コロナ禍で高まる睡眠意識 「スリープテック」は何が凄い?どこまで進化する?

コロナ禍で高まる睡眠意識 「スリープテック」は何が凄い?どこまで進化する?

公開日:2022/11/22

コロナ禍以降、自身の睡眠に目を向けるようになったという人は多い。

日本人の睡眠実態に関する調査などを行っているブレインスリープによると、新型コロナウイルスの感染拡大により人々の睡眠意識が高まっているという。*1

また、2017年、ユーキャンの「新語・流行語大賞」トップテンに「睡眠負債」が選ばれ*2話題を呼んだが、この睡眠負債も2020年から2022年にかけて、改善傾向にあるそうだ。

だが一方で、厚生労働省の『健康実態調査結果』を見ると、全体の34.7%が「睡眠全体の室に満足できなかった」、37.2%が「日中、眠気を感じた」と回答しており、睡眠の質に悩んでいる人は少なくないようだ。*3:p22

加えて、日本人の睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で最も少ないという事実もある。*4
そんな悩める日本人の睡眠を改善する一助となり得るのが、テクノロジーを使って睡眠を分析・改善する製品やサービス=「スリープテック」だ。

2021年の国内スリープテック市場は約4,600億円に成長し、全睡眠関連市場の約3割を占めるという調査結果もある。*5

そんな活況のスリープテックや関連企業の取り組みについて、最新事情を見ていこう。

進化し続ける腕時計型ウェアラブル端末

スリープテックの中でもイメージしやすいのが、スマートウォッチや腕に巻くタイプの活動量計を中心とする、ウェアラブルデバイスの睡眠管理機能ではないだろうか。

例えばApple Watchには、もともと睡眠スケジュールを立てたり、睡眠状態を記録したりする機能が搭載されていた。
最新のwatchOS 9では、そこへ睡眠ステージを分析する機能が加わった。*6
Apple Watchの加速度センサーと心拍数センサーを用いて、ユーザーの睡眠がレム睡眠、コア睡眠、深い睡眠のどの状態にあるかを検知する仕組みだ。

出典:watchOS 9、つながり続け、アクティブに過ごし、健康を保つための新しい方法を提供 - Apple (日本)
https://www.apple.com/jp/newsroom/2022/06/watchos-9-delivers-new-ways-to-stay-connected-active-and-healthy/

ユーザーはApple Watchの睡眠アプリケーションで睡眠ステージのデータを確認したり、iPhoneのヘルスケアアプリケーションのグラフで睡眠時間などの詳細な情報や、心拍数や呼吸数などの追加の指標を確認できる。

また、ことこの分野に関しては、世界的に人気の活動量計であるFitbitに触れずにはいられない。
2009年より睡眠管理機能を提供してきたFitbitは、すでに187万件、220億時間の睡眠データを記録・分析してきた。*7

同社の活動量計並びにスマートフォンアプリでは、前述のApple Watchと同様に睡眠ステージを計測することはもちろん可能だ。
加えて最近では、有料のサブスクリプションサービス「Fitbit Premium」向けの新機能として「睡眠プロフイール」機能の提供を開始した。

膨大な睡眠データを神経科医、睡眠の専門家、研究科学者が分析することで、単に「7~8時間の睡眠を取れば良い」という単純なアドバイスにとどまらず、自分の年齢層における標準的なデータと比較して、改善の余地があるポイントを把握できる仕組みだ。

月別の集計表では、睡眠スケジュールの変動、熟睡に至るまでの時間、睡眠の乱れなどの指標から、睡眠時間、回復度、レム睡眠など、ユーザーの睡眠パターンと質を一カ月間にわたって総合的に表示する。各項目の理想的な範囲と見比べることで、改善すべきポイントを絞ることができる。

出典:Google Japan Blog: Fitbit Premium の睡眠プロフィールを活用して睡眠の質を改善
https://japan.googleblog.com/2022/07/fitbit-sleep-profile.html

Fitbitといえば、Google傘下となったことでも話題を呼んだ。2022年秋にGoogleが発売を予定しているGoogle Pixel Watchでも、Fitbitのヘルスケア・フィットネスツールが利用できるという。*8

キャプション:左端の腕時計型デバイスがGoogle Pixel Watch。
出典:Google Japan Blog: あなたの毎日に寄り添う Google Pixel の製品ラインアップ
https://japan.googleblog.com/2022/05/hardware-updates-io-2022.html

常に身に着けていられる腕時計型のデバイスを使った睡眠管理は、今後ますます広がっていきそうだ。

根強い人気、手軽に使えるスマートフォンアプリ

スマートフォンのアプリにも、睡眠に関する物は数多く存在する。根強い人気で知られるのが、Android・iOSアプリの「Sleep Cycle」だ。*9

夜眠る前にアプリを開き、端末を枕元に置いておくだけで、マイクや加速度センサーを使って自動的に睡眠を記録してくれる。また、事前に設定した時刻から30分前までの範囲で、眠りが浅くなっているタイミングに合わせてアラームを鳴らす「スマートアラーム」機能も人気の理由だ。

