裁量労働制はデメリットだけ?労働基準法のルールを弁護士がわかりやすく解説

裁量労働制はデメリットだけ?労働基準法のルールを弁護士がわかりやすく解説のイメージ

公開日:2022/08/22

裁量労働制は「自由な働き方」「能力や専門性を生かした働き方」として、近年いっそう注目を集めています。
年功序列・終身雇用を前提とした「メンバーシップ型雇用」から、個人の能力や専門性に焦点を当てた「ジョブ型雇用」へのシフトが進みつつある昨今では、裁量労働制は時流に合った働き方と言えるでしょう。

ただし裁量労働制で働くことには、メリットとデメリットの両面がある点に注意が必要です。裁量労働制に関する法律上のルールや位置づけを理解して、ご自身の働き方選択にお役立てください。

今回は、裁量労働制で働くメリット・デメリットにつき、労働基準法のルールを踏まえてまとめました。

労働基準法上認められる2つの「裁量労働制」

労働基準法では、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」という2つの裁量労働制が認められています。

両者は、業務の遂行方法等を労働者の大幅な裁量に委ねる点で共通していますが、適用できる職種や導入要件が異なります。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3)は、専門性の高さゆえに労働者の大幅な裁量を認める必要があると考えられる、以下の19の職種に限って適用できます。

  1. 新商品や新技術などの研究開発業務
  2. 情報処理システムの分析、設計業務
  3. 記事取材、編集などの業務
  4. 新たなデザインの考案業務
  5. 放送プロデューサー、ディレクター業務
  6. コピーライター業務
  7. システムコンサルタント業務
  8. インテリアコーディネーター業務
  9. ゲームソフトの創作業務
  10. 証券アナリスト業務
  11. 金融商品の開発業務
  12. 大学教授の業務
  13. 公認会計士業務
  14. 弁護士業務
  15. 建築士業務
  16. 不動産鑑定士業務
  17. 弁理士業務
  18. 税理士業務
  19. 中小企業診断士業務

専門業務型裁量労働制を導入する場合、労働基準法所定の事項を「労使協定※」で取り決めることが必要です。
※労使協定:使用者と労働者の過半数代表者(労働組合等)が書面で締結する協定

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制(労働基準法38条の4)は、事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務のうち、労働者の大幅な裁量を認める必要がある業務について適用できます。

企画業務型裁量労働制を導入する場合、労働基準法所定の事項を「労使委員会決議※」で取り決める必要があります。
※労使委員会決議:労働者側が半数以上を占める委員会が、全委員の5分の4以上の多数により行う決議

裁量労働制で働く主なメリット

裁量労働制は、労働者にとって自由度の高い働き方で、主に以下のメリットがあります。

仕事の進め方や時間配分を自由に決められる

裁量労働制を適用する場合、会社は仕事の進め方や時間配分について具体的な指示を行うことができず、労働者の大幅な裁量に委ねなければなりません。

したがって、裁量労働制で働く労働者は、仕事の進め方や時間配分を、ほとんど自分の判断で自由に決められます。細かいルールに縛られずに仕事をしたい方は、裁量労働制に向いていると言えるでしょう。

出勤時間・退勤時間を自由に決められる

裁量労働制で働く場合、原則として出勤時間・退勤時間を自由に決められる点も大きな魅力です。

仕事のスケジュールをうまくやり繰りすれば、通勤時の混雑を避けられる、家族や友人との時間を作りやすいなど、生活の充実を図ることができるでしょう。

仕事を効率化すれば労働時間を短縮できる

裁量労働制で働く方は、定時に拘束されないため、仕事の進め方次第で労働時間を短縮することも可能です。

同じ業務量でも、自身の能力を高めたり、仕事のやり方を効率化したりすれば、労働時間を圧縮してプライベートの時間を多く確保できます。

裁量労働制で働くことにはデメリットもある

裁量労働制は、労働者にとって自由度の高い働き方で、主に以下のメリットがあります。

たくさん働いても賃金は増えない

裁量労働制の場合、実際の労働時間にかかわらず、労使協定または労使委員会決議で定められたみなし労働時間が適用されます。

通常の労働者であれば、たくさん残業をした月の賃金は増える仕組みになっています。しかし、裁量労働制で働く労働者は、1か月間どんなにたくさん残業をしたとしても、原則として追加残業代が発生せず、賃金は増えません。

残業代が出ないことにより、働き方によっては、通常の勤務形態で働く場合よりも賃金面で不利になる可能性があるので注意が必要です。

なお、午後10時から午前5時までに行われる深夜労働については、裁量労働制が適用される場合であっても、通常の労働者と同様に25%以上の割増賃金が発生します。

仕事の進め方が悪いと長時間労働になりがち

裁量労働制は、働く時間帯が決まっていない分、良くも悪くも能力や仕事の進め方が大きく影響する働き方です。

能力の高い方や、仕事の進め方がうまい方であれば、仕事の時間を圧縮してプライベートな時間を確保できる可能性が高いと考えられます。
しかしその反面、仕事に不慣れである方や、非効率な仕事をしている方にとっては、裁量労働制により、かえって労働時間が増えてしまうケースもある点に注意しましょう。

会社から過剰な業務を押し付けられることがある

裁量労働制で働く労働者は、労働時間が増えても、原則として追加残業代が発生しません。この点を悪用した会社が、裁量労働制で働く労働者に対して、過剰な業務量を押し付けるケースがあるので要注意です。

裁量労働制を隠れ蓑にして、会社が労働者を「定額働かせ放題」と言わんばかりに酷使していないかを、注意深く観察する必要があります。

裁量労働制で働く労働者向けの「健康福祉確保措置」と「苦情処理措置」

上記のとおり、裁量労働制で働く労働者は、かえって長時間労働を強いられるケースがよくあります。そのため、労働基準法は会社に対して、裁量労働制で働く労働者向けの「健康福祉確保措置」と「苦情処理措置」を講ずることを義務付けています。

<健康福祉確保措置の例>
・代償休日や特別休暇の付与
・健康診断の実施
・年次有給休暇の取得促進
・健康問題についての相談窓口の設置
・健康状態に応じた配置転換
・産業医による保健指導
など

<苦情処理措置の例>
・苦情処理窓口の設置
・取り扱う苦情の範囲や処理手順の明確化
など

裁量労働制で働く場合、働き方次第では、ご自身の心身を壊してしまうリスクがあることを認識しておかなければなりません。その歯止めになり得るものとして、会社が上記の措置を十分に講じているかどうか、転職活動等の際には確認しておくことをお勧めいたします。

まとめ

裁量労働制は自由度が高い反面、非効率な働き方をすればそのメリットが失われる、実力主義的な色彩の強い働き方です。また、会社が裁量労働制を悪用して、労働者に過剰な業務量を押し付けるケースがある点にも注意しなければなりません。

転職活動等の際に、裁量労働制を採用する会社を候補先とする場合もあるかと思います。その場合には、裁量労働制のメリット・デメリットの両面を踏まえて、ご自身の性格や働き方のイメージに合っているかどうかを慎重にご検討ください。

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
ゆら総合創立事務所 公式サイト

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