はじめに

今年度の交流会は、主体的・対話的で深い学びを実現するために、教育ICTを活用して【“今“取り組んでいること】【”これから”やってみたいこと】を参加者みんなで体験・語り合い、Tipsと先生方のつながりを深めていただくことを目的に、Day1,Day2,Day3の3日に分けて開催しました。

Day2では、「メタバース×Well-being」をテーマに、昨今利用の広まるメタバースとはどんなものなのか、OECD Learning Framework2030で唱える「個人、コミュニティー、そして地球のWell-being、こどもたちがどうやってAgencyを身につけていくか」などを、楽しみながら、体得し、各学校ですぐに取り入れることができるようにと、Hands-on形式でプログラムが進みました。

XR学祭に続き、今回も、小・中・高・専・大学の先生、そして子どもたちが距離と時間を超えメタバース空間に集合。「ねばならない」ではなく「やりたい」授業が、子どもたちに見つかりますように、そして、新しい技術を活用して、新しい学びを、先生・子どもたちと創っていきたいというドコモビジネスの思いも込めて、OPENHUBスタジオからの中継と共に交流会は開始されました。

講演①
オープニングトーク

先進的な取り組みをされている5人の先生方に、教育ICTを活用して【“今“取り組んでいること】【”これから”やってみたいこと】 をご紹介いただきました。

森村学園初等部 榎本昇先生

1月に訪問されたフィンランドの学校で、さまざまなwell-beingと教育に触れられた体験をお話いただきました。保育園にも感情を表すカードが貼られていて、感情の表現を身につける環境が揃っていたそうです。子どもたちが成長したときに、メタバースなどで国内外の人々とつながり、価値観を広げてほしいと願う榎本先生。「尊敬」「平等」「約束」「快適さ」「信頼」という先生が感じたキーワードのご説明で締めくくっていただきました。

熊本大学大学院教育学研究科 前田 康裕 特任教授

「メタバースで、新たな学びができるのではないか?」そう期待する根底には、これからの学校は、技能・知識を生かして新たなものを創造する力が求められる現状があるという。さらに、一人ひとりが得意な分野を伸ばし、興味・関心にのめりこめる場所「なりたい自分になれる」空間として、メタバースの学校に可能性があるのではないか。熊本市の「フレンドリーオンライン」をはじめ、なりたい自分になって新しい世界・空間を創っていく世界がくるのではないか。そんな期待も込めた今後の可能性をお話いただきました。

柳川高等学校 校長 古賀 賢 先生

「はじまりは一つ」柳川高校のポスターに掲載されたコピー。この言葉には、子どもたちが、何を見て・聞いて・感じることができるかが教育ではとても大切で、柳川に来て、気づきが生まれ、ここから新しい何かがはじまってほしい!、そんな教職員の願いが込められているという。昨年、メタバース空間からも、子どもたちにとって「はじまり」があってほしいと、タイとの国際交流などで活用するメタバース学校を創造。今後イベントや情報発信でも利用していけたらと展望をお話いただきました。

NCC新潟コンピュータ専門学校 山中 裕介 先生

2017年からVRコースを創設、現在はドコモと5G活用実証実験も行うなど先進的な事例を多数輩出している学校で、昨年のXR学祭では、3Dオブジェクトを学生自らが企画・制作し、メタバース空間に配置しました。今後への期待として、今より違和感のない、誰もがスマホのように日常的に楽しめる新たなデバイスの登場と、5G・6G・IOWNなどの通信速度の向上でSFの世界が現実になる日の到来をお話いただき、そのような世界でのコンテンツ制作の可能性にも言及いただきました。

立命館大学 山中 司 先生

昨年、大学の英語の正課授業でメタバースを活用したポスターセッションを開催。VR空間で発信力をつけさせたい、メタバース上だと発話不安を払拭しやすい、など取り組みのポイントを紹介いただきました。VRと教育効果がまだ直結していない中でも、いろいろ模索しながら推進する背景には、学園ビジョンR2030「挑戦をもっと自由に」があり、学生に見せたい姿は、20-30年先、社会で活躍するころ、当たり前になっていることを、未来の当たり前を見せたいという思いがあり、未来の子どもたちを思い、先生たち自らが、今目の前の壁を超えていく(教育ピッチ参照)姿をお話いただきました。

講演②
Well-beingをフレームワークとした
学びの場の醸成

渡邊淳司

NTTコミュニケーション科学基礎研究所
人間情報研究部
上席特別研究員

NTTの研究所で現在Well-beingの研究を進める渡邊だが、もともとは通信を活用した「触覚遠隔コミュニケーション」に携わっていたという。音声・映像だけでなく、振動を伝える研究活動(例:聴診器を胸に当てると心臓の鼓動に合わせて、遠隔の端末が振動する)を進める中で、互いの「生きている」感覚を伝える、つまり「存在自体の価値(内在的価値)」を尊重するWell-beingという考え方にたどり着いたといいます。

