LTEが学びを自由にする!
2024年2月1日、NTTコミュニケーションズ (以下、NTT Com) は、「NEXT GIGAにむけて端末×LTEの活用で子どもの学びはどう変わる?」と題したオンラインセミナーを開催しました。本セミナーでは3名の有識者が登壇。前半は「学校DX」推進の要となる行動や姿勢、意識改革についての講演と、自治体および学校主導で進行中のICT運用の実態とLTE端末の活用事例を紹介。後半は、登壇者によるパネルディスカッションの2部構成で開催されました。
本記事では、セミナーの様子をご紹介します。
〈セミナー概要〉
開催:2024年2月1日(木)18:30~20:00
会場:Zoomウェビナー(オンラインによる開催)
テーマ:NEXT GIGAにむけて端末×LTEの活用で子どもの学びはどう変わる?
登壇者・講演テーマ:
1.合同会社未来教育デザイン CEO ドコモビジネス教育アドバイザー 平井 聡一郎先生
「Next GIGA の学びを支えるLTE端末」
2.岐阜市教育委員会学校指導課 栗本 光彰先生
「LTE端末だからできる学校運営」
3.明光学園中学校・高等学校 島ノ江 純先生
「地方中高一貫女子校におけるLTE端末の活用」
〈INDEX〉
①「学校DX」の実現に寄与する2つのDXとLTE環境の有用性
●自己決定力を磨く授業デザインで「学びのDX」を叶える
●「校務DX」で校務を適正化し、教育の高度化を実現
●「探究学習」がもたらす効果と、LTE環境の有用性とは?
②岐阜市におけるLTE端末導入による学校運営の実情
●岐阜市がLTE端末を導入した3つの理由とは?
●教育現場でLTE端末はどのように活用されているのか?
●教育現場でLTE端末はどのように活用されているのか?
③小規模校のICT運用の実態とLTE端末の活用事例
●明光学園のICT環境とは?
●ICT運用では「生徒の安心安全」が第一
●LTE端末のメリットと、利用上の注意点とは?
●LTE端末は、授業や部活動など多様な場面で活躍
④パネルディスカッション
●子どもたちに情報モラルを浸透させるには、教員の意識改革と保護者の協力が必要
●LTE端末は用途が広く、学びの連続性を保てる
●LTE端末でつながることで、学びの自由度が高まる
①「学校DX」の実現に寄与する2つのDXとLTE環境の有用性
最初に登壇したのは、GIGAスクール構想を牽引する平井聡一郎先生です。平井先生は、GIGAスクール構想前から「学校DX」に取り組んでいて、次のステップとなるNEXT GIGAに向けて端末更新の準備にも携わっています。
本講演では「NEXT GIGAにむけて端末×LTEの活用で子どもの学びはどう変わる」をテーマに、「学校DX」実現のカギとなる「学びのDX」「校務のDX」についての解説や、教育現場でのLTE環境の有用性について語りました。
●自己決定力を磨く授業デザインで「学びのDX」を叶える
「学びのDX」には教員の意識改革が不可欠です。かんたんに言うと、「先生が口を出さず生徒に学を委ねること」が大きな柱になるということ。つまり、教員に求められるのは、指導力ではなく、学習者を主体的な学びに導く力です。学びを転換するには授業が変わらなければなりません。
さらに、「学びのDX」で注目されるのが、OECD(経済協力開発機構)が打ち出した「2030年に向けた生徒エージェンシー」です。そして、 そこで語られているキーワードが「自己決定」です。教員は生徒が自分で判断し行動することを重視して授業を行う必要があります。
授業のあり方を変えるには、教員が今の立ち位置を知って、授業をデザインし直さなければなりません。OECDが提示する「共同エージェンシーの段階」を指標にすることで、自身の授業がどの段階にあるかを把握できるようになるでしょう。初めは教員主導型の授業でも、徐々に生徒の自己決定の場を増やしていくことが期待されます。
学びのスタイルにも変革が必要です。従来は、先生と生徒が縦に並ぶ「縦の学び」が主流でしたが、これからは生徒同士が協同する「横の学び」が不可欠です。縦と横を組み合わせた授業を、選択肢のひとつに加えてもよいでしょう。
●「校務DX」で校務を適正化し、教育の高度化を実現
「校務DX」とは教職員の働き方改革をめざす取り組みのことです。文部科学省は、中央教育審議会答申で示された「学校・教師が担う業務に係る3分類」に基づき、学校や教員が担う業務を明確化し適正化を推進しています。
3分類のうち、「学校の業務だが、必ずしも教師が担う必要のない業務」の適正化については、クラウドやICT機器の活用、スクール・サポート・スタッフの配置など、システムまたは人的に対処する方法があります。教員が本来の業務に集中できる体制を構築することは喫緊の課題です。
●「探究学習」がもたらす効果と、LTE環境の有用性とは?
