運用設計とは?
行うメリットや検討すべき項目を解説
運用設計とは、システムを安定的に運用するために必要なプロセスや手順を定めることです。特に、大規模なシステムを扱う企業では、トラブル防止や業務効率化のための運用設計が欠かせません。
近年、日本企業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速とともに、システムの運用管理を高度化する動きが見られます。このような背景の中で、運用設計を適切に行う重要性がますます高まっています。
本記事では、「運用設計」の基本概念やメリット、具体的な検討項目について解説いたします。
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運用設計とは
運用設計とは、システムを安定的かつ効率的に運用するために、必要なプロセスや手順を定義することです。
運用設計は、開発設計とは異なり、システムが稼働した後の「運用フェーズ」に焦点を当てています。このため、開発段階で考慮される設計要件とは異なり、現場での実用性や効率性を重視している点が特徴です。また、トラブル発生時の迅速な対応を可能にするだけでなく、日常的な業務の属人化を防ぐことで、長期的な運用の安定性を担保します。
運用設計では、システムの機能を最大限に活かし、かつシステム故障の発生時の対応を最小限にするための方法を確立することが重要です。
具体的には、以下の要素に関する設計を行います。
運用概要
まず、システムの運用に関する全体像を示す資料を作成します。これには、システムの目的や運用体制、関連システム、利用者情報などが含まれます。
機能一覧と利用方法
システムが提供する全ての機能を一覧化し、それぞれの利用方法を詳細に記述します。
ユーザーが迷うことなくシステムを利用できるよう、操作手順やFAQなども資料として整備します。
運用ルールと方針
システムを安定的に運用するためのルールと方針を定義します。
たとえば、アクセス権限、データバックアップ、セキュリティ対策、故障対応手順などが含まれます。
これらのルールは、システムのセキュリティと安定稼働を確保するために厳格に実行される必要があります。
保守手順
定期的なシステム保守やアップデートの手順を定めます。
これには、ハードウェアとソフトウェアの両方が含まれます。
また、システム故障の発生時の対応手順も明確に定義し、関連部署との連携方法も定めます。
運用資料
上記の全ての要素を網羅した運用資料を作成します。
この資料は、運用担当者にとっての基準となるべきものであり、常に最新の情報が反映されている必要があります。アクセスしやすい場所に保管し、検索機能も充実させることが重要です。
上記以外にも、運用設計においては、システム監視の方法や、パフォーマンス監視のための指標設定、さらにシステム故障の発生時のエスカレーション手順なども定義する必要があります。
運用設計はシステム開発のライフサイクルの中で軽視されがちですが、システムの安定稼働とビジネスの継続性にとって不可欠な要素です。
近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、多くの企業が運用管理の高度化を図っています。
運用設計を行うメリット
運用設計を行うことで期待できるメリットは、次の4点です。
効率的でスムーズなシステム運用ができる
運用設計を適切に行うことで、日々のシステム運用が効率的かつスムーズに進むようになります。明確に定義された運用フローや手順書を活用すれば、担当者間での情報共有が容易になり、作業の無駄を削減できるためです。
また、日常的なメンテナンスやアップデート作業も計画的に実施できるため、予期せぬトラブルを未然に防ぐことが可能です。
この結果、業務への影響を最小限に抑えつつ、運用コストの最適化が図れます。
システムの改善により高品化を実現できる
運用設計では、システムの品質を担保するためのさまざまな活動が実施されます。
たとえば、設計書に記載されたテスト計画に基づき、本番環境を想定した徹底的なテストを実施することで、潜在的なバグやパフォーマンスの問題を早期に発見し、修正することができます。品質の高いシステムは、ユーザー満足度向上に直結します。
また、運用設計で作成される設計書や運用マニュアルは、システム改善のための貴重な資料となります。システムの現状を把握し、問題点を分析することで、具体的な改善策を提案することができます。継続的な「改善」活動を通じて、システムは常に最適な状態を維持できます。
故障の防止や迅速な対応につながる
運用設計の中で故障発生時の対応フローや復旧手順を事前に策定しておくことで、システムのダウンタイムを最小限に抑えることができます。
たとえば、モニタリング体制の整備やアラート設定を行うことで、故障の兆候を早期に検知し、適切な対応を実施できます。
業務の属人化を防ぐことができる
システム運用において担当者が特定の担当者に偏っていると、担当者の異動や退職によって業務の停滞やトラブルとなる可能性があります。
そこで、運用設計では、業務の標準化やマニュアル化を通じて、属人化を防ぐ仕組みを構築します。
この結果、担当者の変更や新規メンバーの参画があった場合でも、スムーズな引き継ぎが可能となり、運用体制の安定性が確保されます。
特に大規模なシステムを扱う企業においては、属人化のリスク軽減が長期的な成功の鍵となるでしょう。
運用設計で検討すべき項目
