス「Azure Bot Service」といったサービスやツールとのシームレスな統合が可能です。これにより、既存システムなどに生成AI機能を簡単に追加できます。

3つ目のメリットは「安全なセキュリティ対策のもとで利用できる」ことです。Microsoftの「責任あるAI」の6原則にもとづき、厳格なコンプライアンスとセキュリティ基準で保護された機密性の高い環境で利用できます。閉域接続で安全に利用できることや、入力データがモデルの学習に利用されないことに加え、ビジネス利用に適した柔軟なSLA(サービス品質保証制度)が提示されています。

一方でAOAIの活用においては、いくつかのデメリットもあるので注意が必要です。まず「必要なリソースに応じて料金が発生する」ため、費用対効果を見据えた上で実装を進めていく必要があります。さらに「プログラミングやAI技術に関する知識が必要になる」ため、専門人材の確保や育成、あるいは外部パートナーとの連携も視野に入れておくべきでしょう。「パフォーマンスによって処理速度低下のリスクがある」ため、状況に応じた仮想マシン(VM)やストレージ容量の調整も重要になります。そして「クラウドベースのためデータセキュリティの問題が発生する」ため、いくら閉域接続を利用、入力データが学習されない状況であっても、念入りなセキュリティ対策の徹底も心掛けるべきです。

Azure OpenAI Serviceをスムーズに導入・活用するなら

AIのビジネス利用は比較的新しい潮流のため、おそらく導入に関して十分な知見や技術をお持ちの企業はそこまで多くないのではないでしょうか。そのため、AOAIの導入にあたってはAIに精通したパートナー選びが重要になってきます。たとえば、NTT ComはMicrosoftのソリューションパートナー認定を取得し、Datadogのパートナプログラムに参画しています。さらにドコモビジネスが提供する「Azureマネージドサービス(X Managed®)」は、Microsoft Azureはもちろん、AOAIの導入から運用、活用までトータルに支援するソリューションです。

グローバルにも対応可能な導入実績を生かし、導入に向けたコンサルティングから設計、構築、ライセンス提供、運用保守、維持管理、エンドユーザーヘルプデスクまで一気通貫で提供。各リージョン間のネットワーク遅延やコストを最適化した設計・導入が可能です。さらに、AOAIをはじめとしたMicrosoft Azureのさまざまなサービスとお客さまの社内システムをVPNで閉域接続する「Flexible InterConnect」の提供により、安全・安心なマルチクラウド・ハイブリッドクラウド環境が実現できます。加えて、Datadogによるクラウド上のフルリソースの見える化でICT運用の効率化、全体最適化を支援します。セキュリティ面においても、クラウドと外部との境界線、クラウド上のシステム、基盤設定というセキュリティ対策の3つのポイントを保護するだけでなくMicrosoft Azure特有の新たなリスクである、基盤設定のミスに対するセキュリティソリューションを提供します。

ドコモビジネスでは「Azure短納期モデル」も提供しており、約5営業日の短期間でMicrosoft推奨(※1)のライセンスを含めたMicrosoft Azure基盤環境を実現。基本的な共通機能「Hub リソース」とお客さまごとに必要な機能「Spoke リソース」という2つのリソース群を組み合わせることにより、お客さまごとの要件に合わせた基本的なMicrosoft Azureの基盤環境を提供します。

※1:Azure Cloud Adoption Framework (Azure CAF) と呼ばれる Microsoft が推奨している Azure の標準構成ガイドラインのこと

さらに、ドコモビジネスでは生成AIを活用した業務効率化を取り巻く課題を解決する「社内情報検索&生成アプリ」も提供しています。これはインターネットに接続せず、お客さまが所有するデータのみを活用して回答を生成するRAG構成を採用することで、安心して生成AIの試験環境を構築し、PoC回すことができるアプリケーションです。たとえば、「嘘の情報が出力されないか不安」「想定した回答で出てこない」「費用がかかりそう、導入が面倒」「セキュリティ対策や監査対応は大丈夫」」といったお客さまのさまざまな不安が払しょくできるまで、納得いく成果が出るまでミニマムコストでPoCが回せます。

ドコモビジネスをパートナーに選んでいただければ、「Azureマネージドサービス(X Managed®)」がゼロからのAzure導入はもちろん、高度で洗練されたAOAI活用による業務改革を強力に後押しします。まずはお気軽にご相談ください。

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