2024年3月7日、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は「ICTを活用した不登校児童生徒への最新の支援方法とは?」と題したオンラインセミナーを開催しました。 本セミナーでは、不登校児童生徒への新しい支援方法として「ICTの活用による、児童生徒のメンタルヘルスの変化」や「SOSの兆候の早期発見」、「自治体における、ICTを活用した不登校児童生徒の支援」などが紹介されました。本記事では、自治体教育関係者さま必見のセミナーの様子をご紹介します。
【セミナー概要】
- 開催:2023年3月7日(木)18:30~20:00
- 会場:オンライン開催(Zoomウェビナー)
- テーマ: ICTを活用した不登校児童生徒への最新の支援方法とは?
- 登壇者/講演テーマ
1.有識者講演
「WEBQU を活用した不登校支援 ~予防と早期対応の具体的取り組み~」
株式会社 WEBQU 教育サポート 河村 昭博 氏2.事例紹介1
「誰ひとり取り残さない 1人1台端末を活用した不登校支援」
熊本市教育委員会 宮津 光太郎 先生3.事例紹介2
「あなたが輝く居場所と学び ~岐阜市の取り組み~」
岐阜市教育委員会 宮田 栄子 先生4.登壇者によるパネルディスカッション
誰ひとり取り残されない学びに向けた新しいアプローチについて
1.「WEBQU を活用した不登校支援 ~予防と早期対応の具体的取り組み~」
株式会社WEBQU 教育サポートの河村昭博氏からは、学級づくりをサポートする心理アンケート「WEBQU」を利用し、不登校を事前に防ぐ取り組みについてお話しいただきました。
「隠れ不登校」を不登校にしない!子どもたちの心の声を汲み取るICT
●不登校の現状
2022年度の不登校者数が過去最高を記録するなか、特に注目したいのが、不登校数の5倍とも言われる「隠れ不登校」です。そのため、彼らが「休みたい」と感じる前に、小さなSOSを見逃さず未然に防止できるようなサポート・学級づくりが急務となっています。
不登校要因は、不安、無気力が目立ち、さらにその理由として学業不振・友人関係が高い比率を示します。この解消には、「良好な友人関係」や「学業不振のサポート」の土台となる、「安心、安全で居心地の良い学級づくり」が必要です。
●WEBQUの概要
WEBQUは、学級づくりをサポートする心理アンケートです。アンケート形式にすることで“子ども視点”を取り入れ、観察と面接の質を多角的に高めています。
アンケートの所要時間は、15分前後と短時間。さらに、問題発生時も両者の気持ちを同時に把握でき、学級全体の雰囲気も確認できることポイントです。
WEBQUの基本構成は、クラス内で「認められているか」の縦軸と、「安心できているか(嫌な思いをしていないか)」の横軸の二軸です。これにより、子どもたちが4つの群へ位置づけられます。
さらに群の構成で、学級の型が以下4つに判定され、居心地の良さと、クラスの状態が可視化されます。
- 親和型学級:満足群に70%以上の生徒が属している
全員が自治的で、学習欲や活動も活発に進む。 - かたさ型学級:満足群と、認められていない非承認群
クラス内に意欲の温度差が出て、学習意欲も低い。 - ゆるみ型学級:満足群と、嫌な思いをしている群
全体がルーズな雰囲気で活動が深まらない。ほっておくといじめに起因。 - 不安定型学級:満足群と、不満足群に分かれる
一斉指導が難しく、担任ひとりでは授業が困難。
参考:親和型学級では期待以上の学業成績になるケースが多く、かたさ型学級ではどの型より実力が出せないというデータもある。
個人に加えて、集団の状態を意識した学級づくりが非常に重要だということがわかります。
数値化で事前に状況を察知!学校全体で共有し、担任の業務負担を軽減
●WEBQUで明日からできる3つのこと
WEBQUの導入によりできることのうち、「不登校予防群チェック」「子どもの困り感・観察ギャップチェック」「学級の型チェック」の3つを紹介いたします。
例えば、「不登校予備軍チェック」機能では、アンケートの回答に違和感のある生徒、すべての要支援群や、いじめや不登校の可能性がある生徒の確認ができます。
また、問題発生後になにをすべきか迷うようなケースでも、WEBQUを確認すれば対応スピードを上げることができ業務効率アップが見込めます。
●2つの事例紹介
続いて、WEBQUの事例を見ていきましょう。
<① 小学校6年生から中学校1年生への引き継ぎ段階を手厚くケアした事例>
小学校6年生から中学校1年生への引き継ぎ時に、6年生時点でSOSを出していた生徒を優先的にサポート。対応が難しいと予想されるクラス担任のバックアップ体制を学校全体で整え、新年度を迎えたところ、クラス編成時から5か月で、不満足軍が1/3に減少しました。
<② 不登校予防対策の具体的な行動化指標となった事例>
WEBQUの活用により、教員間の共通理解や情報共有を促した事例です。気になる生徒に対する行動を起こし、学校のすべての教員が協働できるようになりました。
●学力クロス分析機能