運用設計を進める際には、複数の重要な項目を体系的に検討する必要があります。
それぞれの項目を具体的に考慮することで、システムの安定性と効率性を確保し、トラブル発生時にも迅速に対応できる体制を構築することが可能です。
具体的な項目を以下にあげ、解説します。
基本方針
まず、運用設計の最初のステップは、基本方針を明確にすることです。
この時、システム運用における目標や目的を設定します。
たとえば、「システムの稼働率99.9%以上を維持する」「故障発生時の復旧時間を最短化する」といった目標を掲げることで、運用全体の指針を示しましょう。
対象システムの内容
次に、運用対象となるシステムの詳細を正確に把握します。
ハードウェア構成、ソフトウェア、ネットワーク、ストレージなど、システムを構成する全要素を明確にし、それぞれの特性や運用上の注意点を整理しましょう。
この結果、必要な管理項目や優先度を具体化できるようになります。
運用体制
運用を効果的に進めるためには、適切な運用体制を構築することが不可欠です。
運用チームの役割分担や担当者のスキル要件を明確化し、必要に応じて研修を実施しましょう。
また、夜間や休日対応の体制も事前に定義しておくことが重要です。
管理項目
運用における管理項目を洗い出しましょう。
たとえば、システム稼働状況、ネットワークトラフィック、セキュリティログなど、日常的に監視すべきデータを特定し、適切なツールを導入することでリアルタイムの管理を可能にします。
運用スケジュール
システム運用には、計画的なスケジュールが欠かせません。
定期的なメンテナンスやバックアップ、ソフトウェアアップデートなど、スケジュールに基づいてタスクを実施することで、安定したシステム運用が実現します。
定常作業
日常的に発生する作業についても、具体的な内容を明確にします。
たとえば、ログの確認やデータバックアップ、ハードウェアの状態チェックなど、定常作業をルーチン化することで、属人化を防ぎつつ効率的な運用を実現します。
故障対応の手順
システム故障が発生した際に備え、明確な対応手順を定義しましょう。
初動対応、エスカレーション、原因調査、復旧作業のプロセスを事前に策定しておくことで、迅速かつ適切な対応が可能になります。
災害時の対応
自然災害や大規模停電といった緊急事態にも対応できるよう、BCP(事業継続計画)の観点から災害時の対応策を設計しましょう。
データの冗長化やバックアップ拠点の確保など、被害を最小限に抑えるための計画が必要です。
セキュリティ対策
セキュリティは運用設計において最も重要な要素の1つです。
不正アクセス防止、データ暗号化、アクセス権限の管理など、セキュリティ対策を徹底することで、システムの信頼性を確保します。特に近年では、クラウド環境のセキュリティが重要視されています。
運用設計を行う際のポイント・注意点
運用設計を成功させるためには、いくつかの重要なポイントと注意点を押さえる必要があります。
特に、情報セキュリティの3大要素である「可用性・機密性・完全性」のバランスを取ることは、システムの信頼性を高める上で欠かせない要素です。
可用性を意識する
可用性とは、システムがユーザーに提供される状態をどれだけ維持できるかです。
運用設計では、システムのダウンタイムを最小限に抑える対策を講じることが重要です。
たとえば、冗長構成やバックアップ体制を整えることで、ハードウェアやソフトウェア故障が発生しても迅速に復旧できるようにします。
また、監視ツールを導入することで、システムの状態をリアルタイムで把握し、問題を事前に検知することが可能です。
機密性を重視する
機密性とは、情報へのアクセスを適切に制御し、許可されたユーザー以外に情報が漏れないようにすることです。
システム運用では、データの機密性を確保することが不可欠です。不正アクセスやデータ漏えいを防ぐために、適切なアクセス制御を設計段階で構築する必要があります。
具体的には、ユーザーごとのアクセス権限を細かく設定したり、多要素認証を導入したりすることで、セキュリティを強化します。
また、データの暗号化や通信経路の保護も重要な施策です。これにより、万が一データが盗まれた場合でも、機密情報が悪用されるリスクを大幅に低減できます。
完全性を重視する
完全性とは、システムやデータが正確で信頼できる状態を保つことを指します。
運用設計では、データの改ざんや消失を防ぐための対策を講じる必要があります。
たとえば、データのバックアップスケジュールを設定し、定期的に整合性チェックを行うことで、完全性を確保します。
さらに、ログ管理も完全性を維持する上で重要な要素です。アクセスログや操作ログを記録し、不正行為やシステムエラーを特定するための仕組みを整備します。
まとめ
運用設計は、システムの安定的な稼働を支えるために不可欠なプロセスです。特に、大規模なシステムを扱う企業においては、トラブルの未然防止、業務効率化、迅速な故障対応を実現するための重要な基盤となります。
運用設計を成功させるためには、可用性、機密性、完全性をバランスよく取り入れることが求められます。
また、適切なツールやサービスを活用することで、運用効率をさらに高めることが可能です。
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今後もDXの進展に伴い、運用設計の重要性はさらに増していくことが予想されます。ぜひ本記事を参考に、適切な運用設計を実施し、システム運用の最適化を図ってください。