はじめに
あのXR学祭が再び!!
時間と空間を超えた新たな体験を、先生・子どもたちと創造する機会をつくりたい、そのような想いがカタチとなり始まったXR学祭。2年目となる今年は、NTTコノキューが教育向けに初開催するイベント「DOOR Academia EXPO(※1)」の前夜祭として、 2023年3月17日に、「XR学祭2023」(以下、XR学祭)を開催しました。
小学校から大学院まで、北海道から九州までのさまざまな年代・地域から参加した7校の子どもたち・先生たちが、各自掲げたテーマに沿ってメタバース空間を創作。
当日の発表会では、ナビゲーター兼有識者コメンテーターに、ドコモビジネス教育アドバイザーで、情報通信総合研究所 特別研究員の平井 聡一郎氏を迎え、活発な交流が行われました。
※1 株式会社NTT QONOQ主催の2023年3月20日から3月26日まで開催される教育特化型のメタバースイベント。
VR空間に小学生~大学院生が集まる
XR学祭参加校は、メタバースプラットフォーム「NTT XR Space WEB(DOOR)」(以下、 DOOR)上に、未来の学校や未来の学び、地域と連携した取り組みなど、各々が描く空間を創り上げ、作品にかけた想いを発表。参加校同士で素朴な質問を掛け合うなど、DOOR上の発表・交流の様子は一般視聴者にもライブ中継されました。
冒頭では、スマートエデュケーション推進室の山下より、「年代・エリア・想いは様々でも、みんなが同じゴール「Well-beingな状態」に向かっていく中で、ドコモビジネスも一緒にその未来を創っていく機会をいただけていることが嬉しい」と挨拶がありました。
参加校によるショートプレゼンテーションでは、各校が創作した展示空間にアバターが入り、作品を見ながら、先生・子どもたちがリレー形式に紹介してくれました。
参加校ご紹介
①森村学園初等部チーム
【テーマ】学びの枝葉が広がり、成長する学校
学期末で忙しい中、児童たちは時間を決めて展示作業に取り組みました。VR空間に設けたエントランスには学校のシンボルである「象」の剥製を入れたり、「学びの場にもゆったりとした空間が欲しい」という想いから実際にはないカフェスペースを加えたりと、理想の学校をつくりました。教員ですら知らない機能を発見していて、技術面の成長が著しかったです。参加した児童たちが時間や場所にとらわれない活動をする姿を見て、「これからの教育現場に新たな可能性が生まれそうだ」と将来が楽しみになりました。
②札幌新陽高等学校チーム
【テーマ】地域とつながる学校@札幌市南区
生徒は8つのチームに分かれ「自分たちの学校」と「地域」のつながりをテーマとして、展示物の制作を行いました。「XRを使い、地域や学校の魅力を全国の方々へ伝える」を目標に、生徒は教室の外へ飛び出し、地域や学校の魅力の再発見に努めました。学校を創ったチーム、自然豊かな地域を表現したチーム、北海道の雪の凄さを動画でまとめたチームなどに分かれ、「地域とつながる学校」をバラエティ豊かに表現しました。また、校舎の外観をVR空間で忠実に再現する生徒もいました。
③柳川高等学校チーム
【テーマ】詩情豊かな水郷の里柳川高校メタバース
「クリーク」と呼ばれる水路が情緒的な雰囲気を醸し出す福岡県柳川市。同市にある学校法人 柳商学園 柳川高等学校を忠実に再現した学校紹介をVR空間に作成しました。
当校は留学生を多く受け入れる国際色が強い学校です。XRを用いれば、時間と場所を問わず世界中から当校へご来校いただけます。学校紹介には柳川市の名物を写した写真のほか、NYから始業式の挨拶をするようなユニークな校長先生を紹介しています。今後は、バーチャルオープンキャンパス、日本語の魅力を発信する空間、姉妹校である柳川タイ中学校との遠隔授業などに活用していく予定です。
④国際アート&デザイン大学校チーム
【テーマ】eスポーツ科のメタバースを活用した授業の紹介
VR空間にeスポーツの周知と当校での実績を紹介し、地域社会にeスポーツを根付かせる活動を知っていただきたい。そんな思いを込めてコンテンツを制作しました。当校ではVR空間で「実践行動学」の授業を実施しています。以前は対面で行っていましたが、コロナ禍により対面での学びが厳しくなったことから、VR空間を活用するに至りました。ゲーム感覚で授業を受けることで、大人数が参加しても発言しやすくなる利点があります。
⑤立命館大学山中先生チーム
【テーマ】プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)
