スタンフォード式「人生デザイン」に学ぶ 失敗を成長につなげるたった3つのステップ

失敗を成長につなげるたった3つのステップのイメージ

公開日:2022/08/12

よく「失敗は悪いことではない」と言われるが、失敗が好きな人はいない。失敗は成長につながると言われても、実際に失敗をすれば落ちこみ、自信を失くすのが人の常だ。

では、失敗の捉え方を変え、前を向いて生きていくためにはどうしたらいいのだろう。
それには「失敗の免疫」をつけることだ。
でも、どうやって?

現在、世界の100を超える大学で採用されている、スタンフォード式「人生デザイン」を拠り所に、失敗に免疫をつけ、さらに成功につなげる方法をご紹介しよう。

人生は「無限ゲーム」

私たちがこの世界でとる行動を「ゲーム」と呼ぶことにしよう。
ある哲学者は、人生で行うことは次のどちらかだと述べた。*1

有限ゲーム:勝利するためにルールに従ってプレイするゲーム
無限ゲーム:永遠にプレイするためにルールをいじっていくゲーム

誰もが常にこの両方のゲームをプレイしている。
たとえば、スポーツはルールや勝敗がなければ成り立たない。つまり有限ルールだ。
恋愛はうまくすれば永遠に続くし、皆そうなるようにプレイする、無限ルールだ。

スタンフォード式人生デザインも無限ゲームだ。
だから、失敗はない。
もちろん、だからといって悲しみがない人生が保証されるわけではない。人生の途中で苦しみや喪失、大きな挫折を体験するかもしれない。
だが、それで人間の価値が下がるわけでも、そうした挫折経験がその人の実存や尊厳を脅かすわけでもない。

人生は永遠に「正解」の出ない厄介な問題だ。
だからこそ、人間はひたすら前を向き、試行錯誤を繰り返しながら、よりよく生きることに専念するしかない。
それが「人生デザイン」のマインドセットである。

「人生デザイン」とは

そもそも「人生デザイン」とはなんだろうか。

スタンフォード大学には「人生デザイン講座(Designing Your Life)」がある。デザイナーの発想法で自分自身の人生をデザインしていくこの講座は、キャンパス内で一、二を争うほどの人気選択講座だ。*1

この講座を始めたのは、ビル・バーネットとデイヴ・エヴァンス。
ビルは大学でプロダクト・デザインを専攻後、さまざまなスタートアップや大企業で働いた。アップル社に7年間勤務し、ラップトップやヒンジ(蝶番)のデザインでは賞を受賞している。

デイヴもアップル社で初のマウスの開発に関わった後、スタートアップを創業し、多くの経営者たちにコンサルティングやアドバイスを提供し、他大学で「天職の見つけ方」というプログラムを8年間担当した。

デザイナーのツールを使って人生設計をする方法を考える―これが、2人が考案した人生デザインである。

「デザイン思考」という手法

手法はスタンフォード大学が誇る「デザイン思考」。
「デザイン思考」は同大学のデザインスクールや工学部で50年以上にわたって取り組まれてきた。*2

「デザイン思考(Design Thinking)」は、「人々がもつ問題を解決するための方法を設計(Design)するための考え方(Thinking)」であり、プロセスだ。*3

そのプロセスでは、以下のような5つのステップを必要に応じて行きつ戻りつしながら進んていく。

共感:問題を見つけるための情報を集める
定義:解くべき問題を決める
アイデア:プレインストーミングを通じて解決方法を探す
プロトタイプ:アイデアを検証できる試作品をつくる
テスト:ユーザーを通じて評価する

こうしたデザイン思考の手法を使って、「共感」から始め、問題の本質を探り当てて解決方法を探し、様子をみながら試行錯誤を繰り返す―そんなふうにして、人生を設計していくのが人生デザインなのである。

なぜ問題が解決しないか

人生には悩み事がつきものだ。
だが、問題はなかなか解決しない。
それはなぜだろうか。

ここで、人生デザインの考え方のポイントを押さえておこう。

リフレーミング

行きづまりを解消するための最も重要な方法のひとつが、リフレーミングだ。*2
リフレーミングとは、これまでのフレーム(枠組み)を変えて、これまでとは異なる視点で物事を捉えることを指す。