同社によれば、同じ睡眠時間で起床する場合でも、深い眠りのステージにあるときに目覚まし時計で無理やりに起こされると、疲労を感じて睡眠の充足感が低くなるという。それを回避し、自然に目覚めた時のような爽やかな目覚めを与えてくれる機能というわけだ。

有料オプションのプレミアム機能を使うと、長期間にわたる睡眠の傾向分析や、いびきの分析、睡眠トラックデータのエクスポート等の機能を使えるようになる。

寝具業界にも広がるスリープテックの波

寝具業界でもスリープテックの波は大きくなっている。ここでは、先んじて同分野に力を入れてきたことで知られる、寝具メーカーの西川の取り組みを取り上げる。

同社は独自の非接触型寝具測定システム『PI+MA PITTA(ピマピッタ)』を開発した。2021年4月初旬より店舗に導入し、全国の百貨店や寝具専門店などの全国取扱店舗で順次展開している。*10

PI+MA PITTAは、非接触で顧客の全身を測定し、一人ひとりにあったマットレスとオーダー枕をトータルで提案する、タブレット端末の寝具測定システムだ。コロナ禍において、非接触で顧客の各部位を測定・体型データを分析し、体型に合ったマットレスを選び、オーダー枕を作成するための仕組みだ。

出典:非接触で一人ひとりに合ったマットレスとオーダーまくらを判定!西川独自の非接触型寝具測定システム『PI+MA PITTA ピマピッタ』|西川株式会社のプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000170.000010201.html

また西川は以前より同社の研究機関と、同志社大学大学院生命医科学研究科・アンリエイジングリサーチセンターの米井嘉一教授と共同で、アンチエイジングの観点から、4層特殊立体構造マットレス使用による睡眠の質への作用を検証している。*11

研究ではこれまでに、成長ホルモン分泌量の増加、酸化ストレスの減少、HDL-コレステロール値の上昇、糖化ストレスの減少、心身ストレスの減少、メラトニン分泌量の増加、肌質の改善、自覚症状による睡眠の質改善が示唆されたという。こうした研究が進むことで、業界のさらなる発展が期待できそうだ。

多方面から睡眠にアプローチ。ユニークな最新スリープテック

ここでは、独自の視点から睡眠にアプローチするユニークなスリープテックを3点紹介していこう。

抱きしめて使えるぬいぐるみ型「呼吸ガイド」

マッサージクッションブランド「ルルド」で知られるアテックスは、呼吸のリズムをガイドすることで心地よい眠りをガイドする「ルルド おやすみグースーピー」という、ぬいぐるみ型のアイテムを展開している。*12

スイッチを入れると、ぬいぐるみのお腹に内蔵されたエアバッグが一定のリズムで息をするように膨らんだり、しぼんだりを繰り返す。これに合わせて呼吸をすることで、安眠をサポートするというユニークな製品だ。

振動で寝返りを促し「いびき」にアプローチ

ヘッドバンド型のガジェットや光目覚まし時計なども展開するフィリップスは、振動で自然に寝返りを促し、いびきを抑制する「SmartSleep スノア サイレンサー」という、いびきに悩む現代人向けの製品を展開している。*13

いびきの多くは寝ている姿勢、特に仰向けになった時に起きやすい。重力によって舌等が空気の通り道である気道に落ち込み、狭くなった気道に空気が通るときに起こる振動音がいびきの正体だからだ。

同製品は、胴体に小さなセンサーを装着して寝ている間の姿勢を計測する。仰向けになったと判断した際に本体を振動させることで自然な寝返りを促し、姿勢が原因によるいびきを抑制する仕組みとなっている。

出典:SmartSleepシリーズがワンランクアップのライフスタイルを眠りからサポート「SmartSleep スノア サイレンサー」「SmartSleepディープスリープ ヘッドバンド 2」|株式会社フィリップス・ジャパンのプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000019698.html

ゲーミフィケーションで夜間の「脱スマホ」をサポート

集英社と、物語とテクノロジーの活用による「現実の拡張」に取り組むENDROLLが共同で開発・運営するのが睡眠週刊記記録をテーマにした、サブスクリプション型のiOSアプリ「よひつじの森」だ。*14

夜眠る前にスマートフォンを触ってしまうと寝つきが悪くなるというのはよく知られているが、このアプリのテーマは「スマホから離れて自分だけの静かな夜を過ごすこと」。ユーザーが事前に設定した就寝時刻までにアプリを開いて端末をスリープ状態にし、翌朝まで他のアプリを開かずにいると睡眠習慣が記録される。これを繰り返していくことで徐々にストーリーや機能が解放されていく仕組みだ。

出典:眠れない夜を楽しむアプリ『よひつじの森』本日より配信開始。|株式会社ENDROLLのプレスリリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000034386.html

毎晩決まった時間にベッドに入り、睡眠記録をつけ続けるという、睡眠習慣の改善における基本中の基本に、ゲーミフィケーションの角度からアプローチしたアプリとなる。多機能なアプリが多い中で、こうした始めやすく続けやすい工夫が成されたアプリは、業界にとって意外な盲点かもしれない。

