先が見えない「VUCA時代」における
データ活用の勘どころとは
「VUCA時代」という先を見通すことが難しい現状で、適切に経営判断を下していくには「データ」が鍵を握っています。「データドリブン経営」におけるデータ活用のポイントを解説します。
VUCAの中で注目されるデータドリブン経営
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大や国際情勢の急速な変化、あるいはデジタルテクノロジーの進展など、企業経営を取り巻く環境や消費者の購買行動、ライフスタイルは刻一刻と変化している。このような背景から、昨今では「VUCA」が企業経営におけるトピックスの1つとなっている。
VUCAは「Volatility」(変動性)、「Uncertainty」(不確実性)、「Complexity」(複雑性)、「Ambiguity」(曖昧性)の頭文字をつなげた造語であり、将来を予測することが困難な状況を表す言葉として用いられている。
たとえば、2020年初頭段階で新型コロナウイルスがこれほど大きな影響を及ぼすと予測した企業はほとんどなかったのではないだろうか。しかし感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出により多くの企業が深刻な影響を受け、緊急事態宣言が解除された後も影響が継続している企業は少なくない。なお、公益財団法人日本生産性本部が米国コンファレンスボードと協働して実施した調査によると、ポストコロナの企業経営について、日本のCEOは外国のCEOに比較して悲観的な傾向にある。経済回復シナリオの予想は、世界のCEOの42%が2020年第4四半期に回復する「U字型」と予想しているのに対して、日本のCEOは49%が2021年もしくはそれ以降に回復する「L字型」を予想している。
このように先を見通すことが難しい状況では、従来のように経験と勘で適切な経営判断を下すのは難しい。そこで注目を集めているのが、データを意思決定の判断材料として活用する「データドリブン経営」である。自社の事業で収集されたデータやマーケットのデータを分析することにより将来の変化の兆候を見つけ出せれば、適切な経営判断が下せるというわけだ。
このデータドリブン経営を目指す上で、ポイントとなるのはデータの収集と可視化、そして分析である。昨今ではIoTに代表される、データを収集するためのツールが続々と登場しており、幅広い領域のデータ収集が可能になった。さらにクラウドを活用することにより、膨大なデータを低コストで蓄積できる。
こうして集めた情報を分析するには、ポイントとなるデータを抜き出す、あるいはグラフ化するといった可視化も欠かせないだろう。数字や文字が羅列された“生データ”をいくら見つめても、そこから意味を見いだすことは(少なくとも人間には)難しい。最後に行うのが分析で、可視化したデータから課題の解決や変化への対応、あるいは新たなビジネスの創出につながるインサイトを導き出していくという流れになる。
もちろんデータは経営判断に役立つだけでなく、事業や業務のあらゆる領域において活用することができる。その具体例を解説していこう。
データ活用を支えるクラウド基盤
データを活用する際のインフラとして、広く利用されているのがクラウドである。クラウドを利用すれば、データを蓄積するためのストレージを容易に確保することができる上、クラウドサービスによっては、構造化データの蓄積に最適なデータベースや分析のためのツールをPaaSとして提供しているケースもある。これらを利用すれば、高価なストレージを購入したり、データベースや分析のための基盤を構築したりする手間を省くことが可能だ。
こうした用途で利用できるクラウドサービスとしては、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azureなどが挙げられる。ただし実際に導入する上では、設計や構築といった作業が発生するほか、運用フェーズでは監視やトラブル発生時の対応などが求められ、相応の負担が生じてしまう。そこで検討したいのがクラウド環境の構築から運用までをアウトソースできるマネージドサービスである。
たとえばNTT Comでは、これらのクラウドサービスの導入から運用までを支援できるソリューションとして「AWS導入支援」や「同Azureマネージドサービス」を展開している。データ活用にクラウドを用いるのであれば、こうしたソリューションの検討も視野に入れたい。
セキュリティ領域でも広がるデータ活用
