業務効率化に欠かせないESMとは?
ITSMとの違いや注意点を解説
社内サービスの向上と継続的な改善のために、近年ESM(エンタープライズサービスマネジメント)の導入が重要視されています。しかし、いまだに業務のIT化やIT環境の整備が進んでいない企業は多く、自社には必要ないと考えている企業も少なくありません。
この記事では、業務効率化やコストカットに欠かせないESMの概要やITSMとの違い、導入するメリットなどについて解説します。
目次
ESM(エンタープライズサービスマネジメント)とは
ここでは、「ESM(エンタープライズサービスマネジメント)」とはどのような仕組みを指すのかについて解説します。
「ITSM(ITサービス管理)」の概念を広げたもの
一般的に、ESMとは「ITSM(ITサービスマネジメント)」の概念を広げて、IT以外の部門も含めたサービス全体を管理する仕組みのことです。そもそもITSMは、組織や企業が社員や顧客に安定したITサービスを提供したり、継続的に改善したりする仕組みを指します。ITSMは主にIT部門が主体となってITサービスを管理するために、採り入れる企業が増えているのです。
組織や企業には、人事や経理など幅広い部門があり、それぞれのサービスを提供することで事業を支えています。例えば、ITシステムを提供する企業でも、優秀な人材の確保や育成、コスト管理、お問い合わせ対応など、IT部門だけでは顧客に高品質なサービスを提供できません。そこで、あらゆる部門・サービスの安定化、継続的な改善を行うことの重要性が高まり、新たにESMという仕組みが誕生しました。
ESMとITSMの違い
ESMとITSMの大きな違いとなるのが、サービスの範囲です。ESMは組織や社内のサービス全体を対象としている一方、ITSMはITサービスにのみ焦点を当てています。ESMが対象とするサービスのほうが範囲は広く、ITSMはESMで実施するマネジメントの一つとしても考えられるでしょう。
また、顧客満足度の向上や業務効率化などを実現するためには、ESMのように広範囲でサービスをマネジメントするのが効果的です。そこで、もともと取り組んでいたITSMの範囲を拡大させてESMを導入した会社も増えています。
ESM・ITSMの導入に欠かせない「ITIL」
ESMはITSMの概念を広げたものであるためESMを導入するときには、ITSMの導入時に活用される「ITIL」について知っておくことも大切です。ここでは、ITILの概要、ITILを構成する5つのカテゴリについて解説します。
ITILとは
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とは、ITSMの成功事例を記した書籍・ガイドラインのことです。ITSMの導入時のマニュアルや、運用時の実務マニュアルなどに応用・参考されており、ITサービスの運用効率化や品質向上の実現に大きく貢献しています。
また、ITILはITサービスや技術の変化に合わせて改訂されており、2019年にも改訂版であるITIL®4がリリースされました。ITIL®4では、大きく3つのカテゴリから構成されており、カテゴリごとに必要な取り組みなど記されています。そのため、カテゴリごとに記された内容を理解し、自社の業務内容やIT環境に合わせて活用することが、効果的なITSM・ESMの導入につながるでしょう。
ITIL®4の構成要素①:SVS(サービスバリューシステム)
SVS(サービスバリューシステム)は、「機会/需要」から「価値」へと変わっていく過程を概念として表したものです。需要と価値の間には、以下の5つの要素があります。
- SVC(サービスバリューチェーン)
- ガバナンス
- プラクティス
- 継続的改善
- 従うべき原則
また、各要素はSVCを中心とした構造となっています。SVCの外側にSVCの実行に必要なガバナンスとプラクティスが位置し、その外側に継続的改善と従うべき原則が位置する構造です。つまり、需要から価値を創造するためには、単に製品・サービスを提供するだけでは実現できません。改善と原則を前提に、ガバナンスとプラクティスを用いて製品・サービスを創り出すことで価値が生まれることを表しています。
ITIL®4の構成要素②:SVC(サービスバリューチェーン)
SVSの概念の中心であるSVCも、ITIL®4の重要な構成要素の一つです。SVCとは、需要に対応した価値のある製品やサービスの開発・提供などにまつわる、一連の活動のことを指します。この一連の活動を通して、最終的な結果が「勝ち」となるまで、どのように貢献するかを可視化しているのが特徴です。
SVCは、主に以下の6つの活動によって構成されます。
- 計画(Plan)
- 改善(Improve)
- エンゲージ(Engage)
- 設計と移行(Design and Transition)
- 調達・開発(Obtain/Build)
- 提供とサポート(Deliver and support)
SVCの各活動は、計画と改善に内包され、外部とのやり取りを集約するエンゲージからスタートします。集約された意見やニーズなどをもとに計画を作り、目標などを共有しながら、設計と移行、調達・開発、提供とサポートの各活動を通して製品・サービスを作っていくのです。そして、できあがった製品・サービスを提供し、必要に応じて改善していくことで価値を創出します。
ITILの構成要素③:プラクティス(マネジメントプラクティス)
