ティール組織の価値観を通して改めて考えてみよう。仕事ってなんだっけ?

ティール組織の価値観を通して改めて考えてみよう。仕事ってなんだっけ?

公開日:2023/1/27

米国Gallup社の大規模な国際調査によると、日本の従業員エンゲージメントは国際的にみて非常に低いレベルにあります。
エンゲージメントレベルが低い社員は自身の幸福度が低いだけでなく、たとえ勤務時間が長くても仕事に情熱を注がず、離職も多いと同社は指摘します。そして、エンゲージメントに関してはマネジャーが責任を負うべきであると述べています。*1

しかし、そうした視点とは別に、組織そのものの在り方にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。

有能なコンサルタントが「一歩先のステージにある」パイオニア組織を訪ね歩き、取材を重ねたところ、エンゲージメントレベルが高く、事業成績もよく、さらに経営者の幸福度も高い組織が存在しました。
しかも、それらの組織はお互いについてはまるで知らないのにもかかわらず、共通点があったのです。*2:p.26
そのような組織を彼は「ティール(進化型)組織」と名づけました。

現在注目されつつあるティール組織の根底にある価値観を通して、仕事とは何か、組織とは何かについて改めて考えてみましょう。

日本の従業員エンゲージメント

従業員エンゲージメントを測る指標として有名なのが、Gallup社による調査とその分析です。

Gallup社による調査結果

図1は同調査による「エンゲージメントがある従業員」の割合です。*3

従業員エンゲージメントの国際比較 出典:経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月)p.33

図1 従業員エンゲージメントの国際比較
出典:経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月)p.33

トップのアメリカ・カナダが34%、世界平均が20%なのに対して、日本はわずか5%です。
図1は2021年のレポートによるものですが、2022年のレポートでも日本の割合は同じく5%でした。*4

Gallup社の「Q12(キュー・トゥエルブ)」

では、エンゲージメントとは、どのようなものでしょうか。
Gallup社による定義は、「従業員が仕事や職場に関わり、熱意を持っていること」。*1

そして、その調査で用いられているのが、「Q12(キュー・トゥエルブ)」と呼ばれる、以下のような12の質問です。*5

・私は仕事で何を求められているかがわかっている。
・私は自分の仕事を正しく行うために必要な材料と機器を持っている。
・私には毎日職場で、自分の得意なことをする機会がある。
・この7日間で、私は良い仕事をしたことを認められたり褒められたりしたことがある。
・私の上司や職場の人は、私を1人の人間として大切にしてくれているようだ。
・職場に、私の成長を促してくれる人がいる。
・職場では、私の意見は大切にされているようだ。
・私は会社のミッションやパーパスから、自分の仕事が重要であると感じている。
・私の同僚や他の社員は、質の高い仕事をしようと努力している。
・私には職場に親しい友だちがいる。
・この6ヶ月間に、職場の誰かが私の進歩について話してくれた。
・この1年間、私は職場で学び、成長する機会があった。

これらの質問に対する答えの多くが「はい」で、この内容が満たされるような職場環境であれば、確かに社員は熱意をもって仕事に関与し、生き生きと働けそうです。

社員は仕事に目的と意味を求め、自分らしさを理解してほしいと願っている、と同社は指摘しています。そして、人間関係、特に自分を次のレベルへと導いてくれる上司との関係を求めています。これこそが、従業員エンゲージメントの原動力だというのです。

裏返せば、エンゲージメントレベルが低いということは、そういう社員のニーズを満たせていないということです。

同社はエンゲージメントに関する責任の多くはマネジャーが担うべきものだと述べていますが、果たしてそうでしょうか。
もしかしたら、それはマネジメントだけの問題ではなく、組織の在り方そのものの課題ともいえるのではないでしょうか。

「一歩先のステージにある組織」を求めて

『ティール組織』の著者フレデリック・ラルー氏は、「現在の組織のあり方が限界に近づいてきていると感じている人々は多く、組織での生活に幻滅するようになっている」と述べています。*2:pp.19-20, p.22

それは従業員だけの問題ではありません。
15年間にわたって企業のリーダーシップ研修を手がけてきたラルー氏は、ヒエラルキーのトップに立つリーダーたちも苦悩していると指摘します。

職位に関係なく、組織はエゴを追い求めるための、終わりのない努力の場と化し、誰もが心の奥底に抱いてる情熱を十分に発揮できていないというのです。

しかし、もし方法さえわかれば、血の通った組織をつくりたいと考える人々は増えている。必要なのは、そうした組織をつくることは可能だという信念と、具体的な解決策だ、とラルー氏は考えました。

そこで彼は、場所やセクターを問わず、「パイオニア組織」を訪ね歩きます。*2:p.26
すると、多くの組織が30〜40年にわたって革新的なモデルで運営され、従業員数も数百人、数千人に及んでいました。また、営利企業も非営利組織もあり、事業分野も、小売り、メーカー、エネルギー、食品、教育、医療と幅広いことがわかりました。

しかも、そうしたパイオニア組織は、お互いの存在を知らずに独自で実験的な取り組みをしていたのにもかかわらず、試行錯誤の末に、驚くほど似た組織構造と慣行にたどり着いていたのです。*2:p.28

この世界に、新たな組織モデルが現れようとしている!
ラルー氏はそう気づき、興奮を覚えたといいます。

では、それはどのような組織だったのでしょうか。
ティール組織を支える価値観にフォーカスしてみましょう。

ティール(進化型)」のパラダイム(規範となる物の味方や捉え方)