昨今ではセキュリティ領域においても、データを用いたソリューションの進化が著しい。その1つとして挙げられるのが「AIアノマリー検知」である。これは社内ネットワークのパケットを収集し、その内容をAIによって分析するというものだ。通信をAIによって分析し、通常と異なる不審な通信を検知することによって、ウイルス対策ソフトをはじめとする既存のセキュリティソリューションでは検知することが難しい攻撃に対応できる。
AIアノマリー検知のメリットは、未知のマルウェアを利用したサイバー攻撃や、組織内部の不正行為に対処できる点だ。ウイルス対策ソフトやIPSなどといった既存のセキュリティソリューションは、過去のマルウェアや攻撃パターンを記録したシグネチャーを利用して攻撃を検知することが基本となっている。そのようなシグネチャーを利用した方法では、未知のマルウェアや攻撃手法を検知することは難しい。一方AIアノマリー検知は、シグネチャーではなくパケットデータをAIで分析し、それによって異常な通信を検知するため、未知のマルウェアや新手の攻撃手法も検知できる。
データを活用した顧客接点の強化
マーケティングや顧客コミュニケーションの領域においても、データ活用の気運は高まっている。その中でも、顧客と直接コミュニケーションを行い、VOC(Voice of Customer:顧客の声)を収集することができるコンタクトセンターは、特にコロナ禍において顧客接点の生命線となってきている。
コンタクトセンターで収集されるVOCは、マーケティングはもちろん、製品の企画や開発、さらには企業経営においても有用なデータとなる。しかし、そのVOCを収集するコンタクトセンターの運営において、人材不足などの問題から応対品質の低下が課題となっているケースがある。
言うまでもなくコンタクトセンターは企業にとって“顔”と呼べる存在であり、その応対品質が低下すれば企業やそのブランドのイメージの低下につながりかねない。またVOCの収集においても悪影響が生じるのは避けられないだろう。そこで重要なのがKPI管理であり、応答率や放棄呼率などといった数値の収集と管理・分析を行い、コンタクトセンターの応対品質を客観的に評価することが必要になる。
このKPI管理の仕組みを容易に導入できるソリューションとして、NTT Comで提供しているのが「コンタクトセンターKPI管理ソリューション-Dashboard-」である。これはコンタクトセンターで必要となる機能をクラウドサービスとして提供する、「Amazon Connect」向けのソリューションであり、コンタクトセンター運営の応対品質向上に欠かせない各指標をダッシュボードで容易に確認できる。さらにオペレーターや顧客の感情を分析、可視化することができるため、スーパーバイザーなどがタイムリーにオペレーターをサポートすることも可能になる。コンタクトセンターの応対品質を高め、貴重なVOCを収集していく上で、こうしたソリューションは極めて有効だろう。
データドリブン経営を支えるITインフラの可視化
さて、経営判断にデータを積極的に活用するデータドリブン経営を実現する上では、そのデータの収集や蓄積、可視化、分析などの処理を支えるITインフラの安定稼働が重要なファクターとなる。
そこで取り組みたいのがITインフラの可視化だ。ITインフラの全体像が把握できていない、トラブルからの復旧に時間がかかる、運用チーム内での情報共有が不十分などといった課題があれば、安心して企業経営にデータを活用することはできないためだ。
こうした領域において、昨今多くの企業で採用されているサービスが「ServiceNow」である。これはオンプレミスやクラウドで稼働しているシステムの稼働状況を可視化することが可能なほか、インフラで利用されている各種機器の情報を収集し、システムトラブルなどが発生した際の対処を迅速化する機能などを備えたソリューションである。チケット管理の機能もあり、運用チーム内でのコミュニケーションツールとしても有用だ。
昨今ではクローズドVPN経由でServiceNowを利用できる「ServiceNow Secured over VPN」がNTT Comから提供されているため、高いセキュリティ要件を満たさなければならない環境でも安心して利用できる。
データドリブン経営を推進する上で、ITインフラの安定稼働は重要なポイントとなる。また今後DXがさらに進展すれば、ITインフラのトラブルが事業に大きな影響を与えることになりかねない。現状に少しでも課題を感じているのであれば、こうしたツールを活用して見直しを図っていくべきではないだろうか。