副業解禁すると社内は実際どうなる?実際に起きた5つの変化と意外な効果
公開日:2022/07/08
働き方改革の一環で、政府が普及促進を図っている副業。
しかし、実際に自社に導入するとなると二の足を踏む——という声も聞きます。その理由は、導入した後に何が起きるのか、具体的にイメージできないからかもしれません。
従業員エンゲージメント・採用力・シナジー効果による生産性の向上など、さまざまな効果が謳われているものの、わかりにくいのが正直なところです。
筆者は、正社員時代に副業を行うとともに、管理職の立場では副業解禁を行って、部下たちの変化を目の当たりにしてきた経験があります。
副業を解禁すると社内では何が起きるのか。よその会社の内情をのぞき見するつもりで、読み進めていただければと思います。
目次
社内で起きた5つのリアルな変化
(1)社員の帰宅時間が早くなった
1つめの変化は「社員の帰宅時間が早くなった」です。
近年では、長時間労働是正のために苦心している企業も多いでしょう。
業務量を減らしたり、「ノー残業デー」を作ったりしても、一度習慣化してしまった社員の行動を変えるのは、なかなか難しいものです。
ところが副業が解禁されると、副業をしているメンバーが、さっと定時に帰るようになりました。
「副業に充てる時間をとるため」というだけでなく、交友関係が広がって、会食や新しい趣味の集いに参加する人が増えたのです。
定時退社がマジョリティの雰囲気になると、副業をしていないメンバーの帰宅時間も早くなったのが印象的でした。
(2)臆せずに意見を言う社員が多くなった
2つめの変化は「臆せずに意見を言う社員が多くなった」です。
社内とは別に自分の居場所、そして収入源を作ったメンバーからは忖度が消え、自分の意見を堂々と発言するように変化しました。
「いざとなったら、ほかにも生きていける術はある」
そんな心の余裕と(よい意味での)開き直りが、活発な議論の源泉となっていたように感じます。
ミーティングではアイデアの交換が盛んに行われ、無駄な会議は減りました。
(3)独立志向の社員が増えた
3つめの変化は「独立志向の社員が増えた」です。
求人票に「副業OK」と記載して採用活動を続けるうちに、社内には独立志向の社員が増えていきました。
既存社員でも、積極的に副業をやりたい人は起業家マインドを持っていることが多く、副業を足がかりに退職して独立する人が続出。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」には、副業のメリットとして、
「優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する」*1
と記載されているのですが、“優秀な人材の流出防止”ができるかどうかは、疑問の残るところです。
(4)離職意向を翻す社員もいた
4つめの変化は「離職意向を翻す社員もいた」です。
皆が独立志向に変わっていったのかといえば、真逆の動きを見せる社員もいたことは、特筆すべき点です。
たとえば、「近い将来、離職したい」と考えていた同僚のうち、2人は離職することをやめました。
1人は、副業を通してやりたいことを経験でき、それで満足したということです。
もう1人は、副業としてビジネスに踏み出したところ厳しさを実感。
普段の自分が会社の看板に守られていることや、安定的に給料・ボーナスが入ってくるありがたみが身に沁みて、会社に骨を埋める覚悟をしたと話してくれました。
(5)売上が伸びた
5つめの変化は「売上が伸びた」です。
成長軌道に陰りが見え、階段の踊り場で足踏み状態だった売上が、次のステージへ突き抜けたタイミングと副業解禁が一致していたことは、偶然とは思えません。
何が奏功したのか、次章で考察したいと思います。
副業解禁がもたらす効果とは何か
(1)恐れが消えることによる心理的安全性の向上
心理的安全性とは、
「率直に発言したり懸念や疑問やアイデアを話したりすることによる対人関係のリスクを、人々が安心して取れる環境のこと」*2
です。
チームの心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソン氏の著書、
『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』のタイトルからもわかるとおり、“恐れ”が重要キーワードとなります。
組織にはびこる“恐れ”を構造的に消すツールとして、副業が有用である。これは発見でした。
・「反対意見を言ったら疎まれるのではないか」
・「給料が下がったら困る」
・「上司に嫌われるのが怖い」
こういった恐れを、はからずも副業が払拭してくれるのです。
コミュニティから疎外される恐怖は、もうひとつの居場所(副業)を作ることで軽減されます。複数の収入源を持てば、お金の不安から解放されるでしょう。
副業を通じて自信と安心感を持った社員は、恐れに飲み込まれることがありません。
しがらみなく「成果」にフォーカスし、心理的安全性の高いチームの一員として、高いパフォーマンスを発揮します。
(2)タイムプレッシャー効果による生産性向上
心理的安全性は、チームの生産性を高める重要な概念ですが、もう少しダイレクトに生産性を引き上げるのが「タイムプレッシャー効果」です。
タイムプレッシャーとは、利用可能な時間に制限があるときに発生する、心理的な負荷のこと。
タイムプレッシャーがあると、限られた時間内に集中してタスクを完遂しようとするため、生産性が向上します。
副業によって使える時間が少なくなると、一見、成果が落ちるように感じますが、じつは逆の現象が起きているのです。
(3)教育コスト削減
教育コストの削減は、副業の効果としてよくいわれることです。
前述の厚生労働省のガイドラインにも、副業のメリットとして、
「労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる」*3
と記載があります。
「そんなに都合よく、業務に役立つスキルを習得できるものか?」と懐疑的だったのですが、体験してわかったことがあります。
社員に「経営者視点」をトレーニングするうえでは、副業が最高の手段ということです。
多くの社員は個人事業主として副業を経験します。どんなに小さくても、雇用されずに自分でビジネスをしたことがあるか否かは、大きな差です。
財務状況、リソース配分、オペレーションなど、経営者と同じ視点で話せる社員が増えることは、会社の利益を押し上げます。
(4)唯一無二な外部人材の獲得
最後に、意外な効果として、外部人材の獲得があります。
どういうことかといえば、転職した社員の副業先になったり、独立した社員のクライアントとなったりすることで、自社で育成した社員のリソースを半永久的に活用できるのです。
副業をきっかけに離職する社員が増えるリスクは、外部人材としての活用を検討することで、ある程度ヘッジできると考えます。
さいごに
本記事では「副業解禁」をテーマにお届けしました。
筆者が個人的に最も惹かれている効果は「唯一無二な外部人材の獲得」です。
会社にとっては、OB・OGの戦力を使いやすい時代になっているわけで、これからの人材不足に対応する手段として有益と見ています。
筆者自身、かつて正社員として在籍していた企業と、今でも仕事をしています。急に休職せざるを得ない社員が出たときなどには、ピンチヒッターとして内部の仕事をすることも。
二者択一(勤続するか、退職するか)ではない選択肢が増えたことで、つづく縁がある。そんな思いを強くします。
資料一覧
- *1
出所)厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」P4
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf - *2
出所)エイミー・C・エドモンドソン,村瀬俊朗『恐れのない組織「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』 (Kindle の位置No.645-646). Kindle 版. - *3 出所)厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」P4
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
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この記事を書いた人
三島つむぎ
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。