「テレワークはもう限界」という人の課題と、それを解消する方法
公開日:2022/05/06
コロナ禍で半ば強制的に導入された「テレワーク」ですが、おおむね評判はよさそうです。
事実、テレワークを実施した企業においては、テレワークを継続したいと望む人が多く、
総務省の調査では、テレワークを実施したひとのうち、全体の6割から7割の方が継続を希望しています。
「テレワークはもう限界」という人の課題
図引用:総務省 個人向けアンケートで見るテレワークの実情 エン・ジャパンが「仕事の満足度」について、約6400人から回答を得たアンケート結果は以下のようなものでした(図1)。 仕事の面白さ、人間関係の良さ、休日休暇日数といったオーソドックスな項目が上位を占めます。
ではいったい、「テレワークに適応できない人」は、何を課題として抱えているのでしょう。 テレワークはもう限界、という声をあげる人もいます。
テレワーク つらいですか?*1
テレワークが増えても、直属の上司や先輩などいわゆる「縦のつながり」は維持されていますが、ほかのチームや他部署の先輩などとの「横や斜めのつながり」が弱まったり、人脈を広げる機会が少なくなったりしていることが分かりました。
このような、webや各種調査に挙がっている意見を観察すると、私見ではありますが、大きく3点ほどに、課題を類型化できると感じます。
一つ目は、ソフト面、ハード面にわたる、作業環境などの課題です。
- 自宅の設備が作業に適していない
- 通信環境が悪い
- 資料が会社にいかないと入手できない
- 捺印などの物理的な処置が必要
二つ目は、以下のような、自己管理がうまくいかないことから生じる課題です。
- 仕事をしすぎてしまう
- 外出しなくなった
- 孤立感がある
特に、「孤立感」については、日本の労働者は世界の労働者に比べて、より強い孤立感を感じる傾向にあるという調査もあります。*2
三つめは、スキル、あるいはコミュニケーション障害についての課題です。
- テキストコミュニケーションスキルが低く、言いたいことが伝わらない
- 成果をどのように設定したらよいかわからない
- 仕事の切り分けがあいまいで、何をやればよいか不明
- デジタルコミュニケーションは、信用が得られにくい
- 雑談ができず、アイデアが出ない
- 新人が育たない
「テレワークはもう限界」を解消するには
では、これらの課題を克服するにはどうしたらよいのか、考えてみましょう。
まず、大前提となるのは、「新しいことを始めれば、適応に難を抱える人が数多く生じる」ことで、「慣れるまでは一時的に生産性が低下しがち」だという事実です。
そして、これは時間とお金が解決します。
総務省の資料*3によれば、
「テレワークがうまくいかないとすればそのかなり部分が物理的・技術的・制度的インフラの不足・遅れに起因している」
とし、これは「カネ」と「時間」をかければ、基本的に解決できる課題だと指摘されています。
また、物理的・技術的・制度的インフラが十分整ったとしても、テレワークの環境に従業員が慣れ、適応するには一定の時間(少なくとも1か月)は必要ともされます。
したがって、一つ目の課題は「課題ではあるが、解決はそう遠くない」と言っても良いでしょう。
しかし、こうした指摘の一方で、二つ目の課題、「不安感、不信感、孤独感の発生」、あるいは「親密感、親近感の形成の難しさ」は、依然として残るのも事実です。
リモートワーク推進の旗手として知られる、「強いチームはオフィスを捨てる」*4の著者、ジェイソン・フリードは、
「孤独を甘く見てはいけない。 毎日強制的に人と会わされることがないぶん、リモートワーカーが孤独になりやすいのは事実だ。だから意識的に、外にでたほうがいい。」 と述べています。
ただし、彼は「だからと言って、オフィスが必要だとは言わない」と言います。
彼の主張はシンプルです。
それは「会社以外の人間関係を持とう」。
長年リモートワークをやってきてわかったのは、つきあう相手は職場の人間でなくてもいいということだ。恋人や配偶者、子ども、友人、近所の人たち。 職場から離れていても、人とふれあう機会はたくさんある。会社に行かなければ社会的欲求が満たされないということはない。
これは、私が代表をしているティネクトでも、全く同じことが言えます。
弊社の役員・社員は、それぞれが別のコミュニティに属しており、副業もしています。
そのおかげで「職場のコミュニティ」が唯一無二のものではない。
ある人は地域のボランティアに精を出し、ある人は趣味のサイトを運営し、ある人はYoutubeのゲームコミュニティに属して、配信などを行っています。