人生デザインには、一歩下がって自分の偏見を検証し、新たな解決に向かうための、リフレーミングが多く含まれている。

たとえば、「可能な限り最高の自分に最適化しようとするべきだ」という信念を抱いている人は案外多いのではないだろうか。

しかし、ビルもデイヴもこの考え方には否定的だ。
最高の状態とはたった1つしかなく、人生はその最高の状態に向かって直線的に進んでいくものだと暗に示しているからだ。

人生は直線的なものではない。
人生設計とは旅であり、最終目標を最適化することをやめ、プロセスに焦点を当て、次に何が起こるかを見ることである。
人生にはさまざまなバージョンがあり、そのどれもがいい人生につながると、ビルとデイヴは信じている。

現実と闘わず、あるがままを受け入れる

人生デザインのポイントをもう1つ紹介しよう。

人は誰でも最初のアイデアに固執してしまい、それがどんなにひどいアイデアでも手放せなくなってしまうときがある。*1
大切なのは、そうした思い込みを捨てて、自分は本当に適切な問題と向き合っているのか自問することだ。

そうやって改めて自分が抱えている問題を見直してみたとき、もしそれが解決しようのない問題だったら、解決しようとして膨大な時間をムダにせずに、手放すべきだ。

人生デザインでは、解決しようのない問題を「重力問題」と呼ぶ。
重力は変えられない。
重力から抜け出すためには地球の軌道を変えるしかないが、それはあまりにも現実離れした方法だ。

だったら、そんなことは諦めて、重力を受け入れるしかない。
地球上に住む以上、重力から逃れることはできないのと同じで、解決しようのない問題は、状況であり、環境であり、現実であって、「問題」ではないと捉えるのだ。

例えば、5年間求職していてもなかなか仕事がみつからない人がいたとする。
この場合、失業期間が長ければ長いほど再就職は難しくなるというデータがある。
内容が全く同じで、失業期間だけが異なる履歴書を使って実験を行ったところ、ほとんどの会社は失業期間の長い人を避けていることがわかったのだ。

雇用側は、ずっと採用されなかったのだから、おそらくそれなりの理由があるに違いないと思い込んでしまう。
残念ながら、雇用者のこういう考え方は変えられない。
まさしく重力問題だ。
それなら、受け入れるしかない。

しかし、自分自身の印象を変えることならできる。
たとえば、ボランティアで仕事を引き受け、職歴に花を添えてみる。あるいは、年齢不問の業界で仕事を探してみるのも1つの方法だ。

困難な現実があっても、できることは必ずある。それを見つけて行動に移すのだ。
重力問題と向き合う唯一の方法は、受け入れること。
そして、優秀なデザイナーはいつも受け入れることからスタートする。

失敗を成功につなげる3つのステップ

では、失敗に免疫をつけ、成功につなげるためには、どうしたらいいのだろうか。
それは、次の3ステップで、失敗の見方を変えることだ。*1

たった3つのステップ

失敗記録をつける

過去1週間の失敗でも、過去1か月、1年を振り返ってもいい。
何回も繰り返す定番の失敗を書き出してもいい。
とにかく失敗を書き出してみる。

失敗を分類する

成長につながる可能性のある失敗を見つけだすために、書きだした失敗を次の3種類に分類してみる。

不運:ケアレスミスだ。ふだんはうまくできるのに、たまたま失敗したのなら、失敗からなにも学びとる必要はない。失敗を認め、謝ればいい。

弱点:何度も何度も繰り返してしまう失敗。失敗の原因はわかっている。直そうと努力してもどうしても、また失敗してしまう。
こういう失敗は個性かもしれない。それなら直そうとしてもあまりいいことはない。無理やり直そうとするより、そういう失敗を引き起こしやすい状況を避けた方がいい場合も多い。

成長の機会:再び繰り返してはならない失敗だ。こういう失敗は特定でき、修正も可能だ。他の種類の失敗に時間をかける暇があるのなら、この種類の失敗に目を向けた方がいい。