「探究学習」とは、「調べ学習」のように調べた情報をまとめることが目的ではなく、課題設定から情報収集、整理・分析、解決までのプロセスを繰り返し、課題解決力を養うことを目的とした学習のことを指します。「課題を解決するために必要な情報を集める」という視点は、生徒の主体的な学びを育むうえで重要です。
「探究学習」によって、生徒の活動の場は学校の中から外へと拡大していき、課題解決の成功体験を重ねることで自己効力感が育ちます。平井先生は、これからの子どもたちには、こうした学びが必要だと言います。さらに、「学びを支えるのがLTE環境。フィールドを広げて外に出たときこそ、LTEが真価を発揮します」と付け加えて、LTE環境の重要性を強調しました。
②岐阜市におけるLTE端末導入による学校運営の実情
続いて登壇されたのは、岐阜市教育委員会学校指導課GIGAスクール推進室主幹の栗本光彰先生です。
栗本先生は、LTE端末導入の理由、活用事例、岐阜市教育委員会が得られたメリット、今後の展望などについて語りました。
●岐阜市がLTE端末を導入した3つの理由とは?
岐阜市では、文部科学省が推進するGIGAスクール構想を受けて、児童生徒および教員合わせて約3万2400人にiPad(第7世代cellularモデル)を配布し、授業や学校運営に活用しています。
岐阜市が、Wi-FiではなくLTEモデルを選択した理由は、運動場や自宅などWi-Fi環境のない場所でも学習に利用できることや、ドコモの電波を利用するため安全性が高く安心なことです。またコスト面でもメリットが大きいと言います。「LTE端末は高い」というイメージを持つ人もいますが、校内ネットワークの整備や維持費、更新費などが不要なため、岐阜市にとってはベストな選択だったと説明しました。
●教育現場でLTE端末はどのように活用されているのか?
岐阜市では岐阜市教育大綱を受けて、「学びを止めない」「誰一人取り残さない教育」などをキーワードに、ICTを活用した学校運営を推進しています。
活用事例を紹介すると、2023年度にNTT Comの協力のもと、オンライン上で3回の自立支援教室を開催したところ、児童生徒約100名が参加して各回ともにたいへん好評でした。2024年度は予算化して、毎日開催できるように計画しています。 このほかにも、休校時のオンライン学習や、修学旅行をはじめとした校外学習、教育委員会主催のイベントでのやり取りなどで、有用に活用しています。
●LTE端末導入により享受できる教育委員会のメリットとは?
岐阜市教育委員会が、ICT環境の整備およびLTE端末導入で得られたメリットもたくさんあります。
児童生徒が始業時間に登校しない、夜遅くまで自宅に帰ってこないといった非常事態には、位置情報を取得して捜索に協力でき、端末紛失時には遠隔操作によるロックで情報漏洩を防止することができます。またLTE端末はデータ通信量を把握しやすいのもメリットです。通常では考えにくいデータ通信が発生している場合は、学校に連絡して該当する生徒に使用状況や健康状態を確認して、適切に指導を行っています。
ほかにも、教員研修や学校説明会をオンラインで開催したり、YouTubeチャンネル「ぎふMIRAI’sチャンネル」でオンライン授業を校外から配信したりと、ICT環境をフルに活用しています。
●NEXT GIGAにおける課題と展望
岐阜市では、LTE端末導入にデメリットというデメリットはないものの、通信費の補助制度がないことを課題と捉えています。そのため、現在岐阜市が事務局となって、政令市の熊本市をはじめ全国のLTE端末を採用している自治体と連携し、国に対して通信費補助の要請や、通信事業者に対する教育用通信費の整備を求めるための準備を進めています。
NEXT GIGAに向けては、次期学習系端末もLTE端末で考えています。さらに、校務用PCについてはiPadとの親和性を考慮しながら高性能化を検討していく予定です。
岐阜市では、LTE端末の導入によって、場所や通信環境にとらわれない学習環境を実現し、臨時休校時や校外学習でのつながりの強化や、不登校生徒への支援、教育委員会の運営効率化など、多くの成果を上げてきました。今後も、ICT環境を活用した教育の可能性を追求していきます。
③小規模校のICT運用の実態とLTE端末の活用事例
最後に登壇したのは、明光学園中学校・高等学校でICT国際教育推進部長を務める島ノ江純先生です。「地方中高一貫女子校におけるLTE端末の活用」をテーマに、現在のICT環境と運用実態、LTE端末の実用性について語りました。
●明光学園のICT環境とは?
