副業ブームに「待った」?所得税の改正案で変わるポイントと収入へ影響とは

副業ブームに「待った」?所得税の改正案で変わるポイントと収入へ影響とは

公開日:2022/12/27

2022年8月に国税庁が公表した「所得税基本通達の制定について」の改正案が、副業をしている会社員の間で話題となっています。
注目されているのは、「副業等による収入が年間300万円を超えない場合、雑所得として取り扱う」という旨が追加されたことです。*1
副業収入が雑所得となった場合、どのような影響があるのでしょうか。
今回は、副業をする会社員が押さえておくべき改正案のポイントについて解説します。

300万円以上稼がないとメリットがなくなる?

新型コロナウイルスの感染拡大は、人々の働き方に影響を与え、収入減や失業など生活に支障が出た人も少なくありません。
コロナ禍ではリモートワークが増え、副業を始める人も多くなりました。

副業を始めたばかりの人の多くは、今回の改正案のポイントである「副業による収入が300万円以下」に該当するでしょう。
改正案のニュースは、副業を始めて間もない人や、これから始める人にも関係がある内容です。

「所得税基本通達の制定について」の改正案で変わるポイント

この改正案において、会社員が注目すべきは、「副業から得た収入金額が300万円を超えない場合、雑所得として取り扱う」旨が追加された点です。*1
判断が難しいとされてきた事業所得と雑所得の区分を明確化するため、副業収入について、下記のような基準が設けられました。*2

(1)社会通念上、事業と称するに至る程度で行っている
(2)主たる所得でない(会社員の場合は、一般的に「給与=主たる所得」となる)
(3)その所得に係る収入金額が300万円を超えない

(1)を満たす場合は、原則、事業所得とされます。
しかし、(2)かつ(3)に該当する場合は、反証がない限り「業務に係る雑所得」となります。

国税庁 「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続きの実施について

引用)国税庁 「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)(雑所得の例示等)に対する意見公募手続きの実施について 【別紙】新旧対照表
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000239212

今まで明確な判断基準がなかったことから、副業収入を事業所得として申告していた人は少なくありません。*3
そのため、今回の改正案において雑所得の範囲の明確化が進められ、副業をしている会社員に与える影響も大きいのです。

)副業の収入が「雑所得」になるとどんな影響があるのか?「事業所得」との違い

副業による収入が「雑所得」として扱われると、どのような影響があるのでしょうか。
「事業所得」と「雑所得」を比較すると、下表のような違いがあります。

参考)国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)を参考に筆者作成
No.1500 雑所得
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1500.htm

No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1350.htm

No.2070 青色申告制度
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm

No.2072 青色申告特別控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm

No.2250 損益通算
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2250.htm

大きな違いは、青色申告ができるか否かという点です。
青色申告を利用できる事業所得では、最大65万円の青色申告特別控除を受けられますし、純損失の金額を3年間にわたって繰り越すこともできます。*4
また、事業所得は損失が出た場合に、他の所得金額から控除できる損益通算の対象でもあるため、節税に大きく影響します。*5
今まで事業所得として申告してきた人は、「雑所得」扱いになった場合、実質増税されたような状況となってしまうのです。

改正した内容が適用されるのはいつ?

適用時期は、令和4年分以後の所得税です。*1
そもそも、この「所得税基本通達の制定について(法令解釈通達)」は、国税庁の職員に対して法令の解釈を示す内部命令であるため、納税者に対する拘束力はありません。*6
しかし、適用された場合、実務上は通達に従った対応をされるため、結局のところ納税者も無関係ではないのです。
改正案に対するパブリックコメントの募集は8月末で締め切られ、結果はまだ公示されていませんが、副業をしている人もこれから始める人も、チェックしておくべきトピックです。

「雑所得」扱いでも、副業を始めるメリット

ここまで読んでいただくと、「税制面で優遇されないなら、副業しなくても本業だけで良いのではないか」と考える人もいるでしょう。
たしかに、事業所得と比べると、受けられる税制上の優遇措置は少なくなります。
しかし、節税以外にも副業を始めるメリットはあります。

収入源が増えることで得られる安心感

2021年にリクルートが実施した調査で、兼業・副業を始めた理由として最多だったのは「貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」でした。*7
次いで「生計を維持するため」が多く、収入に関する理由がトップを占めています。*7
そして、実際に副業を始めた人は、副業の効果として収入アップを実感しているという結果も出ています。*8
新型コロナウイルスによって、収入の減少や失業などの影響を受けた人は少なくありません。
こうした社会情勢において、複数の収入源を持つことはリスクヘッジにもなります。

副業を始めることで、新しいスキルが身につく

「スキルアップできる」というのも、副業の魅力の一つです。
本業を辞めることなくスキルや経験を積める副業は、主体的にキャリアを形成するうえで非常に有効な手段です。*9
本業と並行しながら始められるため、転職よりもリスクを抑えることができます。
「人生100年時代」といわれる現代、自分で働き方の選択肢を増やし、スキルを磨きながら自己実現することは新しいスタンダードになりつつあります。

まとめ

2022年8月に公表された国税庁の「所得税基本通達の制定について」の改正案は、雑所得の範囲の明確化を目的とした内容です。
会社員の副業収入が雑所得扱いとなった場合、税制面での優遇措置は少なくなります。
しかし、節税以外にも副業を始めるメリットはあります。
不安定な社会情勢のなかで本業以外に収入源を増やすことはリスクヘッジになり、長い人生において仕事の幅を広げるためにはスキルアップが欠かせません。
小さなリスクで、収入の増加やスキルアップを目指せる副業は、これからの時代に適した働き方です。

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この記事を書いた人

粟井 はる

損害保険会社にて5年間勤務しており、火災保険などの支払業務を担当していました。
2級ファイナンシャル・プランニング技能士の資格を保有。

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