DX人材の不足を補うカギは、社員の「リスキリング」にあり

DX人材の不足を補うカギは、社員の「リスキリング」にあり

公開日:2022/10/5

DXが進むにつれて、日本では「DX人材が足りない一方で、余剰人材のリストラが進む」という矛盾した現象が起きています。

こうした「職のミスマッチ」は今後ますます拡大すると予測されており、企業としては対策を講じないわけにはいかなくなっています。

では、このギャップをどう解消すれば良いのか。

「余剰人材をDX人材に転向させる」。
そのようなシンプルな結論を出した企業が相次いでいます。

本当に可能なのでしょうか。

DX人材の不足感と「職のミスマッチ」

日本では多くの企業が「DX人材」が不足していると感じています。

情報処理推進機構が公表した「DX白書2021」では、DX人材の不足感について日米比較した結果が紹介されています(図1)。

図1のイメージ

図2 DX推進を担う人材確保の状況
(出所:「DX白書2021」情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/files/000093699.pdf p9

DXによる変革を担う人材について、「やや過剰」「過不足はない」としている企業の割合はアメリカでは半数を超えているのに対し、日本では20%未満にとどまっています。
一方で、日本では「やや不足している」「大幅に不足している」と回答している企業の割合が非常に高いことがわかります。

デジタル時代についていけない世代を中心に「令和の大リストラ」が相次ぐ一方で、DX人材を確保することができない。
こうした「職のミスマッチ」は日本で今後ますます拡大していくと予測され、2030年には専門職が170万人不足するという深刻な状況に置かれているのです(図2)。

図2のイメージ

図2 2020年代後半からの「職のミスマッチ」
(出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料、三菱総合研究所作成)
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000476534.pdf p1

このままでは、DX人材の確保もどんどん難しくなっていくことは明らかです。
余剰になる人材を切り、外にDX人材を求めたところで手には入らないのです。

アメリカで先行する「リスキリング」という打開策

AIの普及など「第4次産業革命」に対応するための「リスキリング」の必要性は世界的に共有されています。

2018年からダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)では「第4次産業革命により、数年で8000万件の仕事が消失する一方で9700万件の新たな仕事が生まれる」と指摘されました*1。

その上で「リスキル改革」と銘打ったセッションでは「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」という宣言が出され、支援プログラム「リスキル改革イニシアチブ」が立ち上がっています*2。

実際に、アメリカ企業では必要性を早くから察知し、対策に乗り出す企業が相次いでいます。

通信大手のAT&Tでは、2008年にはすでにこの問題を把握しています。
「25万人の従業員のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ人は半数に過ぎず、約10万人は10年後には存在しないであろうハードウェア関連の仕事のスキルしか持っていない」という認識のもと、2020年までに10億ドルを投じて10万人のリスキリングを実行しています*3。

その他でも、米アマゾンは2025年までに従業員10万人をリスキリングすることを発表しています。一人当たりの投資額は約75万円にのぼります*4。また、マイクロソフトはコロナに伴う失業者2500万人のリスキリングを無償支援しています*5。

「リスキリング」と「学び直し」の違い

さて、ここで「リスキリング」について正しく知る必要があります。

日本でも「学び直し」という言葉があり、実際に実施している会社員も少なくありませんが、正確には、「リスキリング」はこれとは異なります。「リカレント教育」とも違いがあります。

というのは、「学び直し」というのは、個人の関心に基づく部分があります。また、リカレント教育というのは「働きながら学び、その知識をいかしてよりよい仕事ができるようになる」ことを目的としています。

しかし「リスキリング」は、今の職場で必要とされるスキルの変化に適応するための学習です。DX時代の人材戦略に基づいて企業が積極的に関与する必要性が高いのです。

実際、先に紹介したアメリカ企業の取り組みは、企業が主体になっているのが特徴です。

日本での「リスキリング」に対する意識

日本でもリスキリングの必要性を感じている人は多くいます。

ビズリーチの調査によると、ビジネスパーソンが新たに身につけたいITスキルとして次のようなものが挙げられています(図3)。

図3のイメージ

図3 ビジネスパーソンが身につけたいITスキル
(出所:「リスキリングに関する調査レポート」ビズリーチ)
https://www.bizreach.co.jp/pressroom/pressrelease/2021/1129.html

いずれもデジタル時代に必須のスキルであり、方向性としては将来を見据えたものと言えます。
そしてリスキリングに取り組んでいるビジネスパーソンは多いものの、問題はその方法です(図4)。

図4のイメージ

図4 リスキリングへの取り組み
(出所:「リスキリングに関する調査レポート」ビズリーチ)
https://www.bizreach.co.jp/pressroom/pressrelease/2021/1129.html

大半が「個人で取り組んでいる」という状況にあります。

企業として考えなければならないのは、個人レベルの学習に任せていると、欲しいスキルを身につけた従業員が離職してしまう可能性があることです。即戦力人材として転職を見据えている可能性が高いのです。

日本企業の取り組み

日本でも、企業主体のリスキリングに乗り出している企業が出始めています。

その中でも、2019年度末時点で約10万3000人だった従業員数を22年度末には9万6000人まで削減できる見通しが立っているとするSMBCグループは、同時に従業員にデジタル教育を開始しています*6。

強制せずとも2万人が受講しています。企業の危機感と従業員個人の危機感がマッチした形です。また、このまま放置すればリストラの対象となる「負債人材」の解消にも繋がるというメリットを持っています。

また、日立製作所のDX講座では、自分の担当分野に関係するDX改革を考えた上でDXの基本を学べる講座を提供しています*7。
この方法は、企業のDX戦略に密に関わり、会社側と個人がともにDX時代の企業戦略を考える場所になると言えるでしょう。

「DX人材」に対する誤解を解消し、人材の有効活用を

日本企業では全体的に「DX人材」という言葉を難しく考える傾向にあります。
「プログラミングができなければDXには関われない」と感じている人が多すぎるのです。

しかし、「DX人材」には2種類があります。

システムを「作る人」と「使いこなす」人です。
プログラミングができなくても、後者の存在によって解決できる問題はたくさんあるのです。

また、近年では「ノーコードツール」という、いわゆるコードを書かなくてもソフトを開発できる道具も普及し始めています。エンジニアになるハードルは下がっているのです。
よって「プログラミングができないからDX人材になれない」という言い訳は通用しません。

また、DXはあくまで「全社的な事業戦略」です。
企業主体のデジタル講習はもちろん良い取り組みです。

しかしDX時代にどんなビジネスを展開し、そのためにはどんな人材をどんなバランスで育成するのかというビジョンがなければ、無駄な投資になりかねないということにも注意が必要です。

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この記事を書いた人

清水 沙矢香

2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

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