明光学園は約70年前に福岡県大牟田市で創立したカトリック系の女子校で、生徒数は中学校90名、高校170名の小規模校にあたります。
ICT環境の整備を始めたのは2018年。現在は全校生徒に1人1台のLTE端末(iPad)を配り、生徒負担でキーボード付きカバーとタッチペンを一律で揃えています。iPadのデータ通信量は毎月3GBまでですが、校内にWi-Fi環境を整備しているため、生徒、教員ともにLTEとWi-Fiを切り替えて使用しています。また各教室にプロジェクターとAppleTVを備え、投影などに使っています。
●ICT運用では「生徒の安心安全」が第一
明光学園には現在ICT支援員の有資格者はいませんが、スムーズなICT教育の実現をめざして、島ノ江先生を含む計3名体制でICT利活用の推進に取り組んでいます。
島ノ江先生が部長として第一に心がけているのは、生徒の安心安全です。明光学園ではiPadにフィルタリングをかけ、深夜0時から早朝5時までは使用できない設定にしています。さらに、ドコモの「あんしんマネージャー」を契約して一元管理しているほか、年1回の頻度でiPadを回収して定期点検を実施。定期点検は、遠隔では確認できない端末の中身をチェックするのが目的で、使用状況によっては生徒指導部へ相談するなど慎重に対応しています。
ほかにも、学年・クラス・生徒間で格差が生じないように配慮する、わかりやすいルールづくりを行なうなど、細部にまで気を配ってICTを運用しています。
●LTE端末のメリットと、利用上の注意点とは?
LTE端末のもっとも優れた点は、全生徒に等しくインターネット通信環境を提供できること。校外活動や登下校中、自宅での学習にも利用できるのは大きなメリットです。Wi-Fiの通信障害が起きたときにも、LTE端末だったおかげで滞りなく授業を進めることができたのです。
LTE端末の使用上の注意点としては、データ通信量に上限があることを挙げました。生徒がLTEのみを使用していた時期は、上限の3GBを超えないように教員が配慮しながら授業を進める必要があり、毎月の通信量を集計して、上限を超えた生徒には担任から注意喚起を行なうことも。LTEとWi-Fiを併用するようになってからは、校内ではWi-Fi、外ではLTEとより快適な通信環境を実現しています。
●LTE端末は、授業や部活動など多様な場面で活躍
明光学園では、顕微鏡写真を撮る、デジタルで絵を描く、ダンス動画を撮影して見直す、音楽制作ツールで作曲する、音声ソフトで英語のリスニング力を鍛えるなど、さまざまな授業の中でiPadを活用しています。部活動や学校行事でも大いに役立っているほか、教室に来ることができない生徒に対しては授業をオンラインで配信しています。
島ノ江先生が「iPadを先生が使いこなせることも明光学園の特長です」と言うように、生徒と教員双方がLTE端末を自在に使用している実態が垣間見えました。
④パネルディスカッション
ここからは、3名によるパネルディスカッションが行われました。
●子どもたちに情報モラルを浸透させるには、教員の意識改革と保護者の協力が必要
平井先生――LTE端末の最大のメリットはいつでもどこでも学べることですが、デジタル・シティズンシップや情報モラルが子どもたちに求められます。場所を選ばず自由に使えるからこそ、自分で自分をコントロールするという意識が大事です。それぞれ使い方の実態を教えていただけますか。
栗本先生――岐阜市ではデジタル・シティズンシップ教育を前提としたGIGAスクール構想を推進しています。その考え方に基づき、「LTE端末をどう使ったらいいか」をみんなで話し合う機会を設けています。制限するのはかんたんですが、それでは子どもたちの情報活用スキルは伸びません。
とはいえ、端末のチェックは必要です。教員研修の成果で児童生徒にも少しずつ情報モラルの意識が広がってきていますが、データ通信量については適宜指導していきたいです。
平井先生――小中でiPadに慣れ親しんだ生徒と、高校からいきなり使い始める生徒では事情が異なりそうですね。教員のICTに対する意識改革についてはいかがですか?
