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『今、高校の教科書がおもしろい』 平井 聡一郎 氏

2022.05.30

最近の私の愛読書!それは4月になってやっと買うことができた高校の教科書です。高校も含め教科書は地域にある教科書販売店になっている書店で購入できます。(ネットで検索できます。)なぜ、教科書なのかといえば、2022年度から高校が新しい学習指導要領となり、教科が全面的に変わったからです。その変化の特徴は「探究」「教科間のリンク」「論理表現」となります。

まず、「探究」ですが、これは教科の名前からもわかります。「古典探究」「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「理数探究基礎」「理数探究」そして「総合的な探究の時間」です。つまり、今回の学習指導要領の改訂は単なる指導内容の変更だけでなく、指導方法の変更を求めてきたといえます。それをはっきりと意識させるために、教科名に文部科学省の意思を示してきたと考えています。ここまで示されると、探究的な学びをやるしかないですね。これらの教科の教科書は、それぞれの教科での探究的な学びの入り口になっており、探究的な学びを展開しやすいように工夫されています。

次に、「教科間のリンク」ですが、これには、理科と数学を併せた「理数探求」、日本史と世界史を併せた「歴史総合」があります。「理数探求」はおもに理数科が開設された高校で履修されます。また、これまで別々に履修されてきた日本史、世界史が一緒になって、関連性をもって学べるようになっています。これは当然といえば当然ですね。できれば地理も併せて地歴総合にして欲しかったくらいですが、地理は歴史総合の授業の中で必然的に扱われることとなるでしょう。「理数探求」はもともと理科の授業の中で数学の内容はデータサイエンスを中心に必要に応じて自然に扱われてきましたから、これも「探求」を重視すれば自然な流れといえます。

最後に、「論理表現」です。これは言語活動ですね。論理的な文章の読み書きといえます。ですから「論理国語」そして英語での「論理表現」となるわけです。「論理国語」には、文学教材の軽視などという批判的な意見も聞かれますが、私は逆にこれまで軽視されてきた論理的な表現にやっと目が向いてきたと考えています。これは英語も同様です。日本語でも英語でも、文章構造や発信技術に焦点が当てられたといえます。これは他の教科で「探究」を扱う上での基盤となるスキルとなります。「教科間のリンク」は単なる合科ではなく、相互に関連しあって、学びを深めるということになるでしょう。

さて、ここで実際の教科書から、今回の変化を探っていきます。まず、「情報I」です。これは「必履修」ですので、多くの教科書会社から発行されています。「コンピュータサイエンス」といってもよい内容だと思います。その内容は次の4つの項目に分けられます。

① 情報社会の問題解決:情報技術が人や社会に果たす役割と影響、情報モラルなど

② コミュニケーションと情報デザイン:メディアの特性やコミュニケーション手段について理解し、情報デザインの考え方や方法を理解し表現する技能

③ コンピュータとプログラミング:コンピュータの仕組み、モデル化とシミュレーション、アルゴリズムとプログラミング

④ 情報通信ネットワークとデータの活用:ネットワークの設計・構築に必要な知識と基本的なデータの扱い方、数学Ⅰと連携した統計

こうして見ると、「情報I」の内容は、現在の情報社会を生き抜くために必要な最低限のリテラシーが網羅されていることがわかります。だから、すべての高校生が履修することになります。また、学部を問わず大学での学びを支えるリテラシーでもあることから、共通テストでも扱われ、東京大学、大阪大学などが試験科目に採用したわけです。この「情報I」」は2022年度の高校1年生から履修しているわけですが、心配なのは、高校2年生以上の学生、社会人です。「情報Ⅰ」を履修し、それも基盤に「情報II」を学んだ現高校1年生に追い抜かされはしないでしょうか?ですから、私は高校2年生以上の学生、社会人は自分で「情報Ⅰ」の教科書を購入して学ぶ必要があると考えています。これがリカレント教育と呼ばれる学び直しです。ふつうは社会人対象の教育をさしますが、今はそんなことを申していられません。とくに教育関係者は必須でしょう。

最後に「理数探究基礎」をとり上げます。この教科は選択履修ですが、私は、これこそ必履修にすべき教科だと考えています。なぜなら「理数探究基礎」の教科書は、「探究的な学びガイドブック」というべき内容であり、「総合的な探究の時間」の教科書になりうるものだからです。その中には、課題の設定から探求の過程、調査の方法、結果の分析、成果をまとめ発表する方法までの事項が系統的に身に付くように構成されています。中高一貫校では、中学生の「総合的な学習の時間」で活用することも効果的でしょう。ある意味、「理数探究基礎」と「情報I」をセットで学ぶことで、教科での「探究」、「総合的な探究の時間」につながっていくカリキュラムデザインが見えてきます。

執筆者紹介

平井 聡一郎(ひらい そういちろう)

文部科学省ICT活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー
経済産業省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員

略歴

公立小・中学校で教諭、教頭、校長として勤務。
教育委員会指導主事、教育委員会参事兼指導課長を経て、
現在、株式会社情報通信総合研究所特別研究員として勤務。
またドコモ教育アドバイザーとして数多くの研修やセミナーを実施している。

主な研修内容

マインドセット/プログラミング/アプリ研修 など

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