2022年7月、生命科学部・薬学部の大学3回生約500人が受講する専門英語科目「英語JP1(Junior Project1)」のポスターセッションで、メタバース空間「DOOR」を活用しました。今回は、その時、学生たちが創作した力作のVRルームの展示と合わせて、学生が脱炭素に関するプレゼンを英語と日本語の2ヶ国語を使ってリアルタイムに行いました。英語教育におけるVRの活用は学習者の不安感軽減に役立ち、大変意義があるものです。新しい教育の可能性をVRに感じています。
⑥立命館大学大学院湊研究室チーム
【テーマ】大学院生の「ひらめきラウンジXR」
立命館大学大阪いばらきキャンパスには大学院生のための研究交流スペース「ひらめきラウンジ」が設置されています。しかし、2018年の大阪北部地震の影響で施設は被災し、2020年からは新型コロナウイルス感染症流行で長期閉鎖されています。XR技術を活用し、世界中の大学院生が時間と場所、天災などの不確実な事象にかかわらず、自分の研究を自由に発表し、カジュアルに議論できるメタバース空間「ひらめきラウンジXR」をデザインしました。特別に鍵を開けてラウンジから見える風景を写真撮影し、臨場感のあるラウンジの表現に努めました。
もう一つは研究展示ルームです。宇宙飛行士の訓練に関する展示をしています。宇宙感を出すために太陽系の天体写真や3Dモデルの国際宇宙ステーションを配置しました。中央の掲示板では、宇宙からのリアルタイム映像を配信し、この空間と宇宙とのつながりを表現しました。
⑦東京医療保健大学チーム
【テーマ】一歩先の医療を、創造する。
学生たちは提携医療機関で医療の”いま”を学び、知識と経験を積み、日本の医療を支える人材として成長しています。交流会では先生が学校紹介、学生が制作物を発表しました。たとえば、3Dプリンタでつくられた薬を飲みやすくする道具は、その1つです。XRは医療現場での活躍が期待されており、ARによる聴診の練習も進んでいます。このような先端技術を使った取り組みを紹介し、一歩先の医療保健の世界を知っていただけます。
交流会の様子と質疑応答
小学生~大学教授が同じ空間に集まり、同じ「未来の学びの形」というテーマを扱いました。異なる年齢の参加者が発表する着眼点はさまざまバラエティに富んでおり、観覧者を楽しませました。
たとえば、7校中唯一の小学校である森村学園初等部チームは、「学ぶ環境にもゆったりとできる空間が必要」と考え、実際の校舎にはないカフェテリアをVR空間につくりました。テラス席にはバーベキューをしている児童のアバターも配置し、のびのびと過ごしながら学習できる学校をデザインしました。
国際アート&デザイン大学校チームは、VRとゲームを組み合わせた新しいグループ授業の形を発表しました。オンラインミーティングツールを使った会議や授業はすでに浸透しているものの、誰もが積極的に発言できるわけではありません。しかし、ゲーム感覚であればリラックスして授業に臨めるのではないか、そんな願いが込められています。
柳川高等学校チームの発表では、これからの学校案内は生徒主導での制作が当たり前になっていくかもしれない、という未来を垣間見せてくれました。学校の説明だけを載せるのではなく、福岡県柳川市で有名なうなぎのせいろ蒸しや川下りなど、地域の魅力をVR空間に散りばめることで、来校者が学校の雰囲気をイメージしやすい発表となりました。
質疑応答
7校のプレゼンテーション終了後は、質疑応答の時間。立命館大学山中先生チームの山中教授からは森村学園初等部チームに対して「学校でXRの授業があるのですか、やる気がある児童が集まって自主的に学ぶのですか?」といった質問が向けられ、森村学園初等部チームの児童は「やりたい人が学んでいます」と答え、実際にVRゴーグルを装着して見せてくれました。
森村学園初等部チームは、立命館大学大学院湊研究室チームの湊教授へ「なぜ宇宙の研究をしているのですか?」と質問。湊教授は「私は残念ながら宇宙飛行士になれませんでした。なので、宇宙飛行士になるにはどうすればいいのかに興味を持ち、宇宙飛行士の訓練の研究をすることにしました」と答えました。その回答に対し、児童のひとりは笑顔で「私も宇宙が大好きです」と言い、両手の親指を立ててグッドポーズをするシーンが印象的でした。
eスポーツを楽しむための工夫
ほかには、eスポーツへの疑問が寄せられました。東京医療保健大学チームから国際アート&デザイン大学校チームへ「発表を聞いてeスポーツに興味を持ちました。校内では具体的にどのように取り入れているのでしょうか?」と質問が向けられました。