産学連携コンソーシアムが設立。ますます盛り上がるスリープテック

2022年3月18日には、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構、西川、アシックス、伊藤忠商事、東京海上日動火災保険、日本生命保険総合会社、パラマウントベッド、S'UIMINが国民の健康やQOL(Quality of Life)向上を睡眠の視点から支援することを目的とした、睡眠マネージメントに関する産学連携コンソーシアム「Sleep Innovation Platform」を設立した。*15

同コンソーシアムでは、睡眠データや睡眠効果などのエビデンスを収集、蓄積、分析し、睡眠サービスの品質チェックの基準作りに取り組み、それを普及させることで睡眠サービス全体の品質向上につなげていくとのことだ。

ビジネス分野としても注目の集まるスリープテック。悩み多き現代人の睡眠を改善する鍵となるか、今後も注目していきたい。

資料一覧

  • *1
    出所)2022年度版日本の『睡眠偏差値®』調査結果報告世界一睡眠時間が短い日本の睡眠時間が3年で21分増加。睡眠ガジェットの利用率は4.3%に留まるが、日本のスリープテック市場は成長の余地あり。|株式会社ブレインスリープのプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000046684.html
  • *2
    出所)「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞
  • *3
    出所)厚生労働省「令和3年度 健康実態調査結果の報告」 https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000904748.pdf p.22
  • *4
    出所)OECD Gender data portal 2021 Time use across the world https://www.oecd.org/gender/data/OECD_1564_TUSupdatePortal.xlsx
  • *5
    出所)市場調査とコンサルティングのシード・プランニング [ SEED PLANNING ] - プレスリリース https://www.seedplanning.co.jp/archive/press/2021/2021092201.html
  • *6
    出所)watchOS 9、つながり続け、アクティブに過ごし、健康を保つための新しい方法を提供 - Apple (日本) https://www.apple.com/jp/newsroom/2022/06/watchos-9-delivers-new-ways-to-stay-connected-active-and-healthy/
  • *7
    出所)Google Japan Blog: Fitbit Premium の睡眠プロフィールを活用して睡眠の質を改善 https://japan.googleblog.com/2022/07/fitbit-sleep-profile.html
  • *8
    出所)Google Japan Blog: あなたの毎日に寄り添う Google Pixel の製品ラインアップ https://japan.googleblog.com/2022/05/hardware-updates-io-2022.html
  • *9
    出所)Sleep Cycle | Sleep Tracker, Monitor & Alarm Clock https://www.sleepcycle.com/
  • *10
    出所)非接触で一人ひとりに合ったマットレスとオーダーまくらを判定!西川独自の非接触型寝具測定システム『PI+MA PITTA ピマピッタ』|西川株式会社のプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000170.000010201.html
  • *11
    出所)西川の4層特殊立体構造マットレス使用による睡眠の質・腸内フローラへ及ぼす効果の検証 良好な睡眠により短鎖脂肪酸関連細菌群が増加、肥満改善の可能性を示唆|西川株式会社のプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000177.000010201.html
  • *12
    出所)心地よい呼吸をガイドする睡眠サポートアイテム「ルルド おやすみグースピー」に「ねむねむアニマルズ」が仲間入り|株式会社アテックスのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000125.000033199.html
  • *13
    出所)SmartSleepシリーズがワンランクアップのライフスタイルを眠りからサポート「SmartSleep スノア サイレンサー」「SmartSleepディープスリープ ヘッドバンド 2」|株式会社フィリップス・ジャパンのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000107.000019698.html
  • *14
    出所)眠れない夜を楽しむアプリ『よひつじの森』本日より配信開始。|株式会社ENDROLLのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000041.000034386.html
  • *15
    出所)国民の健康やQOL向上を睡眠の視点から支援する睡眠マネージメントに関する産学連携コンソーシアム「Sleep Innovation Platform」を設立|株式会社S'UIMINのプレスリリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000038776.html

■お知らせ

私たちNTT Comは新たな価値を創出できるワークスタイルの実現を支援しています。
企業の働き方改善にご活用ください。

ワークスタイルDXソリューション
>> Smart Workstyleはこちら

NTTコミュニケーションズのデジタル社員証サービス

スマートフォンをポケットにいれたまま、ハンズフリーで入室!

Smart Me®︎は、社員証機能をデジタル化することにより、物理的なカードを無くすことを目的にしています。
中でも入退館・入退室機能は、どこにも触れない入退認証を実現し、入館カードを常時携帯する煩わしさを解消します。
管理者は、発行・再発行のたびに掛かっていた物理カードの手配・管理コストが無くなるほか、
ICカードにはできなかった、紛失時に残るカードを悪用されるセキュリティリスクを低減できます。

>> Smart Meはこちら

この記事を書いた人

松ヶ枝 優佳

フリーランスのライター/Web編集者。東京都生まれ。大学卒業後より、ライターとしてビジネス系メディアを中心に書評コラム、グルメレビューまで、幅広くコンテンツの企画・執筆を行う。

人気コラム

おすすめコラム