運用高度化とは?
効率化・自動化で実現する次世代ICTインフラ管理のアプローチ手法

システムの複雑化や運用コストの増大、セキュリティリスクの高まりなど、ICTシステム運用の課題が山積している企業も多いのではないでしょうか。業務のデジタル化が加速するなか、ICTシステム運用のあり方も大きく変わりつつあるなかで、近年「運用高度化」が注目を集めています。

この記事では、運用高度化が必要とされる理由から、アプローチ方法、具体的な事例などについて解説します。

運用高度化とは?効率化・自動化で実現する次世代ICTインフラ管理のアプローチ手法

運用高度化とは?必要とされる理由

運用高度化とは、システム運用をより効率化かつ技術レベルの高度化を図る取り組みです。複雑化した現代のシステム環境において、運用の高度化は効率的で安全な運用を実現するために不可欠な要素となっています。運用高度化が必要とされる代表的な理由についていくつか見てみましょう。

システム運用が複雑化しているため

クラウドサービスの普及やICTの急速な進化により、システムの規模は拡大を続け、その内容も複雑化の一途をたどっています。このような状況で、システム運用は増加する業務量への対応だけでなく、新たな技術への適応も求められています。

例えば、オンプレミス環境とパブリッククラウド環境、プライベートクラウド環境が混在するハイブリッドクラウドの管理や、マイクロサービスをはじめとした多様なアーキテクチャの運用など、従来とは異なる技術や概念への対応が挙げられるでしょう。また、IoTデバイスの増加やモバイル端末の普及により、管理対象となるエンドポイントも多様化しています。

このように複雑化するシステム環境に対応するためには、自動化ツールの導入やAI(⼈⼯知能)を活用したITシステムの運用管理など、より高度な運用手法の導入が不可欠となっています。

属人化によるリスクへの対策の必要性が高まっているため

業務の属人化とは、特定のエンジニアが特定の業務に縛られてしまう状況を指し、組織にとって大きなリスクとなる可能性があります。例えば、担当者が不在になるだけで業務が進まなくなる、あるいは突発的なトラブルに対応できなくなるといった事態が生じる可能性が考えられるでしょう。

これらのリスクへの対策を通じて、ブラックボックス化したノウハウなどを標準化して組織で共有し、誰もが必要な情報にアクセスできる環境を整えることが重要です。運用高度化は、こうした業務の属人化によるリスクへの対策として効果的な手段になり得ます。

運用コストが増大し効率化の必要性が高まっているため

クラウドサービスの業務利用が拡大し、運用範囲が広がり続けているため、運用コストの増大は、現在多くの企業にとって大きな課題となっています。管理が必要なシステムの増加や高度化により、人的リソースや予算の面での効率化が強く求められています。こうした課題に対応するためには、自動化ツールの導入やAI活用などの運用高度化のアプローチが効果的です。そして運用コストの削減と同時に、システムの安定性や可用性の向上も期待できます。

増大するセキュリティリスクへの対応が必要なため

DXの推進やグローバル化の進展にともない、企業に要求されるセキュリティレベルが高まっています。コンプライアンス、ガバナンス、CSRなど、多様な観点からセキュリティ対策の強化が求められています。特に金融機関では、急速に増大するサイバー脅威と深刻なサイバーセキュリティ専門家の人材不足が大きな課題です。このようなセキュリティリスクの増大に対して、運用高度化によってより効果的かつ効率的な対応が可能となります。

ユーザー要求の多様化に迅速な対応が必要なため

システムの複雑化にともない、トラブル対応にかかる手間が増大するとともに、ユーザーの要求は多様化しています。これらに対し迅速に対応することが求められています。効率的なシステム運用を実現するために、運用高度化のアプローチが有効です。運用高度化は運用効率の改善だけでなく、ユーザー満足度の向上も同時に期待できます。運用高度化は、多様化するユーザー要求に対する解決策として、今後ますます重要性が増すでしょう。

運用高度化のアプローチと手法

システム運用の高度化を実現するためには、多様なアプローチと手法が存在します。これらを適切に組み合わせることにより、効率的かつ効果的なシステム運用の実現が可能です。ここでは、運用高度化のアプローチと手法について解説します。

現状運用の可視化と分析

運用高度化の第一歩は、現状のシステム運用プロセスを可視化し、詳細に分析することです。この過程で、非効率な部分や改善が必要な箇所を特定することが可能です。さらに、属人化された作業や無駄な手順なども明らかになります。

具体的な分析アプローチとしては、次のような方法が挙げられます。

  • 業務プロセスの可視化:運用業務の内容を図式化し、業務全体を可視化
  • 業務リソースの最適化:各プロセスの所要時間や頻度を測定し、業務リソース配分を最適化
  • ボトルネックの改善:処理が滞りやすい箇所(ボトルネック)や属人化している作業を特定し、改善策について検討