これに対して国際アート&デザイン大学校チームは、「興味を持ってもらえて嬉しい」と感謝の気持ちを表現。「1階~5階の空いている教室を全て使って実施しました。パズルゲーム、格闘技ゲーム、サバイバルゲームなどテーマを毎回変えながら、eスポーツ大会を4度行いました」と回答。
しかし、ひとりでも多くの学生に楽しんでもらうには、乗り越えるべき大きな壁があったといいます。
「実際の体育祭でも同様の課題があると思いますが、自分が競技をしない時間は、暇ですよね。そこで、好きな競技をプレイできるフリープレイルームをつくり、競技で負けてしまった学生も楽しめるようにしました」と答える国際アート&デザイン大学校チーム。
出場する競技がない時間をいかに面白い時間にできるかに着目し、工夫をこらしている様子が伝わってきました。
有識者からの総評
7校の発表を受けて平井氏は、「新しい学びに合った形に学校の形が変わっていく。交流会で一番感じたのは、テクノロジーの可能性です」と総括しました。さらに、「小学生から大学院教授がひとつのテーマについて話し合えるこの環境が、とっても素晴らしい」と述べた上で、各校への総評が行われました。
森村学園初等部チーム
児童たちは学校とVR空間を結びつけて、「こんな風になったらいいよね」と未来の学校像を示してくれました。初等部の皆さんは、将来「理想の学校」についての要望を出せるでしょうね。「未来の学校賞」を贈ります。
札幌新陽高等学校チーム
学校と地域をVRでうまくつないでいる点が素晴らしいですね!地域に根ざした探求がVR空間でできました。「学校×地域賞」を贈ります。
柳川高等学校チーム
VR空間を使って学校のPRをしたことが素晴らしい。学校案内は先生方が制作することが多いですが、生徒主導でつくったところがいいですね。「学校PRプロジェクト賞」でしょうか。
国際アート&デザイン大学校チーム
eスポーツの普及を目的としている点のほか、VRでグループワークを実施する取り組みが評価できます。授業デザインのヒントが詰まっています。「VRでグループワーク賞」を贈ります。
立命館大学山中先生チーム
英語学習とVRの親和性の高さを示してくれました。今後はAIと結びつけ、英会話ができる教材がつくれそうだと感じました。「英語×VR×AIの時代到来賞」ですね。
立命館大学大学院湊研究室チーム
時間と場所を問わず、大学院生がVR空間で学習できる環境をつくられています。「学びのネットワーク賞」ですね。
東京医療保健大学チーム
これまでも、医療はテクノロジーとの結びつきが強い業界でした。現状は先生がつくったものがベースですが、将来的には学生が技術を活用して患者さんに役立つツールを生み出す可能性があります。「医療とVR賞」を贈ります。
DOOR Academia EXPOとは
3月20日~26日の期間は、「DOOR Academia EXPO」(以下、EXPO)がDOOR上で開催されました。EXPOの前夜祭として3月17日に行われた「XR学祭」では、小学生から大学院生までの幅広い年代がXRを使い、理想の学校像や子どもたち同士の交流スペース、VR空間を使ったグループ授業など新しい学びの形を提案しました。
対してEXPOは大学進学を目指す学生へ向けて効率よく大学や先進的な授業に関する情報収集ができる環境を整えました。近年、学校や塾のオンライン授業をはじめ、教育業界ではデジタル化が進んでいます。NTT グループ内には教育関連事業が複数あり、メタバースを活用して学生の学びを支えることを目的としました。
EXPOでは、期間中ならいつでも閲覧できる「常設展示」と4つの体験型イベント、「わたしたちのウェルビーイングカード体験会」「模擬国連体験会」「なぜ?が膨らむ探究学習内覧会」「DOOR基本操作体験会」をドコモビジネスは企画運営しました。
「常設展示」は、「School innovation」「Trend Skill Contents 」「Virtual Campus」という3つのエリアに分かれています。このうち「Virtual Campus」では、大学進学を目指す高校生のための学習相談や大学・専門学校とのディスカッションの場を設けました。
「Trend Skill Contents」では、将来就きたい職業を考えるヒントを提供しました。有名クリエイターやお笑いコンビによるトークイベントや人気IPに学ぶAIテクノロジーなどのトレンドスキルの魅力を発信しました。
「School innovation」では、バーチャル学校/自治体やオープンキャンパスなど、DOORを使った学校・自治体の各種取り組みを紹介。教育機関と連携した「教育×メタバース」のさまざまな先進事例が展示されました。
