Society 5.0は訪れるのか?
そのとき企業ICTは何が変わるのか?
日本が目指すべき未来社会の姿として提唱されている「Society 5.0」。それはどのようにして実現されるのか。そのとき企業は、どのようなことが求められるのでしょうか。
産業発展と社会課題の解決を目指す「Society 5.0」
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、日本が目指すべき新たな社会として提唱されているのが「Society 5.0」である。これは「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」(内閣府Webサイトより)であると説明されている。
このSociety 5.0において、大きな鍵を握るテクノロジーがIoTとAIである。具体的には、IoTセンサーを用いてさまざまな情報を収集し、そこで得られたビッグデータをAIで解析する。さらに解析結果を人間にフィードバックし、新たな価値を産業や社会にもたらそうというのがSociety 5.0の狙いである。
このような取り組みを日本が進める背景としては、さらなる経済発展のためには社会的課題の解決が不可欠であることが挙げられる。たとえばエネルギー需要は年平均2.5%の割合で増加し続けているが、一方で温室効果ガスの排出削減に向けた取り組みも強く求められている。また世界的な人口増加による食料需要の伸びに対応するためには、食料の増産やロスの削減を進めなければならない。
- 世界のエネルギー消費量の推移(地域別、一次エネルギー)
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- 日本におけるGHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)削減目標
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また特に日本では、少子高齢化と生産年齢人口の減少が進むことから、企業が十分な労働力を確保できない懸念が高まっている。15~64歳の人口である生産年齢人口は、1995年には8,716万人に達したが、出生中位・死亡中位仮説による推計で2030年には7000万人を、2060年には5,000万人を割り込むとしている。このような状況を放置すれば、企業が十分な労働力を確保することが難しくなり、将来の経済成長を阻害する要因となりかねない。
- 図1-1-1 高齢化の推移と将来推計
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そこでSociety 5.0は、IoTやAIという最先端のテクノロジーをあらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、社会システムを最適化し、経済発展と社会的課題の解決を両立しようというアプローチを採る。
顕在化しているさまざまな社会課題の解決を図る上で、テクノロジーの活用は不可欠だろう。また今後の経済成長を考える上でも、テクノロジーへの期待は大きい。このような状況の中でIoTやAIは自然に社会に浸透していき、Society 5.0で目指す社会が徐々に実現されていくのではないだろうか。
Society 5.0やDXに取り組むためには運用業務の改善が不可欠
当然、IoTやAIといったテクノロジーは個々の企業の事業活動にも大きな影響を及ぼすだろう。すでに、多くの企業がこれらのテクノロジーを自社の業務に活用するための取り組み、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX)を積極的に進めている。それによって新たなサービスの創出、あるいは業務の効率化による圧倒的なコスト削減などを果たすことができれば、競合他社に対する大きなアドバンテージとなるためだ。
この取り組みを支援するために、NTTグループで実現を目指しているのが「Smart World」だ。ICTで世の中のさまざまな社会課題を解決する“スマートな社会”を指す概念であり、その実現において鍵を握るとされているのがデータの利活用である。
NTTグループ全体が実現を目指す、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって社会的課題をを解決し、企業や社会の持続的成長をサポートしていこうという未来像。「Smart World」の実現に向け、NTT Comでは「Smart Factory(工場)」「Smart City(都市)」「Smart WorkStyle(働き方)」「「Smart Healthcare(健康)」「Smart Education(教育)」「Smart Customer Experience(顧客体験)」「Smart Mobility(自動車など乗り物全般)」の7つの領域に注力している。
さらにNTT Comでは「Smart World」の実現に向け、データ利活用に必要なすべての機能をワンストップで提供する「Smart Data Platform」を構築している。また、教育や街作り、モビリティなど幅広い分野に向けたDXソリューションを提供し、企業におけるDXに向けた取り組みを支援する体制を整えている。
とはいえ、実際にこれらのテクノロジーを使ってDXを進めるためには、企業のICT環境も見直さなければならない。わかりやすいのは、IoTで取得した膨大なデータをどこに蓄積するかだろう。
データを蓄積するためのプロダクトとしてはストレージがあるが、その多くはデータの二重化や高度なバックアップ機能など、蓄積されたデータを保護するための機能が盛り込まれているため高価だ。こうしたストレージにIoTデータを保存するのは、あまりにコスト効率が悪い。
そこで視野に入るのはクラウドである。昨今ではIoTデータの蓄積に特化したサービスがいくつも登場しており、ビッグデータを安価に保存できる場所として広く利用されている。同じくクラウドサービスとして提供されているAIを用いれば、多額の投資を行うことなくIoTで取得したビッグデータを分析するための環境を整えられるだろう。また必要なときに必要なリソースをすぐに収集することができるクラウドは、アジャイルな開発が前提となるDXとの相性もよい。
こうしたDXの推進とそのためのICT環境の刷新を進めていく上で、テクノロジーの専門家集団である情報システム部門の役割は極めて大きい。ただし、既存ICT環境の運用に多くのリソースを割いているような状況では、新たなICT活用の規格や推進のために十分な時間を確保することはできない。そこで検討したいのが、運用業務における外部の知見の活用である。
たとえばNTT Comでは、ワンストップでICT環境の提供から運用/監視/保守を担うトータルマネージドソリューションである「X Managed®」において、ICT運用の設計や改善を支援する、「サービスマネージャー」と呼ばれるICT運用のプロフェッショナルが強い味方となる。彼らを活用すれば、ITサービスマネジメントのベストプラクティスであるITILにもとづいた運用仕様書の作成から統制、最適化の支援を受けられる。また、ITSM Platformのように、それを利用することで、自ずとITILに準拠した運用体制の確立に役立つSaaSも検討に値する。こうして外部の知見やICT環境を活用し、自社の運用業務を見直すことができればDXの取り組みにより多くのリソースを費やせるだろう。
いずれにせよ、Society 5.0やそれにつながるDXに取り組む上で、情報システム部門の活躍は欠かすことができない。「X Managed®」のソリューションなどを活用して運用業務の負担軽減を図り、情報システム部門はプロフィットを生み出すICT活用に向けた取り組みに、もっと踏み出すべきではないだろうか。