そういう意味で、職場が積極的に、会社外での活動を奨励したり、副業を解禁したりするのは、ポジティブな影響がありそうです。
古き良き日本では、もしかしたら「職場の人間関係」が、人間関係のほとんどを占めていたかもしれませんが、終身雇用の崩壊とともに、そのような考え方も、また変化を迫られています。
多様性、というのは、こういうことではないでしょうか。
また、職場においても、「コミュニケーション不足に気を付けていれば、高いモラルを達成できる」とする研究結果がすでに提出されており*5、テレワークそのもの、というよりは、コミュニケーションの環境についての問題ともいえそうです。
上記総務省の資料では、
「むしろ、こうした課題をテレワークになってから感じるのは、職場で同じ時間、場 所を共有しているというだけで、信頼感、一体感があると思い込んでいたのでは?」
「 デジタル化、ICTの徹底活用しながら時代にふさわしい職場内でのコミュニケー ションをとることができていなかった証拠ではないか?」
といった、厳しい指摘がなされています。
実際、特に、上意下達のカルチャーをもつ会社では、心理的安全性が確保されにくいため、テレワークだろうと、テレワークでなかろうと、社員のコミュニケーションが滞りがちです。
その場合、「テレワーク」ではなく、会社のカルチャーそのものの課題が、テレワークによって浮き彫りになる、というだけのことでしょう。
そして、三つ目の「スキル」の問題。特にコミュニケーションスキルに起因する問題です。
テレワークでは、どうしても文章によるコミュニケーションが主体となるため、文章力が重要となります。
そして、文章力は「書く」だけではなく、「読む」能力が必要であり、それは高度な能力でもあります。
上で紹介した、ジェイソン・フリードは「文章力のある人を雇うべき」と、かなり強く主張しています。
リモートワークには、文章力が欠かせない。 メールやチャットや掲示板で話しあいをするのだから、文章で相手に伝える力が必要だ。あなたが採用する側の人間なら、候補者の文章力を判定基準に入れたほうがいい。 (中略)リモートワーカーを雇うなら、まともな文章も書けない人はすぐに候補から外すべきだ。
弊社でも、この現象は実感するところで、「文章の下手な人」は、相手に正確に情報を伝えることができないだけではなく、相手に攻撃的な印象を与えてしまうこともあり、個人的には、テレワークの最後の課題はここに集約すると、私は考えています。
必然的に、文章が下手で、書くのが億劫だ、という人が、コミュニケーションから排除されがちになるからです。
もちろん、常時接続の「音声チャット」などで、このような問題は解決するかもしれませんが、テキストコミュニケーションを主体とすることに苦労を感じない人と、そうでない人の生産性は大きく変わることが予想できます。
そういう意味では、現在のところテレワークは「テレワークも選択できる」ということが、現実的な解になりそうです。
テレワークを強制することにより、生産性が著しく低下する人物が全体の2割もいれば、組織として無視できることではないでしょう。とはいえ、世の中の「文章が書けて」「職場以外のコミュニティを持ち」「自己管理ができる」人たち、つまり、仕事のできる人たちは、どんどんオフィスの外に出ていこうとするでしょう。
そういう意味では、「テレワークが可能」という会社が、多くの優れた人材を集めるでしょうし、テレワークスキルを身に着けた人ほど、待遇の良い会社で働けるようになるでしょう。
すでに大きな変化が始まっている、と見てよさそうです。
資料一覧
- *1 NHK「 テレワーク つらいですか?」
- *2 マイクロソフト「 マイクロソフト、この 1 年のリモートワークの知見と考察を Work Trend Index で発表」
- *3 総務省「 コロナ下でのテレワークの課題とは ー「日本型テレワーク」を目指してー」 p.16
- *4 早川書房 ジェイソン・フリード他 強いチームはオフィスを捨てる」
- *5 千倉書房 テレワーク導入による生産性向上戦略」 古川靖洋 」p73
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Profile
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(http://tinect.jp)/能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。