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『ポスト・GIGAは学びのDX』 平井 聡一郎 ⽒

2022.04.28

2021年度は、GIGAスクール構想のスタートの1年でした。全国の自治体、小中学校は、困惑と混乱の中でもGIGAで整備されたデバイスの活用に取り組まれてきました。特に、コロナ禍での休校において、オンラインの授業をされたことは、先生方の情報活用リテラシー向上に繋がりました。

さて、ここで2021年度のICT機器活用を検証してみましょう。昨年度、1人一台のタブレットなどの整備が終わり、その活用が始まりましたが、学習者が個々にタブレットなどをもつということに慣れていない先生や学校では、大きな戸惑いの中での活用だったことと思います。ですから、そんな学校や自治体では、「まず使う、とにかく使う」という活用だったことでしょう。わたしも「つべこべいわずにやってみろ」などと提案していました。使ってみなければわからないことばかり、使ってみれば、ICT機器のよさや弱みもわかってきます。しかし、そもそもGIGAスクール構想は、新学習指導要領のめざす学びを実現するための環境整備が目的だったわけですから、目的を達成できたとはいえないでしょう。つまり、2021年度の活用は、従来型の授業でのタブレットなどの活用であり、教師主導の授業におけるICT機器活用であったということです。具体的にいえば、これまでの教材、教具のタブレットなどによる代替えという活用であり、たとえば小黒板やノートの代わりのタブレット活用、模造紙の代わりのプレゼンツールという訳です。それでも、タブレットなどを効果的に活用した実践では、授業の効率化という成果をあげ、そこで生み出された時間は、学習者に思考や表現の時間を確保しました。

では、2022年度はどのようなICT機器活用をめざしていくべきなのでしょうか?ここで、心配なのは、昨年度のICT機器活用で、一定の成果をあげた学校が、従来型の授業デザインのなかでの活用の練度をあげていくことをめざしてしまうことです。では、それはどのような学びをめざすかを考えていきましょう。一言でいえば本来の目的である新学習指導要領のめざす学びとなりますね。こういわれると、「じゃあそれはどんな学びなのだ?」ということになります。単的にいえば、教師主導の授業から、学習者主体の学びへの転換ということであり、「主体的、対話的で深い学び」ということになります。では、ここで、そのような学びとはなにかを具体的に考えていきましょう。

まず、学習者主体の学びですが、これは教師主導による、一斉教授型、知識伝達型の授業からの転換です。文部科学省は「Teaching」から「Coaching」をめざそうと考えています。よくファシリテーターという言葉も使われますが、これも同じことをめざしていると考えます。これまでは、1単位時間の中で、先生の活動(喋っている時間)は全体の7割以上という授業を見ることが多かったように思います。こうなると学習者の活動時間(思考や発表などの表現の時間)は3割以下となります。学習者は複数ですから、1人当たりの活動時間はさらに少なくなります。これからの授業は学習者中心の学びをめざしていくわけですから、ここで授業デザインの転換がもとめられる訳で、先生の活動が3割以下、学習者の活動が7割以上の授業をめざしていくことになります。そんな授業の中での先生の役割がファシリテーターであり、そこでの授業の手法が「Coaching」ということなのでしょう。

つぎに、どのような授業をデザインしていけば学習者主体の授業になるかというと、それこそが、新学習指導要領のめざす探求的な学びとなります。PBL(Project Based Learning)ともいえますね。こういう話になると、よく「基礎基本はどうするのだ、教えなきゃいけないことはある」とおっしゃる方がいます。では、社会人は教えてもらわなければ仕事ができないのでしょうか?教えてもらわなくても、目の前の課題を解決するために、必要な情報を自分で探して、得た情報を整理して活用しているのではないでしょうか?これが、情報の収集と選択であり、情報活用能力と呼ばれるスキルです。教えられなくても「必要に応じて学ぶ」ことも大切だということです。このような学びを日々積み重ねることで、「自ら考え、判断し、行動できる」学習者が育ちます。もちろんすべての授業を探求型でやれというわけにはいきません。まだまだ先生方が探求型の学びに慣れていませんから、2022年度は段階的に少しずつ始めていくことが大切です。その中で、その効果を先生方自身が学習者の変化で実感し、授業全体の中での探求の比率を増やしていくことが、学びの転換につながっていくでしょう。そして、探究的な学びを支えるツールがICT機器であり、その学びが実現した姿が学びのDXということになります。

執筆者紹介

平井 聡一郎(ひらい そういちろう)

文部科学省ICT活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー
経済産業省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員

略歴

公立小・中学校で教諭、教頭、校長として勤務。
教育委員会指導主事、教育委員会参事兼指導課長を経て、
現在、株式会社情報通信総合研究所特別研究員として勤務。
またドコモ教育アドバイザーとして数多くの研修やセミナーを実施している。

主な研修内容

マインドセット/プログラミング/アプリ研修 など

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