株式会社クボタ
ディープラーニングを活用した蒸気量予測により
SDGsに即したごみ焼却炉のエコ発電を目指す
株式会社クボタ
水環境営業推進部
KSIS推進室長
末吉 康則氏
「AIには無限の可能性があります。今回得たごみ焼却炉の知見は、今後広範囲に適用できるようになると考えています」
株式会社クボタ
水環境総合研究所
水環境開発第三部
担当課長
西村 和基氏
「私たちにはアイデアがたくさんありますので、今後もNTT Comとの共創で社会的課題を解決する取り組みを行っていきたいです」
NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部
西日本営業本部 営業推進部門
清水 美寿氏
「現在は商用化を見据えて次の課題が見えてきた状況です。きちんと目標やスケジュールを立てて、課題解決のアプローチを進めていきます」
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター
テクノロジー部門
担当課長 / エバンジェリスト
島田 健一郎氏
「今回のプロジェクトで得た知見を生かし、クボタ様のアドバイスをいただきながら、さまざまな領域に展開できる新技術に取り組んでいきます」
課題
ごみ焼却炉の蒸気発電効率化に向けて
ディープラーニングを活用した蒸気量予測へ
株式会社クボタ(以下、クボタ)は創業より水道などの持続可能なインフラを提供する事業を続けてきた実績を生かし、SDGsを羅針盤とした「グローバル・メジャー・ブランド・クボタ」として事業を展開。環境と農業をコアテーマとした豊富な製品やサービスを通して多くの顧客から信頼を獲得し、より広い社会への貢献を目指している。
SDGsに基づく取り組みの一環としてクボタとNTTコミュニケーションズ株式会社(以下、NTT Com)は、2018年夏より、ディープラーニングを活用し、ごみ焼却炉における蒸気発電の効率を高める実証試験を進めている。このプロジェクトを統括するクボタの末吉康則氏は今回の取り組みのきっかけを次のように語る。
「蒸気量が予測できれば、ごみ焼却炉発電の普及が進む」
末吉:ごみ焼却炉では、ごみが燃焼する際に発生する熱から高温高圧の蒸気をつくり、蒸気タービンを回転させることで発電を行う取り組みが進んでおり、その普及促進に向けて国も交付金を出しています。しかし投入するごみの性質や形状により蒸気量が変化することに加え、制御に関係するパラメーターが多数存在するため、蒸気量の制御が難しいという課題があります。しかも小型の焼却炉は発電効率が低く、支援を受けても収益化できないケースがほとんどでした。焼却炉の制御判断も技術者の経験により異なり介入操作の標準化も進んでいません。そこで焼却炉の各種データを分析し、蒸気量を予測した制御ができれば、発電効率を高められ焼却炉発電の普及に寄与できると考えたのです。
図:ごみ焼却炉における発電の仕組み
「経験と感覚による制御にAI・ディープラーニングを活用する」
西村:取り組みをスタートしたものの、当初は思うような成果が出ていませんでした。約300項目にわたる焼却炉の制御データから、どの項目が蒸気量に影響するかを手作業で絞り込み、検証をかけるにはあまりにも時間がかかりすぎてしまうのです。そんな折、NTT Comより提案を受けたのが、現場の技術者が経験と感覚で制御していた領域にAI/ディープラーニングを活用して検証の効率を大幅に効率化するというものでした。また、コードを書くことなく直感的に操作できるAI解析支援ツール「Node-AI」も魅力的でした。
清水:クボタ様とNTTグループは、2016年に「クボタ&NTTグループ連携協議会」を発足し、クボタ様の持つ水・環境や農業のノウハウ、NTTグループのITに関するノウハウを融合させることで社会的課題を解決する新たな製品・サービスの創出に取り組んでいます。私たちには過去にディープラーニングを用いて、化学プラントの制御改善を行った世界で初となる実績がありましたので、今回はこの知見をクボタ様の取り組みにも生かせるのではないかと考えました。
このページのトップへ
対策
AIツールの有効活用で実証試験をスタート
共創による知見共有でプロジェクトが一気に加速
クボタとNTT Comの共創は順調な滑り出しだったと、現場でプロジェクトの指揮を執ったクボタの西村和基氏は取り組みの経緯を語った。
「プロジェクトを加速した、圧倒的なスピード感」
西村:まず驚いたのがスピード感です。APIでデータベースに接続して、Node-AIにデータを取り込む一連の作業が瞬時に終わり、わずか1日で実証試験の環境が整ったのです。NTT Comとしては当然のことかもしれませんが、私たちにとっては大きな驚きでした(笑)。早速、AIが焼却炉制御に有効であることを確認するために、1分先の蒸気量予測に目標を定め、Node-AIによる初期検証を開始しました。ごみ焼却のさまざまなプロセスが可視化でき、極めて短いスパンで異なる状況に合わせて多様な原因が抽出できることは、プロジェクトを前進させる大きな力になってくれると感じました。
島田:Node-AIはコラボレーションツールだと考えています。現場の知見がないと意味のある予測モデルを作ることができません。これまで私たちには、ごみ焼却炉の知識はありませんでした。そのため、まずは焼却炉の仕組みや各プロセスの関係性など、細部にわたって質問しました。根気強く丁寧に教えていただいた西村さんのおかげで、最初の予測モデルを仕上げることができました。