これらの分析結果をもとに、具体的な改善計画を立案することができます。

標準化と汎用化の推進

運用プロセスの標準化と汎用化は、業務の効率性と一貫性を高めるために重要な施策です。標準化と汎用化が進むことで、個人の経験や技能に依存しない安定したシステム運用が実現できます。
標準化と汎用化を推進するためのポイントは次のとおりです。

  • 作業手順書の整備:詳細な業務手順を文書化し、誰でも同じ手順・品質で作業が行えるようにする
  • テンプレートの活用:定型的な作業や文書作成のためにテンプレートを用意し、業務の効率化を図る
  • 情報共有ツールの導入:部門や担当者間でノウハウなどの情報共有を円滑にするためのツールを導入する

このような取り組みにより、システム運用の品質向上とコスト削減を同時に実現できます。

プロセスの最適化と自動化

運用プロセスの最適化と自動化は、効率性を大幅に向上させる重要な施策です。反復作業や定型業務を、ツールなどを用いて自動化することで、人的ミスの削減と作業時間の短縮を図れます。

自動化の対象となる主な領域としては、次のようなものが挙げられます。

  • システム監視と異常検知、アラート通知
  • データバックアップとリストア
  • セキュリティパッチの適用
  • リソースの割り当てとスケーリング

自動化ツールの選定にあたっては、ITIL 4で定義された34のプラクティスなどを参考にし、組織のニーズに合った最適なソリューションを選択することが重要です。

運用設計の見直しと改善

システム全体の効率性と信頼性を向上させるために、運用の設計そのものを見直すことも重要です。ここでは、次の観点から検討を進めます。

  • システムアーキテクチャの再評価:現在のシステム構成が最適かどうかについて検証する
  • リソース配分の最適化:ハードウェアやソフトウェアリソースの適切な配分について検討する
  • トラブル対応のプロセス改善:インシデントやトラブル発生時のフローを見直す

運用設計の見直しにより、運用コストの削減とサービス品質の向上を同時に達成できる可能性があります。

クラウド活用による運用効率化

クラウドサービスの活用は、システム運用の効率化と柔軟性の向上に大きく貢献します。クラウドを活用することにより、次のようなメリットが得られます。

  • 運用コストの最適化:従量課金制のサービス利用により、必要な分だけリソースを利用できる
  • 最新技術の迅速な導入:クラウドサービスプロバイダーが提供する新機能を即座に利用できる
  • クラウドネイティブな運用ツールの活用:クラウド環境に最適化された運用管理ツールを利用できる

ただし、クラウド移行に際しては、情報セキュリティやコンプライアンスの観点からも十分な検討が必要です。

DevOpsアプローチの導入

DevOpsアプローチは開発(Development)と運用(Operators)の連携を強化し、システムの開発から運用までのライフサイクル全体のプロセスを最適化するアプローチです。このアプローチにより、迅速なサービスの提供と安定したシステム運用の両立が可能となります。

DevOpsの主要なプロセスとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)
  • インフラストラクチャ・アズ・コード(IaC)
  • モニタリングとログ管理の自動化

これらのプロセスを通じて、システムのリリース頻度と品質を同時に向上させることが可能です。

運用自動化ツールと技術の活用

ICTシステム運用の効率化・高度化を実現するために、さまざまな自動化ツールや技術が開発されています。このようなツールや技術は、システム担当者の業務負荷を軽減し、運用品質の向上に貢献します。ここでは、システムの運用高度化に役立つ主要なツールや技術について見てみましょう。

ITILベースの運用管理ツール

ITIL(Information Technology Infrastructure Library)に準拠したITサービスマネジメントツール(ITSMツール)は、ITシステムの円滑な運用と効果的な管理を強力にサポートするツールです。ITSMツールは、インシデント管理、問題管理、変更管理などの機能を提供し、ITサービス運用におけるベストプラクティスに基づき、ITIL 4で定義されたプラクティスの実践を可能にします。

例えば、ITILをベースとしたシステム運用管理ツールは、次のような機能を提供します。

  • お問い合わせ対応業務で必要となるインシデント管理
  • 問題の根本原因分析と解決策の提案
  • ITサービス全体の変更プロセス管理
  • サービスカタログ管理と社内ポータル作成

これらの機能を通じて、情報システム部門が効率的にサービスを提供し、ユーザー満足度を向上させることが可能です。

AIOpsによるトラブル予測と自動復旧

AIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)は、AIや機械学習を活用してシステムトラブルの予測や検知、トラブルの原因特定、自動復旧作業を行う革新的な技術です。AIOpsを活用することで、異常検知やトラブルの根本原因特定からシステムの復旧までを自動化し、システム運用担当者に対する負担の大幅な軽減が可能です。
AIOpsの主な利点としては、次のようなものが挙げられます。

  • 異常検知の自動化と状況の予測分析
  • 大量のログデータの管理と、必要なデータの抽出
  • 自動化されたインシデント対応と復旧プロセス
  • システムのパフォーマンス最適化と正常な稼働の維持・管理