未来が予測できないこのVUCA時代において、Well-beingとは、お互いにとってよい在り方の要因を理解し、認め合い、実践をして「生きること」であると話されました。ひとそれぞれによってWell-beingに生きるための価値は異なります。Well-beingの実践に向けては、物差しのように指標で度合いをはかるだけではなく、それぞれにとっての価値や在り方を認め、協創しあう、相互作用で慮りながら学んでいく姿勢の醸成が大事であるというお話をいただきました。

Hands-on①
メタバース 基本動作編
(NTT XR Space WEB(DOOR))

Hands-on②Well-beingカード体験がスムーズに行えるよう、DOORの基本的な動作について説明、実際にルーム内で参加者が操作を行いました。


■アバター関連

1)「視点切り替え」ボタン
アバターを視界に映す/消す を操作
※ [i]ボタンで自分のアバター正面が見える

2)「アバター名称」変更
メニュー>名前とアバターの変更

3)「アバター」変更
メニュー>名前とアバターの変更


■コミュニケーション関連

1)リアクション
拍手、スマイル、など。

2)音声
「マイク」ボタンのON/OFF
距離に応じた音声減衰あり(遠いと小さい、近いと大きい)
※マイクの左隣のボタンでマイクテストが可能
※ブラウザー設定の場合(マイク許可を確認)

3)チャット


■オブジェクトの操作

1)カードもオブジェクト
ドラッグで動かせる → 青い枠に移動
※アバター移動の場合も、カードをクリックしたまま移動すると遠くへ行ける

2)チャットのオブジェクト化
チャットにテキストをインプットし、一番右端の「オブジェクト」マークを押下

Hands-on②
Well-beingカード体験編
(NTT XR Space WEB(DOOR))

Hands-on②では、渡邊が考案したカード22枚(図①参照)を活用して、Well-beingを考えるグループワークを行いました。参加された約30名の先生と15名の子どもたちが、8つのルームに分かれ、メタバース操作にも挑戦しながら、交流も深めました。

「愛」や「協調」など、キーワードは「I」「We」「Society」「Universe」の4つのカテゴリに分類。キーワード、要因から「自分のWell-beingとはなにか?」を考え、自分にとって大切なカードを選択し、グループで自己紹介・ディスカッション。

自分にとって大切なこと・互いの中での大切なことを考えるこのゲームで、今回は「仮想:ドコモビジネスX学校の23年度学年/クラス目標」をテーマに、グループワーク・交流を行いました。

【ルーム1】榎本先生
■目標:「一人ひとりの気持ちを分かち合えるクラス」

共通ワードについての対話の中で「協調には思いやりが必要」「認め合うのも大切だが譲りすぎると自分らしさを失ってしまう」という価値が生まれ、ただ単にみんなで歩みを合わせるだけでなく、自分らしさの観点をとり入れた目標になりました。

・渡邊さんからのFB)自分らしさとクラスの協調、そのバランスをとったいい目標ですね。と小学生の視野の広さにも関心してしまいました。

【ルーム2】前田先生
■目標:「自分を信頼し認め合う学級」

チャットであがった案をオブジェクト化して議論を進めるなどメタバース活用もスムーズ。キーワードにあがった【信頼】【認め合う】【熱中】を組み合わせたうえで、ルーム内の議論に上がったワードからバランスをみて目標としたい言葉を厳選されました。

・渡邊さんからのFB)信頼が加わることで基盤となる共通項もありつつ、お互いの別の視点も認め合えるクラスになれる点は素晴らしいと思います。

【ルーム3】古賀先生
■目標:「愛」

言葉の選択を絞るのに苦労したようですが、【自分らしさ】【感謝】【社会貢献】をキーワードとしました。議論中もハートのリアクションスタンプが多く飛び交い、まさに愛のある相互理解の議論が行われていました。

・渡邊さんからのFB)自分と社会を組み合わせる接点が感謝という要素になる。自然環境という大きな対象もその「感謝」の中に含めていくそんな観点をもったクラスができるのかなと想像してしまいます。

【ルーム4】NCC 山中先生
■目標:「誰かを思い、挑戦し続ける」

相手を思いやる【感謝】【思いやり】というキーワードに、前に進む挑戦する気持ちを込めて【熱中】を加えて目標を立てました。参加者たちの価値観を持ち寄ったうえでクラス目標としてのWell-beingという観点をさらに議論し、自分だけではなく他者との関係の中でのよい在り方への検討を深め目標を作りました。