EXPO期間中には4つの体験型イベント、「わたしたちのウェルビーイングカード体験会」「模擬国連体験会」「なぜ?が膨らむ探究学習内覧会」「DOOR基本操作体験会」といったライブイベントも提供いたしました。
わたしたちのウェルビーイングカード体験会
「わたしたちのウェルビーイングカード」とは、Well-beingにつながる価値観が記載されたカードで、NTTコミュニケーション科学基礎研究所の渡邊淳司らが考案したものです。今回の体験イベントでは、子どもでも利用できるよう設計された22種類のカードを使って、1泊2日の修学旅行プランを考えました。
3~4名の小学生で構成されたチームは、1泊2日の旅行の中で4つのイベントプランを考えます。それぞれのプランは2枚のカードの価値観を含むものとしました。例えば、あるチームからは、「認め合い」と「生命・自然」というカードから「サバンナめぐり」というプランが、「生命・自然」と「達成」というカードからは「世界三大珍獣を探す」などのプランが発表され、その発想の豊かさに会場は和やかな雰囲気となりました。また、全てのチームが旅程のどこかに、「生命・自然」をピックアップしており、参加児童の自然環境への関心の高さがうかがえました。
模擬国連体験会
模擬国連とは、学生が各国の大使になりきって、実際の国連会議をロールプレイする学習のこと。1920年代にアメリカのハーバード大学で開催された「模擬国際連盟」が起源です。海外では盛んで行われている学習で、近年は国内の高校、大学のサークルで取り入れられるケースがあります。
学生は自国の政策を立案し、会議では自国の立場に立って議論・交渉を行い、決議の採択を目指します。実際の国連会議は数年に及ぶことがあるため、模擬国連でも実施期間が数日~数週間であることが一般的です。今回のVR空間では安全保障理事会の円卓を再現。議論には公式と非公式の2種類があり、非公式の場合は話しかけたい大使のアバターに接近すると会話ができます。参加者がアメリカ、カナダ、イギリスなどといった国の大使になり、オープンとクローズド双方の議論ができる場を用意しました。
なぜ?が膨らむ探究学習内覧会
「探究学習体験会」では、「新聞記事を読む→クイズに答える→問いを立てる→共有する」という「探究学習」の流れをDOOR上で体験できるイベントを開催。
児童が新聞を読んだ場合には「記事を読む」だけで終わってしまいがちですが、探究学習では「最初にクイズに答える」というステップを踏むことで、思考を深めることができます。
イベント内では、参加した教育関係者と「実際に学校でどのように活用できるか」、「小学生が実施する場合にはどんな説明事例や練習があると効果的か」などの議論も行われました。
(協力:日本経済新聞プラットフォーム推進室)
「Nikkei Inc. No reproduction without permission.」
「Nikkei Inc. No reproduction without permission.」
DOOR基本操作体験会
DOORの基本操作を体験することで、学校での活用をイメージできるイベントを開催。
DOOR空間では、矢印キーで空間を移動、マウスでアバターの視点を動かします。
実際に操作することで、空間でのアバターの動かし方や、学習での使い方がよりイメージしやすくなりました。
音声は、発言している人に近づくとより大きく聞こえ、同じ空間でも距離が離れると音量が小さくなります。
アバター操作では視点の切り替えや、アバター名を変更することができます。
また、アバター同士のコミュニケーションとしては、「拍手」「スマイル」などの機能も。
オブジェクト操作では、人型のアバターや車などのオブジェクトの設置を体験しました。
まとめ
2023年は従来の「XR学祭」に加え、新たに「DOOR Academia EXPO」と連携。初の試みは、大盛況のうちに幕を閉じました。XR学祭では年齢や住んでいる場所にかかわらず、参加した7校が未来の学校像をVR空間に創出。質疑応答の時間では、他校の発表内容で興味を抱いたこと、よかったと思ったことを伝え合い、和やかな雰囲気が漂っていました。
続くDOOR Academia EXPOでは、常設展示や4つの体験型イベントを実施。参加した先生・子どもたちは、DOORの機能を使って会話や移動など時間と空間を超えた交流を行い、未来のキャンパスライフのイメージが湧いている様子でした。NTTグループが提供するXRプラットフォームが、学びの場の利便性の向上に貢献していることに喜びを感じました。
ドコモビジネスは、今回の経験や参加いただいた皆さんの意見をもとに、教育の場でもより活用しやすいメタバースの世界を目指してまいります。