オプション機能「学力クロス分析」は、学力面から不登校支援ができる機能です。教科担当など学力向上に係る担当者も巻き込むことができるように。この機能により、チーム体制が強化され、相乗効果が期待できるといった声が上がっています。
WEBQUでは、不登校支援に対する教員の見解認識を統一し、対応効率を上げることで、教員の業務負担軽減が期待できます。教員などの協働を促しながら不登校の課題と目標をサポートしたいと考えています。
2.事例紹介①「誰ひとり取り残さない 1人1台端末を活用した不登校支援」
熊本市教育委員会の宮津光太郎先生からは、文科省からの委託で取り組んでいる「1人1台端末を使った不登校支援」についてお話しいただきました。
大人の価値観に触れ、カウンセラーも配置!熊本市のオンライン学習支援
●フレンドリーオンラインの概要
2022年、熊本市では、不登校児童生徒支援の一環として「フレンドリーオンライン」を始めました。これは、教育委員会独自に、全市的にオンライン学習支援を行う仕組みです。
市内の小・中学校の各1校を配信拠点校として空き教室にスタジオを設置し、ZOOM配信で生徒へ学習支援を行っています。2024年2月時点では、小・中学校合わせて1日約100人が参加しました。
以下は、中学校の時間割の一例です。
各教科の学習は自分のペースで学び、支援員がサポートします。中学校では、配信拠点校の教員の協力で、さまざまな教科の授業を配信できました。なお、学習アプリには、未学習の単元をアニメーション動画で学べる「すらら」を使用しています。
●教科学習以外のオンライン支援
教科学習以外のプログラムにも積極的に取り組んでいます。オンラインでキャリア教育を行うプログラム、「Inspire High」では、さまざまな場で活躍する大人の価値観に触れ、自分の生き方を見つめる機会となっています。
また、月に一回、小・中学校合同でオンライン社会科見学も行っています。これは、市内にある美術館や博物館などの施設の方に施設や職業に関して話してもらうものです。
さらに、カウンセラーにさまざまなお話しをしてもらう「心すっきりタイム」や、休み時間や放課後という位置づけで、児童生徒間のオンラインコミュニケーション支援も行っています。
●今年度からの新しい取り組み
今年度は新しく、以下の3つの取り組みを始めました。
・ダッシュボードの活用
これまで支援員や教育委員会が手動で行っていた作業を、「Power Automate」や 「Power BI」を使用して自動化しました。担当者の負担が大幅に軽減でき、各学校からは参加状況がタイムリーに把握できると好評です。
・3Dメタバースの活用
「DOOR」という仮想空間プラットフォームを使用しています。現在STEP2まで進み、メタバース内での作品展示会を行いました。終了後のアンケートでは、コミュニケーションへの意欲の高まりや、メタバースをもっと活用したいという回答が目立ちました。
・自律走行型ロボット
昨年12月から中学校で自律走行型ロボットの活用を始めました。ロボットを教室内に置くことで、生徒は遠隔でも授業に参加できるように。利用した生徒は、「授業に参加している」という気持ちが以前より強くなったとアンケートに回答しています。
参加から3か月で、アンケート調査の全項目が向上
●アンケート結果
フレンドリーオンラインに関するアンケートでは、9割程度が「満足」「とても満足」と回答。また、フレンドリーオンライン参加直後と、参加後3か月以降の児童生徒を比較すると、アンケート調査の全項目が伸びています。
特に安心感の伸びが高く、安心、安全な場所だと認識することで、コミュニケーションや学習への意欲、自尊感情の高まりにつながるのではないかと期待しています。
目標は、”心の居場所づくりと学習機会の保証”です。すべての児童生徒の社会的な自立や、つながりの支援を進めていきたいと思っています。
3.事例紹介②「あなたが輝く居場所と学び ~岐阜市の取り組み~」
岐阜市教育委員会学校安全支援課の宮田栄子先生からは、岐阜市で取り組んでいる「不登校児童生徒への支援」についてお話しいただきました。
オン・オフラインの両方から、子どもの居場所を創生
●不登校児童生徒への支援の考え方
岐阜市教育委員会では、「いつでもどこでも誰かとつながる」をキーワードに、「誰ひとり取り残さない不登校児童生徒への支援」を目指しています。
岐阜市は、2021年に東海地区初の公立の学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)として、草潤中学校を開校しました。生徒のありのままを受け入れる姿勢での支援が功を奏し、多くの生徒が登校できるようになっています。
草潤中学校の取り組みから見えてきたのが次の構造です。
不登校とはストレスなどでエネルギーが低下している状態で、回復にはエネルギーの蓄積が必要。そのために安心できる居場所や信頼できる大人、そして個に応じた学びが求められています。
そのような環境があれば、子どもたちは徐々にエネルギーを蓄え、同世代のつながりを求めるようになるはず。さらに自分の良さを自覚できるよう支援すれば、自立に向けた歩みにつながると考えています。
●中学校におけるフリースペースの開設
これらを背景に、今年度より市内5つの中学校にフリースペースを整備しました。