SVSの構成要素であるプラクティス(マネジメントプラクティス)は、業務や目的達成のために設けられた一連の組織リソースのことです。ITIL®4では、34のプラクティスが3つのカテゴリに分けられています。
マネジメントのカテゴリと代表的なプラクティスは以下のとおりです。
- 一般管理プラクティス:アーキテクチャ管理、ナレッジ管理など
- サービス管理プラクティス:可用性管理、事業分析など
- 技術管理プラクティス:展開管理、インフラとプラットフォームの管理など
これらのプラクティスは、Version3から継承されたものや新設されたものだけでなく、Version3から改善されたものもあります。そのため、Version3について学んでいる方は、プラクティスの内容を混同して間違えないよう注意しましょう。
また、ITIL®4では、各プラクティスがSVCの6つの活動のうち、どの活動に当てはまるのかも記載されています。そのため、実際の業務や作業のなかで該当するプラクティスを実践していくことで、より効果の高いSVCの実現につながるでしょう。
ITIL®4の活用には注意が必要
ITIL®4はITILの最新版のため、ITILを参考にするためにはITIL®4が適していると思う方も多いでしょう。ITIL®4を参考・活用することで、より価値のあるサービスを提供できるようになります。しかし、ITIL®4を活用するには、十分にIT環境が整っている必要があり、IT化が不十分な環境だと適切に活用できません。
そのため、まずはVersion3を活用し、IT環境の基礎的な部分の導入や改善を行うのがよいでしょう。そして、必要に合わせてITIL®4の新しい要素を取り入れて改善していくことが、効率的なサービスマネジメントの実現につながります。
日常業務にESMを導入するメリット
ここでは、日々の業務にESMを導入するメリットについて解説します。
業務のムダを解消し効率化できる
ESMを導入することで、各業務プロセスの詳細を把握し、細かく管理することが可能です。その結果、プロセス内のムダや不要なプロセスを特定でき、工数を削減することで業務効率化が図れます。業務内容によっては自動化も可能なものもあるため、自動化によって余ったリソースをほかの業務に回すこともできるでしょう。
また、業務効率化を図ることで社員の生産性や満足度の向上につながります。その結果、高品質なサービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上や新規顧客の獲得といった効果も期待できます。
業務に不要なコストを削減できる
ESMの導入により業務の自動化や効率化を進めると、業務にかかるコストの測定や削減が可能です。例えば、各プロセスの時間やコストを可視化することで、投資に対する費用や時間の削減効果がどれだけあるのかがわかります。削減効果が小さい場合は別の手法を検討し、効果が大きい場合は投資を継続するといった判断ができるでしょう。
したがって、不要な設備やシステムにかかるコストを削減可能となり、各プロセスで適切な投資が行なえるようになります。限られた予算を有効活用して設備を整えられるので、ESMは効率的な設備投資にも有効です。
サービス品質を向上できる
ESMの導入によって、各業務の現状が可視化されると、現在提供しているITサービスの品質も可視化されます。低品質のサービスを重点的に改善したり、打ち切ったりすることで、ITサービス全体の品質向上につながることもESMのメリットです。
さらに、プロセスの可視化によって、業界が定めた規制や基準を満たしているかも監視できます。その結果、企業としてのコンプライアンス遵守も徹底しやすくなり、顧客へ一定以上の品質があると保証することも可能です。品質保証とコンプライアンス遵守の2つの側面から、同業他社とのビジネス競争でも優位になる可能性もあります。
ESMを導入することで生まれるデメリット
ここでは、ESMを導入することによるデメリットについて解説します。
導入によるコストがかかる
ESMを導入するには専用ツールが必要になるため、購入費用やライセンスの利用料などといったコストがかかります。さらに、ツールを適切に運用するための人材が必要になるため、IT人材の採用や教育のためのコストも発生するでしょう。
また、ESMの導入段階ではツールや機能の必要性が的確に判断できません。必要性の低いツールや機能を契約してしまい、ムダなコストが発生する可能性もあります。一時的なコストではあるものの、ある程度の初期コストは必要です。
大幅に業務工程が変化する可能性がある
ESMによって業務プロセスを見直し改善することは、業務効率化や自動化など多くのメリットがある一方で、今までのやり方とは異なる作業や業務が発生します。そのため、急な業務プロセスの変更に適応できない社員が出てしまうかもしれません。特に、既存の業務のやり方にこだわっている社員は大きな不満を抱きやすく、退職するおそれもあります。
また、新しい業務プロセスに慣れるまでは確認事項などが増えるため、一時的に作業効率が低下することもあるでしょう。ESMを導入したからといって、すぐに業務効率化などの効果を迅速に得られるわけではありません。
ESMの効果は社員の理解度に影響される
ESMによる業務効率化などの効果は、ツールを扱う社員の理解度に大きく影響されます。例えば、ITに関する理解度がある程度あれば、新しい業務に慣れていくことで業務効率が上がるでしょう。しかし、理解度の低い社員の場合、研修やトレーニングを実施してもツールを使いこなせない可能性があります。
