副業に活用も!「労働者協同組合」の設立方法は?事例に沿ってメリットも確認しよう

副業に活用も!「労働者協同組合」の設立方法は?事例に沿ってメリットも確認しよう

公開日:2023/2/3

「協同労働」という新しい働き方をご存じでしょうか。
3人以上の個人が「労働者協同組合」を作り、組合員は「出資」「経営」「労働」のすべてを担います。事業に必要な資金は組合員が出資し、経営方針を自分たちで決め、事業運営もそれぞれの意見を反映して行います。

労働者派遣事業を除くあらゆる事業が可能で、副業を含めた多様な就労の機会が創出されること、地域における多様な需要に応じた事業が行われることが期待されています。

その基本原理は最近施行されたばかりの「労働者協同組合法」で定められています。
それはどのようなものなのでしょうか。
取り組み事例にも触れながら、協同労働の基本とポテンシャルについてみていきましょう。

「協同労働」が可能にする多様な働き方

「労働者協同組合」(以降、「労協」)は新しい法人制度です。この組合を作ることによって行う「協同労働」とはどのような働き方でしょうか。

「労働者協同組合」の基本原理

2022年10月に施行されたばかりの「労働者協同組合法」は全189条に及ぶ条文で構成された法律です。*1:pp.3-4
この法律では、労協は、以下のような基本原理に従うこと、持続可能で活力ある地域社会に資する事業を行うことを目的とすることが定められています。

1.組合員が出資すること
2.その業務を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること
3.組合員が組合の行う事業に従事すること

図1 「労働者協同組合」の概念図

図1 「労働者協同組合」の概念図
出所)厚生労働省「労働者協同組合法」p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000995367.pdf

「労働者協同組合」の主な特徴

労協には以下のような特徴があります。*1:p.19

  1. 1.労働者派遣事業を除くあらゆる事業が可能で、地域における多様なニーズに応じた事業ができる
  2. ただし、許認可等が必要な事業についてはその規制を受ける。
  3. 組合員の議決権、選挙権は平等
    出資額にかかわらず、組合員には平等に1⼈1票の議決権と選挙権がある。
  4. 3人以上の発起人が揃えば設⽴可能で、法人格を取得するのが簡単
    NPO法人(認証主義)や企業組合(認可主義)と異なり、行政庁による許認可を必要としない。法律に定めた要件を満たし、登記をすれば法人格が付与される(準則主義)。
  5. 組合は組合員との間で労働契約を締結する
    組合員は労働基準法、最低賃⾦法、労働組合法などの法令によって労働者として保護される。
  6. 出資配当は認められない(非営利)
    剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行う。
  7. 都道府県知事による監督を受ける
    毎年度、決算関係書類などを提出する必要がある。
以下の表1は、労協と他法人との違いをまとめたものです。*2

表1 労働者協同組合と他法人との違い

讀賣新聞オンライン「[安心の設計]働き手が出資 自ら運営…推進へ法施行」

出所)讀賣新聞オンライン「[安心の設計]働き手が出資 自ら運営…推進へ法施行」(読書会員限定) https://www.yomiuri.co.jp/life/20221031-OYT8T50225/

労協は労働組合と名前が似ていますが、会社に労働条件の改善を訴える労働組合とは全く別の組織で、農協や生協と同じ相互扶助組織です。これまでにも「ワーカーズコープ」などという名称で協同労働と同じような働き方は実践されてきましたが、根拠となる法律がなかったため、NPO法人や任意団体として活動していました。*2

しかし、「労働者協同組合法」が施行され、3人以上の発起人が法務局に登記すれば労協を作れるようになりました。
既に存在している企業組合またはNPO法人は、施行日から起算して3年以内なら労協に組織変更することが認められています。*3:p.44
厚生労働省によると、3年以内に50〜60の団体がNPOから同組合に移行する見込みだということです。*2

協同労働が可能にする多様な働き方

NPO法人の活動資金は寄付が中心で、集まる金額によって活動が制限を受けやすいという側面があります。*2
また、株式会社は、市場から広く資金を募る一方で、営利目的のため、利幅の少ない事業には乗り出しにくいという特徴があります。

一方、労協は、出資したメンバーが自分たちで事業内容を決めることができるため、例えば、里山保全や高齢者の見守りといった利益につながりにくい地域課題にも取り組むことが可能です。

また、働き手が運営方針の決定にも関われるため、子育てや介護を担っている人が働く時間を調整することもできます。協同労働なら、フルタイムで働けなかった人でも、無理のない働き方が可能なのです。

さらに、労協には地域が抱える課題を解消することが期待されていることから、経験や知見の豊富な定年前後のミドルシニアの活躍にもつながる可能性があると指摘されています。*3:pp.31-33, *4

日本総合研究所が東京圏に在住する四年制の大学あるいは大学院を卒業した、45~64歳の男性を対象に行ったアンケート調査によると、副業・兼業をやってみたいと希望する人は回答者の約7割に上ります。
約半数は給与がある程度削減されても副業・兼業を行いたいと回答したということです。