まだ始まったばかりですが、利用者数の増加や欠席日数の減少など、成果が上がっています。来年度はさらに5校拡大する予定です。
●オンラインフリースペースの取り組み
一方、リアルな場に出かけられず、どこにもつながりのない児童生徒も多くいました。彼らに対する、さらなる支援が必要です。
この問題の打開策として、岐阜市ではタブレット端末を活用したオンライン支援を進めています。オンライン上であっても、「安心できる居場所、信頼できる大人、個別の最適な学び」を展開できれば、効果的な支援ができるという考えです。
●オンラインフリースペースの実証
その方法として、NTT Comの協力のもと実証実験を進めてきたのが、メタバースを利用したオンラインフリースペースです。ここでは、子どもたちが入りやすく楽しさを味わえることを大切に、運営を工夫しています。
今年度行った実証実験では、メタバースの良さである「自由に出入りができること」や「多くの部屋を設けられること」を生かして、簡単な授業配信、フリートークルームの開催など、さまざまな活動ができるよう考えました。
オン・オフラインでの取り組みの先にある「子どもたちの成長」をサポート
●実証実験のアンケート
2024年1月の、オンラインフリースペース実証後のアンケートです。
児童生徒たちが「ここなら自分のペースでの学びや人とのつながり、自分の良さの発見ができる」と期待を持っているのがわかります。
●運営計画
また、2024年度からは、継続的なオンラインフリースペースの運営を計画しています。
これらを通じて、子どもたちの居場所づくりを行い、オンラインイベントなども企画しています。なお、オンラインフリースペースの運用は、教育委員会だけでなく、草潤中学校、各フリースペース他と連携する予定です。リアルな関わりにもつなげ、子どもたちの自立に向けた成長を後押ししたいと考えています。
4.パネルディスカッション「誰ひとり取り残されない学びに向けた新しいアプローチについて」
ここからは、登壇者のパネルディスカッションが行われました。
テーマ① 誰ひとり取り残さない学びの実現に向けてICTを活用することの一番のメリットとは?
河村氏――(事前予防の視点での)一番のメリットは、一人ひとりに適した学習の提供ができることです。さらに、WEBQUをはじめとする教育ICTツールの併用で、子どもたちの適応感や意欲を把握でき、誰ひとり取り残さない学びをサポートできます。
宮津先生――(現場視点での)一番のメリットは、誰でもどこでも、気軽につながれるため、コミュニケーションに苦手意識があってもつながりやすいことです。子どもにとって学びの選択肢のひとつになると感じています。
宮田先生――(現場視点での)一番のメリットは、自宅にいても、学びや居場所を届けられることです。外に出にくい子どもたちへのハードルを非常に下げられると思います。
テーマ② メタバースのメリットや、対面と比較したICTならではのメリットとは?
宮津先生――メタバースは、ほかの人の存在を視覚的にパッと感じられるのが強みです。熊本市では、メタバース上でたくさんの部屋をつくり、例えば同じ趣味を持つ子どもたちが自分たちでコミュニティをつくって交流しています。コミュニケーションに苦手意識を持つ子にも効果的なツールだと思います。
宮田先生――メタバースの利点は、参加へのハードルの低さです。そしてコミュニケーションがリアルにできるところでしょう。
テーマ③ NTT Comの教育クラウドサービス「まなびポケット」から、2024年度に提供開始予定の「心の健康観察」(※)について
河村氏――WEBQUと併せて確認すると、例えば心の不調の理由(体調、友人関係など)などが、横断縦断的に把握ができ、声かけのタイミングなどのアセスメント精度が上がりそうですね。
宮津先生――学校だけが児童生徒への支援を負担するのでなく、教育委員会も負担することで、社会全体で支援体制を構築していくきっかけになるのではないかと感じました。
宮田先生――岐阜市でも、同じような機能を持つアプリを利用しています。子どもの心の変化が可視化でき、教職員がすぐに声かけできるため、ささいな問題を、大きな問題につなげない効果が出ていると感じています。
(※) 本機能は、児童生徒が毎日の心の健康状態を入力し、教職員画面で可視化することで、児童生徒のメンタルヘルスや体調の変化の早期発見が可能です。教職員は、児童生徒の入力データを一覧で確認でき、教育委員会でも、各学校のサマリ情報を見ることができます。(学習eポータルとしてまなびポケットをご利用中の学校は2026年3月末までは無償で利用可能)
テーマ④ こういう機能や情報が追加されれば根本的解決につながると思いますか?
宮田先生――岐阜市が使用しているアプリでは、ボタンひとつで相談ができるシステムがあり、その相談から問題の事前解決につながるなど、効果が出ているようです。
最新の教育ICT機能の活用によって、不登校の予防や、不登校児童生徒へのサポートがスピーディかつ効果的に行えるなど、不登校支援の現場にも大きな変化が起こっています。今後もさらに教育ICTでのサポート体制は進化していくことでしょう。誰ひとり取り残さない子どもたちの学びへのサポートに向け、さらなる変化に期待が集まります。