法改正で取得しやすくなった育児休業|新制度の内容を弁護士がわかりやすく解説

法改正で取得しやすくなった育児休業|新制度の内容を弁護士がわかりやすく解説

公開日:2023/1/20

2022年10月から新たに「出生時育児休業(産後パパ育休)」が導入されるなど、育児休業を取得しやすい法制度が整いつつあります。特に低水準で推移していた男性の育児休業取得率は、今回の法改正によって上昇が期待されます。

今回は最新の法改正を含めて、現在の育児休業制度の概要をまとめました。

1出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p22

*1出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p22
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html

上記のグラフは、厚生労働省が実施している「雇用均等基本調査」に基づき、規模5人以上の事業所における男性・女性の各育児休業取得率の推移を示したものです*2。

女性の育児休業取得率は、2007年度以降80%以上を維持しているのに対して、男性の育児休業取得率は、長年一桁%にとどまっていました。2019年2020年度以降はようやく10%を超えてきたものの、男性で育児休業を取得する人はまだまだ少数派の状況です。

しかし、2022年10月に新規導入された「出生時育児休業(産後パパ育休)」をはじめとして、男性でも育児休業を取得しやすい法制度が整いつつあるため、今後は取得率の上昇が期待されます。

育児・介護休業法に基づく育児休業制度の概要

育児・介護休業法*3では、労働者が利用可能な育児休業制度についてのルールを定めています。会社が育児休業制度を設けているか否かにかかわらず、労働者から育児・介護休業法に基づく育休申請がなされた場合、会社はそれを拒否できません。

育児休業を取得できる労働者

育児休業を取得できるのは、以下のいずれかに該当する労働者です(育児・介護休業法5条1項)。

(1)すべての無期雇用労働者
(2)有期雇用労働者のうち、子が1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間(更新される場合は、更新後の期間)が満了することが明らかでないもの

2022年3月までは、有期雇用労働者が育児休業を取得するには、同一の事業主に1年以上継続雇用されていることが必要でした。しかし、2022年4月に施行された改正育児・介護休業法により、継続雇用期間の要件は撤廃されました。

その結果、現在では非常に幅広い労働者が育児休業を取得できるようになっています。

育児休業の取得可能期間

育児休業を取得できるのは、原則として子どもが1歳に達するまでの期間です(育児・介護休業法5条1項)。ただし以下に挙げる場合には、育児休業期間を延長することができます。

(1)「パパ・ママ育休プラス」
両親がいずれも育児休業を取得する場合は、子どもが1歳2か月に達するまで育児休業期間を延長可能です(同法9条の2第1項)。ただし、各親の育児休業期間は、原則として最長1年間とされています。
(例)子どもが0か月~満1歳まで母親が育児休業、2か月~1歳2か月まで父親が育児休業

(2)保育所等に入れないとき
保育園などの利用を希望して申し込んでいるものの、保育が実施されない場合は、子どもが2歳に達するまで育児休業を延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条1号、6条の2)。

(3)配偶者が育児に参加できないとき
以下のいずれかの理由で配偶者が育児に参加できない場合は、子どもが2歳に達するまで育児休業を延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条2号、6条の2)。

・死亡
・身体、疾病、身体上または精神上の障害により、子を養育することが困難
・離婚などにより、子どもと同居しないことになった
・6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)に出産予定、または産後8週間を経過していない

2022年10月施行の新制度|出生時育児休業・育児休業の分割取得

2022年10月1日から、新たに出生時育児休業(産後パパ育休)と分割取得制度がスタートし、育児休業がさらに取得しやすくなりました。

出生時育児休業(産後パパ育休)

出生時育児休業(産後パパ育休)は、通常の育児休業とは別に、子どもの出生後8週間のうち、最長4週間(28日間)取得できます(育児・介護休業法9条の2第1項)。
母親の産後休業期間中に、父親も出生時育児休業を取得すれば、父母が協力して育児に取り組むことができるでしょう。

なお、出生時育児休業は2回まで分割して取得できるほか(同条2項1号)、労使協定のルールに従えば、休業期間中に仕事をすることも可能です(同法9条の5)。
このように、取得の方法を柔軟に決められる点は、父親が出生時育児休業を取得しやすいようにする制度上の工夫といえるでしょう。

育児休業の分割取得

2022年10月1日以降、通常の育児休業についても2回までの分割取得が認められるようになりました(育児・介護休業法5条2項)。

出生時育児休業と合わせると、最大4回の育児休業を取得可能です。

(例)
子どもが生まれた直後から2週間、生後1か月からさらに2週間の出生時育児休業を取得。その後、生後3か月から6か月まで、生後9か月から満1歳まで通常の育児休業を取得。

通常の育児休業を取得できるのは、原則として子どもが1歳に達するまでです(前述のとおり、一部例外あり)。育児休業期間をできる限り長く取りたい場合は、一括で育児休業を取得する方がよいでしょう。
その一方で、繁忙期には出勤しつつ、その前後で育児休業を取得するなどの形も認められるようになり、選択肢の幅が広がった点に大きな意義があります。

会社独自の育児休業制度も利用できる場合あり

*4出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p16

*4出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p16
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf

育児・介護休業法で定められた育児休業制度は、あくまでもすべての会社に適用される最低ラインです。もし会社が独自に、法令の要求水準を上回る充実した育児休業制度を設けている場合には、それを利用することもできます。

上記のグラフは、育児休業制度に関する規定を設けている事業所割合の推移を示したものです(事業所規模5人以上・30人以上)。
独自の育児休業制度を設ける事業所の割合は増加傾向にあり、2021年度は規模5人以上の事業所で79.6%、規模30人以上の事業所で95.0%となっています。就業規則その他の社内規程を参照して、会社の育児休業制度の有無および内容を確認しましょう。

ただし会社によっては、独自に設けている育児休業制度の内容が、育児・介護休業法の水準を満たしていないケースもあります。その場合は、育児・介護休業法に基づく育児休業の取得を請求できることにご留意ください。

まとめ

育児・介護休業法改正に基づく新制度により、男女を問わず育児休業を取得しやすい環境が整いつつあります。働き方改革やテレワークの普及などと相まって、今後はますます育児休業取得促進の流れが加速していくでしょう。

企業・労働者いずれの立場であっても、現在の育児休業制度および今後の制度改正の動向について、基本的な知識を備えておくことをお勧めいたします。

資料一覧

  • *1
    出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p22
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
  • *2
    出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p21
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
  • *3正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000076_20221001_504AC0000000012
  • *4
    出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p16
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf

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この記事を書いた人

阿部 由羅

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。ゆら総合法律事務所 Webサイト

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