RPA(Robotic Process Automation)の活用

RPAは定型的な業務プロセスを自動化するツールで、ITシステム運用においても大きな効果を発揮します。RPAを活用することで、作業時間の短縮やヒューマンエラーの回避、業務効率の向上などが期待できるでしょう。ITシステム運用におけるRPAの具体的な適用例としては、次のようなものが挙げられます。

  • 定期的なレポートの生成と配布
  • システムログの収集と分析
  • ユーザーアカウント管理
  • ソフトウェアへのパッチ適用

RPAツールはこれらのタスクを効率的に自動化し、IT担当者がより戦略的な業務に集中できるようサポートします。

構成管理データベース(CMDB)の導入

構成管理データベース(CMDB)はICTシステムを構成する要素の情報を維持・管理するデータベースです。システム構成を一元管理することにより、例えばトラブル発生時には影響範囲を迅速に特定できるようになります。CMDBを導入することによる主要なメリットは次のとおりです。

  • IT資産とその構成要素の一元管理
  • 変更管理プロセスの効率化
  • インシデント解決の迅速化
  • コンプライアンスの強化

また、CMDBの導入はITILにおける各プロセスの効率化にも貢献します。このことからもITシステム運用の効率化と品質向上のためには欠かせない存在といえるでしょう。

監視・モニタリングの高度化

統合運用管理ツールなどの高度な監視・モニタリングツールは、システムの状態を24時間365日監視して異常を早期に検知できます。複雑なICT環境の運用を効率化し、システムの安定稼働とサービス品質の向上をサポートする存在です。昨今の統合運用管理ツールの特徴としては、次のようなものが挙げられます。

  • AIを活用した予測分析
  • クラウド環境の効率化
  • カスタマイズ可能なダッシュボード
  • 自動化されたアラートと通知システム

統合運用管理ツールなどによる高度な監視・モニタリングの実現は、ITシステム運用を大幅に可視化・効率化させます。

運用高度化の具体的事例と効果

運用高度化は多くの企業で取り組まれており、大きな効果を上げています。システム運用の効率化やコスト削減、トラブル対応時間の短縮など、多くの成果が報告されています。ここでは、3件の成功事例とその効果について見ていきましょう。

大規模システムの運用効率化事例

あるアパレル企業のECサイト運用高度化の事例では、高付加価値となる運用領域への集約を目指し、システム運用ルールの再定義や各種自動化ツールの導入を実施しました。具体的には、チャットボットやCMS自動投入機能などの自動化でRPAを活用しています。これらの施策により、オペレーション領域の運用コストが32.6%削減されるという大きな成果が得られました。

体制・人員の最適化も実現したため、運用人員を22%削減することにも成功しています。この事例から、適切な自動化ツールの選定と導入が、大規模システムの運用効率化に大きな影響を与えることがわかります。

クラウド移行による運用コスト削減

クラウド移行による運用コスト削減の成功事例として、ある企業の取り組みが挙げられます。この事例では、インフラとアプリケーション運用の分断によりコストと運用のブラックボックス化に課題を抱えていました。運用体制の統合とオープンなシステム運用を目指してクラウド移行を決断し、わずか3ヵ月という短期間で移行を完了しています。

短期間での移行にも関わらず、この企業は大きな成果を上げることに成功しました。具体的には、システム全体のコスト削減に加え、インシデント対応コストを約40%削減しました。さらに、リアルタイムでの状況監視が可能になったことで、サービスレベルの向上も実現しました。
この事例は、適切なクラウド戦略が運用効率の改善とコスト削減に大きく貢献することを示しています。

AI活用によるトラブル対応時間の短縮

AIOpsを活用することにより、収集したデータから異常検知やトラブルに対する根本原因の特定を自動で行うことが可能です。このような自動化は、トラブル復旧までの時間(MTTR:Mean Time To Recovery)の削減や、予測分析を活用してシステムなどが停止するリスクを事前に察知するなど、未知の問題発見にも大きく貢献します。

例えば、AIOpsの活用ケースとして、従来は最長で11時間ほどかかるトラブル対応時間を、3時間程度に削減できた事例が報告されています。従来はトラブル検知から調査を開始し、影響度を判定するまでに数時間かかっていました。しかし、AIOpsを活用することでトラブル検知から影響度の判定まで即座に完了できます。これは、AIによる迅速な原因特定と、適切な対応策の提案によるものです。

このことから、AIOpsをはじめとしたAIの活用は、トラブル発生から復旧までの対応時間を短縮する効果も期待できることがわかるでしょう。

まとめ

社会のデジタル化が加速するなか、ICTシステム運用における課題に悩む企業にとって、運用高度化は欠かせない取り組みとなっています。システム運用の複雑化だけでなく、属人化によるリスクや増大するセキュリティリスクへの対策、運用コストの肥大化など、さまざまな要因により運用高度化の必要性が高まっています。

本記事では運用高度化のアプローチや各種の自動化ツールなどについて解説しましたが、「自社に適したアプローチや運用方針がわからない」と考える担当者の方もいるのではないでしょうか。複雑化したICT環境に対して適切に対応するためには専門的な知識も必要なため、思うように対策が進まないという企業も少なくありません。

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