『究極のアウトプット「映像表現」』 平井 聡一郎 氏
2022.08.31
2022年度は新学習指導要領が小中高と出揃い、GIGAスクール構想によるICT機器環境が活用のフェーズに入ったことで、学校教育が質的に転換する「学校DX」の年と考えています。さらに、今回の教育改革は、GIGAスクール構想、学習指導要領改訂といった文部科学省の施策に止まらず、社会全体の変化を背景とした構造改革とも言えます。経済産業省が2022年5月に出した「未来人材ビジョン」※1では、社会の変化に対応するため、「産業界と教育機関が一体となって、今後必要とされる能力などを備えた人材を育成することが必要である。」と訴えています。
※1 出所:経済産業省「未来人材ビジョン」2022年5月
そこでは、社会全体で産業構造の変化により、各職種で求められるスキル・能力の需要度が変化したといっております。つまり「社会の求めるスキルが変わった」ということであり、児童・生徒の目線で考えれば「社会を生きていくためのスキルが変わった」といえる訳です。スポーツに例えると「ルールが変わった」のですから、学校教育はその変わったルールに対応することが求められるということです。さらに、このような社会の激しい変化の象徴ともいえるのが、新型コロナの流行への対応でした。社会全体でこれまでの当たり前が通じなくなり、学校教育においても、なかば強制的に対応を迫られた結果、前例踏襲の学校文化に、「変わってもいいんだ!変えてもいいんだ!」という意識改革がもたらされました。特に臨時休業中のオンライン授業は、多くの先生のICT機器活用のリテラシーを向上させるとともに、家庭にいる児童・生徒がいかに主体的に学ぶ授業をデザインするかという、これまでにない課題を突きつけることになりました。しかし、このような変化はまだまだ一部の先生に止まっているのも事実です。そこで、全国の学校にICT化が進み、新しい学習指導要領が高校まで実施された2022年度を「学校DX」のスタートにするための仕掛けが必要ではないかと考えました。
さて、ここで「学校DX」とは何かを考えていきます。「DX」とはデジタルトランスフォーメーションであり、デジタル化による学校改革といえますが、これは単に学校の業務をデジタルに置き換えるだけではなく、デジタル化を切り口に、学校そのもののあり方を変えていこうというものとなります。特に授業に関しては、これまでの教師主導の一斉教授型授業から、学習者主体の個別最適化された学びへの転換といえます。そこでは、指導の個別化と学習の個性化という二つの視点が求められています。指導の個別化は、基礎・基本となる内容をドリルなどの学習で対応することが中心となり、これまでの指導の中でも取り入れられてきたこともあり、比較的受け入れやすいものといえます。それに対し、学習の個性化は、一人ひとりに応じた学習活動、学習課題が必要であり、これまでの授業観からの転換が求められます。そこで、探究的な学びという言葉が出てくるわけです。
ここで2021年までの学びを振り返ってみましょう。GIGAスクール構想によって、確かにICT機器環境は劇的に向上しました。しかし、学校現場における授業そのものは劇的といえるほどの変化はありませんでした。つまり、従来型の教師主導の授業の中でのICT機器活用というレベルに留まっていたのです。従来の教師主導による一斉教授型の授業スタイルの中で、アナログな教育手段がデジタルに置き換わったともいえる状況だと思います。ICT機器を「まず使う、とにかく使う」といったレベルともいえますね。これは、GIGAスクール構想という急激な変化に晒された学校の実態では致し方のない状況ともいえます。しかし、コロナへの対応というオンラインによる授業が日常化するという状況で、先生方のICTリテラシーは飛躍的に向上し、各学校における授業のデジタル化は大きく前進しました。ですから、2022年はこうした背景の中で、いよいよ新たな授業デザイン、つまり新学習指導要領の目指す「主体的、対話的で深い学び」を実現した探究的な学びに向けて動き出す年といえます。
では、そもそも探究的な学びとはどのような学びなのでしょうか。海外ではPBLという形で実践されてきましたが、PBLにはProject Based LearningとProbrem Based Learningという2つの形があります。ここではProject Based Learningで考えていきます。実社会でProjectといえば、何かを作り上げるようなものといえます。イベントであったり、建造物であったりしますね。教育では、何かを作り上げる活動を通して、さまざまな資質・能力を学習者が習得していく活動ということができます。これまでの教育でも、学んだことをプレゼンテーションという形で発表するということはなされてきました。しかし、そのような実践には、インターネットで調べたことをそのまま再生する、コピーアンドペーストのような学びがあったことも否めません。そこで、私は映像表現というアウトプットをゴールとしたPBLを展開することで、新たなクリエイティブな学びの創造を目指すことにしました。
映像表現を学びに取り入れることで、多くの効果を学習者にもたらします。その最大の理由は、映像表現には固定化された答えがないということです。その答えを求める活動そのものが学びといえるでしょう。それが個別最適化された学びの求める一人ひとりの学習活動ということになります。映像表現には必ず目的があり、それこそが達成すべきプロジェクトです。学習者はそのプロジェクトを達成するために情報を収集し、それらを再構成、再構築し、映像という形でアウトプットします。さらに映像は、動画、画像、テキスト、音声、音楽といった複数のメディアで構成され、これらをいかに効果的に組み合わせ、作品を構成するかを考えることが学びとなります。そして、それらをチームとして創り上げる過程こそが、「主体的、対話的で深い学び」となるでしょう。こう考えただけでも、映像表現が、新学習指導要領の目指す学びを実現する重要な役割を果たすであろうといえるわけです。
では、なぜ、映像表現がこれまでの学校教育において取り上げられなかったのでしょうか?それは、これまでのICT機器環境にあります。映像機器がビデオカメラの時代では、編集機器などが高価であり、学習者の個別の取り組みに対応する数の整備は困難でしたし、あったとしてもその操作性は普通の先生には高いハードルでした。また、学校に整備されたPCなどのスペックも動画編集には役不足であったといえます。しかし、そういった多くの阻害要因はGIGAスクール構想によるICT機器整備と、無料で提供される映像制作に関する操作性の良いソフトウェアの数々によって取り払われました。もう、クリエイティブな学びを阻害するものはありません。
2022年は、映像表現というPBLを切り口に、学校教育にクリエイティブな学びをもたらすことを目指し執筆しました。そして本コラムを目にした先生方自身が新たな学びをデザインする、クリエイティブラーナーとなることで、児童・生徒に、これからの変化の激しい社会を生きるための資質・能力が育成されることを願っています。
執筆者紹介
平井 聡一郎(ひらい そういちろう)
文部科学省ICT活用教育アドバイザー
総務省地域情報化アドバイザー
経済産業省産業構造審議会教育イノベーション小委員会委員
略歴
公立小・中学校で教諭、教頭、校長として勤務。
教育委員会指導主事、教育委員会参事兼指導課長を経て、
現在、株式会社情報通信総合研究所特別研究員として勤務。
またドコモビジネス教育アドバイザーとして数多くの研修やセミナーを実施している。
主な研修内容
マインドセット/プログラミング/アプリ研修 など
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