栗本先生――岐阜市では校長会、教頭会、情報主任研修会を開いて、教員の意識改革を行っています。またPTAにも協力を仰いで、保護者にも懇談会や総会でICTの必要性を伝えています。デジタル・シティズンシップ教育の第一人者である、岐阜聖徳学園大学の芳賀高洋先生とも連携しているため、PTAの会で登壇してもらうこともあります。
平井先生――高校での情報モラルの実態はいかがかですか。
島ノ江先生――中高生は自分を律するのが難しい世代なので、自分を管理できない生徒もたくさんいます。iPadに熱中するあまり希望の進路に進めなかったとならないように、一定の管理は必要だと感じています。
平井先生――ある私立小学校では、授業参観日に保護者に対してスクリーンタイムの設定方法や履歴の見方を教えています。iPadの持ち帰りに際しては、学校任せではなく保護者の協力も必要なので、一緒に子どもたちの安全を考えていくべきでしょう
●子どもたちに情報モラルを浸透させるには、教員の意識改革と保護者の協力が必要
平井先生――LTE端末の便利さを知った児童生徒は、授業以外でも主体的に活用しているのではないでしょうか。iPadの活用事例を教えてください。
島ノ江先生――本校では課題研究活動に力を入れていて、校外活動でiPadを活用しています。一例ですが、ある高校2年生の生徒は、「白衣性高血圧」をテーマに「白衣を着た人がいると本当に血圧が上がるか否か」を調査しています。iPadは、近くの公民館でお年寄りに協力してもらうときなどに活躍しています。
栗本先生――岐阜市では、生徒会活動で全校生徒にアンケートを取る、投票に使うなど、特別活動で活用しています。社会科見学などの総合学習では、iPadを校外に持ち出して、発表や調査、まとめ作業などに使用しています。 また、学校で育てている植物を夏休みに持ち帰って成長を記録するなど、家庭に帰っても学びが連続するような使い方もしています。
平井先生――「学びの連続性」は重要なキーワードですね。Wi-Fi環境や場所にとらわれず学び続けられることはLTE端末のメリットです。
島ノ江先生――本校でも、通学や帰宅途中に調べたいことがあるときに、手元の端末ですぐに検索できるので大いに役立っています。
平井先生――通学時間も貴重な学びの時間で、1日1~2時間でも1年分を換算したらかなりの時間になります。いつでもネットにつながれる端末があることは、大きな意味を持ちますね。
●LTE端末でつながることで、学びの自由度が高まる
平井先生――「ICT環境が整備されると、週5日間、毎日登校する意味が減るのでは?」と質問を受けました。高校では近年通信制が増えてきていますし、普通科の高校に通信科を設置するケースも見られます。高校側からの意見を聞かせていただけますか。
島ノ江先生――コロナ渦はオンライン中心でもよいのではと考えたこともありますが、今はオンラインでのやり取りが増えたからこそ、対面のよさも感じています。
平井先生――学校でなければできない学びがある一方で、自宅での効果的な学びもあり、整理は必要でしょう。岐阜市の草潤中学校ではオンラインメインですが、手応えはいかがですか?
栗本先生――大きな手応えを感じています。学校に通わなくても学べる環境があると、子どもの心にゆとりが生まれます。一方で、リアルの大切さも実感しています。岐阜市では今「小規模校つながるプロジェクト」が進行中で、小規模校3校の教室がオンラインでつながって、一緒に授業を受けたりグループワークを行ったりしています。ただ、子どもたちはリアルで会うととても喜ぶので、リアルでの交流も重視していきたいです。
平井先生――やはりオンラインとリアルの組み合わせが大事で、それを支えるのがICT環境ということですね。お2人の話から、これからのキーワードは、「LTE端末でつながり学びが自由になること」だと確信しました。
各校それぞれの取り組み事例をお話いただきました。子どもたちへは勿論、先生方にとっての「学びのDX」の実現をLTE端末がご支援していきます。
本セミナー動画視聴方法やお問い合わせはed-cl@ntt.comまでお願いいたします。