ラルー氏は、人類の歴史を振り返ると、意識が新しい段階(ステージ)に入る度に、人々の協力体制にも大変革が起こり、新たな組織モデルが生まれてきたといいます。*2:p.35
したがって、私たちが知っている組織は、私たちの現在の世界観、今の発達段階を表現したものにすぎないというのです。

では、ティール段階の意識とはどのようなものでしょうか。その一部をご紹介します。

エゴの代わりに「人生の豊かさを信頼する力」を得る

意識レベルが一段高くなると、世界を眺める視点が拓けます。*2:p.90
私たちが自分自身のエゴから自らを切り離せるようになると、ティールへの移行が生じるとラルー氏はいいます。

自分のエゴを客観視できるようになると、その恐れや野心、願望、支配したい、自分を好ましく見せたいといった欲求―そうしたエゴが人生を突き動かしていることが見えてきます。

エゴに置き換わるものは、「人生の豊かさを信頼する力」です。
ティールの視点をもてば、予想外のことが起こっても、たとえ間違いを犯してしまったとしても、物事はいつか好転するだろうと信じられるようになります。また、もし好転しなくても、学び成長する機会を人生が与えてくれたのだと考えるようになる、そうラルー氏は述べています。

「大志を抱いているが、野心的ではない」

ティールでは、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと変化します。*2:pp.91-93
ものごとを決めるときの基準は、「この判断は正しいだろうか」「私は自分に正直になっているか」「自分がなりたいと思っている理想の人物は同じように考えるだろうか」「私はこの世界の役に立っているだろうか」というものです。

自分の確信に沿って考えるので、どのような結果になるのかをすべて考える必要はなく、一見リスキーな意思決定もできるようになるとラルー氏はいいます。
周囲から反対されたり、成功しそうにないと思われても、出発点は常に「誠実さ」や「自分らしさ」。それを大切にして意思決定をします。

他人から認められることや成功、富、愛はあくまで結果にすぎないということがわかっているので、それらを追い求めることはしません。
ラルー氏はこう述べます。

人生の究極の目的は、成功したり愛されたりすることではなく、自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になるまで生き、生まれながら持っている才能や使命感を尊重し、人類やこの世界に役立つことなのだ。

「大志を抱いているが、野心的ではない」
これは、ティールのパラダイムに従っている人を説明するときによく使われるフレーズです。

全体性(ホールネス)に向けての努力

現在は「分離」が私たちの人生の負担になっているとラルー氏は指摘します。*2:pp.99-100

世界中のほとんどの職場で、分離が進んでいます。
エゴと合理性が強調される一方で、精神性と感情は無視される。社員は、所属する部門や階級、バックグラウンド、業績に基づいて分類される。
組織も競争相手やエコシステムから分離されている。
職業が個人から分離され、社員は自分にとって大切な多くのことから自分を切り離して職場に来る。

個人的にみても、いわゆる女性らしさと男性らしさを切り離して後者に価値を置き、コミュニティーを失い、自然とのつながりもなくしてしまった・・・。

ティールパラダイムに移ろうとする人々はこうした分離を苦痛に思い、転職したり独立したりして、自分自身や他人との全体性を得られる、協調的な働き方を選択することが多いのです。

ラルー氏は、ティール組織を次のように表現します。*2:p.104

ティールパラダイムとは、全体性とコミュニティーを目指して努力し、職場では自分らしさを失うことなく、しかし人と人との関係を大事に育てることに深く関わっていくような人々を支える組織なのだ。

では、自分らしさと全体を取り戻すために、ティール組織ではどのような組織慣行が行われているのでしょうか。
その大半は、驚くほど単純だとラルー氏はいいます。*2:pp.278-282

例えばそれは、職場に犬を連れて行ったり、職場に託児所を作り子どもを同伴することだったりします。
子どもたちの笑い声とおしゃべりが、生活音としてオフィスに届く。親のデスクにやってくる子どももいるし、ミーティング中に母親が我が子の面倒を見ていることも珍しくない。

コンサルティングとコーチングをした15年間で、こうした光景を目にしたことは一度もなかったとラルー氏はいいます。
こうした当たり前のことが異常に思えるほど、職場と社員が切り離されてしまっているのです。

もちろん、動物や子どもが職場にいたら、気が散って仕事ができないのではないかという懸念もあるでしょう。
しかし、最も根本的なレベルでは、私たちはこうした全体性を望んでいるのだとラルー氏は指摘します。
一方で、自分自身をすべてさらけ出すには勇気がいることも確かです。

社員が本来の自分自身でいられるためには、職場に安全であたたかい空間をつくる必要がある―それがラルー氏の分析です。

「リーダーが世界を眺めるパラダイム」が組織を作る

では、組織の発達段階を決める要因はなんでしょうか。

それは、リーダーがどの段階のパラダイムを通して世界を見ているのかによるとラルー氏は考えています。*2:p.86
なぜなら、リーダーは自らが合理的だと考える組織構造や慣行、文化を整え、自分のやり方に合った組織をつくろうとするからです。
つまり、どのような組織も、リーダーの発達段階を超えて進化することはできません。

多くの研究者がそれに符合する興味深い発見をしました。*2:p.102
それは、企業の組織変革が成功するかどうかは、CEOの発達段階にかかっているということです。
また、どのような組織形態でも、組織の上位にいる人々が段階を上がれば上がるほど業績が伸びるということも指摘されています。

政治も官僚主義も、内部抗争も皆無で、ストレスや脱力感、あきらめも怒りも無関心もない職場。
人々の才能が花開き、何かをしたいという強い気持ちが尊重される、そうした情熱的な職場をつくれるのか。

その答えが、ここにあるのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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