人が人を評価する以上、避けては通れない「バイアス」どう克服する?

イメージ

公開日:2022/08/08

採用面接、人事考課、マネジメント…
組織では、様々なシーンで人を「評価」しなければなりません。

なるべく公平で客観的な評価をしたいと考えても、評価する側もまた人間である以上、どこかで「バイアス」が生じてしまうのもまた事実です。結果として「採用してみたら、当初の印象と違った」となってしまうこともしばしばです。

そこで、今回は人が暗黙に持っている「バイアス」の種類について解説していきます。
ぜひ、人を評価する上で意識し、参考にして下さい。

アメリカ陸軍が抱えていた人事問題

兵士の2割が、自分の上司を「有害なリーダー」と答えた—

2009年から2010年に米陸軍が2万2000人の兵士を対象に、人事について調査した結果です*1。

時には命の危険にさらされる軍隊の中で、「有害な」リーダーだと思われている人が指揮を執るのは好ましいことではないでしょう。

しかし、別の調査では大隊長について少佐に質問した結果、軍の人事がもっと驚くべき状況にあることがわかったのです。
軍隊が最も優れたリーダーを昇進させていると答えたのは、少佐の50%に満たなかった、というのです*2。

これらは単なる事務作業のような、形式的な人事を続けてきたことの弊害でした。
その後2018年、陸軍は法改正によって大隊長の選抜方法を抜本改革しました。

新手法に導入された「バイアス除去」

改革後は様々な評価手法が取り入れられましたが、そのうちのひとつが「バイアス」を除去することです。

面接委員は、面接の最中に起こりがちなバイアスを防ぐための方法を教えられた。
例えば、第一印象バイアス(第一印象に気を取られる)、対比バイアス(候補者を共通の基準に照らし合わせるのではなく、候補者同士を比較する)、ハロー効果やホーン効果(一つのよい特性、あるいは悪い特性に引きずられ、他のすべてが見えなくなる)、ステレオタイプ化バイアス、「私に似ている」バイアスなどである。

<引用:ハーバード・ビジネス・レビュー 2021年2月号 p107>*3

人が人を評価するにあたっては、多くのバイアスが存在します。
その代表的なものは「ハロー効果」「ホーン効果」です。

「ハロー効果」とは何か一つの印象が良いことをもって、その人のすべてが良く見えてしまうという現象です。
一方で「ホーン効果」とは、何かひとつでもネガティブな特徴が目に入ると、その人の全てが悪く見えてしまうという現象です。

例えば採用面接で、挨拶のしかたに好感を持つと、相手をポジティブに捉え、質問も偏ったものになってしまいます。逆も同様です。
また、学歴も「ハロー効果」「ホーン効果」を引き起こす要因になる可能性があります。

他にも「バイアス」はたくさんあります*4。

・イメージ評価=評価者が被評価者に対して持っている先入観やイメージだけで評価してしまうミス。
例えば、「A君は以前から豊富な知識のもとですばらしい成果を上げてきた。だから当然今期も高い成果を上げたはずだ。」と思い込み高い評価を付けてしまう

・寛大化傾向=実際よりも甘い評価をしてしまう。例えば「大きな問題もなかったんだから『良好』にしておこう」「高い評価をつけていれば文句を言われないだろう」といった具合です。

・中心化傾向、極端化傾向=評価段階の両極端を意識しすぎるあまり、「とりあえず△」としてしまったり、逆に「◎か×か」に当てはめたくなるという、評価者の事情で相手の位置づけを決めてしまう傾向。

・対比誤差=評価者自身を評価基準として、被評価者を自分と比較して評価してしまうミス。

いかがでしょうか。バイアスは私たちの中であちこちに潜んでいることが分かります。

バイアス除去のために取られた手法

そこで陸軍が大隊長選抜にあたって取り入れた手法のうち、企業の面接で役立ちそうなものを紹介します。

「事実」に基づいた評価〜STARメソッド

陸軍が気づいたのは、候補者の一部には「面接が得意な人たち」がいるということです。これは企業の面接にも当てはまることでしょう。
そこで候補者たちに「STARメソッド」について教えました。

「STARメソッド」とは、質問に対して、

Situation:「どのような状況で」
Task:「どのようなタスクを持ち」
Action:「どのような行動をして」
Result:「どのような結果をもたらしたか」

で答えるというものです。

軍は候補者たちにこのSTARメソッドを使うことを強制はしませんでしたが、多くの候補者が活用しました。

「仮定の質問」も排除しました。あくまでも「こういうシチュエーションでその人はどう振る舞ったか」という事実をもとに評価するということを徹底したのです。*3

話し方の個性を認める、リアクションをしない

また、候補者に30秒待ってから質問に答えるように求めました。
声に出して話しながら考える人と、沈黙して情報を処理してから話す人とがいるからです。片方に有利にならないようなルールです。
これは「ハロー効果」を軽減する手法になりそうです。

また、面接官には候補者の答えに対するフィードバックをしない、ボディランゲージでリアクションをしないことも求められました。
こうした面接官の態度が、候補者の集中を削いでしまうからです。

「バイアス盲点」というバイアスには注意を

さて、数々あるバイアスの中でも、最もやっかいなものが存在します。「バイアス盲点」と呼ばれるもので、「他の人にはバイアスがかかっているかもしれないが、自分は大丈夫だ」と思い込んでしまうことです。

これを解消するには、面接官同士が密にコミュニケーションを取ることが必要です。その際に、自社の経営理念や風土を考える必要があります。

「FFS理論」という、人の傾向についての理論があります。FFSとは「Five Factors and Stress」の略で、人を5つの傾向によって分類し把握するというものです。

5つのタイプとは概ねこのようなものです。

1)凝縮性=こだわりが強く、ブレずに自論を主張する。決断力があり、責任感が強い。
2)受容性=柔軟に相手を受け入れる対応力がある。面倒見がよく、喜ばれたり感謝されたりすることが嬉しい。
3)弁別性=白黒をはっきりつける。合理的な判断で淡々と物事を進めることができる。
4)拡散性=大胆な発想を持ち、変わったことでも臆せず挑戦する。
5)保全性=計画通り確実に物事を進める。コツコツと慎重に、成功を積み上げていく。
ソニーやホンダでも導入されている理論ですが、例えば「拡散性」の高い人物は「華がある」ように見えることでしょう。

しかし、企業としては拡散性の高いひとだけで成り立つわけではありません。これら5種類の特性を持った人のバランスや、自社にみあったブレンドが必要なのです。

採用担当者に対してまず大きな採用方針と自社に必要なブレンドを示し、全員が共有することが重要です。

資料一覧

■お知らせ

この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

人気コラム

おすすめコラム