また、定年後に中小企業・NPOなどへの再就職を希望する男性は、全体の約7割に上るものの、定年後の再就職に関して、スキルのミスマッチに対する不安を抱えている男性は一定の割合いる(出身大学の難易度区分が最も高いグループで半数を超えている)という結果になっています。

こうした状況から、協同労働は、ミドルシニアの副業・兼業として、あるいは定年後の仕事としてポテンシャルが高いと考えられているのです。

取り組み事例

では、これまでに発足した組合はどのような取り組みをしているのでしょうか。
事例をみていきましょう。

全国の労協法人第1号は、2022年10月中旬に三重県四日市市で発足しました。発起人(組合員)は市議や土木業や製陶業者などの40代、50代の5人です。*5, *6

メンバーは労協の前身となるNPOを設立、獣害や廃棄物の不法投棄の誘因となっていた荒廃山林約4,000坪(市有地)を借りて2年かけて整備し、既にキャンプ場をオープンしていました。
しかし、NPOは活動できる事業が限られていることや、正会員の入会を制限することができないという制約があります。

メンバーの1人は、「将来の事業展開を考えた時、労協は労働者派遣以外ならあらゆる事業ができることや、働く仲間を選べる点などに魅力を感じた」と述べています。

今後は、キャンプ場の運営だけでなく、野外活動を通じた社会教育や、林業や建設業の職業訓練、オリジナル商品の企画・製造・販売、障害者福祉サービスなどを行っていく予定だということです。

次にご紹介する事例は、福岡県大牟田市で、2020年中旬に全国で3番目に発足した労協です。*6, *7
この組合は学童保育や看護職、清掃業務に携わる30~80代の8人が1万円ずつ出資してスタートさせました。
経営を軌道に乗せるために安定的な収入が見込めるビル清掃業務を主軸に据えますが、地域の困り事の解決にも取り組みたいとしています。

同県新雇用開発課は「労協は一人一人が労働者であり経営者でもある。多様な就労が生まれるきっかけになる」と述べています。

今後の展望

最後に今後の展望についてみていきましょう。

課題

協同労働はそのポテンシャルが認められている一方で、課題もいくつか指摘されています。

まず、ワーカーズコープ連合会の理事長は周知不足を課題に挙げ、PRを強化していくと述べています。*2
同連合会は、労働者協同組合法が施行される前から「労働者協同組合」と名乗り、組合の中でつくられる協同労働を先駆的に実践してきた団体です。*8-1, *8-2
介護、子育て、清掃、第一次産業、若者支援など連合会に加盟する28の加盟団体はさまざまな事業や活動を行っており、2020年度の事業高は350億円、加盟者は15,567人に上ります。

同連合会では協同労働が浸透するように、各地で開かれるフォーラムで具体例やメリットを説明していく方針です。*2

事業規模が小さく、収支面での不安があることも課題です。法施行前から活動している団体の中には、実際に赤字になっているところもあります。同理事長は「事業によって収支の濃淡は出やすい。ある事業で赤字が出ても、黒字を出す別の事業で支えるような枠組みづくりが大事だ」と述べています。

財政面のハードルの高さに関する指摘もあります。*3:pp.33-34
労協は組合員との間で労働契約を締結し、組合員に対して賃金を支払う義務を負います。ところが、地域貢献活動をしている組織・団体はボランティア活動に支えられているところも多く、組合員に対する賃金支払義務が発生することが労協を設立する上でのハードルになるという側面があるのです。

運営面での課題も指摘されています。
それは、組合の事業にどのようにして組合員の意見を反映していくのかということです。上述のように、労協同は組合員それぞれの意見を反映して事業を行うことを基本原理としており、組合員が1票の議決権と役員の選挙権を持ちます。

しかし、組合の規模が大きくなり組合員の数が増えた場合、1人ひとりの意見が反映されづらくなることが予想されます。
特に組合員数が200人を超え、総代会を設ける組合では、各組合員の意見が間接的な形でしか反映されないことになります。
労協の定款には、組合員の意見を反映させる方策に関する規定を記載しなければならないことになっていますが、規模が大きい組合ほどこの方策の定め方が重要になるのです。

推進のためのポイント

京都大学「人と社会の未来研究院」の広井良典教授(公共政策)は、
「NPO法人も90年代に関連法が施行されて広がった。今後、労働者協同組合で働く人が、協同労働の利点をどこまで広められるかがポイントだ」
としたうえで、
「小回りのきく労働者協同組合だからこそ、アイデア次第で、小さなニーズから収益を上げられるチャンスもあるのではないか」
と述べています。*2

協同労働は、多様な働き方を可能にする自由度が高い働き方ですが、まだその取り組みは緒についたばかりです。
今後はそのメリットを活かした事例が蓄積されていくことが、推進のカギとなりそうです。
協同労働の動向から目が離せません。

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この記事を書いた人

横内 美保子

博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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