さらに、ESMの機能をすべて活かそうとして、必要以上のデータ収集や分析などを行なった結果、ムダな業務プロセスが増えてしまうこともあります。ESMは、普段IT技術やツールに触れていない社員も使わなくてはいけません。ESMを導入したことで、複雑化した業務プロセスに対応できなくなり、かえって効率が悪くなるケースもあります。
ESMを導入するときの注意点
ESMのデメリットを少しでも抑えるために、ESMを導入するときに注意すべきポイントを解説します。
ITSMの導入を先に進める
ESMは、組織全般の部門における業務を管理できるので、使用可能なツールには多くの機能があります。そのため、ある程度ITツールの使用に慣れていないと、ESMを導入しても使いこなせないかもしれません。
そのため、いきなりESMを導入するのではなく、まずはITSMの導入から始めることがおすすめです。ITツールに精通した社員向けに、ツールを使った新しい業務フローに取り組んでもらいます。そして、実際に利用した社員の意見を参考にして徐々にESMへ移行することで、より使いやすいESM環境への変革を実現できるでしょう。
また、ESMを導入するためにはそもそも社内業務のIT・デジタル化が必要です。IT・デジタル化が進んでいない企業では、ITSMを先に導入し社内のICT環境を統合的に整えておくことで、スムーズにESMへ移行できます。
すべての部署で同じシステムを利用する
ESMで使用するシステムは多岐にわたるため、部署ごとに異なるシステムを使っていることが少なくありません。このような状況では、他部署との連絡や連携に複数のシステムを必要とするため、システムの管理や運用に手間がかかります。
さらに、システムごとに専任の管理者が必要になるなど、業務の煩雑化やコストの増加などを招くこともあるでしょう。そのため、すべての部署で利用するシステムを統一することが重要です。
また、ITSMツールはITサービスの管理に特化しているため、ESMへの拡張はコストが割高になるかもしれません。すでにITSMを導入しているが、ESMへマネジメント範囲を拡大する場合には、ツールやシステム選びから検討しましょう。
サポート体制が充実しているかを確かめる
ESMツールには、幅広い事態に対応できるよう多くの機能が備わっています。そのため、自社の事業や業務プロセスに合ったツールを導入することが重要です。しかし、最初から自社に最適なESMツールを選ぶことは難しいので、戦略立案や導入サポートを実施しているツールやソリューションを選ぶことが重要です。
また、ESMツールは長く使用していくものなので、導入後のサポートもESMの運用に大きくかかわります。ツールの使い方を教えてもらえるか、すぐに相談できる体制が整っているかなど、サポート体制が充実している提供サービスを選ぶようにしましょう。
ESMで業務管理をするなら「X Managed®」がおすすめ
ESMを導入し、効率的な業務管理を実現させるなら「X Managed」がおすすめです。ここでは、「X Managed」がESMの導入に最適な理由を、2つのポイントから解説します。
導入支援から運用・保守までのワンストップサービス
「X Managed」では、デジタルの力を活用したICTインフラの設計・構築支援から導入、運用・保守までをワンストップで提供しています。専門的な立場からしっかりとサポートすることにより、お客さまの業務内容や職場のICT環境に合わせてESM環境を構築することが可能です。そのため、ITやICT化に関する知識が少なくても、安心してご利用いただけます。
また、技術的な支援・代行サービスも行っています。社内のIT技術者が不足していても、適切に運用できるようサポートしますので、運用・管理に携わる人員を新たに増やす必要はありません。
3種類のメニューで最適なサービスを受けられる
「X Managed」のサービスは、「スタンダード」「オプション」「プロフェッショナル」の3つのサービスレベルに分けられています。コストや業務内容に合わせて、必要なサービスだけを選択できるので、無理なく社内のICT環境を計画的に整えられます。
さらに、「X Managed」では、あらゆるニーズに応える豊富なサービスを提供しています。どのようなことでも気軽に相談できるので、サービスやメニューの組み合わせを最適化しやすくなり、過不足のない最適なICT環境を構築可能です。
まとめ
ESM(エンタープライズサービスマネジメント)は、各部署が提供するサービスの安定化や継続的な改善を行うために必要な仕組みであり、多様化するニーズに対応するためにも、重要性が高まっています。しかし、社内にICT環境が整っていないと最適なESMを導入できません。また、高度なESMを導入しても使いこなせないといった問題が発生する可能性もあるでしょう。
さらに、各部署で異なるシステム・ツールを導入した結果、社員一人ひとりの業務が煩雑化するなど、業務に支障をきたすこともあります。そのため、まずはITSMを導入し、社内のICT環境を整えたうえでESMを導入するなど、段階的に導入を進めていくことが大切です。
「X Managed」は、業務や事業内容に合わせたICT環境の整備をサポートしてくれるので、専門知識が少なくても最適な業務環境を整えられます。これから社内のICT環境を整えたり、最適なESMを導入したりしたいと考えている担当者さまは、ぜひ一度ご相談ください。