IT投資における「攻めのIT」と「守りのIT」とは?
IT投資の視点には「攻めのIT」と「守りのIT」の2つの側面が存在し、それぞれの役割や目的は大きく異なります。
「攻めのIT」は企業の成長やイノベーションを支える戦略的投資であり、「守りのIT」はシステムの安定性やリスク管理を目的とした必要不可欠な投資です。
本記事では、2024年以降も増加が見込まれるIT投資について、「IT投資」の視点から、「攻めのIT」と「守りのIT」の違いや、の背景、対象、方法、結果、今後の可能性などについて解説します。

IT投資とは
IT投資とは、企業がITを活用して競争力を高め、業務効率化や新たな事業価値を創出するために、予算を配分することをいいます。
IT投資の範囲は、ソフトウェアやハードウェアの購入、インフラ整備から、人的リソースや外部サービスの利用まで、関連する要素は多岐にわたります。
IT投資を成功させるためには、企業のビジネス目標や運用環境に適した適切な戦略の構築が欠かせません。
特に、IT投資には「攻めのIT」と「守りのIT」という2つの側面があり、それぞれ異なる目的と効果を持っています。
近年、デジタル化の波はあらゆる産業に影響を与えており、小売業を始めとした多くの国内企業でIT投資が増加しています。その背景には、Webページを通じた顧客へのサポート体制強化や、業務効率化による人材不足への対応、そして新たなビジネスチャンス獲得への期待などがあります。
IT投資の対象となる内容は多岐に渡ります。たとえば、新着情報の配信や動画コンテンツの充実といったWebページ向けの施策、顧客登録ページの改善、業務効率化のためのシステム導入、データ分析基盤の構築などが挙げられます。
日本のIT投資の動向
総務省の調査「令和6年版 情報通信白書」によれば、2022年の我が国の民間企業による情報化投資は、2015年価格で15.8兆円(前年比0.4%増)でした。種類別では、ソフトウェア(受託開発及びパッケージソフト)が9.7兆円となり、全体の6割近くを占めているといいます。
これは、2022年の民間企業設備投資全体から見ると、情報化投資比率は17.9%で、前年比0.2%減となっています。
日米間で情報化投資の推移を比較すると、米国がリーマンショック時(2008年から2009年)に伸び悩んだ以降は急速な回復を見せている一方で、日本はリーマンショック直後の落ち込み幅は小さかったものの、以降の回復は米国よりゆるやかになっています。

2024年以降も、IT投資はさらに増加すると予想されます。AIやIoTといった新たなテクノロジーの進化、そしてデジタル化の更なる進展に伴い、IT投資の重要性はますます高まるでしょう。
ただし、IT投資にはリスクも伴います。導入したシステムが期待通りの効果を発揮しない、セキュリティ問題が発生するといった可能性も考慮しなければなりません。
「攻めのIT投資」と「守りのIT投資」の違い
「攻めのIT投資」「守りのIT投資」という言葉を聞いたことのある方は多いでしょう。
それぞれについて、確認していきます。
攻めのIT投資とは
「攻めのIT投資」とは、企業の成長を加速させ、新たな事業価値を創出するための戦略的な投資を指します。競争力を強化し、イノベーションを推進するための原動力となります。
収益拡大や市場シェア拡大に直結することから、特に競争が激しい業界では必須の戦略といえます。
「攻めのIT投資」の具体例としては、以下が挙げられます。
- 新規事業開発…IoTやAI、ビッグデータを活用した、革新的なビジネスモデルの構築。
- 顧客体験の向上…顧客体験を改善するためのマーケティングツールや、データ分析基盤の導入。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進…既存業務の革新や新たな市場開拓のための最新技術の導入によるビジネス変革。
守りのIT投資とは
一方、「守りのIT投資」とは、企業のシステムやデータの安定性を確保し、リスク管理を目的とした投資のことで、日常業務の円滑な運営や事業継続性を支える重要な役割を果たします。
守りのIT投資は、企業が安定して運用を続けるための基盤を構築するもので、トラブルによる損失を最小限に抑えます。
また、システム管理の効率化により、コスト削減効果も期待できます。
「守りのIT投資」には、具体的には以下のような取り組みがあります。
- 情報セキュリティ強化…サイバー攻撃や情報漏えいのリスクを防ぐための対策。
- 業務継続計画(BCP)…災害やシステム故障発生時の迅速な復旧体制の構築。
- 既存システムの維持・運用…老朽化したITインフラの更改や最適化。
「攻めのIT」と「守りのIT」をバランス良く組み合わせることが、持続的な企業成長の鍵です。