西村:しかし、当初の一般的なAIを使った予測モデルでは、期待通りの結果が出ませんでした。そこで私たちとNTT Comで議論を重ね、ITやエンジニアリングといった双方の知見を共有したうえで改善のアイデアを出し合い、一般的なAIをディープラーニングに切り替える決断をします。その結果、第1ステップの目標である1分先の蒸気量を予測できるモデルが生成できました。今回の取り組みにおいては、互いの専門知識を共有し、緊密な連携で一丸となって推し進められたことが目標達成の大きな力になったと思っています。
図:蒸気量のリアルタイム予測モデル
このページのトップへ
効果
AIによって属人的だった現場技術者の作業を標準化
実証試験で得た知見を生かし実用フェーズへ
今回のプロジェクトでは実証試験を重ねたことで、1分先の蒸気量予測と実績が可視化でき、それに基づいた制御を行うというファーストステップが達成できた。更に実験を始めた当初と比較すると、蒸気量の無駄が約1%改善。これは環境省の資料に基づいて換算すると、発電効率が約3%向上したことに相当する。
間接的ではあるものの、ファーストステップが達成できた一因は予測モデルにあると西村氏は考えている。
図:実証試験の成果
「目指すは2年後の商用化。そしてさらに先の展望も」
西村:現時点では、当初想定していた「オンラインでつなぎ、予測を行い、結果に基づいたフルオートでの制御」は実現できていません。ごみ焼却炉の世界では、何度予測しても完璧に近い確証がないと認められないため、現時点では完全な自動制御は難しいかもしれません。しかし、今までより高い予測精度を実現したことで、経験や感覚に左右されていた現場技術者の作業を標準化することができます。AIによる高度な分析と人間の的確な判断を組み合わせたハイブリッド制御が現実的な落としどころだと考えています。
NTT Comと一緒に取り組みを始めてから1年くらいですが、ようやく人間が行うべき部分、行わなくていい部分が明確になってきました。それを今年1年でより精緻なものとし、2021年には現場での試験を経て、うまくいけば2022年には自社の焼却炉に実装して提供を開始したいと思っています。実現できれば、間違いなくSDGsを羅針盤とするクボタの大きな強みの一つになるはずです。
末吉:ごみ焼却に限らず、上下水道といったインフラの安定運用には多くの人員が必要です。しかし日本は労働人口が減少しており、限られたマンパワーで多くのインフラ設備を支えなければなりません。このような人材不足や技能継承が困難な状況にこそ、AIを使って自動化できる運転支援システムが必要になると考えています。
いままでわからなかったことがデータ分析でわかるようになった今回の施策は、一つのショーケースと捉えています。今後はごみ焼却施設だけではなく収集車や産業廃棄物の排出など、ごみ処理を取り巻く環境づくりに取り組みを拡大していきたい。さらには弊社の環境関連の製品・サービスにも、今回のプロジェクトで得た知見を広げていく計画です。
「さまざまなアイデアをカタチにするITの力に期待」
西村:私たちには直面している課題もあれば、それを解決するアイデアも持っています。しかし、それをカタチにするための技術がないという悩みを長年抱えていました。デジタルツインをはじめ豊富なITの知見をお持ちであるNTT Comとの共創体制により、カタチにする技術を手に入れたことが今回のプロジェクトで得た大きな収穫です。今後も私たちの認識しているさまざまな課題やアイデアを、新技術で解決していただきたいと思っています。
島田:課題やアイデアをいただけることで、私たちのメンバーもやりがいを感じて熱が上がっています。私たちは日進月歩で進化するITのキャッチアップや新たな研究調査を積極的に行い、クボタ様と新しいビジネスを創出していきたいと考えています。
清水:これまでお客さまとともに環境問題に取り組むケースが少なかったため、今回のプロジェクトはNTT Comの他プロジェクトを活性化する大きな刺激となるでしょう。クボタ様はごみの焼却処理に関しても、地域住民や自治体を巻き込んだB2B2Xの展望を持っておられます。このような社会的課題を解決するために、今後も一緒に意義のある取り組みを行っていきたいですね。
「AIとヒトは互いを高めあうパートナー関係であるべき」
西村:AIは優れたテクノロジーですが、任せきりにするのでは技術者が存在する意味がありません。人間の得意分野はAIが導いた結果から気づきを得て、より良くするアイデアが生み出せることにあると思います。この先たとえAIによる完全自動制御が実現したとしても、現場の人間は次の課題、改善策を探し続けるでしょう。
島田:以前、囲碁の世界王者がAIに負けたことがニュースになりましたが、その後の話をご存じでしょうか。敗れた世界王者はAIとの対戦で新しい手が見えてきたと語ったのです。AIにはできないイノベーティブな発想で人間が考え、AIにぶつけて、互いの可能性を広げていく。その繰り返しで世の中は発展していきます。クボタ様と私たちも互いを高めあう関係で、世の中の発展に貢献していきたいと考えています。
このページのトップへ
株式会社クボタ
事業概要
1890年創業、日本初となる水道管の国産化や農業の機械化を実現。現在は「For Earth, For Life」を旗印に農業機械や建設機械などの機械部門、鉄管や環境リサイクル、膜ソリューションなどの水・環境部門の製品、サービスの提供を通じて、食料・水・環境に関わる地球規模の課題を解決し、グローバル社会の発展に貢献している。
(掲載内容は2020年3月現在のものです)
関連リンク