・渡邊さんからのFB)自分のため、ではない観点で目標が作られているのがわかります。自分が頑張れる原動力は他者にある、という気づきを含んだ豊かなクラスがここにはあるのだなと感じさせられました。

【ルーム5】立命館 山中先生
■目標:「ダイバーシティの実現を目指して主体的に力を発揮する」

リアクションなど積極的にメタバース上のツールも活用し議論したルーム5。要素は「社会貢献」「自分で決める」「認め合う」と、分類の異なる3つを意図的にチョイスしたうえで、それぞれの言葉が示すあり方・意味を掘り下げて検討し、この目標にたどり着きました。

・渡邊さんからのFB)誰もが社会によいことをしようと集まってくるものの、食い違いが起きたときにどう「認め合う」のか。メタバースのように身体が変わる世界で普段と違うリフレーミングをすることで認め合うことができるような先駆的なクラスができそうでいいですね。

【ルーム7】学生ルーム
■目標:「周りを尊重し自分らしく成長する」

「成長」「共感」「自分らしさ」を軸に検討。
「成長」:就職(社会人)に向けても自分の成長が大事
「共感」:チーム制作では、協調性が取れなければ進まない。ものを創るときに相手に共感させることも大切
「自分らしさ」:押しつけの個性ではなく、自分の得意なところを発揮するという意味

・渡邊さんからのFB)Well-beingを考えるとき、それは人からもらうものではなく、自分で少しずつ成長していく中でできてくるもので、ひとりよがりではないモノが出てくる、まさに選んでもらった言葉はWell-beingの基本ですね。

【ルーム8】学生ルーム
■目的:「自分自身が熱中し、周りのメンバーに感謝をしながら、協調性をもって生活する」

「熱中」:まずは好きなものを頑張る
「感謝」:それができる環境や周囲に感謝
「協調」:それをみんなで作っていく

・渡邊さんからのFB):「ステークホルダー」自分が関わる人のその向こうにも関係している人がいる、それを感じられるという幸せとつながりを意識しながら生きていく、自分一人ではないという暖かなクラスができそうですね。

まとめ

同じカードを選んでも違う背景があったり、違うカードを選んでいても同じ意図があったりと、自分や他者の中にあるWell-beingという日常的に過ごしていると気付きにくい価値について、具体的に話し合われる様子がワークでみられました。校長先生でも生徒でも、どんな人の要因もカード一枚で表されます。その人の存在を大切にするために具現化されたカードを通じた本日のワーク体験が、自分や周りの人の存在を大切にするきっかけになればいいな、と思っています(渡邊)と、まとめられました。

~各先生からの感想~

メタバースの世界の中で言葉を一言一言傾聴している自分に気づいた。このように空間をも飛び越えて異文化に触れることで、子どもたちは新たな価値観を学ぶことができる。このような体験を子どもたちに体験させてあげたいなと思う。(榎本先生)

遊んでいるような感覚があり面白かった。これからの子どもたちが新しいメタバースという場で新しい遊びやアイデアを共有しあう新しい世界を創れればいいな。(前田先生)

学校で「メタバースをやろう!」と宣言したものの、分からないことばかりだった。しかし今日を終えてこれからみんなが見ていく世界、いろんな人が通っていく世界だと理解できた。改めてメタバース(Well-beingカード)を活用してよりよい学校環境を作っていきたい。(古賀先生)

アバターを通したコミュニケーションではその先の人は見えないが、かえって先生や生徒という立場に遠慮せずいつも以上にコミュニケーションがとれたのではないかと思う。過渡期であるXRにはハプニングはあると思うが、体験しながらひとつずつ解決してよりよいものに発展できればいいなと今日改めて感じた。(NCC 山中先生)

日本人は英語を話すとき「完璧にしないと」と思いがちだが、誰も完璧にすることはできない。新しいツールも同じだと思う。今回も音声ハプニングなどがあったが、完璧にするのを待つのではなく、どんどんトライ&エラーでアジャイル的に解決していくのがいいと思った。今日は時代のフロントラインを体験させてもらえた貴重な機会だった。(立命館 山中先生)

今回のメタバース×Well-being・Hands-onを通して、先生・子どもたちが、年齢や地域という枠を超え、交流を深めると共に、Well-being・メタバースについても知るきっかけになったのではないでしょうか。
ドコモビジネスは、今回の経験や参加いただいた皆さんの意見をもとに、教育の場でもより活用しやすいXRプラットフォームの実現をめざし、開発・検討に努めてまいります。

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