「攻めのIT投資」が求められている理由
「攻めのIT投資」について、もう少し詳しく見ていきましょう。
以下で、「攻めのIT投資」が求められる主な理由を解説します。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、既存のビジネスプロセスを革新し、新しい収益モデルを創出するための重要な取り組みとして注目され、日本でも経済産業省を中心に推進されています。
DXを成功させるためには、攻めのIT投資が必要です。デジタルのチカラを注ぐポイントだと言えるでしょう。
DXに予算、リソースを投下することで、以下のような効果が期待できます。
- 業務の変革(効率化)…クラウドやAI、IoTを活用して業務を自動化、効率化できる。
- 新規事業の創出…データ分析を活用し、顧客ニーズに応える新しいサービスを提供できる。
- 迅速な市場参入…最新技術の導入により、競合他社に先行して新市場の開拓や参入を実現できる。
顧客体験(CX)の向上
現代の顧客は、よりパーソナライズされた顧客体験や価値を求めています。
攻めのIT投資によって、次のような手法を活用しながら顧客満足度を向上させられます。
- 顧客データの活用…ビッグデータ分析によって顧客の嗜好を理解し、ターゲットに合わせた商品やサービスを提供できる。
- MA(マーケティングオートメーション)の活用…効率的なプロモーション活動を通じて、顧客とのエンゲージメントを強化できる。
競争力の維持と向上
急速に変化する市場環境の中で競争力を維持するためには、積極的なIT投資が不可欠です。「攻めのIT投資」は、以下の点で競争力の強化に貢献します。
- 市場シェアの拡大…競合他社よりも優れたITインフラを構築することで、迅速な意思決定を可能にし、シェアの拡大に結びつけられる。
- 新技術の先行導入…AIやブロックチェーンなどの先端技術を活用することで、リーダーとして業界を牽引できる実現性が高まる。
このように、攻めのIT投資は、企業の未来を切り拓くための重要な鍵となります。
攻めのIT投資4つのステップ
攻めのIT投資で効果を得るためには、戦略的かつ段階的に進めることが重要です。
ここでは、攻めのIT投資を実施する際の4つのステップをご紹介します。
【STEP1】IT導入前の状況
まずは、現状の業務プロセスやIT環境を徹底的に分析しましょう。
そして、課題やボトルネックを明確にし、IT投資が必要な分野を特定します。
STEP1での主なアクション
- 業務プロセスの可視化
- コストや効率性の分析
- 現状のITシステム運用課題の抽出
- ステークホルダーの意識改革
【STEP2】置き換えステージ
STEP1で洗い出した現状の課題を解決するために、基本的なIT導入を行うフェーズです。
STEP2では、主に既存のシステムや業務プロセスの置き換えを目指します。
STEP2での主なアクション
- 基本的なシステム刷新(例:オンプレミスからクラウドへの移行など)
- 必要最低限のIT投資を実施する
- 期的なコスト削減を目指した運用最適化を行う
【STEP3】効率化ステージ(守りのIT投資)
つづいて、ITシステムを安定化させ、効率的に運用するための取り組みを行います。
STEP3では、守りのIT投資が中心となり、リスク管理や安定性、可用性の向上を図ります。
STEP3での主なアクション
- セキュリティの強化(多層防御や振る舞い検知、データ暗号化の導入)
- ITシステムの運用自動化と最適化
- ITコスト管理と効率向上のためのデータ活用
【STEP4】競争力強化ステージ(攻めのIT投資)
最後に、攻めのIT投資を通じて競争力を強化します。
STEP4では、ITを活用して新しい価値を創造し、ビジネスの成長を促進しましょう。
STEP4での主なアクション
- 顧客体験を向上させるITソリューションを導入する
- DX推進による新しい収益モデルを構築する
- ビッグデータ分析やAIを活用し、意思決定の迅速化を図る
まとめ
IT投資は、2024年以降も国内企業にとって不可欠な成長戦略です。現状の課題を正確に把握し、適切な投資を行うことで、企業は大きな成果を得ることができるでしょう。 変化の激しいIT業界において、最新の情報を常に取得し、柔軟に対応していくことが重要です。
特に「攻めのIT」と「守りのIT」は、それぞれ異なる目的を持ちつつも、企業の成功においては相補的な役割を果たします。
これらの2つの視点をバランスよく取り入れることで、企業は変化の激しい市場環境に対応し、長期的な競争力を確保することが可能になるでしょう。
今回の記事や関連する資料を参考に、ぜひIT投資計画を成功させてください。