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『探究を支えるデータサイエンス』 平井 聡一郎 氏

2022.06.30

前回(限定コラム『今、高校の教科書がおもしろい』)は、高校の学習指導要領の改定に伴う教科の変化について書きました。結論として高校の学びは「探究」を目指すこととなり、さまざまな教科の改変は、「探究」に結びついて、「探究」による学びを構成する要素となるというお話でした。

では、「探究」とはどのような学びなのでしょうか?高校の学びは、最終的には「総合的な探求の時間」に収束します。ここでは、最近PBLという言葉をよく使います。いわゆる、Project Based Learningですね。これまでは同じPBLでもProblem Based Learningという問題解決型学習がよく実践されていましたが、ProblemからProjectに変わったことで、学びの幅はより広がり、創造的なものになったといえます。つまりProblem Based Learningは、提示された問題を、学習者自身でより明確にするために情報収集や議論を行い、その問題の本質的な要素や特徴などを見定め解決する学びであり、Project Based Learningは、学習者が領域の広いテーマの中から自分たちで解決したい問題を決め、解決のための計画、実行、発表の一連の活動に取り組む学びとなります。授業の中では、日常の1、2時間の短いスパンでの学びではProblem Based Learningが展開され、Project Based Learningは、学習のまとまりや単元など比較的長いスパンでの学びで用いられます。

さて、このような探究的な学びを進めるためには、思考・表現はもちろんのこと、検索などのICTリテラシーなど多くの学習スキルが必要となります。そして、その中でも最も重要なのがデータサイエンス(統計学)ということになります。たとえば、探究を進めるにはあたって、問題発見能力は重要な要素となりますが、見当違いの問題認識では、解決した結果も見当違いなものになってしまいます。そこで、データをもとに、問題の本質を見極めることが求められます。たとえば社会科では、人口や、資源の算出量の変化のグラフを分析し、そこから社会や経済への影響を考えるという活動が考えられますが、人口の変化を表すのは客観的な数値データであり、主観的な認識や予想ではありません。また、作り上げたProjectを評価する際も、その成果をデータ化して、客観的に評価する必要があります。「がんばった」とか「よくできた」では評価ではありません。なにをもって「よくできた」といえるのかを、客観的な「数値データ」で測る必要があるということです。これは、一般社会では至極当たり前のことで、購買意欲のような主観的なものでさえ、いかに数値データとして測るかということに注力する訳です。つまり、なにをもって購買意欲とするかを突き詰めて考えるということでしょう。しかし、これまでの教育現場では、テストの点数以外の数値データの扱いが無頓着であり、ある意味、雑でした。たとえば、学習意欲を「手をあげた回数」「発言回数」といった、本来の学習意欲以外の要素を多く含んだ事象をもとに評価してきました。それでも、評価基準、規準の違いが論じられたり、ルーブリックやタキソノミーといった評価法が注目されたりして、客観的な評価に目が向くようになってきました。しかし、学習指導の場面では、まだまだ客観的なデータの活用は進んでいなかったのが現状でした。しかし今回の学習指導要領の改定において、算数・数学でのD領域として小中が「データの活用」、高校が「データの分析」として、データサイエンスが取り上げられ、高校の情報I、IIでもデータの分析の内容が取り上げられてきました。さらに、必履修の内容ではありませんが、理数探求基礎では、探究的な学びの過程で、どうやってデータを活用していくのかというデータの処理から分析、活用までの手立てを学びます。すでに、大学入試の共通テストや小中の全国学力・学習状況調査でも、データサイエンスに関わる問題が教科を問わず出されるようになり、これからの学校教育の中でデータサイエンスがいかに中核となる学びになっていくのがうかがわれます。

現在の教育界では、小中高の12年間でデータサイエンスを系統的、段階的に履修し、社会や高等教育につないでいこうという意図を感じることができます。それも、算数・数学で学ぶだけでなく、算数・数学で履修した内容を、他教科や総合的な探求の時間で活用、発展させようというカリキュラムになったいるといえます。しかし、小中の教育現場を見ると、データの活用に欠かせない表計算アプリの活用が進んでいません。高校での数学、情報Iの学びに備える意味で、小中の「データの活用」は重要となります。そこで、まずは表計算アプリの活用を徹底することから、日本のデータサイエンス教育をスタートさせましょう。そして、その基盤の上に初めて、各学校種の授業における「探究」が始ります。2022年を日本のデータサイエンス教育の転換期にしていきましょう。

執筆者紹介

平井 聡一郎(ひらい そういちろう)

文部科学省ICT活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー
経済産業省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員

略歴

公立小・中学校で教諭、教頭、校長として勤務。
教育委員会指導主事、教育委員会参事兼指導課長を経て、
現在、株式会社情報通信総合研究所特別研究員として勤務。
またドコモ教育アドバイザーとして数多くの研修やセミナーを実施している。

主な研修内容

マインドセット/プログラミング/アプリ研修 など

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