成長のヒントを見つけだす

「成長の機会」に分類した失敗にフォーカスし、次の内容について考えてみる。
・大きな改善の余地があるものはないか?
・教訓は何か?
・なにがまずかったのか?(決定的な失敗要因)
・次回はどこを変えられるか?(決定的な成功要因)

こうした観点で、同じ失敗をしないためのヒントを探し、書き出してみる。
たったこれだけだ。

ここでデイヴの失敗記録のほんの一部をみてみよう。

失敗記録のほんの一部のイメージ
表1 デイヴの失敗記録
出典:ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス 著 千葉敏生
訳(2019)『スタンフォード式 人生デザイン講座』早川書房(電子書籍版)p.281

なお、表中の「X」は、該当するという意味だ。

4つの失敗を見ていこう。

まず、「不運」に該当する2つの失敗のうち、娘リサの誕生日を間違えたのは、カレンダーに記入するときのケアレスミスによるものだ。しかも1週間ずっと出張中だったので気づかなかった。

「不運」のもう1つは泥棒に入られたこと。これは警察も珍しいと言うほど例外的なケースなので、高くつきはしたが、デイヴは不運だと受け止めた。

次に「弱点」に分類した「予算申請書をギリギリに申請する」について。デイヴは何度もこれを繰り返している。なるべくそうならないように工夫してはいるが、なかなか直らない。これは彼の弱点であって、個性の1部として受け入れた方がいい。

注目すのは「成長の機会」だけ

唯一「成長の機会」に該当するのは、「電話で怒られる」だ。
少し前、デイヴはクライアントとの電話で、驚くような「事件」に遭遇した。
彼は電話をかけると、開口一番、クライアントと取り組んでいるプロジェクトのマーケティングに関する質問をした。

すると突然、相手がキレ、怒鳴り始めた。
クライアントには怒鳴る理由があった。前回から状況が変わったため、デイヴの長い質問は状況にそぐわず、無意味だった。それで、クライアントは時間を無駄にされていると受け止め、怒ったのだ。

デイヴにしては珍しいミスだった。彼はクライエント管理の達人だ。
では、今回はなにがいけなかったのだろうか。

検討した結果、相手の状況も確認せずにいきなり本題に入ってしまったのがまずかったのだと気づいた。
以前は電話で話すときには、まず相手の調子はどうか、前回から変わった状況はないかを確認していたが、時間節約のためにしばらくそのプロセスを省いていた。
明らかなリスクである。

・・・以上のように、デイヴはごく短時間でこれら4つの失敗の分析をした。
非常に単純な方法だが、この手法はときとして大きな見返りをもたらす。
もし電話を切った後、
「チェッ、なんだよ、あの態度は」
とこぼすだけで終わっていたら、デイヴは何も学ばず、また同じ失敗を繰り返していたかもしれない。

また、リサの誕生日を忘れたことや泥棒に入られた原因を考えなければ、いつまでも不必要に自分を責め続けていたかもしれない。

見方を変えて免疫をつける

このように、ほんの少し視点を変えるだけで失敗の見方が変わり、失敗に対する免疫がつき、前進することもある。

この手法を使えば、失敗のすべてに悩む必要はない。成長につながる失敗にだけ注目して、その原因を探れば、教訓が浮かび上がってくる。
それを掬い上げて改善点を明確にし、次回に生かせばいいのだ。

人生デザインは、シンプルな方法で失敗に向き合うヒントをくれる。
一度、試してみてはいかがだろうか。

資料一覧

  • *1
    ビル・バーネット&デイヴ・エヴァンス 著 千葉敏生
    訳(2019)『スタンフォード式 人生デザイン講座』早川書房(電子書籍版)pp.267-269、p.7、pp.27-29、pp331-333、pp.54-61、pp.278-285
  • *2
    TED(2021) Bill Burnett “How to use design thinking to create a happier life for yourself
    (Feb 23, 2021)
    https://ideas.ted.com/how-to-use-design-thinking-to-create-a-happier-life-for-yourself/
  • *3
    ジャスパー・ウ著・見崎大悟 監修(2019)『実践 スタンフォード式 デザイン思考』株式会社インプレス(電子書籍版)p.15、p.20

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この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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